ボルダリングのVグレード以前のグレード体系と、いろいろ雑感

ボルダリングのVグレード以前のグレード体系と、いろいろ雑感

いつも堅苦しい記事ばかりだと僕も読む方も疲れるので、今日はいつもよりは簡単めに書こうと思います。
少し前にFace Bookなどでシェアされていた10 Things You Didn’t Know about Bouldering Grades(ボルダリングのグレードに関してあなたが知らない10のこと)でVグレード以前のグレード体系のことが書いてあって面白かったので、その一部の紹介をします。
併せて僕のグレードに関する雑感も書いてみます。

 

グレードの簡単な説明

※クライミングをやっている人は読み飛ばしてOK。ほとんど前に書いた記事「ボルダリングのグレード換算の公式」の再掲

クライミングにはグレードと呼ばれるコース(課題)ごとの難易度順位が付けられています。
以下、ロープを使わないスタイルであるボルダリングに限定しますが、
日本では簡単な課題から順に10級、9級、、、1級、初段、二段、、、、六段、とグレードが付けられています。
これを一般的には段級グレードと呼びます。

海外でも同様にボルダリングの課題にグレードは付けられているのですが、日本とは別のグレードの付け方がなされています。
アメリカ発祥のVグレードとフランス発祥のフレンチグレードがあり、
Vグレードは簡単な課題から順にV0、V1、、、V16
フレンチグレードは簡単な課題から順に3、4、、、、6a、6a+、6b、6b+、6c、6c+、7a、、、、8c+とグレードが付けられています。

 

グレードに関してしばしば起こる諸問題

ただ当然のごとく、グレードに関してはよく問題・論争が起きます。
何となく思いつく問題・論争を上げると

・課題に対してグレードが適切でない
 -簡単すぎる/難しすぎる
 -特に外岩では経年や新ムーブの発見によって同じ課題でもグレードがどんどん変わっていく
 -上級者にとっては5級と感じても、初級者にとっては全く5級と感じられない課題などが存在する

・グレードのずれが存在する
 -Aさんが作る3級とBさんが作る3級で全然難しさが違う
 -あるジムの1級と別のジムの1級が全然難しさが違う
 -外岩の1級とジムの1級が全然難しさが違う
 -外岩の同じ初段でも全然難しさが違う

・グレード体系自体がおかしい
 -段級グレードは大雑把すぎるため、三段-、三段、三段+、三/四段などを採用すべき
 -あるいは逆にもっとシンプルにすべき
 -リーチなど登る人によって感じるグレードは全然変わる
 -そもそもグレードとは初登者が絶対なのか、どんどん修正変更されるべきなのか

・そもそもグレードなんて要らない
 -クライミングとは本来課題それ自体と向かい合うべきであるため、数値を追いかけるのはおかしい
 -グレードを追いかけるあまり、所謂お買い得課題ばかり狙っている人が多い

などなどなどなど、挙げるとキリがないですね。

よくジムのお客さんの間でも
“この課題は3級もない”
“いやこの課題は3級よりもっと難しい”
などの会話はよく耳にします。

それで冗談半分なのかもしれませんが、あるお客さん達が以前提唱していたのが「松竹梅グレード」というもの。
簡単に説明すると、

・グレードはシンプルで良いという考えが前提
・グレードは以下の3つのみ
 -梅:かんたん
 -竹:できる
 -松:できない

わお、なんとシンプルなのでしょうか。
“できる”に”かんたん”は含まれないのか、とか、そもそも誰にとっての”できない”なんだとか突っ込みどころは満載なのですが、グレードに対するある種のスタンスが表れていて面白いな、と当時は思っていました。

そうしたら、なんと先日読んだ10 Things You Didn’t Know about Bouldering Gradesの中で紹介されていた、Vグレード以前のグレード体系がまさにこの松竹梅グレードだったのです。

 

