推しクライマーインタビュー 2~クライミングの狂気に飲まれた男~

推しクライマーインタビュー 2~クライミングの狂気に飲まれた男~

さてお待たせしました。
久々の「推しクライマーインタビュー」です。
反響が大きかったスラビスタインタビューに続く第2弾は、ライノ常連にはお馴染みの林太輔(はやしだいすけ)さんです!
林さんはそのキレた風貌、物静かながら時に感情を爆発させる登り、自分にも相手にも妥協を許さないクライミングスタイルなどから、ライノでは「殺し屋」との異名も付いています。
(まぁ背景を言うと、ライノには林さんが複数人いるので、主に区別のために「メガネ屋の方の林」と「殺し屋の方の林」と呼ばれています)

林さんは2015年4月、本人でも数えきれないくらいの日数をかけたトライの末(少なく見積もっても50日以上のトライ)塩原の「バラカ」という三/四段(発表時四段+)のルーフ課題を登りました。
ちなみに初登者の小山田大さんはそのブログでバラカをこう評しています。


見た目内容共、非常に素晴らしく今まで登った課題のトップ3に入るでしょう。間違いなく日本を代表する課題の一本


そして林さんはバラカを登った直後にそれまで勤めていた仕事を辞め、現在は自身のクライミングホールドブランド「SUNDAY CLIMBING INDUSTRY」を立ち上げ、ホールド作成の傍ら次なる標的を狙う日々を送っています。

彼の内に秘めた静かな情熱、自己をどこまでも凡庸として譲らないある種の達観したクライミング観、そしてクライミングという狂気に飲まれていった過程等々、インタビューから感じ取ってもらえれば幸いです。

後姿


まわりのすごさに劣等感があって、初めの1,2年は1人で登っていた

-インタビューを受けていただいてありがとうございます。
まず林さんの簡単なプロフィールを教えてください。

1979年生まれの36歳だね。ライノだと、キム、たむけん、たまきちゃん、ゆりちゃんとかと同い年。クライミング界空白の世代とかって呼んでるんだけど、79年生まれは有名クライマーでも外岩で特に強い人が何人かいるくらいかな。
以前はイベント関係のサラリーマンをやっていたけど、今はホールドを作ってるよ。

-クライミングを始めたきっかけはなんですか?

始めたのは7年くらい前にライノでだね。元々山登りってほどじゃないけど、奥多摩の方に簡単なハイキングに行くのとかが好きでその繋がりで始めたかな。
なんとなく家から近いからっていう理由で友達とライノに行った。ライノができてから半年くらいのときだね、多分。

-そうですよね。奇跡の会員ナンバー884(はやし)番ですもんね(笑)
比較的すぐにクライミングにはハマったんですか?

そうだね。わりとすぐにハマったかな。でもあくまで初めは山登りの技術を身につけるため、みたいな意識が強かったかも。漠然と「山登りをする人たちはみんなこういうことしてるんだろうな」みたいに思っていたから。甲斐駒岳とかに行った時とかも、ロープとかヘルメットとか被っている人をよく見かけたし「山登りが上手になって普通に色々なところ登るにはボルダリングジムでやっているようなことがみんなできるんだろう」と思っていたよ。
でもクライミング始めた当初は本当に周りがすごすぎて劣等感というか、自分なんて話にならないなってずっと感じていたね。もうジャンボと藤枝さんの力の差も全然わからないくらいだったし、4級5級を登る人たちが今で言ったら二段三段を登るくらいのクライマーのように見えてた。
そんな調子だから最初の1,2年くらいはライノではほぼ誰ともしゃべらなかったんじゃないかな。ずーっと一人で登っていたよ。まぁ今でも他のジムじゃそんな感じだけど。
だからクライミング始めて最初の1,2年は岩にもあまり行っていないね。最初に行ったのが御岳だと思うんだけど、その時「忍者返し」は落としたかな。

 

俺は何にもない。ほんと何も無い。あれだけ打ち込めば誰でも登れるよ

-林さんは指がかなり強いと思うのですが、元々指は強かったのですか?
他の人と比べて強い方だなというのはいつ気付いたのですか?

