ボルダリングジム間のグレード乖離はどの程度起きているか
今年の頭くらいにコンペ対策として8件のボルダリングジムに遠征した。
ジム遠征自体久しぶりだったが、そこで巷でたまに騒がれている「ジム間のグレード差問題」というのを僕自身でリアルに体感した。
自分の中でもあまり整理できていない上にセンシティブなテーマであったためしばらく書きかけのまま放置していたが、そうこうしているうちに新型コロナウイルスの影響で緊急事態宣言が発令され世間のジムがどんどん休業していき、なんだか話題として割とどうでも良いものになってしまった。
ただあまりに時間が経つと内容が現実にそぐわなくなってしまうため、あえて今このグレード差問題に触れようと思う。
逆にタイムラインが「自粛」という文字や、他者への糾弾で溢れている今だからこそ、のんびりと(?)違うテーマを論じることに意味があるかもしれない。
目的:グレード差の見積もり。アクションの是非
この記事の目的は
・ボルダリングジム間でグレード差がどの程度あるか冷静に見積もる
・その乖離に対して僕らクライマーは何かアクションすべきなのか考える
である。
断じて「グレードが甘い/辛いジムを批判する」目的ではないということをまず宣言しておく。
方法&前提:あくまで主観
方法としては、8つのジムにおいて
・1日で6級~初段程度まで各グレード数本ずつ取り組む
・各グレードでの「完登率」「OS率」を比較する
を行った。
これによってジム間でどのくらいグレード差があるのかを、個人でできる範囲では客観的かつ定量的に調べたつもりだ。
しかし自分の得意苦手やその日の体調もあるので、皆が僕と同じように感じるとは限らない。
その意味では、以下に書くことは主観の域をどうやっても出ない。
あくまで僕にとってグレード差があるように感じた、という話である。
結果&所感:大きなグレード乖離は存在する
冒頭にも書いたように「どこどこのジムが甘い/辛い」ということは僕の主張にとって大事なことではないので、この記事では具体的なジム名は挙げない。
ただ一方でそこをはっきりとさせないと、根拠が無いままふわっとしたことを語っているようにも見える。
なので個別具体的な詳細記録と各ジムへの所感などは別途noteに書いた。
どうしても気になる方はそちらを購入して読んで欲しい。
<note: ボルダリングジム間のグレード差を比較してみた>
では早速8つのジムを回った結果と所感を書くと、
■難しいジムと簡単なジムでは最大3~4グレード近くの乖離がある
・同じジムでも課題ごとにばらつきがあるので、ジムAのある4級課題が別のジムBのある初段課題よりも難しいという事態は起こっている
・あるジムのほとんどの3級が、他のジムのほとんどの初段とおおよそ変わらないグレード設定であると感じることすらあった
■ジムによってグレード内難易度のバラつき幅の設定がそもそも違う
-1つのグレードの幅を非常に広く持たせているジムも多く存在する。1撃できる2級もあれば、1ムーブさえこなせない2級があることもあった
-ジムによってはグレード間の難易度逆転すらも許容しているのではないか
■甘い/辛いと言っても、低グレード帯と高グレード帯のどちらで起きているかで意味合いは違う
-どこのジムにも「ビギナー/ミドル層にはここまでは気持ち良く登らせよう」的なグレード水準は存在すると思う
-その水準手前まではやたら簡単なのに、超えると一気に難しくなるというジムもある
これらを踏まえると、「あそこのジムは甘い/辛い」と一口に言うのは実は結構難しい。
・本当にそのグレード全ての課題が平均して甘いのか
・ジム側がグレードにそもそも幅を設けていることを読み取れていないのではないか。そのグレードで一番簡単な課題が登れただけで甘いと言っているだけではないか
・2,3級くらいまでがそのジムにおける所謂「登らせるグレード」であって、そこまでしか触っていないのではないか。1級くらいからはちゃんとクライマー向けにしっかりと難易度設定されていることもある
などなど考えられるので、誰かの言う「甘い/辛い」は根拠を聞かないと当てになるかは怪しい。
なぜグレード差はあるのか
とは言え「グレード内の難易度ばらつき」や「ビギナー/ミドル層に登らせる水準」が違うという問題はあるにせよ、とにかくジム間で大きくグレード乖離が起きてしまっていることは事実だ。
その根本要因は、ビギナーを呼びたい、岩に合わせたい、セッターのエゴetc…などなど色々あるだろうが、課題としての違いを見た時にジム間で大きく違うものが3点感じられた。
1.フットホールドのシビアさ
今回のジム遠征で自分にとって一番の収穫とも言える事項が「フットホールドのシビアさ」の違い。
