推しクライマーインタビュー 3~ノーマットスタイルの隠れた継承者~

推しクライマーインタビュー 3~ノーマットスタイルの隠れた継承者~

久々の推しクライマーインタビューです。
「第1回のスラビスタ植草さん」「第2回の殺し屋林さん」に続き第3回はこちらもライノ常連にはお馴染み過ぎる、宮下裕樹(みやしたゆうき)くんです!
宮下くんは、いつもにこやかでポジティブで皆に愛されるいじられ系のクライマー。
その風貌と体型が世界的なクライマーである安間佐千(あんまさち)さんとどことなく似ていることから、「あんまりサチ」とのあだ名もついています!笑

宮下くんは主に岩場でのボルダリングに注力しているクライマーですが、彼のスタイルの大きな特徴はクラッシュパッドを使わない登り(以下、ノーマットスタイル)に価値を置きそれを目指しているところです。
彼は簡単な課題では最初から最後までノーマットで登り切りますし、「瑞牆レイバック」などの高度感がある課題もアップでいきなりノーマットで登り始めます。
そして、練習としてマットを使いその後マットを排除するというスタイルではありましたが、「静かの海」、「インドラ」、「夜」、「The Two Monks」などの高さがあり下地の悪い課題もノーマットスタイルで完登をしています。
マットの性能が大きく向上し、ボルダリングでマットを使うことが当たり前となっている現在において、ノーマットスタイルを目指す彼の登りを見ればクライマーならばきっと何かを感じるはず。

草野俊達(くさのとしみち)さんや室井登喜男(むろいときお)さんといった、ノーマットで多くの岩場で開拓・初登をしてきた偉大なクライマー達。その流れを汲むようにノーマットやナチュラルプロテクションといったスタイルにこだわりクライミング界の最前線を行く倉上慶大(くらかみけいた)さん。
彼らの陰に隠れてはいますが、密かにそのスタイルを継承している宮下裕樹というクライマーに今回は迫りました。

なおインタビューは彼が好んでやまない岩場である瑞牆に行く道中の車の中でおこないました。
それではお楽しみください!

レイバック


初めて登った初段が御岳の「素登り」。でも、“こんなのマット無しじゃ無理だ“

-快くインタビューを受けてもらってありがとうございます!
まずは簡単なプロフィールを教えてください。

1987年生まれの28歳会社員です。クライミング歴はだいたい6年くらいですね。
既婚者で3歳の娘がいます。妻とはクライミングを始めたジムであるライノ&バードで知り合いましたが、妻は今はあまり登っていないですね。ただ、僕やっているクライミングのスタイルには理解を持ってくれています。

-クライミングを始めたそもそものきっかけは何ですか?

趣味で登山をちょこちょこやっていて、当時は富士山とかを登っているくらいだったのですが、次第に北アルプスなども行ってみたいなと思い始めました。
それで漠然とクライミング技術も必要だろうと思って、クライミングジムを探したら会社の寮から近いところにライノがあったので行ってみたという感じです。
初回にレクチャーをしてくれたのは当時のライノの店長であるSINさんだったのですが、SINさんが簡単に登れる課題がまぁ当然なのですが自分には全く出来なくて、こんなにも違うものなのかと衝撃を受けると同時に、これは面白いと思いましたね。

-たしかに最初に上手い人の登りを見ると衝撃を受けますよね。
その後はどのような感じでクライミングにハマっていったのですか?

最初の頃はクライミングそれ自体にハマっているというよりも、ライノで同時期に始めた人たちとの付き合いが楽しくて続けていたって感じですね。ライノ同期である小林さんやユージと仲良くなって、半年くらいはそのメンバーでほとんど2階に籠って登っていたなか。
登った後に飲んで帰るのがとても楽しかったです。

-今ではその同期メンバーも本当にみんな強くなりましたね。
最初に岩場に行った時のことを覚えていたら教えてください。

まだ2階に籠っていた頃の、たぶんクライミングを始めて3ヶ月くらいの頃に当時PUMPのスタッフになったかならないかくらいの瞬君に御岳に連れて行ってもらったのが最初です。
「デラシネ・ボルダー」とか「とけたソフトクリーム」とか簡単な課題をやった気がするけれど何を登ったかまでは覚えていないですね。
とにかくツルツルで怖いなっていう印象しかなかったです。

-じゃあ最初から岩場にビビッときたわけではないんですね?

