推しクライマーインタビュー 1~スラビスタと呼ばれる男~

推しクライマーインタビュー 1~スラビスタと呼ばれる男~

さて今回は新シリーズ「推しクライマーインタビュー」です。
このシリーズでは僕の”推しクライマー”にインタビューしていこうと思います。
ちゃんとシリーズ化するのかは謎ですが、、、。

記念すべき第一弾は、Fish&Birdの常連さんである植草和寛(うえくさかずひろ)さん。
植草さんは先日、クライミング歴1年4ヶ月にして外岩の初段を登りました。
これだけクライミングジムが増えクライマー人口が増えた昨今では1年と少しで初段というのはそこまで珍しい記録では無いかもしれません。
しかし、植草さんが登った初段はなんと瑞牆のスラブ課題、十六夜(いざよい)なのです。

伴奏者を登っているハマケンさんですら4Daysかかり、
安間佐千さんをも何度か退け、
(ライノクライマー以外にはそこまで知られていないですが)ダイヤモンドスラブなどの難関スラブをいとも簡単に登った、あのライノ1スラブが上手いであろう宮下君ですらまだ登れていない、
そんなスラブ課題、十六夜。

フィッシュではそのあまりのスラブの上手さからスラビスタと呼ばれる植草さん。
彼のスラブへの情熱、上手さの秘密、十六夜と対峙した時の心境、などに迫りました。
お楽しみください。

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時間さえかければ誰でも登れる

-今回は急遽インタビューを受けていただいてありがとうございます。
まず植草さんの簡単なプロフィールを教えていただけますか?

1982年12月生まれの32歳、既婚者です。
仕事はカメラを作る製造業をしています。
小学校ではサッカー、中学校ではバレーボールをやっていました。
趣味で山登りも元々やっていました。

-おぉ、82年生まれなんですね。
実は82年生まれはライノとフィッシュの中心となる常連さんに非常に多く、黄金世代と呼ばれています。
植草さんもその一角だったとは。

そんなのあるんですね。笑
知らなかったです。

-クライミングをはじめたきっかけやクライミング歴を教えてもらえますか?

2014年の年始に始めたので、この5月で1年と5ヶ月目に入ったところです。
正月休みにクライミングをやっている友人と会い、一緒に印西ロッキーに行ったのが最初ですね。
実はその後フィッシュより先にライノに行ったのですけれど、ライノスタッフのたっくんにフィッシュを勧められてフィッシュに行ってみたらすごくハマりましたね。
確かフィッシュに初めて行ったのは2014年の3月くらいです。
家は練馬なのでフィッシュのある東陽町は近くはないのですけれど、わざわざ通っています。
フィッシュはスラブがすごく面白い上に、ジム自体がゆったりしていて居心地が良いですね。

-毎日の練習時間や頻度はどのくらいでしょうか。
またどのような練習をしているのですか?

週3~4日ジムに通っていて、平日は1日3時間、土日祝日だと8時間くらいジムにいるかもしれません。
基本的にはテープ課題、中級FaBo(Fish&Birdで開催される中級者対象の道場)の課題、スタッフなどが作成するファイル課題をトライしています。
特に中級の課題で登れないものは登れるまで絶対にやりますね。
限界グレードは傾斜が強い壁だと3級くらいで、スラブなら初段まで登っています。
練習の特徴としては同じ課題を何度もリピートするということでしょうか。
リピートすることでその時の調子をはかっているという意味合いもあります。
最近は一度登った課題ならすんなりリピートできるようにはなってきました。

-スラブは本当にすごいですよね。スタッフの誰よりも上手い気がします。
スラブのテープ課題は最近のものは全て登っていますか?

最近のスラブではいくつか前のレイさん設定の初段と、今回の1級以外は最近は全て登れていると思います。

-スラブはいつからそんなに上手くなったのですか?

たしか2014年の秋くらいにNoBuさんがスラブにテクニックのノーシャドウだけの初段を設定したのですが、それを登ることが出来て以来スラブが得意になりましたね。
その課題も初めは全く出来なかったのですが、NoBuさんがいつもの調子で「時間さえかければ誰でも登れますよ」と言ってくれたんですよね。
それで時間をかけてトライしてみたら本当に登れてしまった。
それ以来スラブならばどんな課題でも時間さえかければ登れるという自信がつきましたね。

スラブのコツは「踏めていると勘違いして乗り込むこと」

-スラブを登るうえでのコツや意識していることはありますか?