いや今でもそんなこと全然思ってないよ。
でも印象に残っている出来事が1つあるかな。クライミング始めて1,2年経ったときにライノのスタッフとか常連さんとかが、ワンフィンガーのホールドに両手中指1本でぶら下がれるかみたいなことをやってたんだよね。それで何気なくやってみたら両手なら結構簡単にぶら下がれた。で、「すごいですねー。じゃあ片手中指1本ではぶら下がれますか?」みたいになって。片手でもやってみたらぶら下がれたんだけど、片手懸垂みたいなことをしようとしたら「バキッ!」って音がして、パキっちゃったんだよね(笑)
それはもう腱を痛めたとかいうレベルじゃなくて完全に腱が切れたんじゃないかな。翌日は確か初めて恵那かどこかに行く日で、一応行ったんだけど何にも触れなかったもん。ちょっと指に力を入れるだけで激痛だったし、あんなに指を痛めたことは後にも先にもあれだけだね。
でもその時に、もしかしたら少しだけ他の人より指が強いのかもなとは思ったかな。

-そのエピソードは壮絶ですね。めっちゃ面白いですが。
少し話がそれますが、好きな岩場などはありますか?

特にどこが好きとかはあんまり無いかな。たまたま塩原に行ける機会があるからよく行っているけど。
基本的には静かなところが好きなんだよね。というか、人がいっぱいいるのが本当にダメ。だからバラカも「千」がすぐそばにあってそれが超人気課題でいつも人が多いから苦労した。知らない人がいっぱいいると全然力が出せないんだよね。人に見られていると「良いとこ見せよう」とかそういう気になっちゃうのかわかんないけど、空回りしちゃうんだよね。本当に過剰なくらい。コンペとかに出る人は応援されればされるほど力が沸く人もいるけどそれは俺にはよくわかんないね。

-「良いとこ見せよう」みたいな気持ちすごくわかります。
好きな課題のタイプやバラカ以外に思い出に残っている課題はありますか?

そんなに課題も選んだりはしないし、万遍なくやっているかな。スラブや傾斜がない岩でも高難度にもトライしているよ。でもちょっと見て難しそうな課題がやりたいというのは常にある。
バラカ以外だと、御岳の「田中君SD」も結構思い出深いね。クライミング始めて2年くらい経った時だから5年前くらいに触り始めたのかな。当時田中君はトライする人が全くいなくて苔とかもすごい生えていた。ライノの元常連の飯塚さんがトライしていた記憶はあるけど。とにかく人が誰もいない岩場だったから面白かったね。
結局登るまでに2年くらいかかったのかな。結構良い課題だよ。

-田中君、実はまだ見たことも無いんですよね。行ってみます。
好きなクライマーとかっているんですか?

好きというか、周りのクライマーはみんなだいたい良く見えるよね。なんか他人の良いところばっかり目に付くんだよ。例えば、俺より総合的には登れないクライマーがいたとしても、そのクライマーの強いところに目が行ったり「すぐ強くなるなこいつ」とか思ったり。何ていうかネガティブってわけじゃないんだけどさ、基本的には俺は何にもないなって思ってるよ。本当に何も無い。初段や二段が簡単に登れたことなんてないし、いつも全力でギリギリ登れているだけだよ。高難度が登れても「あれだけ打ち込めば誰でも登れるよ」と思うし、本当に心からまぐれだよとしか言いようがないときもある。
例えばそりゃ簡単に二段とかが登れることもたまにはあるんだけど、そうすると「こんなの誰でもできるでしょ」とか思っちゃう。まぁでもそういう性格なんだろうね。逆に今の特に若いクライマーとかは自分を大きく見せすぎちゃうところもあるしね。あれは一撃だったとかオンサイトだったとか。

 

じじいになっても一生バラカやるんだろうな

-ではいよいよ本題の1つであるバラカについて聞きます。
初めてバラカを意識したり、触ってみたりしたときのことを教えてもらえますか?

塩原に初めて行ったのはいつだか覚えてないけど、「後悔」とか千とか「Dライン」とか看板課題を一通り触ったかな。
バラカを触り始めたのは3年位前かな?千を登った後わりとすぐだね。白川さん(元ライノ常連で、バラカ、カランバ、ハイドラを落としている驚異の40代クライマー)がハイドラに取り組む少し前かな。
きっかけは白川さんに「林さん指強いからバラカ向いてますよ」って言われたことかね。その時は白川さんもバラカをまだ落としてなかったから、自分がやっている課題をなんとなく薦めてきただけかもしれないけどね。その後白川さんがハイドラに取り組みだしたらハイドラを薦められたし(笑)
それでなんとなく触ってみたんだけど、後から調べたら小山田さんも日本で3指に入る素晴らしい課題と言っているし、ネットにもほとんど動画は上がってないし、この課題は良いなと後から惹かれたね。何となく動画がたくさん上がっていると簡単なんじゃないかと思ってしまう。今でもバラカの動画はネットにはほんの少ししかないんじゃないかな。

-バラカは課題そのものとしてはどのあたりが魅力的ですか?