はい、どちらかというと岩場よりも、その後の飲み会を楽しみにして通っていました(笑)

-飲み会大好きだったんですね。
では岩場にのめり込んだのはどのタイミングなのでしょうか?

岩場にのめり込んだのは最初に初段を登った時くらいからですかね。
その頃は「デッドエンド」は登れていたけれど「忍者返し」が全然できないくらいの実力でしたが、クライミングを始めて1年以内に初段を落としてみたいと思っていて、御岳の「素登り」に打ち込んでいたんです。
結局クライミングを始めてからちょうど1年経ったくらいの時に登ることができました。
ちゃんと続けていれば初段が登れるんだなと実感できて、感慨深かったですね。
ちなみに今でも覚えていますがその日は某Kさん主催の合コンがあり、「素登り」を落としてから合コンに向かいました。
合コンの方は撃沈しましたけど(笑)

-(笑)
しかし、最初の初段があの高さがあり下地の悪い「素登り」というのはすごいですね。非常に宮下くんらしい課題です。なぜ「素登り」を選んだのでしょうか?

1年以内に何か初段を落としてみたいなと思っていただけで、特にラインとかスタイルにこだわって「素登り」を選んだわけではないですね。もちろんマットはたくさんありましたし。
ただその時に周りのクライマーから、“「素登り」は初めて登られた時はマット無しだったんだよ”という話を聞いて、“こんなのマット無しじゃ無理だろ”と思った記憶はありますね。

-ほうほう、そこが宮下君のノーマットスタイルのちょっとしたルーツになっているわけですね。

瑞牆の「阿修羅」を前にして、“マットを排除してみよう”とふと思い立つ

-その後の岩場でのクライミングはどんな感じで進んでいったのでしょうか?

「素登り」を登って少ししたくらいに、ロクスノで瑞牆のボルダーエリアのトポが公開されたんですよね。
そこで室井さんが「阿修羅」について、“今も自分の最高傑作“と書いている記事がすごく印象に残って、これは登ってみたいと思ったんです。
それで1人で瑞牆にとりあえず行ってみることにしました。当初は日帰りの予定だったのだけど一応レンタカーは余裕を持って2日分借りることにしました。

-ここで宮下君のクライミングの1つの転機となった「阿修羅」にトライしたわけですね。
「阿修羅」と言えば難しい初段というイメージだけれど、その時は「素登り」以外も何か目立った課題は登れていましたか?

いや登っていないですね。「阿修羅」がそれこそ3,4本目の初段なので。
小川山の「グロバッツスラブ」などは登っていましたが。
なのでライノの人たちには「阿修羅」を僕がトライすること自体が無謀だと思われたかもしれないです。
ガラス屋の方の島田さんには、“お前「阿修羅」とか無理だから。大概にしろよ”と言われましたね(笑)

-何が起きるかわからないので発言には気を付けないといけないですね!
「阿修羅」の手ごたえはどんな感じだったのでしょうか?

取りついてみる前はムーブが組み立てられたら良いな、くらいの軽い気持ちでしたが、やってみると意外とすんなり高度を上げることができて半日くらいでマントル体勢まで入ることができました。でもマントルが全然返せなかったですね。
最初は他に2人くらいのクライマーがいたけれど、彼らも帰ってしまったので途中からは1人でマット1枚で取りついていました。

-ということは初めての「阿修羅」をあのザブトンで1人でトライしていたのですね?それはすごい。
(植田注:宮下君のBDのマットはへたり過ぎて通称ザブトンと呼ばれ、現在の厚さは3cm程度と思われる。)

変換 ~ IMG_3300

そうそう、まぁその時はへたっていなかったから今より厚みはありましたが。
それで何度かマントルに失敗して落ちたりしている内に、ふと室井さんがノーマットで瑞牆の全ての課題をトライしているという話を思い出したんですよね。
で何となく度胸試しじゃないけれど、“マット排除してみるか”と思って、ノーマットでトライすることにしたんです。

-発想がぶっ飛んでてよくわからないですが、宮下君らしいですね。
ノーマットにして登れたのですか?

