2018年1月~3月に読んで面白かった本
2018年に入ってこれまで以上に岩でのクライミングに明け暮れているのであまり本も読んでいませんが、恒例の面白かった本シリーズ。
正確には量を読んでいないというよりは、若い頃と比べて自分の琴線に触れる本や漫画と出会う頻度が減った気がするんですよね。
やっぱりクライミングが面白すぎるんだな。
みみずくは黄昏に飛びたつ
著者:川上未映子、村上春樹
ジャンル:対談、インタビュー
20歳前後の僕が最ものめり込んだ日本の小説家は村上春樹さんと川上未映子さんかもしれません。
本書は村上さんの長編小説『騎士団長殺し』が発売されたことをきっかけに、川上さんが村上さんにインタビューをしたもの。
誰よりも村上春樹フリークである川上さんが巧みに村上さんの人生観や小説観を引き出してくれるので、村上さんの思考や思想をこれまで以上に具体的に捉えることができます。
世の中には村上春樹を分析した論説が山ほど溢れかえっていますが、例えば当の本人はインタビューの中でこんなことを言っています
当時の文芸世界、というか文芸業界でいちばん幅をきかしていたのは、いわゆる「テーマ主義」だったと思います。
そして僕はそういうものにはほとんど興味を惹かれなかった。
だから、『ねじまき鳥クロニクル 』なんて、この小説のテーマは何なんだと言われたら、まったく答えられない(笑 )。
(川上さん)自分で解釈したり納得したりすることは、まったくない?
ない。
頭で解釈できるようなものは書いたってしょうがないじゃないですか。
物語というのは、解釈できないからこそ物語になるんであって、これはこういう意味があると思う、って作者がいちいちパッケージをほどいていたら、そんなの面白くも何ともない。
こういう発言をみるに僕らは村上さんの本質をこれまで全然見抜けていなかったのではないかとすら思わされます。
他にも「小説家のマジックタッチ」「文章を書く際の2つの基本方針」「川上さんの文体の話」などなど興味深いテーマが満載です。
村上さんや川上さんの本が好きな人なら絶対に必読なはず。
アンダーグラウンド
著者:村上春樹
ジャンル:ノンフィクション
1995年に起きた日本史上最大のテロ事件とも言える地下鉄サリン事件の被害者に村上春樹さんがインタビューをし、それをまとめたもの。
僕はこの本の存在はもちろん知りながら内容の重さなどから無意識的に敬遠していましたが、『みみずく〜』の中で何度か本書が触れられていたためようやく腰を据えて読んでみました。
被害者の方々の事件前の生活の様子、事件当日のリアルな描写、そして事件後の話までが基本的には生の声でその核を失わずに(ほんの少しの村上”マジックタッチ”と共に)綴られています。
インタビューを読むことで村上さんが
おそらくそれは一般マスコミの文脈が、被害者たちを「傷つけられたイノセントな一般市民」というイメ ージできっちりと固定してしまいたかったからだろう。
もっとつっこんで言うなら、被害者たちにリアルな顔がない方が、文脈の展開は楽になるわけだ。
そして「(顔のない)健全な市民」対「顔のある悪党たち」という古典的な対比によって、絵はずいぶん作りやすくなる。
私はできることなら、その固定された図式を外したいと思った。
その朝、地下鉄に乗っていた一人ひとりの乗客にはちゃんと顔があり、生活があり、人生があり、家族があり、喜びがあり、トラブルがあり、ドラマがあり、矛盾やジレンマがあり、それらを総合したかたちでの物語があったはずなのだから。
ないわけがないのだ。
それはつまりあなたであり、また私でもあるのだから。
と語るように、本書を読めばこれまでメディアのみからイメージを受けていた地下鉄サリン事件というものが自分の中で少し違ったものに見えるのではないでしょうか。
世界を変えた6つの飲み物
著者:トム・スタンデージ
ジャンル:歴史
僕は世界史や日本史には全く詳しくないのですが、歴史の本を読むことは大好きです。
この本は10年以上前に発売されたベストセラー。
およそ1万年ほど前、人類は水以外の飲料を作り出しそれ以来飲料は「安全な飲み物」というだけでなく「通貨の代わり」「宗教行事の必需品」「政治的シンボル」「哲学的・芸術的発想の水面の」など様々な役割を果たしてきました。
