クライミング世界選手権2019、閉幕! 所感、代表選考、ルール確認など

クライミング世界選手権2019、閉幕! 所感、代表選考、ルール確認など

8/11~21の11日間にわたる「クライミング世界選手権2019八王子」が幕を閉じました。
ボルダリング、リード、スピードの単種目から始まり最後は複合のコンバインドまでどれもドラマがあり、観戦や解説をしていて熱くなりましたね。

どの種目も面白かったので色々と書きたいのですが長くなるので、最後のコンバインドの簡単な感想、オリンピック代表の今後の流れの確認、そしてボルダリングのゾーン獲得に関するルールで1つだけ気になった話、を書きます。

リザルトはこちら。
単種目リザルト
コンバインド女子リザルト
コンバインド男子リザルト

  
 


コンバインド所感

最後におこなわれたコンバインドは複合のクライミング世界一を決めると同時に上位7名には2020年の東京オリンピックへの出場枠が与えられるという重要な一戦。
・代表権は各国2名まで
・日本の場合は、最上位選手が優先選考選手としてオリンピック代表内定
・7位以内かつ日本内で2番手の選手は出場枠を獲得しとなり代表候補
という条件でしたので、どの選手が日本人首位になるのか注目が集まりました。

詳しく知りたい方は以前にまとめた記事を読んでください。

<東京オリンピック代表選考プロセス>

結果大方の予想通り、女子は野口啓代選手が男子は楢﨑智亜選手がそれぞれコンバインドで準優勝、優勝、かつ日本人首位となりオリンピック代表内定を勝ち取りました!

簡単に女子、男子それぞれの所感を書きます。

<女子表彰台、2位野口、1位ヤンヤ、3位ショウナ>

<男子表彰台、2位ヤコブ、1位楢﨑智亜、3位リシャット>

 

女子

スピードは専門のアレクサンドラ選手も含めて各選手が緊張からかスリップを連発したものの、最終的には順当な順位で終えました。

続くボルダリングは1課題目を野口選手が1撃したことで大きく流れを引き寄せましたね。しかもボルダリングのライバルとなるヤンヤ選手、野中選手、伊藤選手は登れず。
2課題目も野口選手は”何が何でも登ってやる!”という気迫が見られる執念の完登を見せて、2課題目を終えた時点で2完登は野口選手のみ。
迎えた運命の3課題目はまさかの誰一人ゾーンに達することがなく(ここは記事の後半触れます)、そのままボルダリングで野口選手がトップ!
この時点で野口選手はリードでいつも通りの登りを見せれば代表を勝ち取れる状況になりました。

最後のリードは森選手がすさまじかった。
トップ取りのダブルダイノの瞬間は見ている人誰もが叫び声を上げたでしょう。
大会中に実力を伸ばしているかのようにすら思え、女王ヤンヤ選手と互角に渡り合えることを示したと思います。

<森選手、リード完登>

ヤンヤ選手もリードをきっちり完登しタイム差で首位、そしてコンバインドの優勝も決めます。
野口選手も集中力を切らさないどころか、実力を120%引き出した登りでゴールタッチまで迫りリードで3位、コンバインド準優勝。
結果日本人選手の中で首位となりオリンピック代表権を掴み取り、長年日本クライミング界を背負ってきた野口選手の集大成となる夢へ一歩近づきました。

<女子コンバインド決勝動画>

 

男子

男子はスピードの準決勝で楢﨑選手がミカエル選手に勝ち2位を確定させたことがまずとても大きかった。
これで楢﨑選手は得意のボルダリングを相当良い精神状態で迎えられたはずです。

そしてボルダリング1課題目を楢﨑選手のみが完登しかも1撃し、ほぼここで決まった感がありました。
その後も2課題目、3課題目と次々に完登劇を見せ、ふたを開ければ楢﨑選手が3完登で圧勝!
特に2課題目のガストンダブルダイノでのゴール取りは今後長らく語り継がれるくらい異次元でしたね。

<楢﨑選手のあり得ないゴール取り>

ボルダリングを終えた時点で日本勢で逆転の可能性があるのは、弟の楢﨑明智選手のみでしかもリード1位が必須という厳しい条件。
楢﨑智亜選手はリードでもヤコブ選手に次ぐ2位を取り、2位、1位、2位の合計4ptという絶対的なパフォーマンスでコンバインド優勝かつオリンピック代表内定を手にしたのです。

 

 

オリンピック代表2人目の行方&選考プロセスの疑問点

東京オリンピックの日本代表2人目がどう決まるのか、その今後のプロセスと伴う疑問点を書きます。

 

2人目の選考プロセス

詳細は上にもリンクを貼った選考プロセス図解記事に書いたので省略しますが、簡単にまとめると

・楢崎智亜選手、野口選手は代表内定
・世界選手権上位7名かつ日本人2位の原田選手、野中選手は出場枠を獲得
今後の以下の条件を満たし出場枠を獲得する選手が現れなければ、原田選手、野中選手で確定
 - オリンピック予選 (フランス トゥールーズ)で上位6名以内かつ日本人2位以内(日本人1位のみの可能性あり。詳しくは下記の追記参照)
 -アジア選手権(盛岡)で優勝
・出場枠を獲得する選手が現れた場合は、来年のコンバインドジャパンカップで枠を持っている選手の内最上位の選手が代表内定

