小川山でスーパーイムジンを登った

小川山でスーパーイムジンを登った

小川山のスーパークラシック課題である「スーパーイムジン」(5.12 b)を登ることができた。

スーパーイムジンの歴史的な背景や、完登までの自分のスタイルの葛藤などについて少し書いてみようと思う。

スーパーイムジンとは

スーパーイムジンは小川山の代表的なフィンガークラック課題である「イムジン河」(5.11c/d)をダイレクトフィニッシュするライン。

イムジン河を終えた後にボルトが1本だけ登場するがそれ以外はナチュラルプロテクションを使う必要のある課題。

初登者は池田功。

1984年8月に完登され、当時の日本最高グレードである5.12cが付けられた。

(現在は5.12b/cや5.12bなどとグレーディングされることが多い)

その後来日したイギリスのジェリー・モファットがフラッシュしたことで、当時の日本と海外のクライミングレベルの差が浮き彫りになったことでも有名なルート。

興味を持ったきっかけ

今年の6月からトラッドルートを始めて、「カサブランカ」「ジャックと豆の木」「クレイジージャム」「イムジン河」と小川山のクラシック課題を順を追うように登ってきた。

そんな中で過去のロクスノや杉野さんのサイトである魅惑のトラッドでの紹介文が一際目に付いたのがこのスーパーイムジンだった。

私的には小川山で間違いなくトップ3に入る好ルートである。
こう書いている今も、その持ちどころのない乾いたホールドの感触が蘇り、またそこに身を置きたくなる。
-Rock&Snow 048より-

イムジン河のダイレクトフィニッシュ。
池田功不朽の名作ここにあり。
クライマーを自称するならこれは登っておかねばなるまい
-魅惑のトラッドより-

お会いしたことは無いが、そのクライミングに対する姿勢や明晰だけれど感情がほとばしる文章から尊敬しているクライマーの一人である杉野さん。
彼がここまで書いているならば登らないわけにはいかない。
そう思って、イムジン河を終えた僕はすぐさまスーパーイムジンに取り掛かった。

スタイルの葛藤

スーパーイムジンのトライ1日目はイムジン河パートは問題なく再登できたものの、やはり最後のスーパーイムジンパートで大苦戦。
自分のカッコ悪さに嫌気がさしながらもテンションとハングドッグの連発でなんとか登り終えた。

しかしこの日を終えた時点でスタイル上の葛藤が2点あった。

最初で最後のボルトを使用するか

上記でも書いたように、スーパーイムジンパートには最初で最後のボルトが1つだけ登場する。

このボルトに対して杉野さんはこんな文章を魅惑のトラッドで記している。

ラストは最初で最後のボルトによるフェイスムーヴとなるが、ボルト無視でその下のアンダーフレークにカムを固めれば、より楽しめること間違いなし。

つまりこのボルトは使用せずに、オールナチュプロのルートとしてもスーパーイムジンは登れるしその方が充実すると言っているのだ。

このことを知っていたので僕も実際に取りつくまでは「できることならボルトを使用せずに自分でカムをきめよう」などと思っていた。

しかし、実際にボルト後のパートをやってみると本当に難しい。

そして万が一マントル付近で落ちたら足元遥か下のプロテクション頼りで落下をせざるを得ない。

それが強固に打たれたボルトならまだしも、プロテクションセット技術が未熟な自分がセットしたカムであった場合はムーブを繰り出すメンタルへの影響は計り知れない。

というか今の自分の実力では怖くて進めないだろう。

結局、このボルトに関しては初登時の池田さんも使用するスタイルで登っているわけなので、ありがたく使用して登ることを決めた。

(このボルトにまつわる経緯などは書き出すと長くなるので省略しますが、初登時と同じ位置だが後から強固なボルトに打ちかえられている)

イムジン河の最終ガバをどこまで使って良いのか

イムジン河は最後に「肩」と呼ばれる大きな棚ガバを右にトラバースしマントルを返して終了点にクリップする。

(写真の右のカンテで肩の様に平らになっているパート)

スーパーイムジンはその最終ガバパートに入るところで直上してダイレクトに岩頭に登る。

この接続部分でその気になれば一度肩を右に巻いてマントルを返してしまえば両手を離してレストすることも可能である。

逆に自分に厳しくなればこの肩を一切使わないで登ることもできる。

スーパーイムジンに触った初日からこのこともずっと頭の中でモヤモヤしていた。

過去の『岩と雪』やウェブを調べた限りは、ガバを右にトラバースしてレストしギャラリーから文句が出たけど何食わぬ顔をして登ったという話もあれば「Live in Japan」の平山ユージさんのようにガバを手で使わないで登ってしまう人もいる。

このあたりのモヤモヤは(僕の推測だけれど)池田さんも何かしらは感じているはずで、『岩と雪124号』でこう述べている

ラインとしてはイムジン河の付け足しみたいなイメージがあって、多少引っかかる。

イムジン河のほうが無理のないルートだと思う。

そして池田さんが初登時にどうしたのかは結局のところよくわからない。

ただルート中にあるガバを全く使用しないというのはそれはそれでナンセンスであるし、冷静に自分の実力と照らし合わせるとこのガバを手で使わないで登ることは可能かもしれないがその上部でのレストを考えると足でも使わないで登るというのは相当困難に感じられた。

そこで僕は妥協点として

イムジン河最終ガバは使うがそこで(右にトラバースしないとしても)レストはせず、その上部でレストをする

ということで自分の中で納得させることとした。

完登動画

色々とスタイル上の妥協点もあったが、イムジン河に2日、スーパーイムジンに更に3日の計5日で登ることができた。

妻のむっちゃんのビレイと、一緒に行ったメイちゃんの応援で今の自分の限界の力がでたと思う。

歴史的にも意味があり、更に別格の美しさを誇るこのルートを登ることができたことは本当に嬉しい。

今後の目標

さて、今後はどうしようか。

とりあえず「バナナクラック」と「蜘蛛の糸」はマストだとして、ハードクラシックコレクションをコンプリートするならば「流れ星」と「ローリングストーン」は是非狙いたいところ。

瑞牆にも行かねばならないが、、、。

そしてその前にBJCの予備予選も控えているのである。

クライマーは忙しい。