特にビギナー/ミドル層であればあるほどこの違いを顕著に感じ、ともすれば全く違う遊びをやっているようにも捉えてしまうのではないだろうか。
あるジムの初段でも登場しないような細かくシビアな足が、別のジムでは4~5級から登場する。
冗談抜きに同じグレードの同じようなシチュエーションでフットの大きさが50倍くらい違う。
きちんと足遣いができているクライマーからすれば何ともない5級程度のフットホールドの設定が、普段別のクライマーが慣れ親しんでいるジムにとってはありえない難易度に感じられても不思議ではない。
2. 距離出しを何級から認めるか
ハッキリ言うと、クライミングはリーチで大きく有利不利が出る遊びだ。
身長やリーチが足りなければ絶対にできない課題というのは事実として存在する。(逆に大きい人や指の太い人が絶対にできない課題もあるだろう)
とは言えジムの課題である程度のグレードまではきちんとデッドをして距離を出せば解決できることは多いのだけれど、足が切れるほどのデッドでの距離出しを何級から要求するかという水準はジムによって結構違うなと感じた。
4級でも当たり前にデッドをさせるジムと、1級でも保持力さえあれば基本スタティックで解決できてしまうジムとでは、人によって相当グレード差が出るだろう。
3. 傾斜対応
これは自分が傾斜のあるジムで普段登っているからそう感じるのかもしれないが、極端に傾斜になると甘くなるジムはある。
おそらく昨今ジムのウォールはスラブや垂壁など緩い傾斜が占める割合が増加している。
彼らはスラブネイティブ(Mickipedia造語)であり、始めた時から多種多様なスラブに慣れ親しんでいるためスラブや垂壁に滅法強い。が傾斜になると途端に登れなくなる人も存在する。
そういったクライマーの割合が増えると自然とジム側も歩み寄るようになり、傾斜壁で普段当たり前のように登っているクライマーにとってはそのジムのスラブと強傾斜でとてつもないグレード差があると捉えてしまうのではないだろうか。
ただここはグレードをそもそもどう定義するかに帰着する問題であり、グレードを「全クライマーがチャレンジしたら、何%登れるか」で決めるとするならばこのよな歩み寄りはある意味正しいとも言える。
グレードの乖離に対するアクション
現実問題としてグレード乖離が起きているが、それを是正するなど何かアクションを取ることはできるのだろうか。
1.客観的にデータでグレードを付ける
もしグレードの乖離を埋めたいならば客観的にデータからグレード是正を行うのがやはり一番良い。
例えばMountain Projectなどでは、課題を登った人が何級に感じたかというのをサジェストできる。
(Midnight lightningはV8だけれど、数名V9とグレーディングしている)
ここも感覚ではなくクライマーそれぞれの登攀履歴に紐付ければより精緻に課題に対してグレードを付けていくことはできる。
もちろん多くのクライマーの参加が必要だし、「アテンプト数」「何日かかったか」などをどうグレードに組み込むかというのは考える必要はあるが。
2. どこかのジムに合わせる
このバラバラになっている状態を解決するために、一度どこか基準となるジムを決めてそれに合わせてしまうという方法はもう少し手っ取り早い。
本来的にはボル検がその中心になる必要があるのかもしれないが。
ただ足並みを揃えることは色々と難しいし、時間が経つに連れてまたそれぞれがガラパゴス的に独自の方向にグレーディングしていってしまう気もする。
3. グレードを合わせない
正直に言うとこれは僕の本心でもあるのだけれど、書いている内にグレード乖離を是正する必要は実はないとも思えてきた。
なぜなら現段階で既に僕は日常的に
“xxジムの〇級くらい”
“ヨセミテなら5.xxくらい”
などのように、「どこの何級」といった使い方をしている。
実際に岩場を見ても、以前ブログで二子山と御前岩のグレード比較をした際、両者は1.5~2.5グレード乖離しているという結果になったが、別にクライマーは困り切っている様子もない。
個人的にも小川山のスパイヤー4級は瑞牆の十六夜(初段)に匹敵する難しさだと思っているが、僕も含めてみなそれはそれとして楽しんで受け入れている。
困ることと言ったらコンペの募集要項くらいだろうが、そこも工夫次第で乗り越えられる。
本質的にはグレードはあくまで記号で、かつそのジムや岩場コミュニティ内でのおおまかな難易度序列でしかない、くらいに大きく解釈しておいて良いのかもしれない。
こんだけ色々考えて書いて結局それかよ、という結論だけれどやはり文字に書き起こしてみてわかることはたくさんあるので有意義だった。
ではでは。
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