ヨセミテに帰ってきた! 2021年秋ツアー Day29~34

ヨセミテに帰ってきた! 2021年秋ツアー Day29~34

Freerider(フリーライダー、5.13a,29ピッチ)のトライについて書きます。
登り終えてから時間が経っているので、自分の気持ちに対して冷静さが出てきてしまっているかもしれませんがなるべく思った通りに綴ります。
長いです。

<これまでのツアー記事>

 
 


今回Freeriderでとったスタイル

ビッグウォールを登ると言っても色々なスタイルがある。
今回のスタイルが2年前とどのように違うのかを書いておくと、以下となる。

■2年前
 ・下部9ピッチのFreeblast&10ピッチ目は予めトライしておいて(と言ってもFreeblast内で2つのピッチがRPできていなかった)、Freerider当日はフィックスロープを登りった後に11ピッチ目からトライ開始
 ・リードは2人で交代し、フォローはユマーリング

■今回
 ・Freerider当日も1P目からトライ開始(荷上げの大部分は予めフィックスロープで10ピッチ目までした)
 ・リードは僕が全て担当し、妻のむっちゃんはユマーリングでフォロー

「1ピッチ目からトライ」と言うのはマルチピッチをやるにあたって当然とるべきスタイルなのだが、エルキャピタンはハートレッジまでパブリックにフィックスロープが張られているし、あまりに壁が大きいため2年前は僕らは妥協して途中からトライとした。
リードを僕が全て担当するのはむっちゃんが怪我でこの1年以上満足にクライミングができずリードに不安があるため、ならばせっかくだからと全ピッチリードをさせてもらうことにした。
ユマーリングや荷上げのサポートに徹し僕の挑戦に付き合ってくれた妻に心から本当に感謝だ。


また近年のエルキャピタンでは下降路から頂上に回りルートを懸垂下降して、上部ピッチを探ったり荷物をデポすることがわりと常套手段になっている。
この方法を予め取ることも選択肢にあったが、
・2度目の挑戦にしてグラウンドアップ以外を選ぶのは早すぎるのではないか
・そもそも天気が悪くて頂上から懸垂下降して練習等するスケジュールの余裕がなかった
という背景から、グラウンドアップで再びチャレンジすることになった。
結果としてこの選択は後悔していない。

 
 

Day29(11/3):Freerider 1日目 P1~P12

前回のFreeblast(P1~P9)は。7:30トライ開始、16:30トライ終了という工程だった。
18時を過ぎて暗くなるとP11のHollow Flake(ホローフレーク、5.9 R)が少し恐ろしいので、7時には取り付きたいところだ。
が、朝取り付きに着くと前のパーティーがFreeblastのP1を登っている。
しかもこのパーティーはそれほど早くない&なぜかチータスティックを使ってトライをしていた(ヨセミテマルチでチョンボ棒って初めて見た)。
更に僕がようやくP1を登り始めた時に後ろからSalathe(サラテ)にトライする2人組が来て
“俺らめっちゃ速いし、今日Alcove(P16)まで行くから抜かさせてくれない?”
と言われてしまう。
僕としてもスピードに自信は無いし、後ろで待たれるプレッシャーの中トライをしたくないので彼らに先に行ってもらうことにして、結局トライ開始は8:30を回ってしまった。
ただこの日は風も弱く暖かい予報であったので、遅い時間で暗くなっても良いから確実に各ピッチを登っていこうと逆に気持ちを切り替えられた。
(ちなみにこの2人組willytsharpkerzhnerはSalatheのオールフリーに成功!
Willに関しては、もちろん事前にヘッドウォール練習などはしているが、なんと全ピッチノーフォールだったらしい!!
譲った甲斐があったぜ)

freeblastはところどころ危ない箇所もあったが流石についこの間も登っているのでノーフォールで切り抜け、しかもむっちゃんのユマーリング等のスピードが上がったおかげもあり実質的に前と同じ時刻の16:30には登り終えることができた。

