コーディネーションムーブを分解・分類する 前編:定義と構成

コーディネーションムーブを分解・分類する 前編:定義と構成

クライミングのムーブにおいて、連続的に手足を出していくようなコーディネーションというものがある。
(コーディネーションはムーブというよりシークエンスsequenceと呼ぶ方が正しそうだが、あまり一般的でないのでムーブという言葉を使う)
例えば以下の楢﨑智亜選手がトライしている課題などが有名だろう。

<2016年世界選手権inパリ ボルダリング男子決勝第1課題>

スタートで左足を振って飛び出して、左手→右手→左手と出し、最後の左手と同時に左足で止めるという具合だ。
この手のコーディネーションムーブは近年はコンペのみならず商業ジムでもボルダリングならば頻出であり、リードで登場することもある。
更にその種類も爆発的に増えていて、多岐に渡る。

今回の記事ではこのコーディネーションの全容を把握するために、その構成の分解や分類をやってみようと思う。

 
 


コーディネーションムーブの定義

ダブルダイノはコーディネーションか

まず、コーディネーションムーブとは一体何なのか。
コーディネーションは直訳すると「coordination:同調、調整、筋肉運動の共同」となる。
先ほどは「連続的に手足を出していく」と書いたが、例えばただ両手で飛び付くダブルダイノは一応両手を連続的に(もしくは同時に)出してはいるがコーディネーションと呼べるのだろうか。
このあたりはクライマー間で意見は分かれる。

Twitterアンケートなのであくまで参考だが、「その他or結果だけ見たい」の10%の人を除いて考えると、
・25%の人はただのダブルダイノでもコーディネーション
・40%の人は時間差ダブルならコーディネーション
・35%の人はダブルダイノはコーディネーションではない
と捉えているようだ。

では、デッドして片手と片足で同時に止めるような以下のムーブ(便宜的に「キャッチ&トウ」と名付ける)はどうだろう。

<ショーン・マッコールのインスタより>

https://www.instagram.com/p/B92LpJ5IkPi/

このキャッチ&トウはほとんどの人がコーディネーションであると認識しているはずだ。
(違うという人もいるかもしれないけれど)

しかしダブルダイノもキャッチ&トウも
1. 飛び出す
2. 両手両足の内、主に2本で止める

という構成は同じはずなので、キャッチ&トウをコーディネーションと認めるならばダブルダイノもコーディネーションに分類すべきとも考えられる。

ではダブルダイノがコーディネーションならば、取り先を片手で止めるシングルワンハンドダイノはどうだろうか。
本質的な身体の動きとしては、ダブルダイノとシングルダイノに違いは無いように思える。
じゃあもっと広げて単なるデッドポイント(ジャンプはしないけれどダイナミックに動き次のホールドを取る動き)はどうなるか。
デッドとダイノにはクライマーの身体がホールドから離れた瞬間があるかどうかの違いしかないので、デッドもコーディネーションに入れるべきなのか。

 

コーディネーションを広義に定義する

と色々と考えてみると、普段コーディネーションという言葉をかなり感覚的に曖昧に使っていたことに気づかされる。
ではその定義をどうするかなのだが、ひとまず以下のように広義に定義したい。

「コーディネーションムーブとは、ダイナミックに手足等を出していく連続した動き

なので、単純なデッド、シングルダイノ、両手同時のダブルダイノ、等はダイナミックなムーブがたった1回だけだが、それも1連続と捉えれば広義にはコーディネーションとする。
一般的には2連続もしくは1連続であっても手と足を同時に使うような動きがコーディネーションとされているかもしれないが、説明しやすくするために広く定義させてもらった。
ちなみに手足”等”と書いたのは、可能性としては頭とか背中とかの部位を使うことも考えられるからだ。

参考までに『クライマーズ・バイブル』の説明や定義も面白いので紹介しておく。

クライミングで使うコーディネーションの語源は不明だが、おそらくスポーツのコーディネーション・トレーニングから来ていると思われる。
これは旧東ドイツがスポーツアスリートを育成するために考案したトレーニング手法で、次の7つの要素で構成されている。
・定位:位置関係を把握する能力
・識別:手や足、道具を使う能力
・反応:素早く動く能力
・変換:状況に適切に対処する能力
・連結:体をスムーズに動かす能力
・リズム:動作をタイミングに合わす能力
・バランス:バランスを保つ能力
これらはいずれも運動神経を発達させるための要素。
クライミングで使うコーディネーションとは、このようないろいろな運動神経を試される課題の総称と考えて良いだろう。

感覚的にはかなりしっくりくる説明だ。
ただ、「運動神経を試される課題」と定義するとあまりにも広すぎて、例えばスラブでバランスをとるようなジワジワした動きも人によっては含まれてしまうため、ここでは「ダイナミックに手足等を出していく連続した動き 」と定義させてもらう。

 

コーディネーションの構成要素

前置きが非常に長くなってしまったが、いよいよ本題。
まずコーディネーションの構成要素を考えてみる。

コーディネーションは「ダイナミックに手足等を出していく連続した動き」だと定義したので、単純だがその一連の流れは以下のように分解できる。

<コーディネーションの分解>

何らかの動作で「出る」。
そしてダイナミックに「動く」。ここはいくつかの動きが複合的に連続的になされる場合も多い。
最後に身体を「止める」。

この3つの段階それぞれの中にいくつかのムーブ、ホールディング、ポジションがあり、それらを一連で捉えた時に「コーディネーションが成された」と認識しているのだ。

ここから具体例も交えつつ3つ段階の要素を挙げていきたいのだけれど、たくさんの動画や画像を貼り長くなりそうなので、後編に分けて別記事とする。