2018年7月~9月に読んで面白かった本
3ヶ月に1度の面白かった本シリーズ。
ただ自分自身、日に日に読書をする習慣が失われている気がしています。
クライミングへの熱中とかスマホの登場とかもあって、よっぽど興味を惹かれる本でないと腰を据えてページを追うのがおっくうになってきました。
でも色んな分野をインプットすることは大切なのである程度は読み続けたいですね。
AI vs. 教科書が読めない子どもたち
著者:新井紀子
ジャンル:教育・人工知能
ネットなどでも大分話題になっていましたが、今年読んだ中で最も考えさせられた本。
この1冊だけでブログ記事にできるほどたくさん思うところがあります。
著者の新井さんは数学を専門とする教授で、2011年からの人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」のプロジェクトディレクタを務めました。
この本は大きく1部と2部にわかれていて、1部では上記の”東ロボくん”プロジェクトを題材に
・AI、人工知能とは何か
・その仕組みの解説
・AI、人工知能の限界
を丁寧に展開してくれていて、この1部だけでもかなりためになります。
しかし真骨頂はプロジェクトのために実施した全国の中学生~大学生を対象におこなった学力調査から明らかになった現代の子供たちの読解力を分析している第2部。
著者たちは子供たちの学力、とりわけ読解力が想定以上に低下していることを発見し危機感を覚えます。
例えば調査で使ったのはこんな問題
次の文を読みなさい
仏教は東南アジア、東アジアに、キリスト教はヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニアに、イスラム教は北アフリカ、西アジア、中央アジア、東南アジアにおもに広がっている。
この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。
オセアニアに広がっているのは( )である。
①ヒンドゥー教 ②キリスト教 ③イスラム教 ④仏教
もちろん正解は②キリスト教ですが、なんと正答率は
中学生で62%
高校生で72%
しかないのです。
しかもいくつかの方法で真面目に回答していない生徒のデータをはじいた上で正答率はきちんと算出されています。
こういった結果を受けて著者たちはこの読解力低下のどこに原因があるのか、どうやったら改善できるのかを模索していきます。
他にもたくさん例題と正答率が載っていたりして面白いのですが、おそらく
「え、こんな簡単なものがわからないの!?」という反応をする人もいれば
「正直、これ難しくない?」と反応する人もいると思います。
個人的には上記の問題を含めて、正答率の低さはそこまで驚くものではなかったです。
日頃の経験から、こんなものだろうな、と感じました。
率直に言うと、クライミングジムで接客業をやっていると色々な人と出会うので当初は驚きの連続でした。
・ごくごく平易な文章を読まない、読めない
・今さっき言ったことが伝わっていない、忘れられている
・2つ以上の論理が追えない
・最低限度の知識を知らない(例えば、九九、都道府県、東西南北、など)
という人は表面化しているにせよ隠しているにせよかなりの数いるというのが僕の理解です。
欧米のエリートに対抗するような教育対策だけでなく、ごくごく基本的な事柄を誰しもが理解できるようになるような底上げ的な教育対策をしてあげないと本当に未来が悲惨になる人が数多く生まれてしまう気がしています。
貧乏人の経済学――もういちど貧困問題を根っこから考える
著者:アビジット・V・バナジー、エステル・デュフロ
訳者:山形 浩生
ジャンル:経済学
色々な国の貧乏な人の経済生活、思考方法、行動パターンを理解し、どうやったら貧困問題を解決できるかを考えた本。
多くの実験に基づいて、例を挙げて話が進むので非常に説得力がある良書です。
例えば我々が貧困問題という言葉を聞くと真っ先に思い浮かぶのは「飢餓」です。
そして実際にインドネシア、アフリカ、インドなどで貧困に陥っている人に聞いても「食料の欠如が問題だ」と言います。
しかし実態を調べてみると、以下の様になっているのです。
・1日99セント以下で暮らす極貧層は全消費額の内36%~79%にしか食べ物に使わない(もし餓死寸前なら100%食料に使うはず)
・しかも残金も必需品に使っているわけでは無く、アルコール、タバコ、お祭りなどに使っていて、それをやめればあと3割は食費が増やせる
・補助金を与えても金額あたりのカロリー量の高い「雑穀」などは買わず、むしろ高価なエビや肉をたくさん買い全体としてカロリー摂取量は増加せず、さらに栄養バランスについても改善が見られなかった
他にも、アフリカの子供の5人に1人の死因となっている下痢を防ぐことのできる「塩素」、マラリアを予防できる「蚊帳」、は費用は安く絶大な効果があるので将来的な収入を増やし支出を減らすために、そして生き延びるために絶対に買うべきです。
しかし彼らは買わないのです。
そして病気になってから医者にかかるのですが、こちらも無料の公共の医師にかからず、民間の無免許の医師にかかり殺菌されていない注射をされてしまいさらに症状がひどくなったり、悪魔祓いを行うような伝統的祈祷師を頼ったりするのです。