■P10(5.11c)
いよいよFreeriderのオリジナルピッチ。
まずは一昨日ムーブを確認しておいた、ワンポイント悪いムーブがあるP11(5.11c)。
核心までは問題なく到達したが、この日はカンカン照りでカチが全く持てずフォール。
更に休憩したあとの2トライ目も同じように落ちてしまう。
少し焦ったが、涼しくなるのを待ちかつ左足の置き方をヒールからつま先に急遽変更してなんとか3度目のトライで登り切った。
(一応スタイルを言及しておくと、「リード」にはこだわったが、「RP(レッドポイント)」にはこだわらず「PP(ピンクポイント)」で妥協したピッチもある。
例えばこのピッチもフォール後はロープは引き抜いたが、カムの回収はせずに落ちたところまでのカムはセットされた状態で再トライをしている)

<P10。暑い!>


ちなみにP11の後半を荷上げしていたら、またもや後ろから1パーティが来た。
彼らはこの後最終日までちょくちょく顔を合わせることになるWill(先ほどのWillと同じ名前だが別人)とNateで、この時にホールバッグのマイトラの使い方でちょっとトラブっていたところを助けてもらった。
混んでいるエルキャプも悪いことばかりじゃない。


■P11 Hollow Flake(5.11d→5.9 R)
懸念していた5.11dのダウンクライムはそれほど悪くなかったのだが、ホローフレークの5.9 Rがやはり結構本気。
2年前も感じたけれど、しっかり5.9。
落ちたらとんでもない距離をフォールすることになるので慎重に突破した。

この後荷上げを終えた時点でたしか21時くらいにはなってしまっていたので、一旦ご飯を食べてからP12を登り明日速やかに荷上げできるようにロープだけ伸ばしておくことに。


■P12 (5.7→5.10a)
このピッチは2年前はむっちゃんが担当したので、リードは初めて。
とにかく最初の5.7が恐ろし過ぎた。
以前はビビっているむっちゃんをちょっと楽しみながらビレイしていたが、いざ自分がリードするとなると最初の10mくらいはノープロだし、フレークは脆いしでめっちゃくちゃにビビってしまった。
暗かったのもあると思うが。
後半の5.10aにも時間がかかってしまい、結局全ての作業を終えたのは23:30。

<暗い中のチムニー。絶対Rでしょ>


この日を終え寝袋の中で、

・2年前は基本的に曇っていたのでコンディションが良かったということ。今回は直射日光が当たり夕方でもカチを持つのが厳しい
・2年前はほぼ渋滞を経験しなかったが、今回は既に数パーティーとバッティングしていて、そのあたりのマネジメントにも気を遣う。フリーライダーの敷居が下がりポピュラーになっているのと、今年はストーム続きだったので皆この晴れ間のチャンスに押しかけているのだろう
・最も大きな違いは当然ながら疲労面。2年前はこの時点で1ピッチしか登っていなかったが、今年は既に12ピッチも登っているのでそりゃ疲れている
・更に2年前にむっちゃんに担当してもらったピッチはグレードは低かったものの、やはりヨセミテに甘いピッチはなく、この5.7を筆頭にいざ自分がリードを担当するとなると体力的精神的にプレッシャーがかかる

などを痛感する。
リードオールフリーは一筋縄ではいかなそうだとひしひしと感じていた。

 
 

Day30(11/4):2日目 P13~P18

この日はMonster Offwidth(モンスターオフィズス)は待ち受けているものの、自分として落ちそうだと警戒するピッチは少ないのでできるだけ上まで順調に進みたかった。


■P13(5.10c)
比較的登りやすめのピッチ。
とは言え5.10cは全然あるが。


■P14(5.10d→The Ear 5.7)
5.10dに2年前は落とされそうになったが、今年はホールドの在処を知っているから問題ないだろうと考えていた。
が、わかっているのにやはりわるくてマジで落ちるかと思った。
なんとか2年前の自分に負けずに済む。


