ボルダリングのグレードの決定方法~前編:グレードの定義、前提となる考え~
2016年は1ヶ月に最低4本記事を書くという内なる目標を掲げたにも関わらず、これが3月1本目。
やばい。
さて、今日の記事は主にボルダリングのグレードに関してです。
岩で初登した際や、ジムで課題を作る時に、ほとんどの場合グレードを付けるという行為をしますが、
一体どのような基準でグレードを決めているのか、そもそもグレードとはどういった要素から成り立っているのかを考えてみたいと思います。
あ、もちろん、あくまで僕の超個人的な考え(もっというと理想論というか、理論的にはこうだよねという意見)なので、クライマー間で統一された見解とかじゃ全くないです。
グレードとは何か
まず、グレードとは何なのかその定義を書いておきますと、すごく簡単に言うなら
「その課題の難易度」
ということになるかと思います。
この定義が少しやっかいなこととしては、ボルダリングには単に完登したということ以外に、何アテンプト目で完登したか(何回のチャレンジで登れたか)ということもクライマーの能力を測る指標として用いられるという点です。
ですので、完登数とアテンプト数のどちらを優先してグレードを定義するかは実は悩ましいです。
つまり、例えばある2本の課題があった時に
・1本は10人中5人が完登したが、全員3アテンプト以上かかった
・もう1本は同じ10人中3人しか完登できなかったが、全員1撃だった
などの場合にどちらがより難しいグレードの課題なのか、ということを決定する悩ましさがあるわけですね。
まぁこの点は流儀に依るというか、一旦厳密には目を瞑ることとして、いずれにせよグレードとは
「その課題を完登する難しさ。あるいは少ないアテンプトで完登する難しさ」
と定義できるでしょう。
グレードの定義に対する別の考え
ただ実はこの「グレードとは難易度である」という考えにも実は違った見方もあります。
非常に良いなぁと思っているものとしては、『Rock&Snow No.25』において、中尾政樹さんがグレードについて述べているこの文などですかね。
(日本の段級グレードシステムは)VグレードやFBグレードのように乾いたものではなく、その内容も加味されたグレードシステムに思えること。
(中略)
ほかの分野の段級システムはいわば格の違いであり、その与えられた段級にふさわしいといった意味合いもある。
要は、単なる難易度でなく「課題の格」というものもグレードは考慮すべきという意見もあるわけですね。
確かに例えば剣道などでは、範士の基準として
範士は、剣理に通暁、成熟し、識見卓越、かつ、人格徳操高潔なる者
と書かれています。
単に「強い」などでは全くないわけですね。(参考記事:称号と段級位のルール)
ただ、この記事ではシンプルにあくまでグレードとは難易度を表すとして進めたいと思います。
(ちなみに、『Rock&Snow No.24』の小山田さん、杉野さん、平山さん、室井さんの「グレーディングを探る」と『No.25』の「ボルダリングのグレードを考える」は、グレードについて考える上で超必読です。ロクスノNo.24はバックナンバーで一番おもしろい)
グレードの基準
では、グレードが難易度を表すとして、実際どのようにして「ある課題がこのくらいの難易度である」と決めれば良いのでしょうか。
まず必要なのは、各グレードの「基準」です。
考えられるやり方としては大きく以下の様な2通りがあると思います。
1. 各グレードの基準となる課題を決める
-3級ならxxくらいの難しさ
-2級なら○○くらいの難しさ
-1級なら・・・
2. あるグレード(少なくとも1つ)の基準となる課題もしくは難しさを決めた上で、グレード間の難易度差を明確にする
-例えば1級の基準となる課題を決めるか、その難しさを明確にする
>1級とは忍者返し程度の難しさである
>1級とはランダムに1000人クライマーを集めた際に、50人が登れるような難しさである
-その上で、グレードが1つ上がるとは難易度がどの程度上がることなのかを明確にする
>例えば、1級と初段では登れる人の数が半分違う、等
で、まぁ2.のようなことをしっかり決めることは非常に骨が折れるというか、今のところは無理なわけです。
(もちろん、たくさんのクライマーの統計データとかを集めれば理論上は可能ではある)
とすると、1.のように各グレードの基準となる課題をいくつか決めるということが現実的なグレード付けの方法となります。
正式な発表としては僕の知る限り黒本に、
御岳の「忍者返し」と小川山の「エイハブ船長」がともに1級の基準とされている
とあるだけなので基準としては不十分ですが、おそらく開拓クライマーなどはエリアにおける各グレードの基準となる課題を自分の中に持っていて、それと照らし合わせてグレードを決めているはずです。
先ほど紹介した『Rock6Snow No.25』でも例えば九州でバリバリ開拓をしている田嶋一平さんなどがこう述べています。(もう10年以上前なので当然基準に対する考えが変わっていると思いますが)
九州でエリアを開拓する際、以下の課題のグレードを参考にしています。
1級:エイハブ船長、デッドエンド
初段:グロヴァッツスラブ、クライマー返し
二段:穴社長
三段:虫、頭痛
また、リードクライミングに関するグレードですが、PUMPの内藤さんによって出された『瑞牆クライミングガイド』においても、各グレードの基準となる課題が挙げられていて、それに伴ってグレードをつけているようです。
ジム内で新しく課題を設定する際などは、近辺の岩場やそのジムの昔のテープ課題を基準とすれば良いはずです。
どのように基準と照らし合わせるか
ただ、基準が決まったところで依然として悩ましいのは、ある課題が「基準となる課題と同じ難しさである」とどのように決定すれば良いかということです。
なぜなら、人に依って難しさの感じ方は全く異なると思いますので。
その点に関してはボルダリングのVグレード以前のグレード体系と、いろいろ雑感など以前の記事でも何度か述べているのですが、理想的には
「全クライマーがこの課題にチャレンジしたら何%のクライマーが完登できるか(もっと理想的には、合わせてアテンプト数がどのくらいになりそうか)」
という思考実験の元に難しさを決めるべきだと思います。
まぁ全クライマーというのはリアリティが無いので、自分が通うジムの常連さんなどをイメージして考えるのが良いかもしれません。
例えば、あるジムの3級のテープ課題を全て落とせる常連さんが10人がいたとします。
その10人が新しく設定したある課題にチャレンジしたとした際に、リーチの長い人は足が切れないのでめちゃくちゃ簡単に感じて登れたけれど、リーチの短い人はどうやってもそもそも登れなくて、10人中リーチのある5人しか完登できなかったとしましょう。
そうした時に、その課題は例え登れた5人がものすごーく簡単に感じたとしても、3級全部落とせる人の半分しか登れていないのだから、きっと2級以上を付けるべきなのだと僕は思います。
後編に続く
とまぁグレードを決める上での当たり前っぽい定義や前提をなにやら小難しく色々と書いたら長くなってしまいました。
で本題としては、最近考えているのですが、そもそも論として課題の難しさを構成する要素って何なのかということを整理したいです。
単に「筋肉に対する強度が高いから」とかだけではなく、おそらく色んな要素が絡んで「課題が登れない」「課題が難しい」ということになるのですが、その要素を自分なりに考えてみたいと思います。
前置きが長くなったので、一旦ここで記事を区切って残りは後編に続きます。
(記事数稼ぎではない。笑)
なるべくすぐ書きますね、きっと。
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