となります。

そしておそらく現在出場枠を持っている選手は今後重複して枠を獲得することはないと思います。
例えばアジア選手権で原田選手が優勝、2位が枠を持っていない別の日本人となった場合はその2位の選手が出場枠を獲得し、コンバインドで争う形になるはずです。 (野中選手と原田選手は規約上は枠を放棄したことになっているはずなので再び獲得できる可能性あり。詳しくは下記の追記参照)
これは文章を詳しく読み込んでいないので断言できませんが、そうしないとオリンピックの20枠が埋まらないという事態になるので。

 

※19年8月23日 追記※
coffeeさんなどとの議論から理解が進んだので追記。
まず世界選手権では日本は「選考大会割当出場枠」 を男女それぞれ2名が獲得したが、上位1名は確定、2位の選手(つまり原田選手、野中選手)は使用を辞退という流れになっていると思います。( 「 第32回オリンピック競技大会(2020/東京)選手選考システム 」 F. 未使用出場枠の再配分の箇所 )
しかし日本は開催国割当で1枠あるので、今後の選考プロセスが終わった時点でもう1人の選手を代表にできます。
そして 「第32回オリンピック競技大会(2020/東京)におけるJOC推薦選手の選考について」を文面通りに受け取ると、日本に残された「選考大会割当出場枠」は残り1つしかないので、次のオリンピック予選では6位以内かつ日本人1位の選手にしか 「選考大会割当出場枠」 は回ってこない、すなわちオリンピック予選から2名の代表候補は出ないとなってしまいます。
これが正しいのか、はたまた「選考大会割当出場枠」 という言葉の使い方が間違ってなされていて、とにかく全体6位以内に入った日本人上位2名を代表候補としたいのかは現時点では不明です。
さらに文面通りに受け取ればおそらく原田選手と野中選手は再びオリンピック競技大会で「選考大会割当出場枠」を獲得できるので、この2選手が6位以内かつ日本人1位になった場合は代表候補は増えないこととなります。
こちらもこれで正しいのか、そうではなくてこの2選手を除いた上位2名を代表候補としたいのかは不明です。
※追記終わり※

 


以下、疑問点をいくつか。

まずこの世界選手権のコンバインド順位の結果を貼ります。

男子女子
1位:楢﨑智亜(日本)1位:ヤンヤ・ガンブレット(スロベニア)
2位:ヤコブ・シューベルト(オーストリア)2位:野口啓代(日本)
3位:リシャット・カイブリン(カザフスタン)3位:ショウナ・コクシー(イギリス)
4位:原田海(日本)4位:アレクサンドラ・ミロスラフ(ポーランド)
5位:楢﨑明智(日本)5位:野中生萌(日本)
6位:藤井快(日本)6位:森秋彩(日本)
7位:ミカエル・マエム(フランス)7位:伊藤ふたば(日本)
8位:アレクサンダー・メゴス(ドイツ)8位:ペトラ・クリングラー(スイス)
9位:ルドヴィコ・フォッサリ(イタリア)9位:ブルック・ラバトウ(アメリカ)
10位:ショーン・マッコール(カナダ)10位:ジェシカ:ピルツ(オーストリア)
11位:ヤニック・フローエ(ドイツ)11位:アヌーク・ジョベール(フランス)

世界選手権で代表内定した選手は誰か

男女上位7名がオリンピック代表となりますが、男女それぞれ各国2名までという制限がありますので、上位7名に4名日本人選手が入っていることを考えると9位の選手まで出場枠が回ってくるように思えます。
しかしInstagramなどでは10位のショーン選手やジェシカ選手もオリンピック代表に決まったと表明。
これはどういうことなのかというと、日本には開催国割当が男女1枠ずつあるので今回日本人で2位~4位に位置付けた選手がオリンピック代表に今後選ばれたとしてもそれは世界選手権の枠でなくて開催国割当の枠を使用したと見なされる
すると世界選手権では日本の獲得枠は男女それぞれ1枠となり10位の選手まで出場枠が回ってくる、という話なのだと思います。
参考: 第32回オリンピック競技大会(2020/東京)選手選考システム

※19年8月23日 追記※
正しくは原田選手、野中選手は枠の使用を辞退したということです。( F. 未使用出場枠の再配分の箇所 )
※追記終わり※

 

他国の選考プロセスでも世界選手権を最優先しているか

更に疑問なのは「世界選手権7位以内かつ国内首位の選手に代表権を与える」というのは他の国も同様なのかという点です。
例えば女子で1位のヤンヤ選手はスロベニアですが、もし今後の選考大会( オリンピック予選大会 、大陸別選手権)で別のスロベニア選手2名が出場枠を獲得し、ヤンヤ選手が代表にならないという事態は起こりえるのでしょうか。
そしてその場合は出場枠は今回の女子11位のアヌーク選手に回ってくるのでしょうか。
世界選手権は最上位の大会ですし最初の選考大会なのでおそらくどの国も最優先に代表権を割り当てていそうですが、こうなるとややこしいです。

