クライミングのルールの考察5~ボーナスを保持するとは何なのか~

クライミングのルールの考察5~ボーナスを保持するとは何なのか~

ルールの考察シリーズに戻ります。
最近iPhone 6sにkindleアプリを入れたので、IFSC ルール等をpdfで入れて隙間時間に読み放題です。笑
今回はボルダリングの課題におけるボーナスの保持に関しての記事です。
どのような場合にボーナスを保持したと認められるのか、あるいは認められないのかを整理します。

※追記※
2019年現在はボーナスではなく、ゾーンと呼ばれています。
※追記終わり※

 

ボーナスとは

まず基本的なルールを知らない人に「ボーナス」の説明をします。
ボルダリングのコンペでは通常、課題の「完登数」をまず競います。
それが同数であれば「完登にかかったアテンプト数」(トライ回数)の少なさを競います。

※追記※
2019年現在では、「完登にかかったアテンプト数」よりも「獲得したゾーン数」が優先されます。
※追記終わり※

しかしこれだけでは同着が多数出てしまう可能性があるため、課題の中の差が付きそうなポイントに「ボーナス」ホールドを設け、「ボーナス数」や「ボーナスにかかったアテンプト数」も順位決定に使用することが多いです。
ボーナスは通常1つか2つ設定されます。

 

問題意識のきっかけ

僕は立場上ボルダリングのコンペに選手側でも運営側のジャッジとしても参加しますが、草コンペレベルだとボーナスを与える基準はコンペ毎ジャッジ毎でかなり違う気がします。
「ホールドのきちんと保持できる場所を持ったらボーナス」「ホールドでムーブを起こしたらボーナス」「静止した姿勢でホールドの一部を少しでも触ればボーナス」等々、どれが一体正しいのかかなり曖昧でありますし、コンペによっては「両手で持ったらボーナス」などとされていることもあります。
ジャッジ間できちんと統一すれば公平性は保てるものの、やはりIFSCルールで公式にどのように決まっているのかは知る必要があると思い今回しっかり調べてみようと思いました。

 

「保持」の文面での定義

まずは単純にIFSC Rules 2015にどう書いてあるか見てみます。

 

7.4.2

On each boulder, a bonus point will be awarded if the competitor controls the Bonus Hold, marked as described in Article 7.2.8.

(中略)

The Bonus Hold shall be considered as “controlled” where a competitor has made use of the hold to achieve a stable or controlled position.

 

JFAの日本語訳版ではこう書いてあります。

 

7.4.2
各ボルダーにおいて、選手が 7.2.8 で述べたボーナスホールドを保持するとボーナスポイントが与えられる。

(中略)

ボーナスホールドは選手がそのホールドを安定した、あるいは制御された体勢を獲得するために使用したときに保持したと見なされる。

 

ほぼそのまま繰り返す形になりますが整理しますと

・ボーナスはボーナスホールドを保持(control)した時に与えられる
・保持とは以下の2つのどちらかが成された状態を指す
 1. make use of the hold to achieve a stable position=安定した体勢を獲得するためにボーナスホールドを使用
 2. made use of the hold to achieve a controlled position=制御された体勢を獲得するためにボーナスホールドを使用

しかしこのままでは一体どのような状態が「安定した体勢」もしくは「制御された体勢」なのかがイマイチぴんときません。

JFAの日本語訳版では注釈に
・安定した状態はホールドを保持して静止した状態
・制御された状態はムーブを続行している状態
と書いていますが、それでも具体的にはよくわかりません。

 

「安定した体勢」「制御された体勢」とは具体的に何か

ボーナスの保持に関するより詳細な説明はIFSC Judging Manual 2014に”Bonus/No Bonus in Boulder”という動画のリンクと共に記述されています。

おそらくは動画を見るのが直感的にわかり易いと思いますので、興味がある方は是非見てみてください。
(IFSCの公式動画なのに現時点で179回しか再生されていない、、、)

<Bonus/No Bonus in Boulder>

動画では3つほど例が登場します。
いずれの例でも赤いテープのついた三角ハリボテがボーナスホールドです。

・「安定した体勢」の基準
動画に明記されているわけでは無いですが、最初の2例は「安定した体勢(a stable position)」を取ったか否かでボーナスが認められるかどうかが分かれた例だと思います。

例1)
No Bonus
no bonus 1

Bonus
bonus 1

No Bonusの方ではボーナスホールドの一部を触っただけですので、ボーナスが与えられていません
Bonusの方の様にボーナスホールドに完全に体重を預けた時点でボーナスが認められています。

例2)

No Bonus
no bonus 2

Bonus
bonus 2

2つ目の例は静止画だとわかりづらいのですが、
No Bonusの方ではボーナスホールドの明らかに持てる面を触っていますがしっかりと持ったわけではなくタッチしただけですので、”no bonus, but only touching it(触っただけ)”ということでボーナスは認められていません

