点のクライミング、線のクライミング

点のクライミング、線のクライミング

先日久しぶりに出会った知人が、ランニングから入りトライアスロンにハマり、最近ではトレイルランニングにかなりのめり込んでいるとのことだった。

僕はトレランにはあまり詳しくなかったので、海外の難関レースが走行距離300km以上にも及ぶこと、その参加資格を得るためにそもそも近しいレース経験を持っていないといけないこと、などを聞いて新しい世界を知れて楽しかった。

その中で彼はトレランが好きな理由を次のように話してくれた。

「旅において飛行機などを使って観光地を単体単体で切り離して分散的に巡っていくようなやり方を”点の旅”とする。
それに対して、ある場所と次の場所を自分の足などで繋いで巡っていくやり方を”線の旅”と呼ぶ。
僕は後者を好んでいて、トレランはまさに”線の旅”なんだ」

この話を聞いて僕はとても共感できた。
そして”線の旅”というワードチョイスが僕の心にとても深く残ったため、自分の旅行の体験を振り返るとともに、クライミングも絡めて少し何か書いてみたいと思う。

 
 

僕の”線の旅”の経験

点の旅から線の旅へ好みが変わっていくというのは、ある程度海外旅行の経験を積むと誰しもに起きることではないだろうか。
僕は学生時代を中心に数回海外旅行をしたけれど、強烈に思い出に残っているのは

・友人と2人でウラジオストックから北アイルランドまで極力陸路で旅をしたこと
・彼女(今の妻、むっちゃん)と2人でネパールのルクラからエベレストベースキャンプまでトレッキングしたこと

の2つだ。
そしてこのどちらもまさに線の旅であった。
シベリア鉄道に1週間以上長々と運んでもらったという形だけれどロシアの広大さ知り、そこからヨーロッパを横断したことで地理や文化を生の肌で感じ取れた。
エベレストの麓を目指し徐々に過酷になる環境の中で街と街をめぐっていくのはどこかドラクエみたいで、自然への畏怖とともに自分たちの生命の活力と向き合えた。

こういった経験をしてしまうと、言葉は悪いのだけれど、単発で有名な観光地だけペロっと次々に見ていくような旅行にはあまり食指が動かなくなる。

 
 

深い”点の旅”の大切さ

一方で学生時代に数ヶ月インドに滞在していたという友人が次のように話していたこともいまだに時折思い出す。

「海外旅行で数日間だけある場所に滞在しても自分にとってはほとんど意味がない。
そこの地の文化とか思想とか歴史とかそいういうものは、現地の人と深く交流して政治とか宗教とかいった話まで踏み込んで議論をするくらいになって初めて自分の血肉になる
そのためには同じ場所に少なくとも1ヶ月以上は滞在したい」

たしかにこれもその通りなのだ。
僕もヨーロッパの町を線の旅で繋いでいったものの、同じ町には3日程度しか滞在しないのでほとんどが自分と友人の2人の視点に終始したといって良い。

それと比べてヨセミテにクライミングで40日近く滞在した時などは、狭いヨセミテ渓谷内ではあるけれど歴史まで含めてだいぶ深く知り自分の身になったと感じる。

つまり、深い点の旅にもまた線の旅にはない良さがあり、大切なものなのだと思う。

 
 

点のクライミング、線のクライミング

さて、話を旅行からクライミングに一気に切り替える。

この点と線の話を聞いて僕が真っ先にアナロジーを想起したのが
・点の旅:ボルダリング
・線の旅:マルチピッチ
というものだ。

クライミングには色んなジャンルがありその分類方法もたくさんあるが、シンプルに手数や長さで分けると、
・ボルダリング
・ショートルート
・マルチピッチ
・ビッグウォール(定義はわからないが数百メートル、数日かかるもの、か)
のようにも分けられる。

このいずれのクライミングも僕は好きであり「ボルダリングとマルチピッチどちらが好きですか?」などと聞かれるとこれまで非常に困ってきた。
ボルダーにはボルダーの良さがあるし、マルチにはマルチの良さがあるからだ。
しかし上の点と線の話を聞いて、なにか自分のなかで腑に落ちることがあった。

ボルダリングとは凝縮された数手のムーブそのものに面白みがある。
それがたった1手であろうとその厳しさと奥深さを堪能できるし、1手に一生を賭けるクライマーだっている。
まさに点のクライミングだ。

一方でマルチピッチは地面から上まで個性的なピッチ達を繋げて登っていくことが気持ち良い。
風変わりなピッチ、強度の高いピッチ、美しいピッチ、それらを連続的にこなして次は何が出てくるのかとワクワクしながら登っていくことに醍醐味がある。
まさに線のクライミングなのだ。

まとめるとこんな感じだろうか。
これは当たり前といえば当たり前で、前から感じていたことを単に点と線を使って言語化しただけなのだが、こういう言語化は重要だと思う。

より点を追及すればそれこそワンムーブを楽しむようなものに行き着くだろうし、より線を追及すればアルパインや登山に寄って行くのかもしれない。

<点と線のクライミング>

もちろん、ボルダリングにだって長い手数で線を引くような登りをすることもあれば、マルチピッチでも核心が1手に凝縮されたものもあるとは思う。

ただ僕としては「ボルダーは点」「マルチ/ビッグウォールは線」ということを心に留めておくことでクライミングがより楽しめる気がするし、なにか今後の自分のスタイルにも良い感じで表れてくれる予感がする。

 
 

終わりに

特に教訓とか結論があるわけではないれど、このあたりで終わる。
読んでくれた方がこの点と線の話に何か感じるところがあったら嬉しい。


最後に文中に出てきた話で過去にブログ記事にしたものがいくつかあるのでリンクを貼っておく。

<めちゃくちゃ懐かしい旅行記。途中で書くのを止めてしまった、、、>



<エベレスト街道トレッキングの旅行記、、、?>


<ヨセミテ日記>