科学するクライミング2~前腕が太いと保持力は強いのか~

科学するクライミング2~前腕が太いと保持力は強いのか~

久々の科学するクライミングシリーズ。
今回は前腕の太さと保持力の関係です。
年始に周りのクライマーにも協力してもらって調べてみました。


はじめに

ホールドを保持する力、所謂”保持力”は一体何で決まるのでしょうか。
保持といっても、ホールドの形状や力を加える方向などは多種多様ですし、持った状態をキープするのかそこからムーブを起こすのかなどまで考えると本当に色んなパターンがあります。
(ちなみにfacebook ページですが「なにわ娘のボルダリング女子部」の保持力の記事は面白いです。
保持力を「指を曲げる力」と「指を固定する力」に分けてそれぞれの鍛え方を考察しています)

ただやはり保持する際に最も重要な身体の部位はどこかと言われれば、手の指の第一関節や第二関節を曲げる筋肉である深指屈筋や浅指屈筋などが集まる「前腕筋」を挙げるクライマーが多いのではないでしょうか。
事実、全般的に保持力のあるクライマーは往々にして前腕筋が発達しているイメージがあります。

前腕筋の発達と保持力の関係を調べたデータとしては「Rock&Snow No.45」が非常に有名です。
結果として前腕の太さと保持力の間には有意な相関があるというデータを出しています。
(ちなみにこの回のロクスノはトップコンペティターへのインタビューなどもあり必読の内容となっています。ネットでは売り切れが多いですが、、、)

というわけで、完全に二番煎じなのですが、丁度年始にライノに多くのクライマーが集まる機会があったので、
自分の身近な人たちで前腕と保持力に本当に関係があるのか、なるべくロクスノと同じ実験を再現し調べてみることにしました。

検証方法と注

・保持力の定義
まず保持力を定義しなくてはなりません。
ここでは話を簡単にするため狭義の保持力を以下の様に定義します
「保持力とは親指を除いた4本の指が支えられる最大重量」

親指を使ったピンチ力などの保持力はいったんここでは除外します。

・保持力の測定方法
保持するホールドは「Rock&Snow No.45」と同じくメトリウスのロックリングスの一番下を使用しました。
(ただし、ロックリングスにはいくつかタイプがあるので、ロクスノと同じものではない可能性があります。)

※追記※
後程判明しましたが、ロックリングスのタイプはロクスノで使用したモノと同一です(現在は廃盤?)。
ただし、ロックリングス自体のぶら下げ方が違っていて、
・ロクスノでは壁に固定せずぶら下げている
・本実験では垂直の壁に固定している
との違いがあります。
なので結果をお互いに比較することは不適切です。
本実験単体の結果で見てください。
※追記ここまで※

これに「3秒間片手4本でぶら下がる」ことができたら保持と判定しました。
空身でぶら下がることができたら、自分の体重分を保持できたと判定し、それ以上の負荷は重りを背負って測定しました。
こんな感じになります。
変換 ~ 写真

・前腕の太さの測定方法
前腕の太さは周囲測定テープで測りました。

腕に力を入れない状態でまっすぐ伸ばした際の前腕の最も太い部分を計測しました。
ちなみにこのメジャーはあると結構便利です。

・注
厳密な話をすると、筋力は筋肉の断面積で決まるため、周囲径ではなくその2乗と比べるべきですが、わかりやすくするため周囲径をそのまま比べています。
それと骨の太さや体脂肪率なども考慮して考えるべきなのですが、簡易的な実験では厳しいためそのあたりも割愛しています。

測定結果

・表
まずはクライマー別の数値から。
前腕と保持力 表

保持力=体重+保持できたMAX負荷です。
つまり1位のジャンボは自身の体重57.5kgに加えて27.6kgの重りを背負ってぶら下がれたということです。

・グラフ
グラフにして視覚的に見てみましょう。
前腕と保持力 グラフ

x軸が前腕の周囲径、y軸が保持力です。
それほど強い相関ではないですが、前腕が太い方が保持力が高いという傾向が見られます。
計算したところ有意性もあるデータだと思います。

(僕自身統計に明るくないので間違っていたら指摘してほしいのですが、両側t検定でp=0.026となったので、有意水準5%を満たしていると考えられます)

考察

さてさてこのデータから何が言えるのでしょうか。

まず第一に感じたことは、本題とはずれるのですが
「強い人は保持できたMAX負荷が高い!」
ということです。

ライノのクライマーを知っていないとどの人がどのくらいの強さかわかりづらくて申し訳ないのですが、
最も強いジャンボはMAX負荷ももちろんNo.1。
MAX負荷2位のTKGさんもこの中ではジャンボの次に強いクライマーです。
その他MAX負荷が10kgを超えているクライマーはライノでも1級とかを落としてくる強さをもっています。
やはり体重を超えてどれだけ保持できるかということは強さの源泉なのでしょうか。

そして本題に戻ると、「前腕の太さは保持力におおいに関係がある
と示せたことは意味があったかと思います。
(まぁすでにロクスノでも示されているのだけど、、、)
ことホールドにぶら下がることだけを考えるなら、「前腕を太く」「体重を軽く」という指針は間違っていないです。
ただ体重を軽くすることで、スローパーやピンチの保持力とか、体幹の強さとかそういったことへ良い影響がでるのか悪い影響がでるのかはわかりません。

最後に疑問として残るのは、前腕の太さと保持力に相関があるとはいえ人によってやはりバラつきがあるという点です。
グラフの近似曲線より上にプロットされている人は前腕の太さに対して保持力が高い人で、下にプロットされている人はその逆です。
前腕筋の筋動員率が違うのか、はたまた虫様筋の強さなどの前腕筋ではない筋肉の影響なのかそこはわかりません。
仮に虫様筋の大きさと保持力をみるなら手の厚みとかでやればよいのかな?
ここで測定しなかったライノのお客さんでも前腕が細いのに異常に保持力が高い人もいますし、ちょっとそこは気になります。

終わりに

というわけで、ちょっとサンプルが少ない、かつ内輪ネタ感がありましたがこんな感じです。
もし実験したい人がいれば追加でデータ取るのでご協力お願いします!

さて、前腕太くしますか。