2019年7月~9月に読んで面白かった本

2019年7月~9月に読んで面白かった本

3ヶ月に1度の面白かった本紹介シリーズ。
今期も良い本に巡り合いました。
紹介していきます。

これまでの読書感想記事

 
 


時間術大全 人生が本当に変わる「87の時間ワザ」

著者:ジェイク・ナップ、ジョン・ゼラツキー
ジャンル:人生論、ライフハック、仕事術

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ダイヤモンド社
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半年くらい前に話題になった『時間術大全』。
一言で表せば「メイクタイム」=「自分にとって最も大事なことをする時間を作る」ための本です。
現代の僕らは
・多忙中毒
・スマホに代表される、無限に時間を奪ってくる”泉”
の2つの要因が生きる上でのデフォルトとなっているため、意志力や生産性向上という武器だけではメイクタイムをすることが非常に難しいです。

そこでGoogleとYoutube出身の著者2人はメイクタイムをどうやったら成し遂げられるのか考え抜き実践を重ねます。
その結果たどり着いたメソッドを図にすると以下の通り。

ステップ1. その日に優先する「ハイライト」を決める
ステップ2. 特別な戦術を使ってハイライトに「レーザー光線のように集中」し続ける
ステップ3. 時間と注意力を1日中コントロールするためにエネルギーを「チャージ」する
ステップ4. 1日を振り返って寝る前にメモを取り、次回に向けてやり方を「チューニング」する

こうやって書くと当たり前の時間術に見えるかもしれませんが、ハイライトを1つ決めるというのは簡単に見えてなかなかできていないこと。
1日の予定を立てる時にToDoリストに濃淡を付けずバーッと書き出してしまうことがありますが、本当は「クライミングで〇〇の課題を打ち込んでトライする」「仕事で××の資料を作り上げる」「ブログのために△△を調べまとめる」などと1つハイライトを決めて、これこそを今日はやるんだ、と掲げるのが良いのです。

この4つのステップ1つ1つに対して、具体的な細かい戦術をいくつも提示してくれているのがこの本の実用的なところです。
例えばハイライトに関しては
「戦術01:書く」、「戦術08:ハイライトを予定に入れる」のようなめちゃくちゃ簡単ですぐできることから、
「戦術11:正直にドタキャンする」、「戦術12:ただノーと言う」みたいな少し面白いものまで多種の戦術が並んでいます。
これらを組み合わせてさまざまな自分にあった4つのステップを作って試して、最適なメイクタイムをしようということなのです。

大切なことはとにかく実践だと思うので僕もまずはこのメイクタイムをやってみなければ!(と言いつつ先延ばしにしている、、、)

 
 

ブラックスワン

著者:ナシーム・ニコラス・タレブ
ジャンル:経済、ビジネス、数学

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すでに古典となりつつあるあまりに有名な本ですが、池田信夫さんが平成の名著ベスト10のトップに挙げているのを目にして読むことに。
ブラックスワンすなわち「普通は起こらないこと、とても大きな衝撃があること、事後には予測が可能であること」が起きる構造を2007年のこの本で提唱し、その翌年の2008年に歴史的な金融危機であるリーマンショックが起きたことで当時大きな話題になりました。

ところどころ難しい箇所があるのですが、僕の理解するところではこの本の主張は以下だと捉えています。
・この世界の物事はその発生頻度や分布の仕方によって、正規分布に従う(平均から離れると累乗で効いてくる)「月並みの国での出来事」と、ベキ分布(平均から離れても増加や減少の率が一定)に従う、あるいはまったくのランダムの「果ての国での出来事」にわけられる
・「果ての国での出来事」であるにも関わらず、月並みの国でしか通用しない正規分布的な考え方をすると、ある日突然ブラックスワンにやられてしまう
・自分の身の回りの現象が「月並みの国での出来事」なのか「果ての国での出来事」なのかをしっかりと考えて色々なポートフォリオを組むべきである

