2019年1月~3月に読んで面白かった本
少し遅くなりましが、恒例の3ヶ月に1度の面白かった本の紹介。
今期も良い本に巡り合えた確率が高かったです。
有名どころを中心に読んだからかもしれませんが。
それではさっそく書いていきます。
これまでの読書感想記事
FACTFULNESS (ファクトフルネス)
著者:ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド
ジャンル:思考法、統計学、世界情勢
もはやブームになりすぎていて今更紹介する必要のないスゴ本。
マスメディア、周りの知人友人、web上の人々、そして何より自分自身が、知らないうちに陥ってしまっている「世界の見方を歪める10の本能」とその対処法について書かれています。
<10の本能とその対処法>
この歪んだ10の本能によって僕らは「世界では戦争、暴力、自然災害、人災、腐敗が絶えず、どんどん物騒になっている。金持ちはより一層金持ちになり、貧乏人はより一層貧乏になり、貧困は増え続ける一方だ。何もしなければ天然資源ももうすぐ尽きてしまう」という間違った考えをしてしまいます。
普段生活している中で、薄々感じていたことを類型化・言語化してくれていてとても頭がすっきりします。
それと登場するグラフがどれも切れ味が鋭くて美しい。
グラフを作る人は参考になりますね。
既にいたるところで褒めちぎる書評が多いので僕はあえて穿った見方から意見を2つほど書いてみます。
1つは冒頭に紹介されている「チンパンジークイズ」(10の本能によってランダム以上の間違いをしてしまうクイズ)の内容と結果の信憑性について。
上のリンクからwebでクイズに挑戦できるのですが、用語の定義が曖昧過ぎて誤答を恣意的に誘導している気すらします。
例えば以下。
質問1 現在、低所得国に暮らす女子の何割が、初等教育を修了するでしょう?
A 20%
B 40%
C 60%
読むとまず「低所得国」って定義はなに?と普通は気になりますよね。
もしかすると実際の調査では定義も書いたあったのかもしれませんが、「低」とだけ書くと誤答に導かれる人も多いのではないでしょうか?
そしてもっと問題だと思ったのが、ちょっと勘ぐれる人ならむしろ上記のように質問されたら、
「これは”低所得国で女子なら教育を受けている割合が低いだろう”という思い込みで間違わせようとしているな。ということは一番高いC 60%が逆に正解ではないか」
とあまのじゃく的に考えると思うのですよね。
すんなりピュアにA 20%と答える人って本当にそんなにいるのだろうか、、、。
このクイズがどのように実施されたかによりますが、A 20%の正答率が高いならばこれは10の本能が原因でもあるとは思いますが「クイズの出題者の意図を全く疑わないピュアさ、思考停止さ」の方が問題であるとも僕は感じます。
2つ目は、これだけファクトフルネスが流行ったのに、結局は世論は一向に10の本能による歪んだ世界の見方から抜け出せていないというこの現状を見ると、本というものの無力さも感じてしまうことについて。
相も変わらずTwitterや2ch界隈はファクトを見ないで思い込み、噂話、先入観、で考え語っている人が多いです。
クライミング界でもここ半年くらいで、チッピング、アクセス問題、マナー問題、あらゆる問題が目白押しでしたが、多くのクライマーがファクトを確認しそれを積み上げないで自分の思い込みで空中に浮いた議論をしてしまっているように思います。
真にファクトフルネスの考え方が皆に浸透するには本当に気の遠くなるような長い道のりを歩まなければならないのかもしれません。
動画2.0 VISUAL STORYTELLING
著者:明石ガクト
ジャンル:ビジネス
ロバート秋山のような風貌で最近よく見かけるワンメディアの明石ガクトさんが「動画」について書いた本。
絵も多分に混ざっている上に文章が平易なのでとっても読みやすいです。
この本のキーポイントは、「映像」と「動画」の違いを以下のようにはっきりと言葉で明らかにしたことでしょう。