ノーマットでもマントル体勢までいったのだけれど、もちろんマントルが返せなかったです。しかもマットが無い怖さからかそれまでよりも動きがぎこちなくて、結局はマントルですっぽ抜けて木に当たって地面に落下してしまいました。
そこでマットがあるのとないので精神的な負担が全然違うなということが身を持ってわかったのですよね。
今の自分にはマット無しで登る実力も精神的な強さもないなと。
それで一度は排除したマットをもう一度使うことにしました。でもやっぱりヨレもあってその日は完登できなかったです。
それでもう帰ろうと思って車まで戻ったのですが、やっぱりどうしても悔しい思いが込み上げて来て、何が何でも登りたいという気持ちが沸き上がってきたんですよね。
それで明日まで車はレンタルしているし寝袋もあったので、車中泊して明日の朝もう一度トライすることを決めました。

翌朝5,6時に起きたら、たまたま瞬君が瑞牆に来ていて、「阿修羅」のことを話したら付いてきてくれました。
それでマットを2人分引いて、その日の2トライ目か3トライ目に無事に完登ができました。
完登はもちろん嬉しかったけれど、どちらかというと安堵感の方が大きかったですかね。

-良いエピソードですね。
宮下君の「阿修羅」完登は当時のライノでも相当話題になったみたいですもんね。
ちなみにその後「阿修羅」は再登はしていますか?

いや、していないです。なのでいつかはノーマットでやり直したいなとは思っていますね。

-楽しみにしています!
これ以降、御岳などよりも瑞牆によく通うようになったのでしょうか?

そうですね、瑞牆に一番通っているかもしれません。
瑞牆は斜面が西を向いているのか、夕日がとても綺麗なところが好きなんですよね。
それと岩登りを終えて、芝生広場に戻ってきた時に後ろを振り返った時の岩峰が一面に広がる景色も気持ちが良いです。
何だかんだ瑞牆が一番思い出深くて好きな岩場ですね。

変換 ~ 岩峰

初登者と同等かより良いスタイルの追求としてのノーマット

-その後はどのようにして今のノーマットを目指すスタイルに変わっていったのでしょうか?

やはり「阿修羅」を登った後に、1日目にノーマットでトライした感触が心の中に少し引っかかっていたのですよね。
まだ初心者の頃にSINさんから、“クライミングには色々なスタイルがあるのだけれど、再登者は初登者と同等かより良いスタイルで登るという考え方もあるから、頭の片隅に入れておいてもよいかもね”というような話を聞いたことがあったのですが、その話も思い出したりしてモヤモヤしていたのだと思います。
そして、しばらくしてから『ROCK&SNOW 59号』に掲載された室井登喜男さんの「下地に問われるもの」という記事を読んだことが、ノーマットで登ってみようと思う一番のきっかけになりました。
「下地に問われるもの」には最後の一文として、“マットなしで初登された課題を、マットを使って再登して悔しくないのか?“と書かれているのですよね。
その時は、マットを使ったからと言って悔しいという気持ちではないけれど、自分にもノーマットでできるのかなという好奇心のようなものとか、純粋に初登者に近いスタイルで登りたいという気持ちとかが強かったように思いますね。
それと昔の『岩と雪』などの写真を見ると、まだクラッシュパッドが普及していなかったという背景もあるかもしれませんが、草野さんを筆頭として皆ノーマットで本当に楽しそうに登っているなぁという印象を受けるのですよね。
純粋に岩登りを楽しんでいるというか。

-「下地に問われるもの」は多くのクライマーに衝撃を与えた名文ですよね。
初めの内はどうやってノーマットに慣れていったのですか?