この本では各時代の中心的存在だった「ビール」「ワイン」「蒸留酒」「コーヒー」「茶」「コーラ」という6つの飲み物によって世界史を区分けしながら人類史を追っていきます。
前者3つがアルコールを含み、後者3つはカフェインを含んでいることからこれらの成分は常に生活と密接な関係にあり、如何に人間に大きな影響を与えてきたかもわかりますね。
生活や社会の中心的飲料がアルコール飲料からコーヒーに変わっていく際の記述などもなかなか面白いです。
コーヒーは17世紀のヨーロッパ社会に非常に大きな衝撃を与える。
当時最も広く飲まれていたのは、朝食の席でさえ、弱いビールとワインだったからだ。
これらは汚染の可能性が高い水よりもはるかに安全な飲み物として好まれていた(ちなみに蒸留酒は生活に欠かせない主要な飲み物ではなく、酔うために飲むものだった)。
アルコールの代わりにコーヒーを飲むと軽く酔ったくつろいだ状態ではなく、きりりと冴えた頭で一日を始められたため、仕事の質も能率も格段に向上した。
飲むものを酩酊させる代わりに覚醒を促し、感覚を鈍らせて覆い隠す代わりに知覚を鋭敏にする飲料、と考えられたのである。
平易な文章で身近なものを扱っているので読みやすくおすすめの一冊です。
日本の登山家が愛したルート50
著者:「岳人」編集部
ジャンル:クライミング、登山
少し前にこのブログで触れましたがあらためて紹介。
登山家やクライマーなどが以下の条件から「マイフェイバリットルート」について書いています。
・日本国内であること
・誰も知らない山やルートではないこと
・自分が初登したルートではないこと
タイトルから登山系の本のイメージを持ってしまうのですが、その中の半分近くはフリークライミングでありボルダーも含まれているのでクライマー界隈の人が読んでも相当楽しめる内容です。
まず何が最高かというと、初っ端から杉野保さんの「エクセレントパワー」(小川山)で始まり個人的にはテンションマックス。
そこから平山ユージさんの「任侠道」(二子山)、室井登喜男さんの「ひも」(三峰)、大岩あき子さんの「春うらら」(瑞牆)、飯山健治さんの「屋久島フリーウェイ」(屋久島)などなどその他にも挙げきれないほどの歴史的にも意味のあるルートが名を連ねます。
本当にみんな文章が上手くて引き寄せられてしまうのですよね。
例えばサバイバル登山家の服部文祥さんのこの一文
自分の登山に行き詰まりを感じたときに出会ったのがフリークライミングだった。
正確には僕のフリークライミング歴と登山歴はほぼ変わらない。
だが、フリークライミングとは何かを知り、真の意味で出会ったと言えるまで10年くらいかかってしまった。
僕にフリークライミングとは何かを気付かせてくれたルート、それが「ポケットマントル」である。
いや、もうこれ読んだら小川山にポケットマントルやりに行かざるを得ないでしょ。
そして最後は山野井泰史さんが本当に素晴らしい文章で締めるのですが、そこで山野井さんが何を挙げたのかはあえて触れないでおきましょう。
こちらも10年以上の前の本ですが今読んでも全く色褪せていなくて、むしろクライミングの原点を思い返させてくれるはずです。
古屋兎丸の『ライチ光クラブ』『女子高生に殺されたい』等の漫画
ネットで押見修造さんに似ている作風を探していたら古屋兎丸(ふるやうさまる)さんのことを知りました。
作品をいくつか読みましたが、明るくてコメディっぽい作品よりは
・『ライチ光クラブ』、『ぼくらのひかりクラブ』
・『女子高生に殺されたい』
など、陰鬱だけれど世界観やストーリーが作り込まれたものの方がグッときましたね。
『ライチ光クラブ』は演劇を原作に待つ作品で、少年たちが地下に秘密組織を作る過程で、人間の持つ狂気や権力が描かれ、強いカリスマ的魅力のある漫画です。
人工知能の話なども中心になり今読んでも斬新。
『女子高生に殺されたい』は女子高生に殺されたい願望を持つ男がそれを実現させる計画を実行する話で、綿密に作り込まれていて伏線回収もすごいのでミステリーとか好きな人は面白いかも。
今期はこんな感じです。
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