■P15(5.11d→Monster Offwidth 5.10a)
ボルダリーな出だしの5.11dの後に、30~40mのワイドが続く。
人によっては核心となるピッチ。
まずこちらも出だしの5.11dがかなり悪くまたもや落ちそうになったが、耐えた。
モンスターオフィズスは「5.10aが基本的に続き、ところどころワンポイントで5.10b」という印象だったが
、2年ぶりにやってみると記憶よりも悪く相当に消耗させられた。
とりあえず瑞牆のかぜひきルート(5.10a)よりは悪いものがずっと続くという感じだろう。
しかもなぜか半袖&肩肘にテーピング無しというなぞのストロングスタイルで臨んでしまい、この後擦り傷に悩まされることになる。(このブログを書いている今でも出血が止まっていない)

<モンスターオフィズス!こちらも暑かった、、、>

■P16(5.10a→The Alcove→5.10a)
最初のオフィズスの5.10aを終えThe Alcoveで区切った後に、エルキャプスパイヤーの裏の綺麗なクラックを登る。
このクラック自体は面白いのだけれど、最後の最後にエルキャプスパイヤーに渡るところが難しいと言うか、両手でリップにぶら下がる形になり恐ろしい。
このピッチも2年前はむっちゃんが担当したところ。
あらためて自分でリードしてみてそのルートの本当の姿は見えるものだと痛感させられる。


ところどころ緊張はしたもののここまで順調だったので、エルキャプスパイヤーで寝ても良かったが、明日の大核心であるP20のBoulder problem(5.13a)に少しでも時間を使うためにあと2ピッチロープを伸ばすことに。


■P17(5.11a)
このピッチは以前のトポでは5.10dが付いていたが、最新トポでは1グレード上がっている。
なんとも言えないワイドというかレイバックというか変な形状が続くピッチで去年オンサイトしているのだが、今回のトライでは途中足が滑り落ちそうになる。
ギリ耐えたのだがその影響かこの後かなり動きがぎこちなくなってしまい、メンタルが削られる。
が、しっかりノーフォール。
最後のチムニーもちょっと嫌な感じ。


■P18(5.10b)
ここは逆に以前のトポでは5.10dだったが、5.10bとなっているピッチ。
そこまで長くないがコーナークラックがとても綺麗。
上部が濡れていたが落ち着いて対処できた。


この上のテラスが平らではないがそれなりに広く、今年はポータレッジを持ってきていたので2日目の宿とすることに。
ちなみにこの晩から以降は他パーティーとのバッティング等もあり全てポータレッジ泊となった。
これだけエルキャプにトライする人口が増えると、ルート中に良いレッジのあるFreeriderとは言えポータレッジは必須だろう。
とにかく持ってきていて良かった。

夜中にP19も登ってしまうことも考えたが、昨日遅くまで動いたのでこの日は止めておき早めに就寝した。
結果としてこの判断は正解だったと思う。
暗い中P19をやっていたら疲れた身体だと事故っていた可能性が高い。

この日感じたのは、
・とにかく2年前の自分が強い!
ということ。
登っていて、何度も「自分よく2年前オンサイトしたな!信じられん、、、」と思わされた。
2年間でそれほど僕が成長していないのか、はたまたオンサイトトライの怖いもの知らず&馬鹿力が出たのか、やはり初日にFreeblastが加わっているのが今回は相当の負荷になっているのか。

<G7のポータレッジ。張り方が難しけれど、水平にできると寝心地は良い>

<朝お茶を飲む妻> 


 

Day31(11/5):3日目 P19~P20

客観的に判断して朝の時間帯にBoulder problemを登り切ることはほぼ不可能だとわかっていたので、この日の前半はワークに当てることになるだろうと考えていた。
なのでちょっと遅めに行動開始。


■P19(5.11c R)
このピッチは以前のトポだと5.12aだが、グレードが下がりその代わりにRが付いた。
確かにオンサイトしているし5.12aは無いかもしれないが、プロテクションは一応取れる。
と言うかこのピッチがRなら他にもRを付けて良いピッチはたくさんあると思う。
恐怖と言う意味ではP12の5.7の方が数段上。
足運びを忘れていて躊躇したが、ホールドを知っていたので落ちずに登り切る。


■P20 Boulder problem(ボルダープロブレム、5.13a)
そしていよいよグレード的なFreeriderの核心である Boulder problem。
去年はフリーで登ることができなかったピッチだ。

僕がP19を登った直後くらいに、上部からポールというクライマーが懸垂下降してきた。
彼は本日上のThe Blockに宿泊しているが、このピッチを登れていないのでトライをしたいらしい。
最初は「また渋滞かぁ」と正直感じたが、話してみるとポールはめちゃくちゃ良いヤツで楽しくリラックスさせてくれるし、結果的に中間部での彼のムーブを1つパクらせてもらったことで完登に近づいたので、やはり何事もプラスに考えていくことが大事だ。
(ちなみにポールはこの日の夕方にBoulder problemの完登を決めた!)

