“Withコロナ”の時代に僕らはクライミングとどう向き合うか 後編:クライミングの今後

“Withコロナ”の時代に僕らはクライミングとどう向き合うか 後編:クライミングの今後

新型コロナウイルスの影響で社会やクライミングは今後どうなるかを考えるシリーズ、後編。
前編では社会全体がどう進むかのシナリオを考えました。
結論として現時点での僕の見通しは、
(おそらくワクチン普及まで)なんとか行動と社会システムの変容や制限で医療キャパを崩壊させないようにして、それまでの1.5~3年間程度は新型コロナウイルスと共に社会は回る
というものです。

<前編>

後編ではいよいよクライミングの行く先を考えます。
・クライミング業界はこの先どうなっていくのか
・僕らはクライミングを今後どう続けていけば良いのか
このあたりに自分なりの見通しを立てたいです。

断っておくと、クライミング公式大会の開催決定権などを僕は直接持っているわけではないですし、一個人ブログなので当然ながら公式見解ではありません。
この記事を含め色々な情報を元に、みなさんがクライミング界の今後を建設的に考えていただけたら幸いです。

 
 


“With コロナ”時代のキーワード、「開疎化」

今後年単位で新型コロナウイルスと共に社会が回っていくという前提に立った時、仕事・遊び・サービスはどのような変容をするのでしょうか。
三密、つまり「密閉」「密集」「密接」を避けることが皆の基本認識となった場合、ありとあらゆるものが「開いて」「バラける」方向に進むはずです。
このあたりの予測をNewsPicksで『シン・ニホン』でおなじみの安宅和人さんが、シンプルな図と共に非常にわかりやすく説明してくれているので是非観てください。
(これに関する安宅さんのブログ記事も必読)

<開疎マトリックス>

要約すると、世の中の多くのものが、
・閉→開
・密→疎
の方向へと向かう、つまり開疎化されると主張しています。
僕が図を描き直したものを貼りますが、このマトリックスの右上に進むだろうということですね。
これはWithコロナの時代がもし完全に終わって、Afterコロナとなっても僕はある程度残り続けるだろうと思っています。
単に開疎化の結果便利なものが定着するというのもありますが、次なる新型ウイルスの脅威に備えるためにサービスの設計をある程度開疎ベースにしておくだろうと考えられるからです。

<開疎マトリックス>

 
 

クライミングの現状

では上の図にクライミングのサービスや活動がどのように当てはまるか見てみます。
簡単のため、まずはこの記事では
・ジム
・コンペ/イベント
・岩
を扱います。

 

ジム

クライミングジムは現状の業態としては”Withコロナ”時代に最も厳しい部類のサービスです。
まず場所が、屋外のところもありますが基本的に換気の悪い室内で閉じています。
グータッチなどしなければ、スポーツそれ自体では直接的な接触はそこまで多くない方かもしれませんけどね。
ただホールドを共通で使うなど間接的な接触は多いです。

また人と人の距離も近く、混雑している商業ジムなどはかなり密であると言えます。

このような理由から、緊急事態宣言が出された地域の商業ジムは現在休業しているところが多いです。

 

コンペ/イベント

出場者という観点では、商業ジムベースのコンペやイベントは閉じていて密である傾向が強いです。
一方で、公式コンペ等ならば例えばベルコン方式のボルダーコンペ、リードやスピードはそこまで密とはなっていないです。
場所も屋内が多いですが、屋外で開いていることもあります。
ただこちらも共通のホールドやロープを使うなど間接的に接触する場面は多々ありますね。

観戦者は出場者よりは大分密であることが多くなってしまいます。
その他のスポーツやイベント観戦と同等のリスクが生じていると見て良いでしょう。

なので現在多くのクライミングコンペやイベントは中止や延期を余儀なくされています。

 

岩場で登る状況は基本的には開かれています
ただクライミングジムほどの頻度ではないかもしれませんが、ホールド等を介した間接的な接触は同様にありえます。
それとロープを使ったクライミングであれば、多くの場合はパートナーが必要なので1人以上との接触は避けられないでしょう。

疎密に関してはどのようなクライミングをするかによってきますね。
人気のあるボルダリングやスポートの岩場ならば、クライミングジムほどではないにしろかなり密であることもあります。
ただ岩場やクライミングスタイルを選べば限りなく疎であり、そして開かれている環境で楽しむことができるのは事実です。

一方で、岩場それ自体ではなく岩場へのアプローチ等において閉じていたり接触したり密である状況が生じることは多くあります
公共交通機関の利用、途中でコンビニや食事処に寄る、多人数での車の乗り入れ、トイレ、給油、等々。
(加えて少し別観点ですが、都心から地域へウイルスを広めてしまう可能性、怪我による医療キャパの圧迫、も現在は懸念されています)

もちろん上記すらも全て避けて岩場でクライミングをすることは実際には可能です。
しかしクライミング界全体の論調としては、今は極力リスクを軽減する時期だということで岩場クライミングも自粛傾向が強いです。

<クライミングの現状ポジション>

 
 