・映像とは、現実世界の時間の流れをそのまま収めたもの
・動画とは、情報が時間軸に対して凝縮されたもの
例えばYouTuberたちはほとんど前置きなく本題に入り、ジャンプカットといって会話の間を極端に編集でそぎ落とし、字幕や画像の挟み込みをふんだんに使い、映像を動画にしているのです。
さらに明石さんが提唱している指標として
IPT (Information Per Time)、という時間当たりの情報量、というものがあり、IPTが高いものがスマートフォンやデジタルサイネージなどスキマ時間で活用するもので好まれるとのことなのです。
そして今の世の中IPTが高いコンテンツがどんどん支持され溢れています。
音楽もいろいろな音が詰め込まれ速度は速くなり、文章もTwitterのような140文字に詰め込めまれたものが読まれ、漫才などでも例えば2018年のM-1で優勝した霜降り明星などはボケとツッコミの数と速度がものすごいです。
クライミングも近年好まれる課題は1ルートにギュッと詰め込まれているものですしね。
このIPTが高くなる傾向が今後どんどん進むのか、逆に落ち着いていくのか、我々はどこに行くのでしょうか。
リトル・ピープルの時代
著者:宇野常寛
ジャンル:社会論、サブカル論
評論家の宇野常寛さんのバッサリと言い切る語り口に最近ハマっているので、彼の出世作ともいえる『リトルピープルの時代』を今更ながら読んでみました。
「リトルピープル」とは村上春樹さんが『1Q84』などで登場させた造語であり、国家や大きな物語を指し示すビッグブラザーと対比させたものです。
近年になり、正しいもの、価値のあるもの、絶対的なもの、そういった旧時代では画一的に決まっていたと思われるものがなくなっていく。
しかし一方で、僕らはただ存在するだけで情報などのネットワークに接続されてしまう。
そいういった時代をリトル・ピープルの時代、と著者は定義していると思います。
サブカルを混ぜた論述も面白くて、
・ビッグブラザー=ウルトラマン
・リトルピープル=仮面ライダー
と位置づけ、そこからエヴァンゲリオンなどが生まれた構造などもとても頷けるものでした。
正直内容をどのくらい僕が理解しきれているか怪しいのですが、宇野さんが本書中で何度も述べている「誰もがこの時代は否応なく”小さな父(=リトルピープル)”として機能してしまう」という主張も、この本が発売されてから8年ほど経過した今においてより顕著になっているように感じられ興味深かったですね。
ビッグブラザーである国とか組織が定めたような画一的な人生レール・働き方は崩壊しつつあり、SNSなどの発達などもあいまってこの時代は僕らは本当に自分自身で生き方を決定しなければならない、すなわちリトルピープル的な小さな父になること急速に求められています。
それはある意味ビッグブラザーからの解放で自由にも思えるのですが、一方で僕らが何か間違った振舞いをしてしまったらビッグブラザーに罰せられる前に、悪意を持ったリトルピープル達に袋叩き似合い炎上させられ、場合によっては死に追い込まれる時代でもあるわけです。
どのような分野でもこのビッグブラザーからリトルピープルへの移行というのは起こるものなのでしょうかね。
クライミングもかつては大きい中心的なコンペとかが存在して「みんなこれを目指すもの!」という風潮が強かったように思えますが(まぁとは言いつつ昔から好きにひっそり岩を登っていたクライマーも多いけど)、きっとこれからは僕ら一人一人が小さな父となって自分のクライミングのやりたいこととかを決定し続けないといけない時代になっていくのでしょう。
<相関図とか汚くて恥ずかしいけれど、、、遥か昔に書いた『1Q84』の感想ブログ>
読書について
著者:アルトゥル・ショーペンハウアー
ジャンル:思想、哲学
ついつい長く書いてしまっているのでここからはサクッと。
ドイツの哲学者であるショーペンハウアーが読書、文章、思考、などを語った本。
