クライミングの言葉の定義1~フリークライミングのジャンル分け~

クライミングの言葉の定義1~フリークライミングのジャンル分け~

今から2,3年前の2016年ころに「ロッククライミングのジャンル分け」と題して、以下の図を用いて記事を書きました。

<以前に作ったジャンル分け図>

しかし今あらためてこのチャートを見ると、違和感がいくつかあります。
具体的には
・対象物
・登りのスタイル
・開拓方法
を混合しているためわかりづらいです。
また言葉の使い方は少し変えた方が今の時代に沿っている気がします。
よって今一度、「フリークライミング」のジャンルを分類・整理してみます。

ちなみに「フリークライミング」とは、前進のためにチョークやシューズ以外を使わず自分自身の身体だけで登るクライミングのことです。

 
 


対象物による分類

以前は、対象物が「自然の岩」か「人工物」かで「アウトドアクライミング」「インドアクライミング」と名称を付けましたが、よく考えると少しおかしな名付け方です。
なぜならコンペなどではアウトドアでプラスチックホールドを登ることもあるので、「登る対象物」と「クライミングをする場所」は繋がらないことも多いからです。

ここは、 登る対象物が
自然の岩 or 人工物(プラスチック等の人工ホールド)
でせっかく分類しているのですから、名称もそれに即して
前者を「ロッククライミング」
後者を「スポーツクライミング
としてみます。

この名付け方には異論が出るでしょう。
なぜなら通常は「ロッククライミング」というのは「フリークライミング」よりも上位の概念として、人工物を対象にしたクライミングまで指すことが多いからです。

<『フリークライミング』でのジャンル分け図>

また、「スポーツクライミング」という言葉も現在はかなり紛らわしい使われ方がされています。
時には狭義的にオリンピックに選ばれた種目やIFSCが管轄する競技にのみ適用されることもあれば(これはスポーツクライミングの中で競技性に特化した競技クライミングと位置付けるのが良いか)、後述するように岩場に置いてトップダウンで築かれた「スポートルート」を主に指して「スポーツクライミング」と呼ぶこともあるからです。

<『Rock & Snow 008』より>

しかし、今のところ僕には岩とプラスチックを区別するのに使う言葉として、ロッククライミングとスポーツクライミング以上に適切なものが思い浮かびません。
実際にもスポーツクライミングと言えば、商業ジムなどで人工壁を登る行為を思い浮かべる方が大半ではないでしょうか。
まぁ一旦、あくまで僕からの提案としてこの言葉を当てはめておきます。

 
 

登るスタイルによる分類

次に、どのように登るかという「登るスタイル」で分類できるはずです。
もちろんクライミングにはあらゆるスタイルがあるので、スタイルを分類しようと思ったらそれこそ無限にできます。
同じボルダリングでも、グラウンドアップなのか、あらかじめトップロープの練習があったのか、トップロープは掃除に使っただけなのか、などなど色々と分けられます。
しかし主要なスタイルを分類するならば
・ロープによる安全確保の有無
・ロープの支点確保の方法
で以下の3つに分かれるはずです。

・ロープによる安全確保がないもの:ボルダリング
・ロープによる安全確保を登りながら途中支点でしていくもの:リードクライミング
・ロープによる安全確保を事前に終了点でしているもの:トップロープクライミング(競技のスピードクライミングはここに含まれる)

「ルートクライミング」という言葉はあまり使わないかもしれませんが、適当な言葉が思いつかなかったので置いておきました。
この登るスタイルによる分類は、対象物が岩であれ人工物であれ同じようになされます。
このブログの読者には釈迦に説法ですが、ボルダリングは対象が人工物であれ岩であれ「ロープを付けない」ということが本質なので、何を登るかは重要ではないですもんね。

 
 

開拓方法による分類

以前の記事で最も適切でないと自分で感じていた分類が「トラッド」と「スポート」の区分です。
僕はこの2つの区分を
・プロテクションを設置しながら登っていくか
・予めプロテクションが設置されたルートを登っていくか
のようにしていました。
しかし、これだと「登りのスタイル」で分けているように聞こえてしまいますね。
おそらくこの「トラッド」か「スポート」かというのは、ルートそれ自体を分類する言葉として使うべきであり登りのスタイルというよりも「開拓方法」という区分で見てあげた方が適切です。