Vグレード以前の体系

初めてボルダリングのグレード体系を確立したのはあのアメリカの伝説のクライマー、ジョン・ギルだと言われています。
1958年に彼が考えたB-Systemは以下の通りです。

・グレード体系は以下の3種類
 -B1 difficult(難しい):当時のリードクライミングで最大難度程度までの課題
 -B2 very difficult(非常に難しい):当時のリードクライミングの最大難度を大きく超える課題
 -B3 limit(限界):再登できることが非常に稀な課題

何とシンプルなのでしょうか。
まさに松竹梅グレード。

しかし、このB-Systemにはいくつかの問題があったため現在のVグレードの様には流行しなかったようです。
その問題点というのは以下です。

・グレードの基準が非常に流動的
 -1958年に登られたB1は1968にスタンダードとされたB1よりも簡単
・ジョン・ギルが強すぎた
 -ジョン・ギルが強すぎたため当時は99%の課題がB1にランク付けされるという事態に
 -当時からV9やV10をガンガン登っていた

このあたり、現在も続くグレーディング論争に近しいものがありますね、、、。
そしてジョン・ギルが考えたもう一つの体系E-Systme(EはElimination 排除 の頭文字)も面白いので紹介しておきます。

・B3の課題に適用されるシステムで、完登者数に応じてEの後の数字が増えていく
 -E1なら完登者数1人
 -E2なら完登者数2人
 -、、、
・E10までになると、その課題はB2に降格する

なんとシステマティックな体系なのでしょうか。
これはなかなか面白いですね。
もちろん、どんなレベルのクライマーが何人その課題に挑戦したかで完登者数は大きく変わると思うので、この体系も突っ込みどころは多いのですが、発想は非常に良いと思います。

ジョン・ギルがE-Systemを考案した背景には
“リーチやボディによってはグレードは合理的ではないものになる。それらが違うクライマー同士ではグレーディングに関して論争になってしまう”
“グレードとは何人が完登できたかで決定すべきであり、岩それ自体に内在する難しさで決めるものではない”

という考えがあったようです。

そしてその後ジョン・シャーマンがジョン・ギルのB2などをもっと細かくグレーディングし、現在のVグレードの考案に至ったようです。

141205_Vグレード以前のグレード体系 v02

 

終わりに、雑感

とただ単にジョン・ギルのグレード体系を紹介する記事になってしまったのですが、最後に僕のグレードに対する考えも少し書いておきます。

まず大前提としてグレードは必要なものだと思っています。
特に初中級者がクライミングにハマるきっかけの一つがこのグレードだと思うのですよね。
“5級が登れた”、”3級を登りたい”のように達成度や目標が数値化されるのはモチベーションに繋がると思います。
そしてグレーディングをする上での基本的な考えは、思考実験として
「全クライマーがこの課題にチャレンジしたら何人のクライマーが登れるか」
という発想からするべきだと思っています。(もちろん不可能ですが)
ある人にとってはすごーく簡単に感じても、その人以外が全然登れなければやはりその課題は難しい課題なのです。
(例としてリーチ180cmの人にとってデッドエンドは3級程度でも、大半の人にとっては困難なのでやはり1級で正しい)

できれば「忍者返し」「エイハブ船長」以外にも各グレードの基準となる課題が全クライマーの共通認識として誕生すると、よりグレーディングもしやすいと思うのですが、これは確実に論争を生みますね。笑

ただ一方で厳密なグレーディングにこだわり過ぎることは意味がないと思っています。
1グレード程度の周りとの感覚のズレは許容範囲だと思います。
もちろんジムスタッフなどはグレーディングには慎重になるべきですが。
でも僕らはグレーディングするためにクライミングをやっているのではなく、登るためにやっているのですから、あまりそこに時間をかけてもしょうがないです。

理想的にはグレードにとらわれないで、課題それ自体を楽しむ境地に早く達したいとは思いますけどね。

と、こんな感じで終わります。では