僕らは下手くそなフォームの名人になってはいないか
マイケルジョーダンの名言として有名な以下のものがあります。
“You can practice shooting eight hours a day, but if your technique is wrong, then all you become is very good at shooting the wrong way. Get the fundamentals down and the level of everything you do will rise.”
意訳すると、
「あなたが毎日8時間のシュート練習ができたとしても、技術が間違ったものなら、あなたは間違ったシュートのやり方の名人になるだけだ。基礎に本腰を入れるべきであり、そうすればあなたがやることの全てのレベルは自ずと上がっていくはずだ」
となります。
もはや、この記事で言いたいことの全てが詰まっている言葉なので余計な説明は不要なのかもしれませんが、クライミングを始めてからこの言葉がより身に染みるので少し思うところを書きます。
最大値でない極大値にハマる
日常生活においても上記のジョーダンの言葉を痛感することは多々あります。
例えば身近な例では、「パソコンのキーボード入力における指のポジション」などでしょうか。
僕の父親はそれこそ20年以上はキーボードを触り続けていますが、未だに両手人差し指のみでキーボードを入力しています。
彼はそれを20年以上続けているので、人差し指のみの入力にしてはかなりの速度なのですが、きちんとしたホームポジション(4本指全てが上手く使える指の初期配置)を覚えてタッチタイピング(キーボードを見ないで入力、所謂ブラインドタッチ)が出来る人と比べるとむちゃくちゃ遅いです。
しかし今から人差し指のみの入力を止めて、ホームポジションからの入力に切り替えるとなると一時的に入力速度が非常に低下してしまうので、なかなかやり方を変えることが難しいです。
つまり彼は人差し指入力の名人になってしまいその道を究めているので、より効率的なやり方に変えることが困難な状態に陥っているのです。
(まぁこの場合は、そもそも仕事柄そんなキー入力の速度を求められていないとか、色々別の理由はあるとは思いますが)
僕はよくこれを「最大値ではない極大値にハマる現象」と勝手に呼んでいます。
他にも探すと日常によく見られるはずです。
クライミングにおける例
クライミングに関しても、この最大値でない極大値にハマってしまうということが自分にも他のクライマーにも起こっていると思います。
例えば、僕は姿勢選択の余地がある場合は基本的に正対(壁に軸足の内側を向けて正面を向く姿勢)を選びます。
ですので正対乗り込みのムーブには強いですが、側対(壁に軸足の外側を向けて横を向く姿勢)に苦手意識を持っています。
本来なら側対を選択することが自然な場合でも、正対がなまじ得意なため正対で押し通しがちです。
そうすると、絶対に正対を選べなくてかつ難しい側対のポジションが要求されるムーブが出てきた際に、出来ないということがよくあります。
他にもよく見られる例としては、なんでもすぐに足切るクライマーなどでしょうか。
僕もその力強さに憧れて一時期あえて意図的に足を切って振られに耐える練習などをしていました。
そうすると振られに耐える力などが付いてパワフルな登りができる反面、悪いホールディングで絶対に足を残さないといけない場面で足残しのムーブができなくなってしまいます。
常に足を切って登る人は足切りというムーブに限れば極大まで能力を高められますが、クライミング全体の最大値には到達できないのです。
例をあげようと思えばいくらでもあがりますね。
つまりきっと、一部のトップクライマーを除いて、僕らはこの正しくない下手くそなフォームの名人に多かれ少なかれなっているのです。
ではどうすれば良いのか
では下手くそなフォームの名人から脱却するにはどうすれば良いのでしょうか。
個人的に思いつくこととしては
・他人の動きをよく見る、良いところはマネをする
・自分の動きを意識する、無理ならば他人に指摘してもらう、自分で動画を撮る
ということがあげられると思います。
クライミングが上手い人はとにかく他人の動きをよーく観察しています。
細かな身体のポジションとかホールドを持つ位置などをつぶさに見ています。
そして変なこだわりなく他人の良いところをマネして自分の動きに取り入れます。
それとやはり動きが下手な人は、今自分がどんな動きをしていたかということがわかっていないことが多いように思えます。
それがわかっていないとムーブの再現性も低くなってしまいます。
僕もあまり再現性が高くない方で、一度できたムーブが出来ないということが多々あります。
そこは上手い人と一緒に登って指摘をしてもらったり、外岩などでは極力自分の登りの動画を取って見直すなどの工夫でカバーをしたりしています。
先人達の考え
具体的なトレーニング方法などを他の先輩クライマーの考えなどを交えつつ紹介します。
まずよくあがるのは、各ジムの良質なテープ課題等を使って正しいフォームで何度も同じ課題を登りムーブを洗練させていくというサーキットトレーニングでしょうか。
このサーキットトレーニングに関してはマーブーのみつおさんのこの記事などが参考になります。
サーキットトレーニングの有効性
“最近ちょっと伸び悩んでるんだなーという方、自分の登りについて甘くなっていませんか?
