なぜクライマーは岩に熱中するのか
考える暇がなくてあまり思考がまとまっていませんが、あえて自分の頭の整理のためにこのまま書いてみます。
1つ思考実験をしましょう。
もし以下の様なクライミングジムがあったらあなたは行きたいと思いますか?
・課題は何年も何十年もほとんど変わらない
・接客が無い
・ホールドは怪我をするほど痛かったり、時にはものすごく滑り易い
・理不尽なリーチ課題やものすごく狭い課題も多い
・汚い
・BGMはない
・(ボルダーなら)マットが十分に敷かれていない場合もある/(リードなら)ボルトが不安定な場合もある
・アクセスも悪い
・しかし、壁は高く登り甲斐がある
・課題数は簡単なものから難しいものまでたくさんある
・課題は単調だったり普通にハシゴ的に登るものも多いけれど、中にはものすごく洗練された面白いものもいくつかある
おそらくクライマーそれぞれで意見は分かれるでしょう。
全然行きたくないという人も一定数いるかもしれません。
そしてタイトルから大半の方がお気づきだと思いますが、上で挙げた要素は岩場に当てはまるものです。
(あくまで一般論なので当てはまらない場合もあります。風の音や鳥の声といったBGMがある場合もありますし、壁が低い岩場もありますし、課題が少ない岩場もありますので。)
多くのクライミングジムには色々な固定観念がつきまとっているように感じます。
ホールドを頻繁に変えなければならない、マンスリー課題などを用意しなければならない、見栄えのある課題を作らなければならない。
初心者には丁寧な接客をしなければならない、理不尽でない親切な課題を作らなければならない。
コンペになればノリの良いBGMをかけなければならない、ライトアップしなければならない、MCをしなければならない、何時間もかけて練った課題を提供しなければならない。
でもこれらの要素は、人々がクライミングを楽しんだり夢中になるための1つでしかないんですよね。
しかもどれだけ良い環境のジムを用意して、更にめちゃくちゃに練った課題を提供したとしても、その人工壁の課題を何十回も何百回もトライしたり、その課題のためだけにジムに狂ったように通い続けてくれるクライマーはごくごく少数です。
しかし岩場ならば、ある1つの課題を100回トライしたり、何年も執念深く通い続けたというケースは小川山でも二子山でもどこでも良いですが、良質な岩場ではそれほど珍しくなく起きていることではないでしょうか。
つまりタイトルで書いた通りですが、なぜクライマーは人工壁以上に岩にここまで熱中するのか、ということを考えたいわけです。
(もちろん、反論として「俺は岩場には全く熱中しない。インドアの課題に何百回もトライすることに喜びを見出している」という人もいるとは思いますけどね。まぁクライマーにも色んな人種がいるので全てをカバーできないですが)
いくつか考えられる要素を挙げると
- 圧倒的な岩や岩壁のスケール
- 岩にしか出せない凹凸、自然だからこそ作れる動きがある
- 課題の歴史や共有性
- 現在の人気のある岩場は、多くの岩場同士の淘汰に勝ったから面白いのは当然
などがあると思います。
「1. 圧倒的な岩や岩壁のスケール」ですが、人工壁では自然の岩や壁の高さ・開放感・ロケーション等に勝つことは難しいです。
自然の圧倒的なスケール感があるからこそ岩場の課題に撃ち込みたいと考えるクライマーは多いのではないでしょうか。
しかし、インドアでも既にボルダーとしては十分な壁の高さを誇るジムは既にありますし、もし30mや40m級のリードジムができたとしても岩場ほどクライマーが通い込むかは疑問ではあります。
次の「2. 岩にしか出せない凹凸、自然だからこそ作れる動きがある」ですが、やはりコンパネの人工壁にホールドを付けて作られた課題を登るのと、岩それ自体に自然が刻んだ凹凸を持ったりそこに足を置いたりしながら登るのとでは違いはあります。
岩の方が繊細な動きが求められる気がしますし、人工壁や人工ホールドでは立体感の出し方などにも制限はあります。
そして何より超越的な自然の力が作りだした岩場の課題を登るということは、それだけで神秘を感じますし、人の意図が入らない故に思いもよらない動きをクライマーに求めてくるこもあります。
もちろん岩にラインを見出した初登者のセンスによって課題が素晴らしいものになったということも多いとは思いますけどね。
ただ逆に人工壁の方が作り易い動きなどもあると思いますので、どちらの課題によりクライマーが熱中しやすいかというのは議論がわかれますが。
そして僕が最も重要だと感じるものが「3. 課題の歴史や共有性」です。
なぜ多くのクライマーは「忍者返し」を登りたがるのか。「エイハブ船長」を登りたがるのか。「ノースマウンテン」を登りたがるのか。「エクセレントパワー」を登りたがるのか。
クライマーがこれらを登りたいと思う動機は、これらの課題が初登者によってラインを見出されて以降、過去数十年以上に渡り歴代のクライマーに登られてきたという歴史とは切っても切り離せないものだと思います。
そして今では多くのクライマーが忍者返しやエイハブ船長の難しさを知っていて、その課題を登ることの意味合いをクライマー同士で共有できているのです。
再登ではなく岩場での初登の場合であっても、自分が見出し登ったその課題が今後も存在し続け、多くのクライマーの目標となるのではということに喜びを感じている部分はあると思います。
ジムの課題だとなかなかこうはいきません。
「xxジムの何色ホールドの初段を登った!」
といっても、岩場の課題ほど多くのクライマーと共有することは難しいです。
(中にはそれに近しい意味合いがあるインドアの課題もあるかもしれません。例えばpump2のツナミのルートは「ツナミの何色の12a」などといった具合に結構多くのクライマー同士で共有しているかもしれません。あとプロジェクトにも何年も変わらない壁があるらしいですし、東海の老舗ジムでも数十年前の課題が残っていたらしいです。)
ただ、岩場であっても誰とも共有せずとも粛々と岩場を登り続ける人もいるので、歴史や共有性を全く気にしないクライマーも存在します。
彼らは自分で岩を見つけ岩それ自体を静かに登り、誰にも発表せずとも岩を登ることに楽しみを見出しているのです。
そして一応言及しておかなければならないのが「4. 現在の人気のある岩場は、多くの岩場同士の淘汰に勝ったから面白いのは当然」という点ですね。
全ての岩場が多くのクライマーに支持されているわけではないです。
むしろ広大な自然の中で色んな条件が揃ったごく一部が良質な岩場としてクライマーに楽しまれているのだと思います。
なので人気のある岩場は淘汰をかいくぐってきたのだから面白いのは当然だ、という見方もできますね。
なんだか、思いつくままに色々と書いてしまいました。
自分なりに考えは深まりましたが、岩場にクライマーが熱中する真の理由にはあまり辿り着いていない気もします。
まぁそんなものに辿り着く必要もないですし、「気持ち良いから」「楽しいから」だけでも良いんですけどね。
また何年後かに同じテーマを考えると自分の中の答えも違ってくるかもしれません。
<岩場のボルダーで真っ先に僕の中でイメージされるのはやはりBishopのGrandpaなので、なんとなくその画像>
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