コツですか、、、難しいですね。
強いて言うならば「踏めていると勘違いして乗り込むこと」でしょうか。
特に外岩のような爪の先だけ引っかけるレベルの結晶に乗り込むときは、勘違いしていないと登れないです。
踏めていると思って出す。
半信半疑のままだと腰が引けて落ちてしまうのですよね。
乗れているに決まっていると思うといけることが多いです。

-「勘違いして乗り込む」、これは良いキーワード出ましたね。
ありがとうございます。
少し話はズレますが、コンペの経験についても聞かせてもらえますか。

コンペはフィッシュで開催するものだけ出ていますね。
2015年1月の1周年コンペと3月のBLoCエントリークラスです。
BLoCではなんとか優勝することができました。ただ決勝ではスラブ課題は登れませんでしたが。笑

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運命的な十六夜との、そして室井さんとの邂逅

-ではいよいよ本題に入らせていただきます。
まずはこれまでの外岩の経験を教えてください。

これまで外岩はリードも含めると10回以上は行っていると思います。
初めて外岩に行ったのはクライミングを始めてから3ヶ月くらいの2014年4月ですね。
大学の友人がたまたまクライミングをやっていて、誘われて瑞牆に行きました。
その際は大した成果は無かったのですが、皇帝岩で「ロイヤルポケット」5級、「鏡」6級、大黒岩で「森の生活」6級などを登りましたね。

-初めての外岩で「鏡」や「森の生活」をトライしたんですね。
かなりの高度感の課題だと思いますが。

そうなんです、知らないというのは怖いですね。笑
そして夏にも瑞牆に行って「森の人」6級や「穴契約社員」3級を登り、
マイナーなのですが「発射台」がある岩小屋という岩で無名のスラブ1級を登ることができました。
秋には夜岩で「夜を待ちながら」2級を登りました。
あとは冬に御岳で「マミ岩右」SD2級を登ったくらいで、取り立ててこれといった成果はありませんね。

-しかしやはりスラブは初めて半年くらいで外でも1級を落としていたわけですね。
「十六夜」を意識し始めたのはいつ頃ですか?

2014年の夏に瑞牆の山形県エリアを散策しているときにたまたま十六夜岩を見つけました。
その時はトポもそんなに見ていなかったのでその課題が十六夜だとは知らなかったのですが、見た瞬間にカッコ良いなと感じましたね。
後からトポを見て初段の十六夜という課題があると知って「初段かすげーな、これ登れるんだー」と思いました。
その時は触りはしなかったのですが、単純に登ってみたいとは思いましたね。

-最初はたまたま見つけたのですか。
運命的な邂逅ですねぇ。
初めて十六夜にトライされたのはいつ頃ですか?

最初にトライしたのは2014年の秋ですね。
2時間くらいだけ触ったのですが、手も足も出なかったです。
離陸は何とか出来たものの、ホールドらしいホールドを全く探すことができなかったです。
その後瑞牆はゲートが閉まってしまったので2015年のゴールデンウィークまでは行かなかったですね。
この頃はまだ十六夜は「いつか登れたら良いな」と思っている程度で、手近な課題とは感じていなかったです。
ただその後、フィッシュで初段のスラブ何本か登れるようになってきてだんだんと十六夜が登れるのではないかと思い始めました。

-ということは今回よりも前には1度しか十六夜は触っていなかったのですね。それは驚きです。

あと、秋に十六夜をトライした際に一緒にたまたまトライしている人がいたのですが、しばらくしたらもう一人トコトコ歩いて来る人がいてニコニコしながら彼に「どんな感じ?」みたいに話しかけたんですよね。
その人が実は室井登喜男さんでした。
もちろん室井さんのお名前や功績は知っていましたが、恥ずかしながら顔を見るのは初めてで、一緒にトライしている人から「あの人室井さんだよ」と教えてもらって知りました。
直接会話を交わしたわけではなかったのですが室井さんもそれとなく「やっていれば登れるよ」と言ってくれて、内心「ホントかよ」とも思いましたが、後から考えると確かに時間をかけたら登れたので室井さんのこの言葉はかなりありがたかったですね。
その時は室井さんは登らずに去って行きました。

-なんと初めてのトライの時に室井さんと遭遇されたのですね。
しかも室井さんの言葉はNoBuの「時間さえかければ誰でも登れる」に通じるものがあって面白いですね。

セッション効果で完登、そして室井さんとの2度目の出会い

-では今回十六夜を完登した際の状況をまずは簡単に教えていただいても宜しいですか?

5月3日には十六夜は触らず、「ガリガリ君」1級などを登りました。
4日の夕方にいよいよ十六夜にトライを始めました。
登れたのが5日の夜に差し掛かる頃だったので、計50トライはしたんじゃないでしょうかね。

-ちなみにシューズは何をはかれましたか?