課題を通してムーブがたくさんあるんだよね。ルーフがあって、垂壁があって、キャンパっぽいところがあって、最後にマントルが悪い。俺がやりたいクライミングの全てが詰まっている気がした。
一手のランジ課題とかもカッコ良いのだけど、やっぱり詰まっている課題の方が好きかな。というかそもそも三段の一手モノとかは出来る気がしないけどね。まぁそう考えるとわりと長めで色々詰まっている課題はできそうだから良い課題って思っちゃうだけかもしれないけど。

-バラカはトータルでは何日くらい打ち込んだのですか?

何日行ったかは全然わからないな。登れたのは2015年の4月なんだけど、登れるかなという感じになったのは2013年の終わりだね。かなり早い段階でバラしてはいたのだけど、通して登れるかなという気になったのがそれくらい。
塩原のシーズンは、秋は9月最終週から11月最終週くらいと春に少しなんだけどシーズンは月に8回は塩原に通っていたし、オフシーズンでも月に2回は行っていたかな。雪の時期も白川さんと雪かきしたりして登ってた。夏とかも1人で通ったりしていたよ。白川さんや川崎さんと行くときは車使ってたけど、1人のときは電車とバスで行っていた。
打ち込みだして4月を2度迎えてしまって、もう温かくなってきて、「やっぱ無理だな」って思い始めた頃に登れた。最後の方は「もうこれ御岳マン(御岳で「蟹虫」をひたすら打ち込み続けた名物クライマー)みたくなるな」と「じじいになっても一生これやるんだろうな」って思ってたね。
だからそう考えると50回は余裕で通ってるのかな。まぁそんだけやれば誰でも登れるよ。

-いや、執念がすごすぎる。
どんな感じで毎回トライしていたのですか?

登れそうだなと感じる前までは、それほどの頻度では通ってなかったからムーブも忘れているところとかもあったし、各ムーブを確認してから繋げトライをしていたかな。
でも最後の方はほぼ確認もしないでいきなり本気トライをするようにしてたね。トライの仕方も色々試行錯誤した結果なのだけれど。各ムーブを全部バラしてからの方が良いのか、全く触らない方が良いのか、上部だけ一回やった方が良いのかとか。それで最終的に行きついたのが、それぞれのホールドを触るだけしてチョークを付けてトライするというやり方だったかな。結果論としてそのやり方をした時が一番高度が出ることが多い気がしてた。まぁあれだけ触ればそれぞれのムーブは覚えるよ。
それにバラカの本気トライは強度的にもヨレ的にも1日3回とかが限度だしね。それでも手前面に出てきたところの左ヒールかき込みで遠い一手出すところとかは負荷が高すぎて毎回ビッコ引いて帰って笑われたりしてたもん。結局左足はハムストリングが切れちゃったみたい。

左ヒール

 

その課題が登れる分だけ強くなれれば、それ以上は要らない。これを登って俺は終わりだ

-そこまで1つの課題を打ち込める原動力みたいなものはどこからきているのですか?

カッコ悪いからみんな言わないだけで、このくらい打ち込んでいる人はいるんじゃない?でも性格もあるかもね。俺はあんまり何に対しても飽きない性格なんだよ。終盤はバラカのオブザベとか1日の内ずっとしていたし。塩原にいなくても1日の内ほとんどバラカのことしか考えていない。例えば彼女といたとしても頭の中はバラカのことしか考えていないんだよね。「ここをこうしたら良いんじゃないか」「このホールド使えばめちゃ簡単じゃね?」とか頭の中で試行錯誤しているんだよね。で実際行ってみると全然距離感違って「結局今までと同じムーブが一番良いや」とかなる(笑)
最後の1年くらいはあんまり強くなりたいって気持ちはなかったんだよね。クライマーとして全体的に強くなりたいとかじゃなくて「その課題が登れる分だけ強くなれれば良いや」って思ってたね。田中君でもバラカでも、それが登れるだけ強くなればそれ以上は要らない。というか、それ以上強くなるなんて出来ないと思ってるしね。「これを登って俺は終わりだ」っていつも考えている。
たぶん目標設定が遠すぎるんだろうね。みんなはそれなりに頑張れば登れる課題に目標を設定しているけど、俺は全然難しすぎる三段とか四段に設定しちゃってる。それで結果的に登れたというだけだよ。

