加須WCの所感と、クライミングのルールの考察7~デマケーションを考える~

加須WCの所感と、クライミングのルールの考察7~デマケーションを考える~

先日2016年4月23,24日(土日)に埼玉の加須でボルダリングワールドカップが開催されました。
男子で優勝したのはロシアのルスタン・ゲルマノフ選手で、女子はショウナ・コクシー選手。
男子は本当にどの選手が優勝するかわからない群雄割拠の時代という印象。
女子はショウナ選手が圧倒的な力を見せつけ、昨シーズンから持ちこし3連勝。
長らく2強時代が続いた野口・アンナ両選手についに追いついたのではないかと予感させます。

さて、自分はというと、予選でYoutube向けの実況解説をさせていただきました。
今回は「非常に」を発する回数が少なくなった分、「やはり」と「おそらく」を多用していますね、、、。
それと、直前にダッシュさんと「(単に用語を統一するために)外国人選手は呼び捨てで、日本人選手は”○○選手”みたいに呼びますか」と打ち合わせていたのに、僕は全く守っていなくてダッシュさんに申し訳なかったです。笑

あと自分で一番気になったのは、特に男子予選で「保持力」という半ばバズワードとも言えるものを使いすぎました。
クライミングへの理解レベルが及んでいない際に、「保持力」で説明を終わらせることは簡単です。
一体その選手がなぜホールドを持てているのかということを、もっとクライミングを勉強して考えないといけないですね。

男子予選

女子予選

さて、ワールドカップの振り返りはこのくらいにして、今回の記事はワールドカップで話題になった「デマケーション」に関して少し考えてみたいと思います。


デマケーションとは

デマケーションとはクライミング競技において(通常)黒いテープで分離されたエリアを指し、使用した場合アテンプトが終了となってしまう部分を指します。
例えばこのような場合↓右壁は使用不可能ということですね。(Innsbruck 2014 – Boulder – Semi-finalsより引用)
変換 ~ デマケーション01

クライマーのムーブを制限したい時や、隣の課題との分離を図りたい時などに使用することが多いです。

英語ではdemarcationで「境界、区分、分離」などの意味です。

話題になったシーン

次に今回のワールドカップで話題になったシーンを見てみましょう。
セミファイナルの男子第3課題のショーン・マッコール選手のトライです。
(2時間3分14秒くらいが1トライ目のシーン。その後2トライ目もあり)

おそらく以下の様な流れだと思われます
(下に載せているファイナル前の動画でショーン選手自身が説明していますが、流暢過ぎて僕のリスニング力ではきちんとは聞き取れていないです。笑
聞き取れる方に細部を伺いたいです。)

1トライ目のゴール取りで黒テープを超えて横の壁のデマケーションにスメアリングしたと判定されアテンプト中止となる
→ショーン選手がジャッジにデマケーションを確認する
→「黒テープが貼られている箇所から”水平方向”に向こう側」がデマケーションだと説明を受ける
→2トライ目でデマケーションギリギリの箇所に再びスメアリングするも、完登と見なされる
→その後SNS等で、「2トライ目でもデマケーションを踏んでいた」「そもそも黒テープの引き方が悪いのでは」などと話題に
(FaceBookページの”Routesetters Anonymous”などで詳細議論が交わされています)

ショーン選手自身による説明

デマケーションに関するルール

デマケーションに関するルールを少し詳しく見てみましょう。
IFSC Rule 2016にはアテンプトの中止条件としてこう書かれています。

Uses any part of the wall, holds or features demarcated using continuous and clearly identifiable black tape

JFAによる日本語訳では

黒の連続的なテープで限定が明示された壁の一部分、ホールド、はりぼてを使用した

となっています。
黒テープは「連続的で明示的(continuous and clearly identifiable)」に引かれるということだそうですが、この言葉はかなり曖昧です。
それ故に、黒テープの引き方及び解釈の仕方が色々と生じているのではないかと感じています。
Routesetters Anonymousなどでは「今回の黒テープの引き方が悪い」という意見も出ていますが、このように壁の途中で黒テープが途切れる引き方はこれまでのワールドカップでも多用されているため、特段今回の引き方が悪いと責めることはできないと個人的には思います。

これまでのワールドカップで黒テープが途切れている例↓(Toronto 2015 – Bouldering – Semi-Finalsより引用)
デマケーション02

黒テープが途切れている場合の解釈

とは言え、やはりこの「黒テープが途中で途切れている場合」、デマケーションの解釈が非常にやっかいになります。
今回ショーン選手が説明を受けたように、直感に頼った解釈をすれば「黒テープが貼られている箇所から”水平方向”に向こう側」がデマケーションと感じると思います。

スライド1

しかし別にルールには「水平(horizontal)」などという言葉は書いていないのです。(おそらく。もしどこかに厳密に定義されていれば教えてください)
例えばクライマーが屁理屈をこねて、「黒テープを実質的に跨いでいなければ良いでしょ?」などと言い出したら、それが間違っているとすることができるのでしょうか?

スライド2

更には今回の加須ワールドカップの男子セミファイナルではこのように↓L字型に黒テープが引かれている例もありました。(画面中央)

デマケーション03

水平方向・垂直方向的な解釈をすると、以下の様にデマケーションのラインが設定されますが、だとすると左の選手が出られなくなってしまいます。

スライド3

この場合は選手毎にデマケーションのラインを変えるということなのでしょうか。
この問題、重箱の隅を突っつくようですがとっても解釈が難しいのです。

提案

ではどうすれば良いのかというと、やはりルールに「途中で黒テープが途切れるのは無し」という旨を明記した方が良いと思います。

例えば、以下の様にするとかですかね。
「黒テープは以下のどちらかの引き方をしなくてはならない
・黒テープ自体で囲いが完結していて、端が無い状態
・黒テープの端が、地面または壁の末端についている状態」

たぶんこのように明記していないのは、黒テープの引く範囲を広げ過ぎて、クライマーの動きを必要以上に制限してしまうことがあるからなのかもしれませんが。

例えば、2015年のトロント大会の女子決勝1課題目では、デマケーションが不要と思われる場所に存在したためジュリアン選手を除く全ての選手がデマケーションへのスメアリングによってアテンプトを中止されています。

ただそこは課題を作る段階で調整できると思うので、黒テープの引き方に関しては上記のように明確なルールを設けた方が良いと思います。

終わりに

絵&動画引用連発で疲れましたがこんな感じです。
今大会は解説という目で見ていたせいか他にもモヤモヤとしたルールがいくつかあったので、そのあたりももし余裕があればいつか触れたいと思います。

では最後に、2015年のハイアン大会で野口選手が見せてくれた素晴らしい技を紹介して終わります。
デマケーションでなければ隣の課題で設定されたホールドを使っても構わないのです!
ではでは