クライミングの”器”自体を大きくする
ヨセミテから帰ってきて2週間程が経った。
未だにツアー前のクライミング力に全く戻っていないけれど、ここからの自分のトレーニング方針について書いてみる。
最近2年間のトレーニング
ここ2年ほどはボルダリングコンペに出なくなり、岩を中心にシングルピッチのクラックから始めヨセミテのビッグウォールに向けてトレーニングをしていた。
具体的には、以下など。
・プロテクションセットやロープワークの習得
・ジャミングの強化
・持久力の向上
・マルチピッチへの慣れ、etc…
結果として、この11月にヨセミテのFreerider (フリーライダー、29ピッチ、5.13a)にチャレンジしレッドポイントできないピッチはあったものの、この2年間の準備やトレーニングの効果は実感できた。
ボルダー力の頭打ち
一方で冷静に自分の成果や実感に基づくと、ここ2年間でボルダー力は伸びていない。
2年前の時点で二段やV9くらいは打ち込めば登ることができ、簡単な三段やV10も登っていたが、レッドポイントグレードは今でも同じだ。
インドアにおいても、ホームジムの初段は甘めか相当得意系でなければ登れないというのも変わっていない。
その理由として大きいのは冒頭に挙げたように、マルチピッチやビッグウォールに主眼を置いてきたからというのはある。
例えばフリーライダーも核心で必要なボルダー力はV8程度と言われているので、とりあえず今の自分のボルダー力で十分だろうと考えてきた。
最大筋力・出力に余裕があることの大切さ
しかしシングルピッチからビッグウォールまでそれなりのグレードのルートを触るようになってきて、当然だけれどボルダー力は高ければ高いほど武器になるとも感じている。
5.13台ならばムーブ強度はせいぜい二段におそらく収まる。
ただ、最高グレードが五段の人がやる二段と、最高三段がやる二段は大きく異なるトライになるだろう。
五段の人は多少ムーブに間違いがあったり、ホールディングをミスったりしても押し切れる可能性は高い。
一方で三段の人は登り切る力はもちろんあるのだけれど、ムーブやホールディングがかなりの部分でバチっと合わないと登ることは難しい。
これは特にオンサイトトライにおいて顕著になると僕は考える。
クライミングにおける水と器
上記のような概念を考える時、かつて人から聞いた受け売りだが、僕は水と器を思い浮かべる。
(以下、生理学的には大雑把な理解だが僕はこうイメージしているということです)
自分が耐えられる限界の負荷が「器の大きさ」であり、そこに負荷や疲労を表す「水」が流入してくる。
器から水を排出することで疲労から回復していくが、水の量が器を超えて溢れた時点で筋力的に耐えられなくなりフォールする。
良い動きを身に付けたり何度もムーブ慣れすることによって、水の流入量は減らせる。
水が器から溢れそうになっても上手くレストをすることで水が出ていくし、リードが上手いクライマーは登りながらでも一瞬のシェイクなどで水をどんどん排出していつまでも登り続けられる。
ボルダーしかやっていなかった僕がこの2年間注力してきたことはまさにこの「水の流入量を減らすこと、排出量を増やすこと」なのだ。
ボルダー三段の器を持つ人が5.12台にトライするとき、それぞれのムーブ強度自体は1級や2級に収まるはずだが、ムーブがでたらめならば水が一気に入ってくるし排出する能力がなければあっという間に溢れフォールする。
これがボルダー力だけではルートを登り切れない要因だ。
ただ反対に、器の大きさがそもそも三段しか無い人のところに二段の負荷の水が連続して入ってきたり、一発で三段や四段の負荷の水が瞬間的に入ってきたら排出能力がどれだけ高くても関係ない。
その瞬間に溢れて終わる。
今の自分にとっても5.13台のルートのトライというのはこれに近いイメージで、ちょっとでも変な動きをしたら一瞬で水があふれて終わってしまう。
ムーブを解析しまくって流入量を減らしたりレストポイントの発見とかで排出の仕方を極めればいずれレッドポイントはできるが、少ない便数で登ったりオンサイトをすることは想像することが難しい。
器を大きくするステージ
マルチやビッグウォールで丁寧なムーブを起こしたり足を上手く使って水の流入量を減らすこと、登り込みによって水の排出能力高めること、それらはとっても大切だ。
ただ今の自分は耐えられる器を大きくするステージ、端的に言えばボルダーの最大グレードを押し上げる時期に再び差し掛かっていると感じる。
今回のフリーライダーも5.13aのBoulder Problemピッチは結局3トライして登れなかったが、持久力の問題ではなく四段や五段が登れる力を付けていれば時間内に解決できていたはずなのだ。
今の自分はオンサイトトライで多少間違えて変なことをして水がドバーっと入ってきても、そんなもんじゃ溢れない器を作らないといけない。
あらぶった登りでも水がこぼれないくらい器を大きくしないといけない。
器を大きくするには
一口に”器を大きくする”と言ってももちろん簡単じゃない。
過去ボルダーコンペに向き合ってきたのに結局大した結果を残せていない自分にはその難しさはわかる。
ただ少なくともあの頃は、
“できない一手ができるようになりたい”
“何としてでもこのボルダー課題を登ってやる”
というマインドで常に練習していたように思える。
対してここ2年は、
“まぁボルダー力は維持でも今は良いか”
と頭の片隅で考えている。
ここをまず変える。
強度にこだわる。
むしろ、持久力やクラック能力は今は一旦維持でも構わない。
再びボルダーに注力する局面が来たのだ。
具体的には、シンプルだが以下だろうか。
・単純な基礎トレーニングによる、引き付け力と保持力のベース向上
・インドアでも岩でも強度のある課題を触り、登り切る
楽しみだ。
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