山岳・クライミング界の明と暗 『岳人備忘録―登山界47人の「山」』と『デス・ゾーン』の感想
ブログ再開記事にも書きましたが、ここ数か月の間は漫画以外本を読むのをほぼ止めてしまったので3ヶ月に一度の読書感想もお休みしていました。
ですが最近また読書を再開したので、今まで通りのような形式で書くかはわかりませんが面白かった本は引き続きブログで触れていきます。
今回は、山岳とクライミング分野で対照的な2冊を読み色々と考えさせられたのでそれに関して。
1冊は昔の本ですが、『岳人備忘録―登山界47人の「山」』。
もう1冊は今年かなり話題になっている、『デス・ゾーン』。
岳人備忘録―登山界47人の「山」
2005~2009年にかけて『岳人』にて山本修二さんが登山界やクライミング界の最先端で活躍する人にインタビューしたものをまとめ、2010年に刊行された本です。
以前から摘まみ読みしていたのですが、先日きちんと読み終えました。
登山界の方々の本当のすごさは僕の知識では理解し切れないのですが、フリーでも有名なクライマーを挙げても
・山野井泰史さん
・菊地敏之さん
・平山ユージさん
・小山田大さん
・遠藤由加さん
・南裏健康さん
・馬目弘仁さん
・室井由美子さん
・横山勝丘さん、etc…
と錚々たるメンバー。
彼ら彼女らが10~15年前に何を思っていたのか、クライミング界をどう捉えていたのかが素直に語られていて興味深いですし、1問1答形式なので読みやすいです。
冒頭の山野井さんインタビューからとても面白いのでいくつか引用します。
Q. ひとりで登っていて独り言とかは?
全然意味のないことばを発すると、ふっと楽になることってある。
このあいだの中国の壁では、疲れたとき「パンダ」、この手を離したら落ちそうというとき「パンダ」とか。
Q. 山行を共にしたくない人
山でも、仕事のこととか世間話をする人。
Q. いまほしいもの
指の力、それだけ。
またこれだけのクライマーをもってしても複数人がクライミング史の偉業として挙げている、ユージさんのサラテのオンサイトトライやホワイトゾンビのオンサイトはとてつもないものだったのだと再実感。
15年や20年経った今でもフリークライミングの歴史で光り輝いていますよね。
デス・ゾーン
“無酸素単独”での七大陸最高峰登頂への挑戦を掲げ、2018年にエベレストで亡くなった栗城史多(くりきのぶかず)さんの生い立ち、経歴、挑戦の真相、などが書かれている本です。
端的に言うと「栗城史多とは何者だったのか」に迫った内容。
著者の河野啓さんは北海道放送のディレクターとして、挑戦を始めた頃の栗城さんに密接に取材をしてきた方でありまさに栗城劇場を生み出した一人です。
僕は栗城さんという人物はもちろん知っていましたが、エベレストのルート自体や高所登山のスタイルには詳しくないので、まず栗城さんの登山自体がどのようなものだったかを基本から知ることができました。
そして本書が素晴らしいのは、栗城さんの人となりが伝わってくるエピソードがしっかりと極力客観的に書かれている点でしょう。
彼の生々しく汚い醜い部分も多く書かれていますが、同時にピュアさとかカリスマ性とかそういうのも兼ね備えてた人だったとわかります。
・マッキンリーにチャレンジすると豪語している段階でユマーリングの経験がなかった
・マナスルで頂上の前の場所を「認定ピーク」と勝手に設定し登頂したことにして降りてきてしまう
・エベレスト挑戦時なのに大学の一年生でも登れるレベルのクライミングウォールが登れない
などが挙げられているように栗城さんは登山家としては貧弱であったのは事実なのだと思います。
『岳人備忘録』で取り上げられたような本物の人々と比べたら、確かに彼は登山家やクライマーという面からは”ニセモノ”だったのかもしれません。
彼自身も「中継できないならエベレストには登らない」と語っています。
しかし彼はきっと演出家とかビジネスマンとしての才覚は間違いなくあった人で、そのあたりが分かるエピソードも散りばめられています。
高所登山の生中継を始めることで世間の注目を集め、それによって資金集めも成功しました。
中継の演出に徹底的にこだわった小話も入ってますし、ストーリー作りやキャッチコピーの才能は相当に高かったのです。
なので栗城さんを何か無能の人のように揶揄するのは絶対に違うと思っていて、もちろん彼の目立ちたがり屋で物事を都合良く解釈してしまう性格も一因でしょうがメディアに担がれて活躍する場とやり方を間違えたまま引くに引けなくなったと言うことだと思います。
そして最期は己のエベレスト劇場というストーリーにがんじ絡めになり、半ば自ら死に場所を選んだともとれるような結末を迎えてしまいます。
僕も自らクライミングをしそして発信もしているという点できっと栗城さんに重なる部分は何かしらあるはずであり、自分を見つめさせてくれる本でもありました。
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