『クライマーズ コンディショニング ブック』 コンディショニング・ケアの虎の巻
先日発売された『クライマーズ コンディショニング ブック』。
一通り読んでみましたので、概要説明&感想、オススメ箇所、前身となる『クライマーズ・ボディ』との違いなどを書いてみます。
<『クライマーズ コンディショニング ブック』>
クライミングに深く関わる人、生涯登り続けたい人、必読
『クライマーズ コンディショニング ブック』はクライミングをきちんとスポーツ的に捉え、そのフィジカル面やメンタル面のコンディショニングやケアの方法について書かれた本です。
著者はクライマーの菊地敏之さんに加え、クライマーであり医師でもある前之園多幸さん・六角智之さん、と最強の布陣。
2005年に発売され一時ネット上などでも品薄となっていた伝説の本『クライマーズ・ボディ 』を加筆修正したものとなっています。
近年クライミングをする人の裾野が広がり、またトップレベルのクライマーに求めれる身体の動かし方もより複雑化している中、本書はかなり深いレベルでクライミングを生理学や解剖学的な観点から記述されています。
本書の冒頭にも書かれているように
・これからクライミングを本格的に始める人
・ユース選手
・その親や指導者
・生涯元気に登り続けたい人
・クライミングを深く科学的に知りたい人
などが対象でしょうか。
クライミング界の二大巨頭のインタビュー
まず本編に入る前にクライミング界のスーパーレジェンドである平山ユージさんと小山田大さんのインタビューが載っています。
おそらく以前『Rock&Snow』などに載ったものの再掲ですが、2人の最近のクライミングの活動、トレーニング、コンディショニング、などについて細かく語っていてこれだけでこの本を買う価値ありの内容。
個人的に平山さんの言葉で印象に残ったものは以下。
10代の頃は、いわば瞬間芸的な登り方だったと思います。
とにかく今この瞬間をものにすればいいんだという感じで、もう一回登れと言われたらそれはできなかったと思う。
でも今は、例えばパチンコゲームなんかでも、何回でも登れるように思います。フィジカル的にはもちろん昔の方が上なんだろうけど、技術的なコントロールは今の方ができてるように感じます。
小山田さんでは
(ボルダー力とは具体的に?)
悪いホールドへの対応力ということで、簡単に言えば指の保持力ということなんですが、単に指の力だけかと言うとそれだけでもない。
体全体の強さと言ったらよいのかな、要するに、体全体で悪いホールドを処理していく力です。
(それはどうやって鍛える?)
まずジムのボルダーでも、できるだけ悪いホールドを付けたものでやらないとダメですね。
それで、できるだけ実際の岩に近い感じの課題を作る。
などがめちゃくちゃ参考になります。
他にもインタビューの端々が見逃せないです。
読むべし。
高レベルのコンディショニング・ボディケア
本編の第1部はコンディショニング編で、
・人体の基礎知識
・コンディショニング
・ボディケア
などについて書かれています。
まず最初に筋肉の仕組みから入って、クライミングで筋協調性を如何にアップしていくかに行き着く流れ。
この筋協調性に焦点を当てて、クライミング能力のレベルアップを図解したものは面白いです!
その後のコンディショニングやボディケアも栄養摂取やストレッチなどから入って、体に悪い動きを網羅的に挙げていたり、故障やリハビリまで触れているので、クライマーだけでなく指導者が必ず頭に入れておくべき事項だといえるでしょう。
ただ1つ注意点を挙げるなら、内容は一般人にとっては高度なものとなるので、書かれていることを消化しきれる人は多くはないかもしれません。
のっけの1ページ目から
(筋肉の)収縮は、筋原繊維内に規則正しく並んだミオシンとアクチンという2種類のタンパク質のフィラメントが、細胞内にある化学物質のATP(アデノシン3リン酸)の働きによってスライドすることで行われる。
などと書かれるので、知識がない人がまじめに全部読もうとするとついていけなくなる可能性あり。
・もっと基本、例えば「三大栄養素ってそもそも何?」「エネルギーってなんだ?」とかそいういうレベルの易しい本やweb記事を先に読んで基礎知識をつける
・掻い摘んで、理解できそうな箇所のみ読んでいく
・必要になったときに本書に立ち返る
・頑張ってwebとかで調べながら勉強のつもりでじっくり読み進める
のどのパターンで読むのが良いのか、自分のクライミングステージや必要性によって変わるかもしれませんね。
個別具体的なメディカルケア
第2部はメディカルケア編であり、クライマーが実際に怪我や故障をしやすい部位ごと(頭・首、肩、肘・手首、指、腰、膝・足)に具体的な予防方法、ケア方法、症例が載っています。
解剖学的な観点からきちんと記述されていて、ここまで詳しいものはなかなかない素晴らしい内容。
こちらもトレーナーや指導者は細部まで頭に入れる必要がありますが、おそらく大半のクライマーにとっては
“今自分はこの部位が調子悪いんだよなー。何かケア方法など載っているかな、、、”
といったように辞典的に活用することになるでしょうかね。
網羅性に優れ、また各項目が丁寧に書かれているので、体に悩みを抱えるクライマー(≒すべてのクライマー)が本書から改善の手がかりを得られるはずです。
図解も以下のようにわかりやすく豊富な点もgood。
<肩のケア>
生涯クライミングを楽しみたいならば、手元に置いておけば本書に助けられる日が必ず来るはずです。
『クライマーズ・ボディ』との違い
こうしてみると、基本的に内容の大筋は『クライマーズ・ボディ』を引き継いでいます。
違いとしては、クライミング理論的なことが少し減りコンディショニングやケアの項目や図解が大幅に増えた、という点でしょうか。
具体的には、
「負荷の設定」、「体幹vs体芯」、「初登負荷理論」、など『クライマーズ・ボディ』でクライミング理論として独特に記述されていた箇所は割愛されているように思えます。
それと冒頭の15年前の平山ユージさんのインタビューも新しいものに置きかわっていますね。
それに代わって多くの部分でコンディショニングやケアを中心に図解が充実しましたが、加えて新たな項目も増えています。
例えば「女性への注意点」「初心者への注意点」「指導者への注意点」などは個別に2ページずつ割かれるなど、力を入れて書かれていますね。
このあたりはかなり需要が高い内容で、参考になる人が多いのでは。
障害に関する最近のインタビューや調査結果もあって、より現代においても信頼がおける内容となっているでしょう。
というわけで、つまり新旧両方の本とも手元にあるとbetter!
<『クライマーズ・ボディ』>
こんな感じです。
とにかくクライマーは身体が資本。
故障をして登れなくなったら人生の大半が意味を失ってしまいますからね。
頑張って100歳までみんなで登りましょう。
ではでは。
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