このピッチは2年前に一応自分の中では各ムーブは解決したつもりであったのだが、改めてやってみると最初からかなり難しく、今回再びムーブを組み立てるのに非常に苦労した。
特に最後左の壁に足をドンと張る、アレックスオノルドのフリーソロでも有名な所謂”KARATE KICK”(最新トポでは”NINJA KICK”と記載)の箇所が解決できない。
KARATE KICKではないムーブで行けた記憶があったし、確か増本さんともこの別ムーブを話したはずなのだが、自分の記憶違いかそれとも弱くなったのか知らないがとにかくこの部分が単発でも解決できずに焦る。
更にこの日は太陽が更にカンカン照りで、日中にクライミングすることが非常に困難に。

一旦宿泊ポイントまで降りて日中はおとなしくタープを張って休憩することにした。
2年前は曇りが多かったから使わなかったが、基本タープ的なものも必須だろう。

<タープで直射日光を避ける人>


夕方からにBoulder problemに戻り、最終部分をグリグリにぶら下がりながら再確認してみる。
少し涼しくなっても、やはりできない。
これはまずいと思ったが、そこでなんとなく自分のリーチでは無理だと決めつけていたKARATE KICKをやってみることにした。
すると何度かやる内になんだか行けそうな気配に。
でその後、思い切ってコーディネーションのノリで勢いよく足を振ってみたら、なんとデッドの KARATE KICKが止まった!
かなり確率的な勝負になってしまうが、逆に保持力がヨレていても成功できるのでこのムーブを採用することに決めた。
ここでムーブを解決できたことで気持ちは上向きに。

日が落ちるくらいの涼しくなった時間帯に繋げトライを開始してみる。
日が照っていないとカチの持ちがよく、最終パートまではそれなりにスムーズに辿り着ける。
ただそれでもこの日は繋げるとどうしてもKARATE KICKが止まらず、たしか計3回以上はここで落とされてしまった。
残り日数を考えるとこのピッチにもう1日掛けることは危険だったが、オールフリーの望みを残すには明日にずれこんでもこのピッチと対峙するしかない。
更にポール達、SalatheトライをしているWill達、もう1人のWill達、の計3パーティーがなんとこの上The Blockに今夜も宿泊するとのことでどのみち僕らは昨日と同じ下の場所に寝るしかなかった。
渋滞はすごいが、それでもポールもWillもみんな明るくて良いクライマーだからこんなウォールライフもありかなと思わせてくれる。

疲労が溜まっていたが、むっちゃんが夜腕や足をマッサージしてくれて少し回復したように思う。


話は逸れるが、マルチの登り方の戦略やスタイルに関する傾向が興味深かったので少し長くなるがここに書いておく。
まず僕らがヨセミテで出会ったパーティーの多くがマルチのフォロー側のクライマーが、「リードにビレイデバイスで確保されながら登る」のではなく「リードがフィックスしたロープを、マイトラを付けて登る」という方法をとっていた。
このフォローがフィックスロープをマイトラ登りすることのメリットは以下だろうか。
・リードがロープを引き上げる時間等が削れる
・フォローが登っている間リードは別の作業をできる
一方でデメリットは以下だろうか。
・マイトラ登りはリスクが高い(墜落距離が大きくなる、マイトラの誤作動、etc)
・ロープが下にだらんと垂れるので回収時に岩角に引っかかる可能性がある

