コーディネーションムーブを分解・分類する 後編:要素と具体例
- 2020.03.20
- 上達方法 科学するクライミング

コーディネーションムーブの分解・分類の後編。
前編ではコーディネーションを広義に
「ダイナミックに手足等を出していく連続した動き」
と定義した。
そしてその構成は、「出る」→「動く」→「止める」の3段階から成ると説明した。
後編では3段階それぞれにどのようなムーブ、ホールディング、ポジションの要素があるのかを具体例を交えながら見ていく。
<前編>
コーディネーションムーブの要素
「出る」パターン
クライミングの動き出しは、両手両足の内3本or4本をセットした状態から手を引いて出していくというものが一般的である。
ただ、動き出しでの変則的なムーブパターンは、商業ジムを含めかねてから色々と登場している。
・足を振って、足から出す
・手を引くのではなく、プッシュして出る
・ランニングジャンプ(=地ジャン)
・手だけでぶら下がって足をスイング
などはやったことのある人も多いはず。
<足振りの例 新宿Rockyの課題>
最近よく見られるのは、
・トウフックやヒールフック主体で動き出す
というパターン。
主体とまでは言えなくても、トウやヒールでバランスを取りつつ解除と同時に出るというのは結構ある。
<トウフック主体の動き出し 荻窪Pumpの課題>
カバーし切れない動きもあると思うが、「出る」パターンを分類するなら以下だろうか。
■手と足を使う
・手で引く:普通の動き出し
・手で押す
・足で踏む:足振り系
・足で引く:フック系
■手だけを使う
・手だけで引く:ぶら下がり足スイングなど
・手だで押す?(見たことが無い)
■足だけを使う
・足だけで踏む:地ジャン
・足だけで引く?(例えば両足トウフックからダイナミックにスタートとか一応できる)
もちろん複合的なものもある。
例えば、
「手で引きつつ、足もフックで引く」
「左手は押して、右手は引く」
など。
「動く」パターン
旧来的なクライミングは「出る」→「止める」の繰り返しであることが多かった。
しかしコーディネーションではこの間にダイナミックに「動く」という段階が入ることが多い。
例えば、前編の冒頭の楢﨑選手のトリプルダイノなどは「出る」と「止める」の間に「手で引く」という動きが2~3回入っている。
他にもよくあるのは横走り系などで「足で踏む」という動きが入ってくるパターンだろう。
例えば以下の課題などは、動き出してから止めるまでに足で4歩くらい進んでいる。
<2017ボルダリングワールドカップin南京 女子準決勝1課題目 小武選手>
「動く」で考えられる要素を以下に挙げる。
■手を使う
・片手で叩く
・両手で叩く:両手でキャッチするけれど止まらずもう一手出す系
・押す:動きの中でプッシュするものもたまにある
■足を使う
・歩く:横走り系
・蹴上がる:上方向にランジするブローの「レインボーロケット」的な
・引く?(見たことが無いが、途中でフックをかけてダイナミックに動くことも理論上は可能か)
「止める」パターン
最後の「止める」。
この止め方が、近年のコーディネーションでは非常に多様になっているように思える。
シンプルに手でぶら下がって止めるのではなく、以下のようなものが頻繁に登場するようになった。
・片手で押して、片手で引く
・前編に貼ったショーンのような手の引きと、トウフック(キャッチ&トウ)
・手の引きと足の踏み
「片手で押して、片手で引く」というのは、以前ブログで「ジャパンカップムーブ」と紹介したような下の写真のようなポジションのこと。
「Open door」とか「スタンド&プッシュ」とも呼ばれているようだ。
<Route Setterの表紙>

同様に分類する。
■手だけで止める
・ぶら下がり:通常のランジ後など
・引きと引き:例えば片手でサイドホールドをキャッチした後に、もう片方の手を返すなど(クラッチ、スライド、お迎え、瞬間芸、すしざんまい、などと呼ばれる)
・引きと押し:上記の写真など(ジャパンカップムーブ)
・押しと押し:両手プッシュみたいなのはある
■手と足で止める
・手で引き、足で押す:所謂足ドン
・手で引き、足で引く:キャッチと同時にフックをかける系
・手で押し、足で押す:手のプッシュと同時に足も反対方向に踏む系
・手で押し、足で引く?:(ほぼ見たことが無いが理論上可能)
■足だけで止める:あまり見ないけれどある。凹角的なところで両足ステミングとか
全体像
これらをまとめると、以下の図のようになる。

「動く」の段階は無くても成り立つのと、何度か繰り返すタイプもあるのでそのように矢印を書いた。
網羅的にやろうとしたせいで、あまりこの図自体がわかりやすいものではないが、一応このフローに則ると様々なコーディネーションの要素を説明することはできる。
コーディネーションの分解例
例えば、今年のボルダリングジャパンカップの男子決勝第1課題はどういうタイプのコーディネーションと捉えれば良いか。
<2020BJC 男子決勝第1課題 川又選手>
まず両手プッシュの状態から始めて、少し時間差気味ダブルダイノに入って、その後振られて足ドンで止めている。
上のフロー図に当てはめるなら、
「出る」:両手で押す
↓
「動く」:左手引き
↓
「動く」:右手引き
↓
「止める」:両手引き、足踏み
という感じだろうか。
名前を付けるなら、プッシュ時間差ダブル足ドン?
もう1つ例を挙げる。
荻窪Pumpの課題にトライするショウナ・コクシー。
<荻窪Pump コンペ壁 ショウナ>
かなり連続した動き、かつ他ではあまり見ないコーディネーションだが、分解すると
「出る」:ぶら下がり足スイング
↓
「動く」:左足、右足、と歩く
↓
「動く」:左手アンダー引き
↓
「動く」:右手引き
↓
「動く」:左手で時間差ダブル気味に右手に追いつく
↓
「止める」:両手の引きと、足の踏み
命名するのも不可能なくらい、めちゃくちゃ長い。
このフロー図に則れば、未知の組み合わせでとんでもないコーディネーションも作れる、、、かも?
補足、終わりに
分類するというよりは、網羅して列挙するだけになってしまったが、一応自分の中では整理されたのでよしとする。
本当は頻繁に登場するコーディネーションにきちんと名前つけたりなどすると、より明確に認識されて広まりやすいかもしれない。
それと、この記事の分類も実は甘いところがある。
例えば、「どの位置にあるホールドをどう使うか」という条件は組み込んでいない。
なので、サイドホールドに時間差で飛び付くダブルダイノも、飛び出てから手を返すようなクラッチ系のダブルダイノも
「出る」:手で引く
↓
「動く」:右手で引く
↓
「動く」:左手で引く
↓
「止める」:手の引きと引き
と全く同じように書けてしまう。
ただ逆にこの2つは本質的には同じことをしているだけと見ることもできるのかも。
とても長くなりましたが、こんなところで終わります。
では。
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