痛めていた箇所をかばって登ったせいで気づかないうちにフォームが崩れていませんか?
登れただけで終わりにしていませんか?突き詰めていますか?
体はちゃんと使えていますか?視線は?足は?首は?胸は?背中は?腹は?腰は?脇は?股は?上腕は?手は?第一関節は?
是非ピンクテープから、フォームを確認しながら、今一度サーキットトレーニングを有効的に使ってみてはどうでしょう。
ジムでのトレーニングはその多くがフォームの確認と修正です。
そして、フォームの確認と修正には、サーキットトレーニングが最適です”
ちなみにマーブーブログの「トレーニング」カテゴリー記事はどの記事もスーパーオススメです。
このブログに近い内容を考え尽くしています。
似たような話を元ライノの店長のシンさんもから聞いたことがあって、それも未だに僕の心に残っているので紹介します。
たしか以下の様なことを仰っていたように記憶しています。
“トレーニングの基礎期には毎回テープ課題を簡単な方から全て登る。
できればより短い時間でかつ完登率を上げていきたい。
そして、その際に気を付けるべきことは、単にスタミナを付けるということだけでなく、自分のムーブを洗練させるという意識を持つことだ。
ライノクライマーでムーブを洗練させた極みはジャンボだし、行き着くところまで行ったのがサチだ”
(うろ覚えなので、間違っていたらすみません、、、)
確かに安間佐千さんもロクスノ51号の「我が道を行く」でこう言っていますね
“向上方法は、ひたすら繊細な意識をもって各ムーブをこなしていくことだと思う。
繊細な意識を数年間もち続けてトレーニングすれば、徐々にテクニックが洗練されていく気がする。
指が強いクライマーなんて本当にたくさんいる。
そのなかから一歩先に踏み出しているクライマーというのはこういった繊細さを持ち合わせているに違いない”
いや、「我が道を行く」は本当に名連載ですね。
このブログで何回引用しているかわからないくらいためになります。
しかし、ムーブに繊細な意識を持て、洗練させろと言われても、「どうすればいいんだよ!」と思ってしまう人も多いですよね。
僕もなかなかわかっていても自分のムーブを改善できないことが多いので。
その部分に関して最近読んだ記事で面白かったのは、プロジェクトなどでトレーナーをする所謂チバトレの千葉さんのこの記事。
僕の価値観
“車の車庫入れで何度も切り返す人がいますよね?あの現象と同じです。
車両感覚というより身体感覚が不足している事が原因です。
このタイプの人は、ストレッチをしてもあまり効果が出ません。筋トレをしても狙った場所と違う場所に効いてしまいます。
ムーヴの精度も低く人と違う登り方になる場合が多いです。効率的な動きと言う概念があまりありません。
(中略)
原因は、単純に運動の経験値不足です。
子供の頃にやっておくべき基本的な身体のコントロールができていない段階で高度な競技動作に挑戦してしまっているのです。
(中略)
正しい呼吸・正しい寝返り・正しいハイハイ・正しい座り方・正しい立ち方・正しい片足立ち・正しいスクワット・正しい歩き方・正しいぶら下がり方・正しい関節の動かし方などを基礎から段階的に練習していけば、必ず改善できます”
チバトレは以前に僕も参加しましたが、その時に習ったことは「まず壁に張り付かない状態で、正しい肩甲骨や股関節や体幹の使い方を学ぶ」といった内容で非常にためになりました。
通常状態でできないことは壁の中では絶対にできないですからね。
興味がある方は是非!
終わりに
なんかもう最後の方は引用連発で先人たちの知恵を紹介しただけの記事になってますね。笑
でもそれだけクライマーなら皆が行き着くテーマなのでしょう。
さぁ今日もムーブを洗練させて、下手くそなフォームの名人から脱却しましょう。
ではでは。
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