でまぁこれはどちらにせよフォローは「トップロープでフリーをした」ということになるので自分たちの戦略に合わせて自由にチョイスすればよい。
ただこの方法の延長上なのか、フォローや回収時ではない時でもマイトラ登りのフリーで良しとしているパーティーもいるように見えた。
例えば先ほどのポールもフィックスロープのマイトラ登りでBoulder problemを完登し、周りのクライマーもそれを祝福し次のピッチへ進んでいった。
結局これは本人が何を持って「満足のいく完登をした」とするかの問題でありそれこそスタイル論争なのだが、僕の感覚だとやはりリードでの完登を(少なくともチームのどちらかが)目指すのが一般的だと思うのでこのあたりはギャップを感じた。
ただ、このフィックスロープマイトラ登りを利用することでパートナーがいなくてもビッグウォールにおいて一人でピッチの攻略が可能になるし、リードのフリーにこだわって登れないよりはトップロープ的にでもフリーで登ることは素晴らしいので、このスタイルを選ぶのももちろんありだろう。
実際自分自身もシチュエーションによってはリードにこだわらず、フィックスロープのマイトラ登りでのフリーで良しとすることも出てくるとは思う。
ただどのようなスタイルでの完登を狙っているのか、どのように妥協をしたのか、というのは把握しておいた方が良いはずだ。

 
 

Day32(11/6):4日目 P20~P23

朝からBoulder problem。
1便目は出だしで久々に落ちてしまう。
隣のラインには上から降りてきてTeflon Corner(テフロンコーナー、5.12d)をやっているNateがいたが、「1便目はウォームアップだよ!」と励ましてくれる。
(このピッチは左のTeflon Cornerと右のBoulder problemのどちらかを選んで進む形になる)

そして2便目。
指皮はかなり消耗していたが、昨日は荷上げや大移動も無かったので身体の芯は少し休めていたので動きが思いのほか軽い。
最終局面まではスムーズに行き、これで通算5度以上やっているKARATE KICK。
腕の引きを意識して思い切り左足を伸ばすと、、、止まった!
あとは左足に乗り込んでぐっとガバを掴みに行くのだが、つま先が粒子をとらえきれておらず乗り込みが甘い。
デッドして掴んでしまおうかとも思ったが、落ちるのが怖く躊躇して中途半端に引き付けを選んだら、フォール。
これは落ち込んだ。
千載一遇のチャンスを逃した。

この時点で自分としてはほぼこのピッチの完登を諦めていたが、むっちゃんがいつになく励ましてくれるし、幸いなことにこの日は涼しめでまだ気温は上がらない。
そう考え3便目を出すが、今度はKATARE KICKが止まらない。
もうヨレているのだろうか。

体力的にも時間的にも、もう次で最終便にするとむっちゃんに伝える。
レストを挟んだのちトライするも、今度は集中力に欠いているのか中間部でフォール。
「登れないにしてもこれが最終トライっていうのはねえだろ」という気分になった。

すると横で登っていたNateがTeflon Cornerを完登!
彼自身何年か前からこのピッチは宿題になっていたらしいので、記念すべき瞬間だ。
上で大喜びするNate、そしてWillが「完登の波が来ているからMickeyも登れるよ!(send trainとおそらく言っている。コメントで教えていただいたがクライマーの完登が電車のように続くことらしい)」的な言葉をかけてくれる。
もう太陽も上がっていたので時間的に厳しいと判断していたが、雲が出てきていたので壁のコンディションは悪くない。
それに自分としてもさっきの不甲斐ないトライを最後としたくはなかった。

これでホントのホントのラスト1便。
そしてトライ内容は今思い返してもあまり鮮明には思い出せない。
でも足にやたら乗れていた気がする。
流れるように最終局面まで到達し夢中でKARATE KICKを繰り出す。
腕の引付けも勢いもばっちりで足が止まる。
さらにつま先も粒子をしっかり捉えられていて、サイドガバ取りも落ちるイメージなく掴み切った。
右足を置き直しウィニングホールドに飛び付くと、腹から雄叫びがもれた。
Willが「だから言ったじゃねーか!」的なことを叫んでいて、むっちゃんからは喜びと残り慎重にねとの声が飛ぶ。
確実に上まで登り切って、Teflonを完登したばかりのNateとダブルグータッチをして讃え合った。