※19年8月23日 追記※
下の「出場枠の繰り下がりの時期と順序」とも繋がっていますが、日本以外で今回の世界選手権で枠を獲得した選手は基本的に代表権を確定させると思います。大会後2週間以内に枠を使用するか辞退するか確定させる必要があるので。
※追記終わり※

 

出場枠の繰り下がりの時期と順序(※解決済み)

上で書いたことと重複しますが、出場枠の繰り下がりを各国がいつ表明するのかによってかなり複雑になります。
例えば日本女子の2番目の代表が野中選手、森選手、伊藤選手、以外の選手になった場合、上記と同様に11位のアヌーク選手に出場枠が回ってきます。
しかしその段階でアヌーク選手がもしオリンピック予選で既に出場枠を獲得していた場合はどうなるのでしょうか。
アヌーク選手は世界選手権とオリンピック予選の2つで出場枠を持っていることとなりますが、どちらの枠を行使して代表権を取るかなるか選べるのでしょうか。
その選択次第で繰り下がりで出場枠を獲得する選手も変わってきます。
第32回オリンピック競技大会(2020/東京)選手選考システム の「G. 出場枠確定までの日程」あたりにおそらく書いてあるのですがちょっと理解しきれない(というか読んでいない。笑)のでどなたか噛み砕いてくださるとありがたいです。

※19年8月23日 追記※
第32回オリンピック競技大会(2020/東京)選手選考システム の「G. 出場枠確定までの日程」 から、大会後2週間以内に出場枠を使用するか辞退するか決定する必要があります。なので問題は起こりませんし、おそらく他国は先に行われた大会から順に代表を決定していくはずです。あとから代表の選出をやり直せるのは開催国割当を有している日本だけだと思います。
※追記終わり※

 
 

ダイナミックムーブ中のゾーンホールドに関する疑問

既に記事が長いのですが、どうしても気になるので女子コンバインド決勝のボルダリング3課題目のゾーンに関して。
まず「保持」や「使用」という言葉に関してはある程度以下のブログの内容を前提として使います。再度説明もしますが。

<保持と使用の概念>

<3課題目のヤンヤ選手のトライ>

この課題はどの選手もゾーンを獲得できなかったのですが、最後にヤンヤ選手がゾーンとなる青いホールドをダイナミックに取りに行って、保持はしていませんでしたがそれを明らかに使用し、次の赤いホールドに飛びつき止めかけました。
が、結果としては止められずフォール。

ここで2点疑問。
・もし赤いホールドを止めそして完登はしなかった場合、ヤンヤ選手はゾーンは獲得できたのか
・規定しているルールは何なのか


まず ボルダーのルール から

ゾーン・ホールドを保持(Controlled)または使用(Used)した

場合、ゾーンが認められるとあります。(8.18あたり)
今回の場合ダイナミックムーブの一連の流れの中であったので、ヤンヤ選手は青いゾーンホールドを保持はしていませんが(つまり安定した体勢は取っていない)、使用はしていると思います。
使用の定義は 「重心が前進」かつ「次のホールドへ手が向かった」 なので。(これがリードとボルダーで違うという可能性もある)
であるならば、ルールに忠実に従えばヤンヤ選手はゾーン獲得とすべきではないでしょうか。

感覚的に上のルールがおかしいというのもわかります。
ボルダラーの感覚としては、ゾーンは安定して保持して初めて獲得だ、と通常なら思うからです。

また、用語解説に以下のような文言もあります。

「Control(コントロール/保持)は,判定と順位付について用いられ,選手が以下のことをおこなう事を言う:
(a) 安定した体勢を獲得している;
(b) 何らかのダイナミック・ムーブを成功させた;あるいは
(c) “Use”とは認められない何らかの登る動作をおこなった」

(2019年のIFSCルール、日本語版原文

この(b)に着目します。
もしこの文を「ダイナミック・ムーブを成功させた場合はそれに使用したホールドも保持となる」と解釈するならば、飛びつき先の赤いホールドを止めていたらヤンヤ選手は保持が認められゾーン獲得となっていたかもしれない、とも考えられます。

いずれにせよこのあたりは、
・「使用」「保持」の概念整理
・ボルダーでゾーンを獲得するには本当に「使用」で良いのか
が明確にならないと、ルールに曖昧さを残しているようにも見えてしまいます。

そして飛びつき先の赤いホールドではなく、青いホールドをゾーンに設定したセッターに意図はなにかあるのかも気になります。
想定のムーブが違った可能性もありますね。


色んな話題を詰め込んでしまいかなり長くなりましたが、ここで終わります。
本当に楽しい11日間の世界選手権でしたね。
みなさんお疲れさまでした!