Don’t think Feel.考えずに感じて登ることはできるのか
クライミングに限らないことだが、”Don’t think Feel.”つまり「考えるな感じろ」という言葉を言う人がいる。
これは元々ブルース・リーの言葉であるが、今では独り歩きして色々なところで耳にするようになっている。
僕自身、「感じるままに行動する」、「感じるままに動く」、「感じるままに登る」、というノリは理解できるし根本のところでそういう思想は嫌いではない。
しかし僕が知る限りどんな分野でも成功者は皆むちゃくちゃに考えていると思っている。
アスリートを例にとっても、誰もが思い浮かぶような超一流選手は考え抜いている人が多いはずだ。
フィーリングの人で生まれながらの天才と思われているミスターこと長嶋茂雄さんであっても、Youtubeに上がっているの王さんとの対談では彼独自にものすごく考えていることが見て取れる。(記事最後に動画あり)
もちろんクライマーも例外ではない。
こちらも文末にリンクを貼るが、以前ブログで書いたように多くのトップクライマーは感覚が鋭く、また彼ら彼女らはその感覚を言語化する能力が高い。
『Rock&Snow』で楢﨑智亜選手や緒方良行選手のインタビューをさせてもらったこともあるが、彼らも本当によく考えている。
楢﨑選手などは野性味あふれるため、クライマー界隈からは天性の感覚派のように思われているが全然違う。
彼は独自にかなり深くクライミングのことを考えている。
また僕のロクスノの連載タイトルは「僕らは考える石ころである」だ。
これは考えることが何より大切だと思っているから付けたのである。
では一体Don’t think Feelとはなんなのだろうか。
考えないで感じることは何が良いのか。
感じているだけで僕らは上手く登れるようになるのか、強くなるのか。
Don’t think Feelを解説した動画
このようにDon’t think Feelという言葉にモヤモヤを感じながら何年も生きてきたわけだが、先日以下の動画を見て全てがスッキリした。
<J LABのニシムラさんの動画 >
J LABのニシムラさんという、受験動画などを主にアップしている方で考え方が面白いのでたまに見ているのだが、上の動画は前半部分でブルース・リーのDon’t think Feelの真意を解説している。(動画全体としての主張はまた別なのだが)
彼は話し方が独特だし、少しひねくれているので、見る人によっては素直に受け入れられないかもしれないが、非常に鋭い人だ。
そしてこれを見たときに僕の頭にビビビッと電撃が走りすべてが繋がった気がした。
こちらも最後に実際のブルースの動画も貼っておくので是非セットで見てほしいが、動画の中身を要約すると
・「Don’t think Feel 考えるな感じろ」とは考えなくて良いという意味ではなく、むしろ逆で「いざというときに感覚だけで動けるように、普段考えまくってしっかり準備をしておけ」という意味である
・”We need emotional content”(五感を研ぎ澄ませ)と言っているときにもブルースは自分の頭を指していることからわかるように、感じることと頭を切り離して論じていないし、考えることを放棄しているわけではない
・そもそもブルースは格闘理論を考え抜いてジークンドーを作り上げた人であり、感覚でスポーツをやるタイプではない
・ブルースは「指で月をさすとき、指に囚われてはいけない。月を見なければいけない」とたとえを持ち出しているように、Don’t think Feelの意味は、ここぞという本番の瞬間に、自意識である指ではなく、真実である月を見ろと言っているのである
もうこれで僕が言いたいことはほぼ全て言い切っている。
一応以下僕なりにクライミングをベースとして話を進めるが、これはほとんど全ての物事に当てはまるはずだ。
Don’t think Feelのクライミングとは
もしクライミングなどで日頃の練習から「あれこれ考えずに感じるままに動け!」と言っている人がいたら、それはブルースのDon’t think Feelの真意とは全然違うのだ。
日頃から考えない姿勢は思考の放棄であり、更には人間の放棄とも言えるだろう。
とにかく普段はクライミングだってなんだって基本は考え抜かないといけない。
「自分の体がどう動いているのか」「どんな持ち方が最適なのか」「どんな飛び出し方でポジションに入るのか」「どうやったら強くなるのか」「僕らはクライミングで何がしたいのか」etc…。
しかし、ここぞいう本番はFeel、つまり感じないといけない。
そういう大切な瞬間にまで考えて反応するような人は頭でっかちすぎる。
コンペなら大一番の勝負がかかったフルパワーを出し切らないといけないとき、岩なら練習を積み重ねてきた核心のとき、もしくはオンサイトトライで思わぬ動きがでてきてそれをどうにか切り抜けないといけないとき。
そんなときに論理を追ってゆっくりと考えているのでは間に合わないのだ。
指(自分の体や自意識)に囚われないで、月(課題、岩)の真のありよう見抜かないといけない。
でもその境地に達するためには、日頃からthink,think,thinkを重ねないとだめなのだ。
その思考の連続を積み重ねた先が、ここぞの場面のFeelにつながるとブルースは言っている。
<せっかくなので表で整理>
自分自身の経験
きっとクライマーなら、上にあげたようなクリティカルな本番という経験を誰しもがしたことがあって、いくつかそのような場面が思い浮かぶだろう。
僕も何度かある。
例えばヨセミテのMidnight lightning(ミッドナイトライトニング)を登った時のこと。
僕は1つ目の核心であるライトニングホールドを取るのに苦戦したが、それが取れたそのトライで2つ目の核心であるマントルまでこなして登ることができた。
そしてライトニングホールドを取ってからマントルを返すまでの一連の動作では自分でも驚くくらい自然と体が岩とフィットしてオートマチックに身体が動いた。
この時、頭ではほぼ考えていなかったように思えるので、まさにFeelでムーブを起こせたのだ。
でも実際は登る前に、あそこに行ったらどういう風に足を置いて、マントル体勢に入って、左手をどう返して、右足にどう荷重していくか、とあらかじめすごい考えてはいた。
そして何よりそれまで何年も自分なりに考えて練習してきたからこそあそこでFeelで動けたはずなのだ。
終わりに
何気ない些細なことかもしれないし、もしかすると人によっては「そんなの当たり前だよ」という内容かもしれないが、自身にとってはとても意味がある気づきであり、頭の中が整理された。
僕が日ごろから思い主張してきた「考える」ことの大切さと、Don’t think Feelという一見相反するような言葉が、実は表裏一体というか、同じことを意味していたのだ。
ここ一番のFeelのために明日からもthinkを積み重ねよう。
参考動画、ブログ、インタビューなど
<ブルース・リーのDon’t think Feelの動画>
<長嶋さんと王さんのバッティング論>
<リード日本選手権2018で触れた、流クライマーの考え>
<ミッドナイトライトニング>
<『Rock&Snow 074』の楢﨑選手インタビュー>
<『Rock&Snow 079』の緒方選手インタビュー>
-
前の記事
国内最強男子ボルダラーは誰か~過去のボルダリングジャパンカップ男子分析~ 2019.04.20
-
次の記事
国内最強”女子”ボルダラーは誰か~過去のBJC女子分析~ 2019.04.26