5級と1級のクライマーは何が違うのか ~第1回ボルダリング検定を通じて~

2017年11月18日(土)にMabooにて第1回ボルダリング検定(以下、ボル検)が開かれ、僕はセッターとして参加させていただきました。

ボル検がおこなわれると発表された際、クライミング界では賛否両論というかどちらかというと”否”の意見が特にウェブ上で多く見られたように思います。

というのも、”グレード”はクライミング界で広く使われているにも関わらず定義が曖昧であり非常にセンシティブなテーマであります。

それに対して検定をするというのはともすると乱暴なものにもなりかねません。

しかし私としては、反対意見が噴出するであろうこの難しいテーマをあえて扱うということが素晴らしいと思いましたし、とにかく新しいことにチャレンジすること自体が楽しそうだったので、セッターとして協力させていただきました。

度重なる議論やシミュレーションそして委員会の方々の入念な準備の結果、検定会自体は(おそらく)多くの参加者に満足して頂けて大成功だったかと思います。個人的にもセッターとして良い経験ができました。

で、グレードがどうこうとか、ボル検の意義だとかそいういうのは一旦置いておきます。その内何か書くかもしれませんが。

(グレードとは、みたいは話は以前にもMickipediaで少し触れています。ちょっと今読み返すと不自然なところもあるけれど、参考までに

ボルダリングのグレードの決定方法~前編:グレードの定義、前提となる考え~

ボルダリングのグレードの決定方法~後編:難易度の構成要素~ 

この記事では少し違った視点から、ボル検の参加者を僕が客観的に見て感じた違い、みたいなことを書いてみます。

 


ボル検の概要

とは言えボル検のルールとかを全く知らない人もいると思うので、概要を簡単に触れておくと、

参加者は5級から1級のクラスを選ぶ

各クラスで5課題が用意され、5~3級はセッション方式5課題、2~1級はセッション方式3課題とベルコン方式2課題

5本中3本登ると合格だが、同じ合格でも3本、4本、5本で合格等級が違う

みたいな感じです。

コンペと大きく違うのは

トライする課題が全て自分のクラスに合致したグレード

その中でクライミングに必要な要素がバランス良く課題に詰まっている

競争じゃないので順位が関係ない

といったところでしょうか。

 

ボル検の参加者層

で、僕が当日参加者を観察していて新鮮だったのは、5級(もしかすると4級の一部まで)の参加者というのはおそらく大半が大きなコンペには参加したことが無い層なんですよね。

なので(ちょっと上からの言い方になってしまうのですが)、保持力やパワーや持久力ももちろん違うのですが、クライマーとして結構基本的な動きや考えが備わっていない人がたくさんいる、のです。

僕の超体感ですが、The North Face Cupの一番下のクラスであるDiv.Funの参加者はおそらくボル検なら3級かもしかすると2級でも合格するかもしれないですね。課題の難易度もそれくらいかも。

つまり、ボル検の参加者は、大きなコンペの一番下のクラスよりももっとクライミング能力的には低い層が大半だということです。

でも5級や4級の人は経験が浅いのだからそれが当たり前だし、だからこそ彼らがそのあたりの基本事項を身に着けてるかを試すのがこのボル検の意義の1つなわけです。

一方で、2級や1級の参加者はバリバリのコンペティターや岩場で高難度を登るクライマーもいました。

なので5級や4級の参加者は上のクラスの参加者の登りを見て、相当な刺激を受けたのではないでしょうか。

 

5級クライマーと1級クライマーは何が違うのか

そしてようやく本題なのですが、せっかくなので僕が感じたクラスごとの参加者の違いを書いてみようかと思います。

以前もボルダリングコンペにおける上級者と初中級者の違いという記事を書きましたが、もっと初歩的なことの違いを今回は感じましたね。

クライミング経験が豊富な人には当たり前の話ですが、きっとこういう話を欲している層も多いので。

 

