クライミングで、面白い課題って何だ? ~客観・網羅編~

クライミングで、面白い課題って何だ? ~客観・網羅編~

昨日は「面白い課題」に対して僕の主観を述べさせてもらいましたので、今日はもう少し客観的に、網羅的に考えてみたいと思います。

<面白い課題 主観編>


そもそも、面白いって何ぞや

まず「面白い」とは何なのか、ということから考える必要がある。
わかりやすさのため「面白い」という日本語を使ったが、これはもう少し色々な感情を含んだ言葉と捉えた方が良い。
面白い、ワクワクする、ドキドキする、好き、楽しい、もう一度やりたい、、、とにかくポジティブで快感的な反応を僕らが示す課題を考えたいのだ。
更に後述するが、仮にネガティブが多少混ざった感情を抱いても、その課題がどうしても忘れられないとか、どこか心に引っかかるとか、そういう想いが沸けばそれは広義的に「面白い」に含まれるのかもしれない。
そして、僕らがこういった反応を示すとき、脳内で「ドーパミン」などの快感を与える神経伝達物質が必ず出るはずだ。
よって、以下ドーパミンなどの脳に快楽を与える神経伝達物質が放出されるケースを挙げ、そこから「面白い」クライミングの課題を網羅的に考えるアプローチを取る。
(僕は神経系の話はそれほど詳しくはないので間違っていたら教えて欲しいです)

 
 

ドーパミンなどの神経伝達物質が放出されるケース

まずドーパミンがでる場合を少しググってみた。
例えばこの論文「ドーパミン分泌のトリガー」を意識した再犯抑止対策の提案」(宮尾茂)には以下の表がにまとめられている。

他にも中野信子さんの本『脳内麻薬――人間を支配する快楽物質ドーパミンの正体』の書評記事などにもいくつかリストアップされている。

まだ完全に解明されたわけではありませんが、次のようなとき、ヒトの脳の中にはドーパミンが分泌されていることがわかっています。
 ・楽しいことをしているとき
 ・目的を達成したとき
 ・他人に褒められたとき
 ・新しい行動を始めようとするとき
 ・意欲的な、やる気が出た状態になっているとき
 ・好奇心が働いているとき
 ・恋愛感情やときめきを感じているとき
 ・セックスで興奮しているとき
 ・美味しいものを食べているとき

以上から「飲食物」「恋愛」「セックス」など、おそらくクライミングの課題とは結びつかないものを排除してまとめてみると(いや、結び付けられる天才セッターがいるかもしれないが、笑)
・「目標・達成感」
・「楽しい・爽快感」
・「周囲から評価」
・「美しさ・感動」
・「新しさ・好奇心」

・「リラックス」
などにまとめられる。

 
 

面白い課題の要素

上で挙げた6つの要素から、「面白い」課題を客観的・網羅的に考えてみる。

 

目標・達成感

これはかなりわかりやすいだろう。
例えば「主観編」でも挙げたように、「自分の限界に近い強度や動きである」というのは目標になりやすく達成感も感じやすい。
また目標に向かって自分のクライミング能力を成長させてくれる、いわゆる強くなれる課題というのも好まれるだろう。
あとは上手く言葉で説明できないが、「登りごたえ」みたいなものが入っている課題も達成感に繋がるかも。ある程度の数の核心があって、一筋縄じゃいかないとか。

 

楽しい・爽快感

これも「面白い」を説明するのに「楽しい」と言う言葉を使っているのでトートロジーな気もするが、クライマーなら感覚的には理解してくれるだろう。
「主観編」で述べた「前後の動きが入り立体感がある」というのも楽しい動きと捉えられる。
爽快感はランジやコーディネーションなどダイナミックな動きを止めた瞬間は感じると思うし、岩ならばロケーションが素晴らしいところにある課題は爽快感を感じるはずだ。

 

周囲からの評価

周りからの評価とか尊敬を気にするのは”クライマー的じゃない”と考える人もいるだろうが、この評価に僕らの脳が反応してしまうのは事実だろう。
歴史があるなどクライミング界隈で一定の評価がされている課題、高グレード課題、登れていない人が多い課題、SNSでたくさんのいいねが付く課題、そういったものが登れるときっと誰しもが快感は感じる。

 

美しさ・感動

何をもって美しいとするかは難しいが、課題の見た目は「面白さ」を感じる重要な要素だ。
単にアートのような見た目に芸術性を感じる場合もあれば、「主観編」で述べたように「無駄がない」ことに美しさを感じることもある。
また「感動」というのはおそらく課題それ単体だけでは決まらない。
自分と課題の間にあるストーリーから感動することもあるし、コンペ観戦などのドラマチックな試合展開、誰か別のクライマーの岩に対する歴史や取り組みに感動してしまい、結果として課題に「面白かった」という評価が下されることはあるだろう。

 

新しさ・好奇心

これも感じるクライマーが多いと思うが、自分がやったことのない新しい動きやムーブというのは「面白い」。
というかこれを言ってしまうと何でもありなのだが、新しい課題に取り組むこと自体かなり楽しい行為である。
ましてやそれが自分の初登課題などだったら、その感情は倍増するだろう。
また冒険的な要素が強くて、例えば先に何が待ち構えているかわからない好奇心をくすぐるルートにも僕らは惹かれるはずだ。

 

リラックス

これは他の5項目とは少し異なるかもしれない。
このように逆に解釈することがあっているか自信がないが、リラックスできない課題に対しては時に僕らは「面白い」とストレートに受け取れないことがあるだろう。
例えばそれは「痛い」「怖い」「怪我のリスクがある」などであろうか。
こういった要素は極力排除した方が好まれる傾向にはあると思う。


ただ少し調べるとドーパミン以外に、恐怖・不安・緊張で放出される「ノルアドレナリン」にも依存的な効果があったり、有酸素運動で放出される「βエンドルフィン」にも高揚感や幸福感を与える効果があるようだ。
神経伝達物質の分類や仕組みをきちんと理解していないが、「リラックス」と相反するようで適度な緊張感などはたしかにクライミングでもやみつきになるので面白さに繋がる気もするし、課題を通して有酸素的に疲れるとランナーズハイのようで楽しくなってくるというのは納得できる。

 
 

まとめ、と次に考えるべきこと

まとめると以下のようになる。
結果的に8項目になってちょっと切れ味が無くなってしまったが、網羅性は出せたのではないかと思う。




そして網羅的に出したのはよいのだけれど、「一体どの項目が、どんな人に刺さるのか。それはどう決まるのか」というのは本当は考えた方が良い。
わかりやすいところでは「リラックス」と「適度な緊張」はどちらを優先する人が多いのか、それはどのように決まるのか、などだ。
まぁこれはすごく大変そうなので、またの機会とする(得意の永遠の保留)。

ではまた明日!



参考文献

家にあるものの英語なので眺めただけでほぼ読んでいないが、ルートセットに関して体系的にまとめられたジャッキー・ゴトフの『My Keys to Route Setting』は「面白い」課題を考える上で参考になりそう。

それと以前もブログで紹介した『快感回路』は人間の快感についてまとめた良書です。