Bonusの方ではボーナスホールドだけに体重を預けたわけではありませんが、ボーナスホールドの明らかに持てる面を次のムーブを起こせるほどに体重を預けた段階でボーナスが与えられています

以上のことから「安定した体勢」とは
「ボーナスホールドの持てる箇所に次のムーブを起こせる程度に体重を預けている体勢」と解釈することができるのではないでしょうか。

・「制御された体勢」の基準
ではボーナスホールドの持てる箇所に体重を預けなければ、ボーナスは認められないのでしょうか。
実はそんなことはないということが3つ目の例でわかります。
この例は「制御された体勢(a controlled position)」を取ったことでボーナスが与えられたケースです。

例3)
No Bonus
no bonus 3

Bonus
bonus 3

この例も静止画だと非常にわかりづらいので是非動画を見てほしいのですが、Bonusの方ではボーナスホールドの持てる面に体重を預けていないにも関わらずボーナスが認められています。
実はBonusの方ではボーナスホールドを右手で触った状態で左手を微妙に動かし、足位置も少し変えています。
解説でも
“Bonus now because she has adjusted her left hand and began to move her foot(もう片方の手の位置を調整し足も動かしたからボーナス)”
とされています。

以上のことから「制御された体勢」とは
「ボーナスホールドを少しでも触り、他の手足を動かせる程度に身体の自由が効いた体勢」と解釈することができるのではないでしょうか。

 

まとめ

まとめますと、ボーナスホールドの保持が認められボーナスが与えられるのは以下の場合だと言えます。
「ボーナスホールドの持てる箇所に次のムーブを起こせる程度に体重を預けている体勢(=安定した体勢)を取っているか、ボーナスホールドを少しでも触り他の手足を動かせる程度に身体の自由が効いた体勢(=制御された体勢)を取っている」

ただルールブックの文面と同じようにこう書きましたが、おそらく
「安定した体勢」は「制御された体勢」に含まれると見なして良いため、後者だけをルールに書けば良い気がしますけどね。
(つまり、「安定しているが制御されていない体勢」というのはおそらく無いため、「制御された体勢」だけを条件にすれば良いのではないかということ)

 

補足事項

最後にボーナスにまつわるエトセトラをいくつか書きます。

・疑わしきはボーナス
自分がジャッジをしている際にボーナス付与の判断に迷ったときはJudging Manualに書いてあることが一つの指針となります。

 

If it is not clear whether or not the competitor did use the bonus hold to achieve a stable or controlled position, then the bonus should be given. i.e. the competitor has the benefit of doubt.


意訳すると、
「選手がボーナスホールドを保持したかどうかが明確でない場合は、ボーナスを与えるべきだ。疑わしき場合は選手に有利な判断をすべき」
ということです。
疑わしきは罰せずの精神ですね。

・ボーナスを設定すべき場所
自分がルートセッターをする際にどこにボーナスを配置するかが悩ましい場合も、JFAのIFSC ルールを読む(2015 年版) に一つの参考になることが書いてあります。

 

ボーナスポイントは可能な限り、保持かタッチかの判定が微妙になるようなホールドは、避けるべきです。
そのホールドを保持するのがそもそも難しいホールドでは、保持できたかどうかの判定が難しくなります。
そうした場合には、そのホールドを過ぎた次のホールドを指定すべきです。
例えばランジやデッドポイントでとらえるホールドで、キャッチの時に身体が振られて止められるか、そのまま飛ばされてしまうかがそのムーブのポイントになる場合は、そのホールドではなく、その次のホールドをボーナスポイントに指定すべきです。

 

つまりそもそも保持の判断が難しくなりそうなホールドは初めからボーナスに設定しない方が良いよ、ということです。
確かにその通りですね。
特に草コンペでは経験の浅いお客さんなどがジャッジをすることもあると思いますのでなおさら意識すべき点だと思います。

・ボーナスを保持しなくても完登すればボーナス
こちらはよく知られているとは思いますが、ボーナスホールドを保持しなくても完登すれば当然ボーナスが与えられます。
ただし、ボーナスホールドを保持せずにボーナスホールドよりも高度を上げても完登しなければボーナスは認められません。

・公式にはボーナスは1つ
草コンペなどではB1,B2などと1つの課題で2つのボーナスホールドが登場することがあります。
しかしIFSCルールでは基本的にボーナスホールドは1課題につき1つです。

 

終わりに

こんな感じですね。
自分が草コンペのジャッジをするときは「ボーナスホールドの一部を少しでも触って静止すればボーナス」くらいにしていたのですが、それだと公式には甘すぎる基準みたいですね。
まぁ大会内で統一されていれば良いとは思いますけどね。

ではでは。