-素晴らしいクライミング観ですね。僕もそうありたいです。
細かな話ですが、バラカの核心の解説やムーブの改善方法などを教えてください。

ムーブの改善箇所はあり過ぎて全部は話せないね。まずこれといった核心は無くて、全ムーブで落ちているよ。だからほぼ全ムーブにおいて足をどう置くかみたいな改善が必要だったし、全部突き詰めて考えたかな。
完登に近づいた大きな改善で言えば、例えば最後のマントル返す直前がレストポイントで初めの頃はそこで休んでたんだけど、ガバに手に足する状態だから結構疲れるんだよね。で、そこであまり休んじゃいけないと気付いてレストを止めたらマントルが繋げても返せるようになったかな。2つのカチ持って乗り込んで返すんだけど、そのマントルだけでもたぶん3級くらいあって、あの高さでヨレて3級のマントルは結構やばいんだよね。
ムーブ強度としては2手目が一番高いのかな。1手目で遠い左手を出して、2手目で寄せて身体を反転して足を置くところがきついね。他の人にやらせてもそこが悪いってよく聞くかな。それと、そこをこなしてルーフを出るところのさっき話した足を痛めたムーブもきつい。そこが繋がって初めて多分いけるなっていう感覚が得られた。
ムーブの改善は本当に細かい足の置き場や足順で色々試しているよ。足をめっちゃ細かく送るとか、どういう順番で足を置いていくかとか。例えば1手目取ってから2手目の体勢に入るだけでも6個フットホールドを使うから一番良い順番を見つけるのは結構苦労したんだよね。チクタクみたいにするのか、クロスするのか、寄せるのか、みたいに考えると十通り以上はあると思う。夏場とかはどうせ登れないから、足順だけ延々やって考えたりしていたよ。

-やはりそこまで突き詰めないとこれほどの結果は出ないですよね。

すごく強い人は無茶を多少やっても登れるけど、俺はそこまで完璧にしないと登れないね。
最近思うのだけれど、ある課題に対して力が十分に足りている人と、本当にギリギリの人でグレードの感じ方が全然違うことってあると思うんだよね。例えばカランバとかも四段では簡単とか言われていて、実際1手1手の強度はそこまでじゃないのかもしれないけど、ギリギリの人にとっては手数も多いしすごく難しい課題だと思う。力が十分に足りていれば、多少足順とかが無理があっても登れちゃうし実際簡単に感じるんだろうけど、力がギリギリだと全てを緻密に完璧にしないと登れないんじゃないかな。ましてや初登なら四段がついても全然おかしくない課題に思える。
一方で「朱雀門」とか「ミケ」とか一手物の課題は、たぶんすごく強い人がやっても「まぁ二段かな」って感じると思うし、ギリギリくらいの俺がやっても二段って感じるんだよね。

右ヒール

 

世の中のクライミングホールドに革命を与えてやろうとか何もない。誰かに届けたいだけ

-バラカに関してありがとうございました。林さんの哲学が詰まりに詰まったお話でした。ではもう一つの本題であるホールド作成に関してもうかがいます。
ホールド作成のきっかけはなんですか?

特に強い理由は無くて、「とりあえずやってみるか」って感じで始めただけなんだよね。
バラカをやっている時は前の職場に勤めてたんだけど、正直仕事が手に付かなかった。仕事していてもバラカのことばかり考えているし。それでこの職場にいる感じじゃないなって思ってその仕事は辞めたんだよね。
それでなんとなくホールド作成をしてみようと。だから別に世の中のホールドに革命を与えてやろうとかそういうのは何もないんだよ。当然俺から見ても世の中に今既にあるホールドの方がよっぽど良く出来ているし。それと正直言うと、ホールドを作りたいって感じでもないんだよね。ホールドを作る動機はほとんどが誰かにあげたい、誰かに届けたい、っていう感じかな。
お金を稼ぐということに関しても本当に俺は無能。売る気になっていないんだよね。でも生きていく上で折り合いはつけないといけないし。まぁだから本心では、誰かにこれをあげたい、ただそれだけだね。

-非常に林さんらしいですね。
ホールド作成のこの場所はどういう繋がりで見つけたのですか。

八百屋(千駄木の萩原青果、店主がライノ常連)の倉庫の上が空いていることは元々知っていて、八百屋本人は父親に断りを入れなきゃとかでしぶっていたけど、もう半ば無理矢理な感じで「明日から上貸して」という風に使い始めたね(笑)
ホールドを作るノウハウも全くわからないから手探りで始めた。ネットで調べたりして、高木君とかと道具も揃えたりして試行錯誤しながらの作成だよ。特に俺は思いついたらどんどんやっていくような感じの性格だから、走りながら考えてるね。

SUN

部屋

-ライノでの縁は素晴らしいですね。
ホールドのコンセプトとかはあるんですか?