<月並みの国 果ての国>

例えば、人間の身長は正規分布におおよそ従っている「月並みの国の出来事」です。
平均身長が170cmの日本人男子の集団において、300cmの人間はいません。
ある2人を選んび身長の和が340cmだったら、それぞれ170cmと170cmである可能性が最も高いです。

ところがこれが、人が所有する資産、書籍の売上、苗字ごとの人の数、などだった場合、正規分布には全く従わない「果ての国の出来事」となります。
日本人の平均世帯資産は1,000万円程度だとしても、正規分布では到底説明がつかないような兆円超えの資産家がいます。
ある2冊の書籍の合計売上が100万部だった場合、それが50万部と50万部である可能性よりも、99.3万部と0.7万部である可能性の方が高いです。

この仕組みを理解しないと痛い目を見ることがあるし、著者のように逆に利用し
・資産の85~90%をものすごく安全な資産に投資
・資産の10~15%をものすごく投機的な賭けに投じる
のような戦略(バーベル戦略)を取ることでブラックスワンが到来した際に大きく成功できるかもしれません。

個人的な興味としてはこの考えがクライミングとかスポーツにどう利用できるのかということ。
例えばクライミングから大きな幸せを得たいと思った際に、
・筋肉量の向上などは正規分布に従いそうなので、自分パフォーマンスはたぶん「月並みの国の出来事」(僕が明日になって急にV17が登れることはない)
・一方で、(あまり良い例が浮かばないですが)人生を変えるような奇跡的な課題に出会える、クライミングブログがめっちゃくちゃバズる、などは「果ての国の出来事」に思えます
つまり、日々月並みの国で満足できるように淡々とトレーニングで自己鍛錬すると同時に、ブラックスワンにもある程度ベットすべく未知数の活動にも力を入れていくという、という感じでしょうかね。

 
 

深い河

著者:遠藤周作
ジャンル:小説

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遠藤周作が生涯探求し続けた「日本人とキリスト教」というテーマの集大成となった作品です。
僕は高校・大学の時に『沈黙』と『海と毒薬』を読みそのテーマと読者を引き付ける文体に感銘を受けました。
先日インタビューでピースの又吉さんが『深い河』を薦めていたので今回久しぶりに遠藤作品を手に取りました。

深い河は様々な事情を抱えた5人組がインドへ行く理由を持ち、ツアーに参加します。
例えば第1章から出てくる磯部は妻を病気で失いますが、その妻が死ぬ直前に

“わたくし・・・必ず・・・生まれかわるから、この世界の何処かに。
探して・・・わたくしを見つけて・・・約束よ、約束よ”

という言葉を残します。
そして磯部は妻の生まれ変わりを探しにインドへ行く決意をするのです。
最終的には大いなる母のようなガンジス川を巧みに使って遠藤なりの「日本人のキリスト教像」を浮き彫りにするというストーリー。

僕自身は「キリスト教」「生まれ変わり」などは元来全く信じていませんでした。
しかしクライミングをするに連れて徐々に自然の偉大さ、その背景にある超自然的な概念のようなものを感じ取っている自分も現れてきているのかなと最近思います。
『深い河』を読んでいても、ガンジス川と瑞牆山やヨセミテのEl Capitanがどこか重なるように思えてきてものすごく引き込まれてしまいました。

そして改めて感じたのですが遠藤周作は文章が本当に上手い!
最近スマホなどの影響か小説が全く読めない性分になっていたのですが、本書は言葉選びやリズムも良いですし、章の区切り方なども適切で続きが気になって止まらなくなって一気に読んでしまいました。

 
 