まずは10級とかから始めて徐々に5,6級くらいまでをノーマットで登るようにしてみました。
10級だと流石にマットがあってもなくてもそんなには変わりませんが、5級でも下地にがいやらしかったり、岩や木の根っことかあると、登っている感じが全く違うということに気づきましたね。
それと簡単な課題でもノーマットで登ると充実感がものすごく得られるとも思いました。
ノーマットで登れば自分の中では初登者と少なくとも同じかより良いスタイルで登れたと納得できたのだと思います。

-ノーマットスタイルの時は小さいマットなども使わないのですか?

メトリウスの足ふきマットか、お風呂マットのようなものは使いますね。
スタートするときにシューズが汚れてしまうのでそれを拭くために必要です。
一時期は落ち葉で足拭いていたけれど、落ち葉だとどうしてもシューズに汚れがついてしまいますね。

変換 ~ IMG_3301

-落ち葉!?やはり宮下くんの行動は普通じゃないな。
ノーマットスタイルで初めに完登した高難度課題で覚えているものはなんですか?

下部はマットを使ってムーブを作り、途中からマットを排除したというスタイルでしたが小川山の「The Two Monks」をノーマットスタイルで登りましたね。
「The Two Monks」はクリス・シャーマが初登していて、マットを使ったかどうかまではわかりませんが、少なくとも同等かそれより良いスタイルで登れたことになるので嬉しかったですね。
ただ「The Two Monks」は下に岩などは少しあるものの、下地はそれなりに良いし高さもあまり感じなかったです。
なのでノーマットで登り切ったという感覚はそこまで強くなかったですかね。
普通に登れたなという感じというか。

-「The Two Monks」って普通の感覚からすると結構高いし下地も良くはないと思うんだけど、やはりノーマットスタイルをやる人は感覚が違うのでしょうか、、、。

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ノーマットでの静かの海とインドラへの挑戦

-その後にノーマットスタイルで登った思い出深い課題を教えてください。

やはり自分の中でターニングポイントとなった課題は小川山の「静かの海」と瑞牆の「インドラ」ですね。
ただ、どちらも一度マットを使って登った後にノーマットで再び登ったという形です。
僕が最も理想とする初めから終わりまでグラウンドアップでノーマットというものではないですが、どちらの課題も初登者である室井さんと同じスタイルで登りたいと思ったためノーマットで再登しました。

-そこまでスタイルにこだわれるのがすごいです。
しかもマットと言ってもあのザブトンなので、普通の感覚からしたらサブマット並みかそれ以下の信頼度しかないと思いますし。
「静かの海」から具体的な話を聞かせてください。

「静かの海」は下地の岩盤が非常に怖いのと、マントルに失敗するとどこに落ちるかわからないので、少なくともムーブを作る段階ではマットありでやるしかないと思い取りつきました。
そしてだんだんと、“この落ち方なら大丈夫だな”と確認ができてからは、ノーマットでトライをしました。
ムーブを細かく説明すると、リップに右手をかけた後に僕は右手をさらに奥に送ってから左足を上げます。しかしこの時にマットがないと左足上げがどうしても怖くなってしまうのですよね。
“右手がすっぽ抜けたらマット無しでどうなるのか”、“怖くて乗り込めない”といった思いが頭の中を巡ってしまい、精神的に負けて降りるの繰り返しになってしまいました。自分の心の弱さを抑えきれなかったんですね。

そしてノーマットは諦めて一旦マットを使ってみることにしました。
するとそれまでとは違ってマントルが上手く返せて、完登することができたんです。
もちろん嬉しかったのですが、どうしてもモヤモヤした気持ちが残ってしまい、その場でしばらく考えました。“最初からノーマットで登ると決めていたのに悔しくないのか”、“一度はマットありで登っているけれど、やはりマット無しで登ろう”そう決意して、ノーマットで再びトライすることを決めたんですよね。

