蟹交線 5
蟹交線
5
カニ子に突然の結婚の話をされてから1週間が経った。
あれからカニ夫はホームでテレビを見てばかりだ。
すっかり生気がなくなってしまったようである。
「あんたさぁ、いつまでゴロゴロしてんのよー。」
「うるさいなー。」
「あ、そうだ。お父さんの部長の娘さんのカニ絵ちゃん知ってるわよね?あの子とお見合いしてみない?
いい子よー。確かあんたとのスポットもこのホームから近いわよね?もし結婚したら・・」
「うるせえ!!あっち行けよ!!!」
「なぁーにカリカリしてんのよ全くー。せっかくいい話持ってきてあげたのに。」
カニ夫はどうしようもない迷路に迷い込んでいた。
どこを行っても行き止まり。
どうすればいいのだろうか。
カニ子を思う気持ちだけは誰にも負けないと思っていた。
本当に?
触れたこともないのに?
会話をしているだけなのに?
カニ子にとって自分が恋人である意味は。
運命には逆らえないのか。
やっぱりカニ子が正しいのか。
この気持ちは嘘だろうか。
もう何もかもがわからなくなった。
全てやめてしまおうか。
そして何もかもがいやになってしまうその瞬間。
まさにその瞬間に突然光は差し込んだ。
そのときカニ夫が何気なく見ていたテレビでこんなニュースが報道されたのだ。
「速報です!速報です!あの世界一周の旅に出ていたフェルディナンド・カニラン氏が帰って来ました!
繰り返します!あの世界一周の旅に出ていたフェルディナンド・カニラン氏が帰って来ました!
専門家はこう述べています。
『ふむ、クリストファー・カニンブス氏によって新大陸が発見されまさかと思ってはいたが、本当にカニラン氏が帰ってくるとは驚きじゃのぅ。
しかも、世界を一周をする間、彼が計測する限り彼の軌跡は右にも左にも曲がってはいなかった。
つまり
世界は平らではなく球
ということを身をもって証明したわけじゃ』」
カニ夫は自分の中で何かがざわめき始めているのを感じた。
「『ふむ、つまりの皆さん御存知の通り、我々カニの軌跡は直線であるというのが常識であり、定説と思われていた。
しかにカニラン氏の帰還によって我々は考えを改めねばならない。
そう、この世界が球であり、カニラン氏が曲がらずまっすぐ行って同じ場所に戻ったということは
我々の軌跡は直線ではなく大円
ということなのじゃ』」
カニ夫はこの専門家の話を聞くか聞かないかのうちにもう家を飛び出していた。
そして専門家は続ける。
「『ふむ、平面上で非平行な二直線の交点はたしかにただ一つじゃ。これは我々がほとんどのカニとスポットを一つ持つことからもわかるのう。
まれにお互いに平行でスポットがないもの同士もおるがのう。
しかしこの考え方は間違っていたのじゃ。
我々の軌跡が大円だとするなら
すべてのカニの組は互いに2つのスポットを持つ。
ということなのじゃ。フォッフォッフォ。』」