なぜこんな体力も指皮も無い最後の最後のトライで奇跡的に繋がったか今でもわからない。
でもとにかくここしかないという場面で自分のクライミング史上の中でも会心の登りができた。
この瞬間は一生忘れないだろう。

<Boulder problem完登後>


■P21(The Sewer 5.10c→5.10a)
宿泊場所からホールバッグなどを荷上げして次のピッチ。
このピッチは途中で区切らず登り切ってしまう人も多いが、確実に高度を上げていきたかったのでピッチを区切らせてもらった。
最後のワンムーブは実は去年むっちゃんが敗退している箇所なのだが、めちゃくちゃ悪くて焦った。
5.10dか11aで良いような動き。


■P22(5.10c)
The Blockからの次のピッチでここも2年前にオンサイトしているのだけれど、プロテクションがプアな上にリーチを要する動きが多くて全体的に難しく感じた。


■P23(Enduro Corner 5.11c→5.12b)
この時点で確か16時とか17時とかで、自分にとってのもう一つの核心ピッチであるEnduro Corner(エンデューロコーナー)。
2年前は時間が無かったこともあり1度トライしただけでほぼエイドアップで抜けている。
今回はその時よりは時間はあるが、それでも明日の早い段階で登らないとオールフリーは難しくなる。
まずは1ピッチ目。
徐々にサイズが狭くなりフレアしたフィンガークラックになっていく。
この手のクラックは得意ではなく、1便目はやはりフォール。
クラックに自信があれば真っ向勝負で行けばいいのだろうが、今の自分はそれで登り切れるイメージがなく外にフットホールドを探したりレイバックをしたりする小細工に目が行ってしまう。

でもとにかく登り切ることが正義だと考えレストして2便目。
先ほど落ちた箇所を超え、自分としてはかなり粘ったがそれでも傾斜のきついパートでフォール。
ハッキリ言ってFreeriderに挑戦する人にとってはこのEnduro Cornerの下部はそれほど難しくはないのだろう。
事実WillもNateも登っているしグレードも5.11cと高いわけじゃない。
疲れていることを差し引いても、僕が登れないということはやはり根本的なクラック技術がまだまだ未熟だということだ。
しかもそうこうしている内に雪がパラついてきて、気温がものすごく下がってしまう。
この先にまだ5.12bのパートが残っているのに今日の内に下部も解決できないようじゃオールフリーは絶部的だ。
この時点で達成が厳しいことを悟ったが、今粘っても良いことは無いので下に戻りThe Blockで寝ることにした。

<Enduro Corner>

 
 

Day33(11/7):5日目 P23~P26

明け方起きるとなんと予報に反して雨が降っている。
ザーザー降りではないが壁が湿る程度の強さで、昨日の段階でEnduro Cornerが登れていない僕にとってはダメ押しの雨となった形だ。

<壁濡れとりますがな、、、>


そして下からフリーライダーのin a day(24時間以内に登ること)にチャレンジしているブラントというクライマーが上がってきていたので、スピードを考えても彼に先を譲ることにした。
彼はもちろん既にFreerider自体は全ピッチ登っているのだが、Enduroの5.11cのパートで2度フォール。
雨の影響でクラック内部が濡れているのだ。
更に彼は結局5.12bのパートが完登できずin a dayに失敗してしまった。

これを見てしまったことも影響し僕のメンタルはやられてしまい、「Freeriderのオールフリーのために絶対Enduro Cornerを完登するんだ!」とどうしても思えなくなってしまった。
実際にこの日の朝も1トライしたが全く持てる気がせずフォール。
そしてここに拘るより、「明日の夜来るであろうストームより先に抜けるために、実力的にもコンディション的にもできないであろうこのピッチのフリーは諦めて先に進んだ方が良い」と結論を下してしまった。
こうしてここで僕のリードオールフリーは潰えた。

■P24(5.12a/b)
Enduroの次はサラテヘッドウォールをトラバース迂回するFreeriderのオリジナルピッチで、2年前は最後のウィニングガバの存在に気付かずに落ちてしまい完登を逃している。
流石に今回は登れるだろうと思っていたが、朝の雨の影響かホールドがシケシケしているのもあり、出だしでなんとフォール。
やり直すか迷ったが、まだ出だしであるため戻り易かったのと、せめて2年前の自分をこのピッチでも上回りたいと考え再トライ。
途中のガバも含めて今にも滑りそうだったが、2年前の記憶を辿りなんとか一矢報いて完登!