ここにも「信仰」による根深い問題(例えば直接的に血液に薬を送り込むことが重要と思い込んでいる)や、「小さなコストを先送りにし、将来の自分にコストを負担させる」という人間心理が潜んでいることが垣間見えます。
僕はこれを読んで非常に腑に落ちたというか、どこの国でも同じなんだなと妙に納得できました。
身の回りに「お金がない―!」といつも言っているのに、とても無駄な消費をしている人はたくさんいますよね。
2番目の例をとっても、先進国でもワクチンを悪だと思い込んで予防接種を受けない人、健康診断・人間ドッグ・がん検診などのコストを今払うことを先延ばしにしている人もたくさんいます。
人間の考え方なんてどこへいっても、どんな生活水準でもそうそう変わらないのですよね。
MIND OVER MONEY 193の心理研究でわかったお金に支配されない13の真実
著者:クラウディア・ハモンド
訳者:木尾糸己
ジャンル:心理学、倫理学
193の心理研究をもとに
・お金が今日わたしたちにどう関わっているか
・私たちの思考や、感情や、行動をどう左右するか
・そしてお金が足りない時ほど、お金に振り回されるのはなぜか
などを明らかにしていきます。
こちらも実験例がたくさん載っていて気軽にさくさく読めるのでおすすめ。
一番印象に残った冒頭のエピソードを書いておきますね。
1994年、イギリスのバンドThe KLFのメンバー2人がスコットランド付近の島で100万ポンドの札束を燃やしその映像を流しました。
彼らとしてはアートとしてのパフォーマンスでしたが、その行動に
「お金がいらないなら、なぜ慈善団体に寄付しない?」などと世間は非難を浴びせました。
しかし2人は
「あの金は使い途があったかもしれない。でもそれ以上に燃やしたいと思った」
「ぼくたちは実際には何も破壊していない。失われた物と言えば一山の紙だけだ。世の中のパンやらリンゴやらが失われたわけではない」
と言います。
この話を聞いてみなさんはどう思いましたか?
お金をどう見ているかでこの行為に対して人それぞれ考え方が出て面白いと思いますね。
人生は運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている
著者:ふろむだ
ジャンル:ビジネス、経済学、心理学、教訓
これはタイトル勝ちの本ですね。
内容は複数企業を創業し上場経験もある人気ブロガーのふろむださんが、様々な心理学をベースに「勘違いさせる力」という能力や資産がこの世界を生き抜くのに如何に強力な武器となるかを力説する本。
わかりやすさを優先させたり、読者を煽るためもあってか、ところどころ「それはちょっと言い過ぎ」「簡略化しすぎ」と思うところもありますが、内容は概ね納得や気づきの連続でキャッチ―で現代的な本としてよくできています。
特にキーワードとなるのは「錯覚資産」と著者が呼ぶ、「成果をきちんとアピールした結果、まわりに認められた個人のブランド化された資産」。
単に成果を出すだけでなく、錯覚資産を積み上げていくことがどんな分野でも良いループを生むと説いています。
チャートにするとこんな感じ。
たしかにクライミングの世界でも言えますよね。
選手でも、岩場クライマーでも、コーチやトレーナーでも、ブロガーでもなんでも、実力や成果も大事だけれどきちんと対外的にアピールすることが次につながっていく場面と言うのはあると思います。
クライマーの場合は誰かに評価されるというよりは純粋な実力勝負の世界に見えるのだけれど、きちんとアピールしたらスポンサーがついたり、より良い環境に巡り合えることが起きたりすることもあるので当てはまる部分もありますね。
勇者たち
著者:浅野いにお
ジャンル:漫画、ファンタジー、風刺
『ソラニン』『おやすみプンプン』の浅野いにおさんが、「裏サンデー」とそのアプリ「マンガワン」で8話だけ連載していた短編漫画。
最初の6話くらいの構成がまず面白いですね。
少しバラしてしまうとループものになっていて、初めはギャグっぽくて笑える感じなのだけれど途中から「ん?このままいくと、、、?」と読者が気づき始める。
そしてラスト2話で畳みかける展開。
テーマとしては現代のマスメディアやSNSに潜む個々人の暴力的な悪の感情、正義と悪の二項対立に対する風刺、といったところでしょうか。
村上春樹の『1Q84』のリトルピープルとかも思い出しますね。
さくっと読めるし絵も可愛いので是非。
リンクはこちら。
たぶん裏サンデーだと最新話だけとかで、マンガワンだと全話読めるのかな?
レインマン
著者:星野之宣
ジャンル:漫画、科学、SF
主人公の雨宮瀑(たき)はあることから自分に脳が無いことを知ります。
それに伴い自身の超能力にも目覚め、自分のルーツや歴史の秘密そして世界の構造を明らかにしていく物語。
多世界解釈や量子自殺などの量子論、「0.5秒の無意識」など脳にまつわる諸問題、形態共鳴、こういった科学的にも難しいテーマにチャレンジしている点が理系心をくすぐります。
正直ところどころSFやオカルトが交ざっていて、ちょっとその表現はどうなんだろうか、と思うところもありますが漫画としてはよくできています。
上記のテーマに興味があれば引き込まれること間違いなし。
以上です!
10月11月はほぼ岩場にいるので、どこまで読めるか、、、。
ではでは。
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