200~300年も昔に書かれた本なのに、激しく同意の言葉が多すぎてkindleのしおりマークを付けまくってしまった。
昔の人って今より思想が浅いのでは、、、とか勘違いしがちだけれど、いつの時代も人間の本質的なところは変わっていないのですね。
賢者になりたければ歴史に学ばなければいけないと痛感させられます。
いくつか心に残った言葉を紹介しますね。
どんなにたくさんあっても整理されていない蔵書より、ほどよい冊数で、きちんと整理されている蔵書のほうが、ずっと役に立つ。
同じことが知識についてもいえる。
いかに大量にかき集めても、自分の頭で考えずに鵜呑みにした知識より、量はずっと少なくとも、じっくり考え抜いた知識のほうが、はるかに価値がある。
まず物書きには二種類ある。テーマがあるから書くタイプと、書くために書くタイプだ。
第一のタイプは思想や経験があり、それらは伝えるに値するものだと考えている。
第二にタイプはお金が要るので、お金のために書く。書くために考える。できるかぎり長々と考えをつむぎだし、裏づけのない、ピントはずれの、わざとらしい、ふらふら不安定な考えをくだくだしく書き、またたいてい、ありもしないものをあるように見せかけるために、ぼかしを好み、文章にきっぱりした明快さが欠けることからそれがわかる。
できる限り偉大な知者のごとく思索し、しかしだれもが使う言葉で語れ。
比喩は認識の強力な推進力となる。だからこそ意外性に富み、しかもぴったりの比喩を駆使できれば、深い理解力のあかしとなる。
現代オセロの最新理論
著者:佐谷哲
ジャンル:オセロ理論
実は僕は学生時代はオセロにどっぷりハマって毎日ネットオセロをして週末は実際の大会に出場していました。
2008年あたりはオセロにおいて人間以上の能力を持つソフトが一気にプレイヤーに浸透し、僕もソフトで定石を徹底的に研究するなどしてなんとか全日本選手権にも出場し三段を獲得しました。
しかし、当時から序盤や終盤の一部の理論こそ広く知られているものの、中盤を中心に本質的な理論は言語化されず高段者たちの間だけの暗黙知・共通知として発達していたように思えます。
僕ら中段者達はその一端は垣間見ることはあっても自分の中で確固たる理論は構築できず、ある意味付け焼刃であやふやに戦っていたと思います。
(当時は時代背景もあり、それでもある程度の段位が取れた)
そんななかオセロ界きっての理論派である佐谷七段が、オセロの最新理論をまとめ上げたのがこの本です。
僕は競技オセロの世界から遠のいて10年以上たち今は遊び程度にしかオセロをしませんが、これまで漠然と自分で思っていたこと、見聞きしていたこと、全然知らなかったことが理論化・言語化され感動の連続でした。
とにかく理で詰めていくという姿勢が素晴らしく、例えば辺の理論などもこのようにフローチャート化されています。
<賛否両論あるかもしれないが、辺の理論>
またちょっとした手筋というか石のひっくり返し方、形、にも名前を一つずつ付けていったのもとても良いです。
やはりなんでも名前が与えられて初めて他との違いを認識できますからね。
僕もクライミングでこんな美しくまとめ上げられた本を書いてみたいと、モチベートされました。
Change!
著者:曽田 正人、冨山 玖呂
ジャンル:漫画
『め組の大吾』『capeta』『昴』の曽田先生による、女子高生がラップをする漫画です。
題材は異色ですがストーリーやキャラ書き込みはさすがの王道で、めっちゃ楽しめます。
まぁ僕が日本語ラップバトルが好きというのもあるのですが。
バトルでライミングがしっかりしているなど本格的に展開されるから感心していましたが、晋平太さん(日本語ラップバトルの第一人者)が監修に入っているのを見て納得。
漫画好きもフリースタイルバトル好きもどちらも楽しめる内容だと思います。
<フリースタイルバトルは文字だけ見ると少し恥ずかしい。笑>
こんな感じですね。
ではまた3ヶ月後!
良い本との出会いがありますように。
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