クライミングでグレードを上げていくと、どこかで断絶を感じる理由
“ボルダリングって〇級からいきなり難しくなりますよね?”
“△級と△-1級ってめちゃくちゃ差がありませんか?”
という声をよく聞く。
〇や△に入る数字は人によって異なるだろう。
5級の人もいれば2級の人もいれば、初段の人もいる。
ボルダリングに限った話ではなく、リードでも同様のことを感じることはあると思う。
それまではグレードの難しさが連続的に繋がっていたはずなのに、あるところでジャンプアップしたかのように突然手も足も出なくなってしまう。
グレードの難易度が滑らかに上がっていなくて、非連続的な進化をこちら側に求められているような状態に陥って先に進むことが絶望的に感じてしまう。
なぜ人によって、あるいはクライマーとしての段階によって、そのような「グレードの断絶」を感じてしまうのか、少し考えてみる。
<グレードの断絶イメージ。なんとなく3級と2級のあいだ>
スタティックとデッドポイントの例
例えば単にホールドを持って引くだけの課題を想定する。
グレードが上がっていくに連れて、
・ホールド自体が悪くなる
・足が少し踏みづらくなる
・少し取り先が遠くなる
もしそのような変化しか課題に起きていないならば、たとえ登れないにしてもある程度連続的に難しくなっていると受け入れられ、努力と鍛錬の先に完登があるように思えるはずだ。
しかしもしあるグレードまでどんな課題でも常にスタティック(静的に引き付け)で登っていた人が、次のグレードになったときにデッドポイント(ダイナミックに勢いを付けて)でなければ登れない距離感の課題に出会ってしまったらどう感じるだろうか。
おそらくその人の登りの引き出しにはデッドがないので、”こんなのできっこない”とグレードの断絶を感じるだろう。
(もちろん、クライミングへの対応力がある人ならば、その課題をやる中でデッドを覚えて自然とこなしてデッドを学習する)
一方でその下のグレードから状況に応じてデッドというものをある程度使っていたクライマーならば、グレードを上げた際にデッドでしか攻略できない課題に直面したとしても、そこでデッドを用いていずれは登り切るだろう。
少なくとも登れないにしても、やったことのある動きの延長なので難易度が急激に上がったとは感じづらいはずだ。
つまりグレードの断絶はそこにはない。
グレードの断絶が生じる要因
グレードの断絶が生じる要因は2つある。
1つは普段登っているジムの課題があるグレードで「本当に断絶している」ケース。
上の例に当てはめるならば、3級までは全くデッドをする必要が無い課題ばかりなのに2級になると急にデッド課題だけになれば難易度のジャンプアップは誰でも感じる。
こういう状況の時は断絶を感じながらも頑張って2級でデッドを覚えるか、誰かに3級のデッド課題を作ってもらうしかない。
もう1つは登る側に問題があるケース。
3級からデッドを使うことで自然に楽に登れる課題というのはちらほら顔を出し始めているのに、その人が頑なにスタティックに引き付けまくって登っていた結果、そのツケが2級になって急に発現したという場合だ。
こういうケースはかなり多いと思う。
しかもスタで登りまくっているので保持力と引き付け力は周りと比べるとなまじ向上しているので、”保持力があって強い人”などと周りから思われる存在になっていたりする。
でもあるグレードからホールド間の距離がその人の限界的な筋力とリーチに達し、デッドでなければ絶対に次のホールドに届かないという現象が生じる。
悲しいことがだ、その人のクライミングスタイルの延長上に次のグレードはない。
(それでも徹底的にひきつけを鍛えれることで解決しているクライマーは現実的に存在するが)
まさにへたくそなムーブの名人になって、弱い環の悪循環に陥っている。
<懐かしい参考ブログ>
グレードの断絶が起こりやすいホールディング、ムーブ、身体の使い方
この問題は色々なホールディング、ムーブ、身体の使い方で顔を出す。
「スタvsデッド」以外で典型的なのは、「カチ持ちvsオープンvs親指を使うホールディング」だろうか。
常にあらゆるホールドをクリンプ(カチ持ち)で持ってきたクライマーがグレードを上げていって、絶対にクリンプできないような外傾したピンチやスローパーが出てきた途端に何もさせてもらえない場面に遭遇しているのはよく見かける。
他にも詳しく説明はしないけれど、以下のような登り方の違いでこの断絶を感じる人が多いだろうか。
「正対vs側対」
「下半身主体vs上半身主体」:絶対に足を残す登りと、キャンパ的な登り
「ヒールvsトウ」
「前腕で握るvs背中で抑える」
「持つvsきかせる」:握って登るのと、きかせてごまかして持ったフリで登るの(ところで「効かせる」と「利かせる」どっちが正しい漢字だ?」
ではどうすれば良いか
他の記事にも散々書いたけれど、僕自身この絶望的な断絶に悩まされてきた。
未だに正対クライマーだから側対課題になるとヘボくなるし、かつては足が切れる課題が全く登れなかった。
最近でもクラック課題でジャミングをごまかしてきたツケがまわってきて、名張の「いかさま師」(5.12b)などは最初は5.13以上に難しく感じた。
ではどうすれば良いのか、どうやって僕はある程度克服してきたのかと言うと、これまた言い古された結論だけど、登れる課題であってもその課題にあった適切で自然な登り方をするべきなんだと思う。
もう少し噛み砕くと、将来を見据えたときに自分のクライミング能力が向上するポテンシャルのあるホールディング、ムーブ、身体の使い方を選択すべき、ということだろうか。
どうしても曖昧な表現にとどまってしまうけれど。
でも一方で同じ課題を登るときに、持ち方も体の動かし方も全然違くても登れてしまうというのもまたクライミングの面白さであり奥深さだから、あまり「自然」とか「適切」という言葉で小さく括るのも違う気もするから難しい。
それと、コンペとか絶対にここ一番で登りたい岩の課題との対峙ならそこは適切も自然もへったくれもない。
自らの集大成を発揮する場だから得意系で押し切って登ることが正義だろう。
終わりに
なんだかいつも同じことを少し見方を変えて何度も言っている。
でも大切なことは何回でも書こう。
あと書いていて思ったのは、最近自分は
“難易度の断絶は感じないけれど、別に単に保持力が弱いからあとちょっと握れない、あとちょっと引けない、あとちょっと届かない、から登れない”
という状況もめっちゃたくさんあるなと。
適切な動きも大切だけど、単純に強くなることもそれ以上に大切。
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