-やはり、マットの有無でそれだけ精神的な難易度が変わるのですね。

はい。その後ノーマットで再トライしても、マットありで一度完登できているにもかかわらずどうしてもマントルで躊躇してしまいました。
本当に集中して精神的に落ち着かせてトライしないとダメでしたね。
ノーマットで登れたときも、核心のマントルでは右手はマットありの時の感覚と全く違ってすっぽ抜けそうだし、左手も全然上手く返せていなかったし、万全のマントル体勢ではなかったですが気持ちで押し通しました。
“絶対落ちない、絶対落ちない”と自分に言い聞かせ、ジワジワとマントルを返して、右足をリップに載せ体勢を上げた瞬間に、色々な思いが込み上げてきましたね。
そこからリップまではあまり覚えていないでが、最後のスラブのガバゾーンでは涙出ていたと思います。
室井さんが初登したスタイルと同じでしかも自分にとって最高グレードの三段という課題が登れたことに対して自分でも成長したと実感できました。
それまでコンペでも岩場でもそんなにたいした結果も出ていませんでしたが、やり遂げた気持ちが生まれましたね。
その後は集中力が一気に途切れて、1時間くらいその場にしゃがみ込んでいました。いつまでもマントルを返した感覚が頭の中に残っていましたね。

-話を聞いているだけで手汗が出てきますね。スタイルにかける想いが伝わります。
「インドラ」の方はどのような感じでしたか?

「インドラ」は実は「静かの海」よりも前にマットありで登っていました。
ただその時は、下地の切り株も怖いし、マットありでも何度か危ない落ち方をしていたので、“今の自分にはとてもじゃないがノーマットで登れる課題じゃないな”と痛感しました。
それでマットありでなんとか完登をしてその場ではノーマットスタイルで登ることは一旦諦めていたんですよね。
でもどうしても「インドラ」はノーマットスタイルで登りたいと思っていたので、「静かの海」を登った後くらいに、再びチャレンジすることにしました。
すると「静かの海」で精神的に自信を付けていたせいか、本当に自分でも驚くほどさっくり「インドラ」もノーマットで登ることができたんです。
もちろんマットありで登っていたので、ムーブも全部わかっていたことも大きいですが。本当に落ちる気が全くしなかった。

-ノーマットスタイルの能力がとても向上したんですね、きっと。
具体的にノーマットスタイルをやる上でのポイントというか、何を考えて登るのですか?

やはり落ち方の精度が重要ですね。
最近は、“どう登るか”よりも“どう落ちるか”しか考えていないかもしれないです。こんなことを言うと、“最初から落ちること考えているなんてどういうことだ”、“登る気がないのか”と言われることもありますが。
とにかく岩場では落ちることをまず考えます。
だからジムと岩場だと僕の登りは全く違いますよね。
ジムだと落ち方はそこまで気にしていないのでたぶんそれが出ているんだと思います。
このあいだのコンペでも決勝の課題でゴールマッチする前に観客を煽ったら、マッチでゴール落ちて負けたりしました、、、。

-たしかに、宮下くんはジムだと、“え、そこで飛ぶの!?本当にこの人ノーマットでやってるの!?“と思わせるような登りだよね。

そうそう、だから僕はノーマットでも岩場では怪我もしたことないし、ヤバかったなという場面もほとんどないですね。
でも、ジムでは両膝の靭帯を怪我したことはあります。しかも2度ほど(笑)

-笑えないですが、宮下くんの秘密が一つ分かった気がしますね。
最近は岩場ではどんな楽しみ方をしていますか?成果は何かありますか?

ノーマットでは瑞牆の「夜」を登りましたかね。高難度の成果という意味では、マットを1枚使いましたが瑞牆の「霧」を登りました。
あとは、笠間にそもそも初めからマットを持たないで登りに行きます。ロードバイクとシューズとチョークとブラシだけで岩場に行くのが楽しいですね。
周りのクライマーからは、“なんでマット持っていないんですか”などとよく聞かれますが。
ただ、周りのクライマーにマットで変に気をつかわせてしまって申し訳ないなと思う時もあります。
「ボストン倶楽部」を僕がノーマットでトライしているときに、後から同じ岩のラインが近い「ワシントン倶楽部」をやりにきたクライマーがいてマットを敷いてトライを始めたのですね。
僕としてはマットありでも構わないので、そのままマットを借りて「ボストン倶楽部」をトライしようとすると、“マットどかしますからね!”と言われました(笑)
僕としてはそこまで気をつかってもらって全部の課題をノーマットでやりたいわけではないので申し訳ないですし、普段はマットを使うことも全然ありますからね。
でも笠間でも痺れる課題はありますね。「モラン」がある岩の1級の課題などは最後ハイステップになるのでかなり緊張しました。「シンプル&ディープ」も過去にマットありで登ったことがありましたが、マットなしで再登をすると下にたくさん木の根がある中でマントルを返すので怖いですね。
マットありで登った課題をマットなしで再登すると、もう一度別の課題を登っているみたいで新鮮さがあるところもそれはそれで面白いですね。