The Push

著者:トミー・コールドウェル
ジャンル:クライミング、自伝

トミー・コールドウェルは主にヨセミテのビッグウォールであるEl Capitanで数々のルートをフリー(前進手段に道具に頼らず自身の手足のみ使用)で登ってきた今でも第一線を走るプロフェッショナルクライマー。
そのトミーの幼いころから、最近映画でも話題になった超高難度の「Dawn Wall」(32ピッチ、5.14d)を成功させるまでを綴った自伝です。
トミーは非常に哲学的かつ内向的なので原文は難解らしいのですが、アレックス・オーノルドの『Alone on the Wall』などの翻訳でも有名な堀内さんが素晴らしい文章にしてくれていてものすごく読みやすいです。

トミーにとって人生の分岐点、もしくはパートナーや他のクライマーとのちょっとした会話において彼の内面がこと細かにきちんと描写されているのがこの本の特徴。
ですので「Dawn Wall」完登というクライマックスに向けて読み手はトミーに対する思いれがどんどん増強されていって終盤はページをめくる手が止まらなくなります。

また個人的にはトミーがドーンウォールに向けておこなったトレーニングなどが詳細に書いてあるのも興味深かったです。
具体的には以下など。
・アレックスメゴスのトレーニングを取り入れるなどした
・電話やメールをシャットアウトして1日8時間から10時間トレーニングに集中
・パン、加工糖、アルコール、カフェインを断つなど食事の内容を変えた
・地元のモナステリーという岩場で最難の4本を1日で登ることを達成
・懸垂50回を2セット
・パワーウェイトレシオを上げるため4キロ絞って、175cmで65kgにした

そして極めつけは、
ドーンウォールの核心の1つであるランジパートのホールド間の距離(256.5cm)、ホールド間の角度(14度)、壁の傾斜を測り、その複製を作ってトレーニング
をしたそうです。

一流クライマーが具体的に何をしているのか、とても参考になりますね。

 
 

フェルマーの料理

著者:小林有吾
ジャンル:漫画、料理、数学

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講談社
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数学の道に挫折した主人公が料理でその才能を開花させる話です。
作者は理論的サッカー漫画で話題となっている『アオアシ』の小林有吾さん。

『アオアシ』もそうですが小林さんの漫画は「考えることの大切さ」や「思考の言語化」みたいなものがストーリーの根底にあるので、とても気持ち良く読むことができます。
この作品でも料理のできあがりを「答え」とするならそこから逆算して「式」=「レシピ」を組み立てていく、のようなベースとなる考えがあります。
例えば主人公の岳はナポリタンを提供するとき、フォークの温度が食べる人にとって丁度良い温度の45度になるように逆算して計算し、キッチンとテーブルまでの距離、フォークの出し方、タイミングの指示を、当たり前のようにおこなうという話も出てきます。
料理の描写も良い感じで、読後にナポリタンが食べたくなること請け合いです。

 
 

風雲児たち

著者:みなもと太郎
ジャンル:漫画、歴史

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関ケ原の戦いから幕末までの歴史の流れを描いた漫画です。
Twitterで薦めていただいて読み始めたところとても楽しい&知識定着に役立ちました。
基本ギャグ漫画なのですが相当しっかりと史実を調べ上げ、いろいろな出来事の流れを繋げるように描かれているので頭にすっと入ってきます。
読前の僕の江戸時代に関する知識レベルは本当に「薩長ってどこ?誰?」とかそんな感じでしたが、なぜ倒幕に至ったかを江戸幕府成立から大きな流れとしてざっくりと捉えられるようになった気がします。
また時代の流れを変えた人物に要所要所でスポットライトを当ててその内面まできちんと描き切っているので、これまでただ名前と出来事のみしか知らなかった歴史上の人物が自分の中で生き生きと活躍するはずです。
徳川秀忠、田沼意次、間宮林蔵、シーボルト、ジョン万次郎、吉田松陰、そして坂本龍馬、このあたりが読んでいて思い入れが深くなりましたね。

<アメリカの大統領の決め方に衝撃を受ける坂本龍馬>

 
今期はこんなところです。
ではまた次回もお楽しみに。