■P25(5.11a→5.10d)
このピッチは以前のトポでは5.11dが前半に付いていたが、やはり体感通りそこまでの難易度は無く最新トポでは5.11aが付いている。
しかしいずれにせよ、シンハンド、フィスト、ルーフ越えチムニー、フィンガーと目白押しの素晴らしいピッチ。
最後のフィンガークラックがやはりまだ少し濡れていてかなり際どかったが2年前の自分に負けずここも登り切った。


■P26(5.11d→5.10d)
このピッチは2年前は登れていない。
更にこの時点で17時近くになっていて、かつサマータイムがこの日から終了したことを見逃していて日没が近づいていた。(昨日までの18時の時間が、今日からは17時となっている)
今回ももはやオールフリーの夢は潰えているのでエイドでガンガン進んでも良かったのだが、何か自分のケジメとしてせめてできる限り多くのピッチをフリーで登りたいという想いが沸いていた。
またこのピッチの後はそれなりに良いテラスになっているためポータレッジで泊まることも最悪可能であることは事前にむっちゃんとは相談していたため、遅くまでトライをかけることもできる。

そして1便目は疲れもあるが普通に難しく今回も5.11dの箇所でフォールしてしまう。
でも時間を使ってでも登り切ろうと思い、ここもカムは残置したままのPPだがロープは抜いてリードにはこだわり再トライ。
結局はその2トライ目もフォールし、3トライ目でなんとかフィンガーパートを攻略し、続く5.10dのワイドである所謂スコッティバルクは気迫で切り抜け完登をもぎ取った。

この時点で正直疲労困憊過ぎてこれ以上暗い中進むのは危険だったため、この日はここでビバーク。
明日のストームは夜までは来ないことを天気予報で確かめていたので、明日早い段階から行動すれば問題はないと判断した。

 
 

Day34(11/8):6日目 P27~P29→下山

朝の天気は快晴でとてもストームが来るとは思えない。

■P27(5.10d)
綺麗なフィンガークラック。
クラックももう乾いているはずなのだが、それでもなぜか全てのホールディングが滑り自分の登りに自信が持てない。
あまりに指皮が消耗しているので手がびしょびしょなのか、メンタルがやられて発汗機能がおかしくなっているのか。
命からがらなんとか登り切る。

<最後にして素晴らしいピッチと青空>


■P28(5.10d→5.9)
2年前に5.9のチムニーで落ちている因縁のピッチ。
身体の向きさえ間違わなければ問題ないと思っていたが、それでもかなりヤバかった。
といういかやはり自分の頭がでか過ぎるのかこのピッチのチムニーは進むも外に出るのも非常に難しい。
「頭でかいやつワイド不利説」を推したい。


■P29(5.6)
ウィニングロード。
Freeriderの全ピッチで唯一安心して登れる。


そして2度目のエルキャピタンの頂上に着いた。
やはりこの場所は気持ち良い。
むっちゃんと喜び合い感謝を述べる。
一番の目標であるリードオールフリーはEnduro Cornerの1ピッチが登れず達成ならず。
でもとにかくやり切った。
充実感に溢れていた。

 

<頂上にて>

<良い笑顔の2人>


下山もポータレッジやカビて食べられなかったベーグルを背負っている分、以前より荷物が重かった気がする。
ボロボロになったがきちんとストームより前に降りてきて、そのままヨセミテから抜け出した。

 
 

今想うこと

ここまでで非常に長いですが、今想っていることを最後にきちんと書いておきます。

まず健全なフリークライマーの発想なら
「残すはEnduro Cornerの1ピッチのみだからなんとか解決して、今回できなかったFreeriderのリードオールフリーを狙おう」
と考えるでしょう。
でも現状自分はあまりそうは思えていません。