室井さんとの初めての出会い。”登り方も落ち方も上手いね“

-宮下くんのまわりに他にノーマットスタイルでやっている人っていたりするのかな?

倉上さんはもちろん有名ですが、他にも本当にたまにですが見かけますね。
この間のゴールデンウィークに家族連れで瑞牆にいったのですが、そこで室井さんに出会いました。
その時室井さんと一緒にいた関西のクライマーの方々はリードやハイキング並の軽装で、使ってもサブマット程度で課題を登っていましたね。
ちなみに室井さんはライノのセットでお見かけしたことはあったのですが、きちんと会って話したのはその時が初めてでしたね。

-これだけ瑞牆に行っている宮下くんが室井さんに会ったのがつい最近というのも面白い話だね。スラビスタなんて「十六夜」の前で2回中2回出会っているのに。
室井さんとは話したり一緒に登ったりしたのですか?

大黒岩の近くで会ったのですが、せっかくなので自分の中でラインが不明な「黄金虫」に関して聞いてみようと思い、“「黄金虫」のラインってここであっていますか?”というような感じで話しかけてみました。
それで、“うん、あってるよ”と教えてもらったので僕は「黄金虫」をトライしていたのですが、かなり高さがある課題だったので家族連れの今怪我をしたらシャレにならないと思い軽く触る程度にしておきました。
その後、大黒岩のいわゆる表の面の「フォーマルハウト」や以前マットありで登っている「天の川」を僕はトライすることにしました。
今回は家族連れということもあり、ザブトンではなくきちんとしたマットを持ってきていたのですが、ちょうどその時は子供がご飯の時間でマットをソファー代わりに使っていたので、ノーマットでトライすることにしました。

フォーマルハウトの方は何とかノーマットで完登したのですが、どうやら僕の登りを後ろで室井さんが見てくれていたようで、妻に、“あの人登り方上手だね。落ち方も上手いね”などと言ってくれていたみたいです。
帰り際に関西のクライマーの方々にも名前聞かれて、室井さんとも写真を撮らせていただきました。

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-室井さんからのその言葉は宮下くんのこれまでのスタイルを認められたという感じで嬉しいですね。
では最後になりますが、宮下くんはこのままノーマットスタイルを追求していくのでしょうか?何か目標はありますか?

そうですね、やはりノーマットスタイルを突き詰めたいという気持ちはありますね。
シンプルなスタイルなところが好きですし、ノーマットというだけで冒険性が生まれると思うんですよね。
登っている姿をムービーで見返したときも、マットなしの方が綺麗だなと個人的には思います。
下地だけでなく、マットの高さが10cm違うだけで離陸の強度の感じ方から違うし、色々な面でより困難なスタイルだと思っています。
目標課題としては小川山の「Rampage」をいずれはノーマットで登ってみたいですね。今はマットありでも全然ムーブすら起せていませんが。
それと、いつかはボルダーだけでなくマルチピッチもやってみたいですね。

-ありがとうございました。怪我に気を付けて、スタイルを追求してください!

以上です。

いつもジムではヘラヘラしている宮下君ですが(笑)、そのクライミングに対する情熱と真摯な姿勢、非常に良い意味で頑固なまでに貫く信念が伝わっていれば幸いです。
今後も彼がどこまで行くか楽しみですね。
最後に、彼が登っている動画をいくつか貼ります。

ではでは。

「インドラ」

「夜」

「The Two Monks」

「瑞牆レイバック」