ホールドを微視的に捉える

これは日頃からすっごく感じることなのですが、5級や4級のクライマーはホールドを1つの大きな塊としか捉えていない人が多いです。

これを僕はホールドを巨視的に捉えてしまっていると呼んでいます。

しかし、3級や2級くらいになると参加者達はホールドの中で角度が変わっている面を見たり、刻まれた繊細な溝や模様を認識しています。

これをホールドを微視的に捉えることができていると呼んでいます。(どちらも僕が使っているだけなので、言葉的に正しいかは知らない)

例を出すと、例えば写真の紫色の5級のスラブ課題。

赤い丸で囲んだホールドに最後に右足で立ち込む必要があるのですが、登れない人はホールド全体にベッっと足を置いてしまって立ち込むことができずに落ちます。

一方で乗り込める人はこのホールドの模様や角度をよく見て、一番角度が緩くかつ滑らない溝にシューズの先端を丁寧に乗せます

特にe-gripsのホールドなどは芸術作品のように鮮やかな模様が入っていますが、スラブなどではこれらの模様のどこに足を置くかという気配りができるかどうかが5級クライマーとそれ以上の差になっているように思います。

 

保持できる場所を考える

上記と似たような話なのですが、オブザベの段階でホールドのどこを持つのが良さそうか、まで考えていない人が4級くらいの参加者でもかなり多く見られました。

例えば写真の黄色い4級の強傾斜の課題。

赤い丸で囲んだホールドはコンペなど高難度課題でも多用されるホールドです。(e-gripsのバブルラップビッグウェーブ)

ですので4級の参加者は相当に面を食らった人も多かったと思いますが、実は右端の面が反り返っていて足が良ければこの部分は4級クライマーの保持力でも十分に持つことができます。

これは知っていれば気づくことができるのですが、知らなくても注意深く観察すれば気付けるはずです。

しかし大半の参加者は中央のボルト付近の保持しようとして、結果登ることができていませんでした。

登れていた人はほぼ例外なく右端をしっかりと持ちにいっていたように思います。

オブザベで、あのホールドを左手で持つ、という段階で止めずに、どの部分をどのように持つのか、まで深掘ることができることが3級クライマーへの道なのでしょうかね。

 

ハリボテの乗り方

またまた、上記2つと似た系統の話なのですが、ハリボテの基本的な乗り方のセオリーが身についていない人も4級クライマーでも多かったです。

ハリボテのような大きなホールドは、基本的には壁に近いところを踏むよりも壁から離れたところを踏んだ方が安定します。

なぜなら壁から離れたところを踏む方が傾斜を殺すことができるからです。

もちろん高さを出すために壁際を踏むことはありますし、ハリボテ内で角度が変わっている時などはその限りではありませんが。

例えば写真の右にあるグレーの半球ハリボテを使う課題4級。

ちょっとわかりづらいですが、黄色い課題の課題の一部です。

甘い手を持って、このハリボテに両足で乗る必要があるのですが、多くの4級クライマーは赤い矢印で指したような壁際ギリギリを踏んでしまい、結果壁の傾斜を殺すことができずにバランスを取ることができていませんでした。

こういう時は思い切って青い矢印で指しているような手前面まで足を持ってくると、身体の作る傾斜が緩くなるのでバランスを取ることができます。

もちろん球体ハリボテなので手前ほど足場の角度は悪くなるので、滑らないと信じ込む勇気が必要になりますが。

 

ルールを熟知してずる賢くなる

で、ぶっちゃけると上のグレーの半球課題はもっと簡単に乗れる方法もあります。

それは、ハリボテに空いているボルト穴に乗ってしまう、という方法です。

壁やホールドのボルト穴は手で使用することは禁止ですが、足で使用することは禁止されていません。(参考:クライミングのルールの考察3~ボルト穴は使用可能か~

特にこのグレーのハリボテはアントレプリーズというホールドメーカーのものでボルト穴の入り口付近が通常よりも足を乗せやすい感じになっています。

1級や2級の参加者レベルのコンペティターになると結構細かいルールまで知っていて、それを有効活用している選手は多いです。

 