“Withコロナ”時代の僕らのクライミング

このように今のままのやり方ではWithコロナ時代にクライミング業界が残り続けるのは厳しいです。
でも僕らはクライミングをここで止めるわけにはいかないです。
当然ながら今はまだ混乱が落ち着いていないので、おとなしく家にいてトレーニングでもしているべきです。
しかし、ある程度混乱が収まった段階で、長期化する新型コロナウイルスと戦いつつもクライミングをやるように移行していく必要があると思います。
なぜなら、多くのジムはこのまま休業し続ければ倒産しクライミング文化が断絶してしまうし、アスリートは輝けるその時にコンペに出るべきだと思うし、自然の岩で活動することはクライマーにとって必要不可欠な要素だと僕は考えるからです。
そんなWithコロナの時代にクライミングはどう変容するのか、各サービスやアクティビティがどうやって右上の開疎方向を目指すのか、少しだけジャストアイディアですが考えてみます。

 

ジム

Withコロナの時代に今まで通りに、大人数密集型という営業形態は難しいでしょう。
既にやっているジムもありますが、
・利用人数制限
・家族や少人数での貸切
・時間制でのローテーション

などを上手く設計し、ジムを営業していく方向が考えられます。
もちろんこれでもリスクやデメリットはあります。
ホールドに付着したウイルスで感染するリスクは避けられないですし、利用人数が減る分顧客単価は必然的に上がります。
ただ例えばPCR検査やそれに代わる検査などがもっと安価に簡易的に普及する、抗体検査が一般的になる、などでより利用者が感染していない確度を上げるなどすればもう少し営業の幅も広がると思います。

あとは、
・自宅でのトレーニングボードやプライベートジムへの展開
・在宅トレーニング指導

などへ業態転換するジムも登場するはずです。

 

コンペ/イベント

冒頭に書いた「1.5~3年間程度は新型コロナウイルスと共に社会は回る」というシナリオを元にすると、しばらく通常の形でスポーツイベントを開催することは難しいと考えます。
つまり僕の予想だと1年後の東京オリンピックが従来の形で開催されることはないです。
(もちろんこの予想は外れて欲しい!)

ただ”従来の形”とあえて書いたのは、スポーツの種類によっては競技それ自体に感染リスクがほぼ内在していないものもあるので、やり方によっては開催できるからです。
更に先ほども述べたようにクライミングそれ自体はそこまで感染リスクは高くなく、例えば屋外でベルトコンベアやWC方式で行われるボルダリングはかなり開疎です。
机上の空論で語るならば、世界各国に全く同様の課題を用意すればホールドを介した間接接触すらもなくなりますし、国境を超える必要性もなくなります。
ここまではいかないでしょうが、競技を行うだけならば色々と開疎的にやることはできるのです。

一方で観戦者が現地に集まるという従来のイベントスタイルは急速に廃れるでしょうね。
その分オンラインでの観戦環境が整い、オリンピックも全てオンライン観戦でならば開催の可能性はあるかもしれません。
これは観戦収入をどう補填するか、選手は無観客環境で競技したいのか、などもろもろ超えなければいけない壁は高いですが。

商業ジムのイベントやコンペも様態が変わるでしょうね。
Moonboard Mastersのように遠隔同士でのイベントなどがあり得ます。

<今見ると時代を本当に先取りしているなぁ>

 

岩は現状自粛ムードでありこれは正しいですが、混乱が落ち着き医療キャパなどに見通しが立つならばどこかのタイミングでこの状況は逆方向に好転すると考えいています。
というのもそもそも岩場でクライミングすることは開疎化されていてリスクは少なく、アプローチでの接触等に十分気を払えば多くのアクティビティの中では明らかにWithコロナ向きだからです。
このまま自宅待機や在宅ワークが続くと多くの人たちの健康リスクがむしろ懸念される見方が強まると思います。
実際僕も1週間家に籠っていて、その後軽くランニングしただけでも足が筋肉痛になりました。
希望的観測ですが、社会全体の便益を考慮しても開疎化された運動はすべきだという風向きになるのではないかと思うのです。

とは言え岩場ですらこれまでのように、集団で岩場へ行く、ワイワイ皆で同じ課題でセッションする、帰りに食事と飲みをして帰る、というやり方は変容せざるを得ません。
おそらく共通の認識やルールとして
・一人または家族でのみ行動する
・アプローチに公共交通機関を使わない
・飲食店、コンビニ、サービスエリア等に寄らない
・携帯トイレ持参
・同じ課題でセッションしない
・怪我に結びつくクライミングをしない

のようなものが出来上がって、徐々にWithコロナの中クライミングをしていく環境づくりを目指していくのではないかと思いますし、僕もそのような形であっても少しでも良い方向に進みたいです。

ただこれだとローカル地域にお金が落ちる仕組みが完全に消えてしまうので、基金のようなものを作って地域に還元していくなどのやり方もセットになるでしょうかね。

 

終わりに

いずれにしても緊急事態宣言が出ている5月6日あたりまでは、外出禁止で自粛の空気が続くでしょう。
その前後あたりに、
・これは長期戦になるのでWithコロナで社会を回そう
・ワクチン普及等までの長い間なんとか感染を広めないことを意識しつつも、人間の健康上も尊厳上も必要なアクティビティは行うべき
・クライミング界でも活動のあり方を変容して、妥協点を探しつつクライミングを再開しよう
というような空気が醸成されていくことを願います。

その前提には今僕らがこの局面で感染拡大をきちんと防いで、この先感染爆発せずに少なくとも長期戦ができるようになる見通しを持てることが大切です。

それまでは、僕は今まで通りかそれ以上に少しでも有益なことを発信しつつ、家でトレーニングをします。
しかるべき段階になって、この記事で書いたような流れにクライミング界が梶を切るときが来たら、自分にできることを協力したいです。

ではもうしばらくみなさんお家で過ごしましょう!