ここで非常に参考になるのが杉野大先生の魅惑のトラッドのクライミング用語集です。
引用させていただくと、

「トラディショナル=伝統的」ルートというのは、つまり純粋な、そうであるべきスタイルで登られたルートという意味。
つまり、クライミングとは本来下から登るもの、だから初登もそのスタイルで行われた(グラウンドアップで拓かれた)ルートのことである。
プロテクションは基本的にナチュプロになるが、登りながらスタンスに立ち込んでボルトを打ったりすることもある。

だから、トラッドルート=クラック or ナチュプロルートとは限らない。

小川山のクラシックなボルトルート「ポケットマントル」や「カシオペア軌道」なども立派なトラッドである。
しかし、中には、オールナチュプロでも初登がトップダウンのピンクポイントなどというルートもあって、このようなルートをレッドポイントすることをヘッドポイントと言うわけで、まったくもってややこしく、厳密に言えばそれらのルートはトラッドとは言えないのだが、まあボルトを極力排除して岩を尊重したという意気込みを組んで、なんとなくトラッドに含めているのが普通である。

なんとわかりやすく、そしてクライミングに対する哲学が垣間見える用語集なのでしょうか。
要約すると、
・トップダウンでボルトが打たれたルート:スポートルート
・(ボルトのある無しに関わらず)グラウンドアップで登られたルート。広義には(トップダウンであろうと)オールナチュプロのルート:トラッドルート

と分類されるということです。

厳密には、ルートの大半はグラウンドアップだけれど一部トップダウンでボルトを打ったというルートもありますね。
例えば「スーパーイムジン」にはボルトが1本だけありますし、「炎のメリーゴーラウンド」には最後のパートにボルトが2本だけあります。

※追記※
コメントでも指摘されたように、スーパーイムジンはグラウンドアップでボルトが打たれたルートなのでトラッドですね。
『freefan 76』などでも池田功氏が語っています。
池田氏の信念に反する間違いをしてしまいお恥ずかしい、、、。
(ただリボルトされてはいます)
※追記終わり※

このようなルートをスポートルートとは呼ばないはずで、おそらく「ミックスルート」などと呼ぶことが適切でしょうか。

そして大事なことはこのトラッドかスポートかというのは、ルートそれ自体に紐付くものなので、それをどう登るかはこの前に分類した「登りのスタイル」の選択があるわけです。
・「トラッドルート」(開拓方法)を「リード」(登りのスタイル)した
・「スポートルート」(開拓方法)を「ト ップロープ」(登りのスタイル)した
・「スポートルート」(開拓方法)を「ボルダリング」(登りのスタイル)した。すなわちフリーソロ
というように使うのが正しいですね。
ただし、「スポートルート」をグラウンドアップオールナチュプロの「トラッドスタイル」で登ったのように、トラッドは登りのスタイルとしても使われるのでここも厳密には区分できていないのですが、、、。

 
 

余談

いくつか余談を書きます。

 

クラックを登る??

僕も伝わり易いからよく「クラックを登る」などと言ってしまうのですが、「クラック」はただの形状なのでこれだと「カチを握って登る」のように言っているにすぎません。
オールナチュプロのクラックならばトラッドルートですし、ボルトが打たれたスポートルートのクラックもあるはずです。
なので「クラックやっている」というのは言葉としてはあまり本質的な使い方ではないのかもしれませんね。

 

スポーツクライミングとスポートルートという言葉の紛らわしさ

やはり人工物を登る「スポーツクライミング」とトップダウンで築かれた「スポートルート」はかなり紛らわしいですね。
でもこれが今一般的に使われているので仕方ないのですが。
スポートルートをトラディショナルの反対で「プログレッシブルート」などと名付ければ良いのかもしれません。
だいぶ印象が変わってしまいますが、、、。

 

マルチピッチ

以前はジャンル分けに「マルチピッチ」も入れ込みましたが、これはジャンル分けとしてはだいぶ種類が違うので図に加えるべきではなかったですね。
マルチピッチというのはあくまで「ルートを連続して登っていくこと」に過ぎません。
1ピッチ目がスポートルート、2ピッチ目がトラッドルート、3ピッチ目がミックスルートということもあるのです。

 

ジャンル分けの方法は自由

僕は上記の様にフリークライミングをジャンル分けしましたが、別に分類の仕方は自由なのです。
めざせ低脂肪のcoffeeさんが以前以下の様に分類していて素敵だったので(勝手に)貼らせてもらいます。

まるでクライミングとは夢が詰まった迷路だ!
素晴らしいです。
ジャンル分けの方法なんて自由ですし、その境界線は人それぞれなはずなんですね。

ではこんなところで。
また!