セッターの意図した手順や足順を考える

4級や5級の参加者でこれも特に感じたことですが、セッターの意図を汲まずにオブザベをせずとりあえず課題に取りついている人が見られました。

特に今回は検定会なのでセッターは相当慎重にホールドの配置を考えています。

そこにフットホールドやハンドホールドを置いているということは何らかの意図があるわけです。

例えば、写真の黄色い課題は左から右上してグレーの半月ハリボテを取りに行くのですが、その際になぜか左足を赤い丸のホールドに上げないで取りに行く人がたくさんいました。

おそらくとりあえず取りついてみて身体の動くまま先に右足を上げてみたら左足をスタートから動かせなくなってエイヤッとそのまま飛び出さざるを得なくなった、という感じなのでしょう。

3級以上の参加者ならば間違いなく、「左足を上げる必要があるからまずは左足から上げよう。その後に手に足で右足も上げれば良いな」と論理立てたオブザベをしてから取りつくはずです。

まぁこのあたりはクライミングの経験を積めば自然と身体が動くようにもなってくるのですがね。

 

調整能力

最後に、これは上手い言葉で表せないのですが、1級クライマーは課題に自分をアジャストさせていく能力が非常に高かったです。

セッションでもベルコンでも、最初は登れそうにない動きをしていても課題を何度かトライしている内に正しい動きができるようになってきて、最終的にはなんとか登ってしまうというパターンが多く見られました。

これはもうクライミング経験値の差というしかないのかもしれませんが、引き出しが多いので自分の動きも修正させることができるのだと思います。

まぁとにかくたくさん色んな課題を考えて登ることが大切ですね!

 

最後に

サラッと書くつもりが長文になってしまった&なぜか説教くさい感じになってしまった、、、。

上からですんません。

でも僕個人としても色々な発見があって良い検定会でした。

第2回は2018年1月20日(土)に奈良のナカガイクライミングジム橿原(かしはら)店でおこなわれます。

興味がある方は参加してみてはどうでしょうか!

それとMabooにも1ヶ月くらい課題は残るので、是非触りに行ってみてください。

ではでは。

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2件のフィードバック

  1. T.S. より:

    いつも拝見させていただいております。
    今回、お話の中で出てきた上級者が「微視的」「巨視的」「保持できる場所を見る」というお話が気になりましたのでコメントさせていただきました。
    こういったことは、アイトラッキングという視線計測装置で測ったり、オブザベで覚えられるホールドを調べたりと科学の分野でもよく取り上げられているトピックと言われています。

    http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0176306
    上記の研究者によれば、オブザベは4つの戦略があるそうです。
    ”「① Ascending strategy 下から順にホールドを見る、② Fragmentary strategy 部分部分で見る、③ Zigzagging strategy 手、足、手、足と交互に見ていく、④Sequence-blocks 核心部2-4手に特に注目する」
    ①②はルート全体のざっと見、届くかどうかや持てるかどうかが重要でない簡単な部分、ムーブが明らかな部分に用いられる(注意あまり向かない)③はより深い見方、③,④が動きが完全に明確でないような部分に用いられる”
    だそうです。

    科学と現場の齟齬が問題となっている中、こういった伝わりやすく核心を突いたブログはとても価値のあるものだと思います。
    陰ながら応援しております。

    • mic より:

      コメントありがとうございます。
      微視的・巨視的などの話は自分でも一番伝えたかったところなので、そこに注目してもらえてうれしいです。
      そしてこの論文面白いですね!めちゃくちゃ細かく数値で書いている。
      まだ全然読めていないのですが、上級者と初級者でそのオブザベの戦略がどう変わってくるのかとか知りたいですね。
      もっといって、オブザベの違いでその結果がどう変わったとかそーゆーところまで踏み込めるとプロクライマーでも欲するような情報にきっとなりますよね。

      今後も応援お願いします!

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