ホールドの方向性もコンセプトも無いよ。自分がやるから当然統一感はあるのだろうけどね。今は全体的に岩場っぽいのかな。
誰かにあげたいっていう動機でやってるから、自分で作りたいものを作っているというよりは他の人の何気ない言葉とかから着想を得てるかな。例えばノブが「指が揃わないホールドが良い」って言っていたのをきっかけにつくったホールドがこれ(貝殻シリーズ)とかだね。指がばらけるように作ってみた。

かい

他には、ユウジが「顔に見えるホールドとかふざけてるって一番怒られるヤツだよね」とか言っているのをきっかけに、ビス穴が顔に見せるレロレロシリーズとか作ったり、ハロウィンのお化けに見えるホールドを作ったり。

レロレロ

はろうぃん

ホールディングどうこうよりは遊び心的なイメージとか、どこかに行った思い出を作る感じに近いかな。金魚の博覧会に行ってその思い出を全体的に表現したりとかそういう自分の中の概念や思い出をホールドにしてみたりね。

でも芸術品ではなくてあくまでクライミングホールドとしてしか使えないといけないからそこが難しいよね。例えば、液体から発想を得たこのシリーズとかはホールドとしても何となくうまくいったのだけど、一方でバラ園に行った思い出をティアラっぽくホールドにしたものは折り合いがつかなくてボツになったね。デザインとホールディングが一致していないといけないよね。あくまでホールドだから。絵とかの芸術品なら何でもいいけどさ。

えきたい

てぃあら

-たしかにデザインとホールディングの折り合いの付け方は悩ましいですね。
他にホールド作成で難しい点などはありますか?

まぁ全体的に難しいよね。こーゆーのが作りたいというアイデアは無限にあるし、それを試行錯誤するのは苦じゃないんだけど、技術的に表現することが単純に難しい。正確に穴をあけるとか、正確な計量とかが俺はホントだめなんだよ。本当に無能。ステップを踏んで作業するとかが苦手なんだよね。
でも俺は何回失敗しても飽きないから良いと思ってる。同じ失敗して、「あ、また失敗したな」と。でもそれで良い。クライミングも同じだね。

がーでん

-では最後に今後の自身のクライミングとホールド作成について教えてください。

自分のクライミングとしては「バラッド」を登ってみたいかな。本気でやってみたのはつい最近なんだけど。バラカの1手目に合流するのに5手の合計三段くらいのムーブをこなす。初登でV14(五段)だったのが今は四段+になっている。再登者もそんなに出ていないのかな、たぶん。1日触った感じでは合流できそうだし、それほどヨレる感じではないから狙いたいね。ホールドが超悪いというよりはガバ足にフックしていく感じで、手はほとんど持っていない。フック解除がキツイけど、指はかけているだけで強く引く系じゃないし。
でもまだ登ってないからあんまり自信があるようには書いてほしくない(笑) 感覚としてはバラカが登れるかもっていうときに近いかな。
ホールド作成の方は、、、何にもないよ。才能にあふれているわけでもないし、若くもないし、造形する能力も知れているししれているし、お金周りも得意じゃないし、営業も苦手だし。でも凡才なりにやれるところまでやるよ。
クライミングもそうだけど、仕事辞めて登れるなら辞めるし、足折れても登れるなら足が折れて良い。そういう考えでやっていくよ。

さいご

以上です。
いかがでしたでしょうか。ライノローカルクライマーが登場しまくりのインタビューでしたね。
林さんの独特の劣等感というか、己の凡庸さを少し卑下しているというか、でも決してネガティブではなく根底には自信と情熱が垣間見えているというか、そういう雰囲気がうまく伝わっていたら嬉しいです。

ちなみにバラカとは「イスラム教で,預言者や聖者にアッラーが授ける超人的能力」だそうです。
林さんのことはとても大好きなので、この神に選ばれしクライマーを個人的にも応援していきたいです。

みなさん長々と読んでいただきありがとうございました。
ではでは。