いくつか理由はあって、1つには労力の面。
自分の実力を客観的に見て、今回と同じことをもう一度繰り返してもまたEnduro Cornerに跳ね返されるでしょう。(もしくは今回登れた違うピッチが登れなくて終わることすらあり得る)
Enduroを登れるようになるには、
・頂上から懸垂してのワーク
・もしくは後1~2日分の食料と水を追加し、今回よりも長期間でグラウンドアップで挑戦する
のどちらかが必要です。(もしくはこっから超絶強くなる)
そう考えるとこのツアー内で完結することは厳しく、来年以降にもつれ込むことになります。
そこまでの労力と情熱を自分自身がまだまだこのヨセミテのエルキャピタンのFreeriderというルートに費やせるのかというと即答できません。
また妻のむっちゃんにも多大な負担を掛けることになります。
ただ今現在まだ身体が異常に疲れているので、精神状態も疲弊していてこのような思考になっている可能性はあります。
元気になったら「よっしゃー!またFreerider行ったるでー!!」とか言い出しているかもしれません。

理由のもう1つは、この状況下でFreeriderのリードオールフリーに挑戦できた(そして1ピッチ以外は曲がりなりにも登り切った)ということ自体に満足しているからです。
コロナでそもそも海外渡航が怪しかった、むっちゃんの度重なる怪我でビッグウォールは厳しいと感じていた、ヨセミテについたら予想外の悪天候続きでエルキャプに登れないんじゃないかと思った、等々今回のチャレンジには障壁がいくつもありました。
そんな中なんとか挑戦に漕ぎつけることができ、しかもむっちゃんのあり得ないほどの献身的なサポートのおかげで全ピッチリードでチャレンジできるというクライマー冥利に尽きることをさせてもらえました。
登れていないピッチがあるのに満足するというのはフリークライマーとしては失格なのですが、それでも何か一つ達成感と言うかやり切った感があるのは正直な感じ方です。

最後の理由は冒険感の消失です。
2年前と今回の登攀を比べると、フリークライマーとしては今回の方が難しく厳しいチャレンジをした上で登れたピッチも多かったのにも関わらず、2年前の方が冒険感に溢れていてクライミングが楽しかったと感じている自分がいるのです。
2年前、エルキャピタンという未知の自分たちにとって測ることのできない大きな対象に挑むのはまさに大冒険でした。
1ピッチ進むごとに感じるドキドキ、その未知なるピッチをオンサイトできた喜び、頂上に着いた瞬間の高揚感、下山後の大いなる安堵。
それと比べると今回はある程度概要がわかっているルートに再度挑んだという形であり、フリークライマーとしてはそれを登り切ることが当然ながらミッションなのですが、これを達成できるまでこの先また続けるとどんどん義務的になっていくだろうということが見えてしまっているのです。
ただこれももちろんオールフリー達成と言う困難さから単に逃げたいがために「冒険感が無い」「義務的になる」と自己逃避している感情に過ぎないのかもしれません。
フリークライマーならそんな戯言言っていないで任務遂行しろ、と昔の自分なら今の自分に声を掛けるでしょう。
ただ今の自分が少なくとも正直にそういう気持ちになっていることは事実なのです。


これまでずっと僕はクライミングは「厳しくて難しいもの」こそ至高だと考えていました。
自分ができないことができるようになることが一番楽しいと思っていました。
でもこのFreeriderの挑戦を終えて何かそういう困難の追求は一旦満足してしまったのかもしれません。
厳しさや自己の飽くなき向上を目指すクライミングから少し離れようかと感じ始めています。
もう少し違う形のクライミングや毎日の過ごし方をしばらくしたいです。
ただこれも先ほど述べたように今は一種の燃え尽き症候群なだけで、肉体が疲弊し過ぎて極端な考えになっているだけなのかもしれません。
半年後にまたヨセミテに来ていることすらあり得ます。
まぁそれは数日後、数週間後、数か月後の自分にしかわからないことです。

とにかく2016年から5年間もヨセミテには夢を追い駆けさせてもらいました。
まだまだヨセミテへの憧れはたくさんあるけれど、ひと段落した気がします。
ありがとうヨセミテ。