蟹交線 4
蟹交線
4
午前5時。
寒空の下、カニ夫を待つカニ子。
そのそばにはあの岩がそびえ立っている。
(パーを出すってカニ夫君なに考えているのかしら。)
そう思っているうちに東の空が白み始めた。
(あぁ、もうすぐしたら初日の出がきてみんな騒ぎ始めるわ。私はいつもどおり一人拝めないまま。慣れっこだけどさ。)
そこへ遠くのほうから一生懸命何かを背負ってカニ夫が歩いてきた。
「ごめん!予想外に重くて時間かかっちゃった!今持って行くから待ってて!」
そう言ったカニ夫が背負ってきたものは、大きな真っ平らな鏡。
「どうしたのその鏡・・・!?」
「家の洗面台のを引っぺがしてきた!」
「えぇーっ!そんなことして平気なの!?お母さんに怒られたでしょ?」
「うーん・・・お母さん寝てるからさ。でも起きたら怒るかもね。まぁカニ子ちゃんはそんなこと気にしなくていいのっ。」
「でもその鏡どうするつもり?・・・あっ!」
どうやらカニ夫の考えにカニ子も気づいたようだ。
「へへっ、パーってのはこういうことさ。このパーみたいにでっかい鏡に、地平線と太陽をパーっと映してカニ子ちゃんに見せてあげるよ!
よっこらせっと、この角度で平気かなっと。」
カニ夫はカニ子に太陽が見えるように大きな鏡を地面に置いた。
「カニ夫君・・・」
いよいよ太陽が昇り始める。
周りにはそれを見つめる子供、大人、家族、恋人たち。
カニ子もしっかりと鏡を見つめている。
カニ子にとって生まれて初めての初日の出。
一生見ることはできないって思っていた初日の出。
そして・・・ついに太陽がその姿を見せた。
わーわーわー!
昇ったぞー!
今年もいい年になれー!
歓声が鳴り響く中、カニ子は泣きながら鏡に映る初日の出を見つめていた。
「ありがとう・・・本当にありがとう・・・。」
「ふふっ、カニにだってパーは出せるんだぜ。」
あの日決して交わることのない二直線は間違いなく交じり合った。
確かに交点を持った。
しかし今、その交点は再び消えようとしている。