登った時は、左足がミウラーで右足はロックピラーズのオゾンQCでした。
秋に触った時は両足がオゾンQCだったのですが、この課題はエッジングが大事だと思ったので左足をよりエッジングが信頼できると思われるミウラーにして挑みました。
ミウラーは新品のものを持っていて馴染み切っていなかったので、スメアリングっぽい右足はオゾンQCのままにしました。

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(ミウラー同士を比べると、左足だけボロボロです)

-十六夜のムーブを解説していただいても良いですか?

スタートがハイステップの左足での乗り込みです。
その後、左足の上のしわに右足と左足の両方を置きます。
そこから右足をクロスさせて、左手で親指が入るところを抑えて、クロスした右足に立ち上がります。
そこまでのムーブを作るのは早かったのですが、その後の核心が非常に難しかったです。
その後左足で結晶を踏んで乗りあがって左手でポケットを取るのですが、結晶を探すのが容易ではなかったですね。
ポケットも深く持つにはサイドで引かなければいけないので、きちんと立ち上がらないと持てません。
結晶も立ち上がるまで乗れているかどうかわからず、乗り込んでいくのが非常にゾクゾクします。
この左足がどんな感覚だったのか、登った人の他の感覚を知りたいですね。
そのポケットが止まればあとは問題ないと思います。

-完登できたコツというか要因はなんでしょうか?

登れたのは一緒にトライしてくれた人のおかげです。
岡山から来たクライマーとセッションをしたのですが、みんなスラブがすごく上手くて驚きました。
いかにもクライマーといった感じのスゴくカッコいい方々がいらっしゃいまして、彼らの登りが大変勉強になりました。
その内のお一方がバランスを取りながら親指で結晶を次々に探していき、結局はその人がまず完登しました。
僕も恐らくその人が探した結晶と同じものを核心の左足で踏んで登っていると思います。
またこの課題は非常に集中力がいるので一緒にやる人がいなかったら恐らく諦めていたんじゃないでしょうかね。

-クライミングはセッション効果は本当にありますよね。
セッションは非常に楽しいしクライミングの魅力の一つですよね。

そうそう、実は十六夜が登れた日にもまた室井さんと岩の前で遭遇したんですよ。
午後3時くらいですかね。
室井さんは地方から来たクライマーを案内していたのですが、その場にいた誰かが室井さんに登ってくれるように頼んだらしく、なんと室井さんが「右手なしは前に登ったことがあるから、今回は左手なしに挑戦してみるか」と言ってトライをしてくれました。
そのトライでは核心で落ちてしまったのですが、本当に貴重な体験をしましたね。
あと登っている様子から非常に脚力が強そうだという印象を受けました。

-なんとまたしても室井さんと十六夜の前で遭遇したのですね。
十六夜に挑戦した2回のツアーで2回とも室井さんに会うとはもうこれは神の導きとすら思えますね。

そうなんですよね。
十六夜の岩に行くと不思議と室井さんに会うのですよね。

-いやー非常に面白いお話ありがとうございました。
ちなみにスラブのどこにそんなにも魅力を感じるのですか?

んー、難しいですが単にスラブの岩が好きといのはありますね。
花崗岩が好きというのもありますが、岩の感じがカッコ良いと思ってしまいますね。
もちろん百鬼夜行の岩とかもカッコ良いなとは思いますけど。

-ありがとうございます。
今後の目標など最後に一言お願いします。

外岩はまずは小川山の「不可能スラブ」を見てみたいですね。
5月末に行こうかな。
でもまだ見たことがないので、まずは見るだけです。笑
もちろんいつかは登りたいですけどね。

ジムではルーフを頑張ります。強傾斜も登れるようにはなりたいので。
傾斜があると2級はまだ全然安定して登れないので。
コンペもフィッシュで開催されるものには参加したいです。
次のBLoCのフィッシュ戦はミドル男子で頑張ります。

それとスラブを一緒に登ってくれる人が欲しいです。笑
スラブはそこまで疲れないのでトライしようと思えばいくらでもトライできるのですが、やはりメンタルが持ちません。
今回セッションの素晴らしさを知ったので、セッション仲間募集しています。

-だそうです、宮下君!
本当にありがとうございました。

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(インタビュー、以上)

いかがでしたでしょうか。
とてもクライミング歴1年そこそことは思えない考えやメンタルが言葉の端々から感じられました。
室井さんと2度も出会っていることなどやはりスラブの神に愛されていますね。
このまま不可能スラブを制覇してもらいたいです。

そして何と植草さん、5月17日に再び瑞牆に行って十六夜の完登動画を撮影してくれました!
スラビスタ、なんてアツイ男なのでしょうか。
それでは完登動画をお楽しみください!