5.13aクライマーは何人いるか?
- 2019.07.16
- クライミングその他 データ&ルール リードクライミングルール 岩場の記録 市場動向
最近ブログで「データやファクトから導ける正しいこと」ばかり書いている気がします。
そういったデータ整理的なことは大切だし今後も続けていきたいのですが、もっと自分が考えることが素直に面白いと思えるテーマや、皆が必ずしも正しいと思わないようなこともどんどん書いていきたいと改めて初心表明。
というわけで今回のテーマは「5.13aクライマーは何人いるか」。
きっかけ
リードクライミングで一つの目標とされているグレードに5.13aというものがある。
今でこそ5.13aというのは一般クライマーにも手の届くグレードになってきたかもしれないが、未だにこのグレードを登ったクライマーを「13(サーティーン)クライマー」と呼び、憧れの対象や皆が認めるレベルの高いクライマーとみなす風習も残っている。
フルマラソンで3時間を切る「サブスリー」のようなものだろうか。
そしてTwitterにおいて以下のように、国内に5.13aを登れるクライマーが何人くらいいるだろうかという疑問があったので、今回はこれをざっくり考えてみる。
ネットでみると、国内のクライミング人口は2017年の時点で60万人とかって書かれていた。
— うぃるこむ (@climbing1992) 2019年7月10日
そのうち、13a以上登れる人って国内に何人くらいいるんだろう…
6万人(10人に1人)は流石に多過ぎるよな…
でも、6000人(100人に1人)ってのは少ない気がする。
13aを目標としている者としては気になる。
前提
まず求める人数は、
・過去から現在までに5.13a以上を1本でも登ったことのある人
とする。
安定して5.13aを登れる人を「13クライマー」と呼ぶこともあるが、今回はとにかくお買い得だろうとなんだろうと1本でも登った経験を持つ人数を推定する。
そしてルートの対象は
・ジムではなく日本国内の岩場の5.13a
とする。
また推定の基本方針として
・ロジック(論理、考え方の枠組み)が正しければ、1つ1つの細かい数値にはこだわらず、オーダー(桁数)を外さなければOK
とする。
なぜならば細かい1つ1つのデータとなる数値を調べるのは大変だし、それは正しいものがわかったらその時点で数値を置き換えれば良いだけの話だからである。
それよりもどうやって13クライマーの人数を推定するのか、そのロジックをここでは提案したい。
このような推定をフェルミ推定と呼んだりする。
「13クライマー」の人数の推定
では実際に推定してみよう。
ここでは、ロジックの組み方は1通りではなく複数あるということを見せたいのと、また推定値の確からしさを担保するために、2通りの方法で推定する。
ジム数ベースの推定
初めに基本的にほとんどのクライマーはどこかメインで登るクライミングジムがあると考えて、
「ジムの数」×「1ジムあたりの13クライマーの人数」
という計算をベースに推定する。
より詳しくは以下の図にまとめた。
<ジム数ベースの推定ロジック>
まず普段の登っているジム環境で13クライマーの割合が異なりそうなので、全体を
・ホームジム(ホームがなくてもメインで登るジム)がボルダージム
・ホームジムがリードジム(リード併設も含む)
・ジムにほぼ行ったことがない
の3種類に分ける。
ホームジムを変えたり、現在はジムに行っていないクライマーもいるが、それでも生涯で最も通ったジムに無理やり結び付ける。
こうすることで、必ずどの13クライマーもどこかのボックスに属することになる。
フェルミ推定ではこのように全体を漏れなくダブりなく分けることが大切であり、これをミーシー(MECE、Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)に分けると言う。
ジム数の推定
次にジム数の推定であるが、クライミングネットの資料によると2018年11月時点で529軒である。
最近は閉店ジムが相次いでいるが未だにジム数は純増だと聞くので、2019年7月現在は550軒だと置く。
この内リードジムの割合を考えたいが、ボルナビによると東京都のクライミングジム(ボルダリングジムと書かれているが、リード併設ジムも含んでいる)は79軒だそうだ。
思いつく限りで、東京都にリード壁を持つジムは7,8軒はあるはずなので、「ボルダーのみのジム」:「リードジム」の割合は10:1程度だと予想される。
ここでは大胆にこれを全国のジムに適用し、550軒の内訳を
ボルダージム:500軒
リードジム:50軒
と置く。
ここでフェルミ推定に慣れていない人はこんな疑問が沸くだろう。
“本当に東京都内のリードジムは7,8軒なのか。もっと多いのではないか”
“東京の割合を全国に適用するのは間違っている。地方はリードジムの割合が多いor少ない”
しかし、前提に書いた通り今やりたいのはおおよそのオーダーを知ることだ。
もし精緻に数字を算出したいならば、後から時間をかけて調べれば良いのであり、ここでは大きく数字を間違わないことと、ロジックを確立することが優先だ。
なので以下断りなくバンバン大雑把な推定値を置いていく。
1ジムあたり13クライマー数
そして必要なのが1ジムあたりの13クライマーの数である。
通常のボルダージムならば、女性で5.13aを登っているクライマーは1人いるかいないかといったところだろう。
ここでは過去全ての13クライマーを足し合わせたいので、過去まで振り返れば各ジムに1人は女性で5.13aを登ったクライマーはいるとしよう。
男性はただでさえ女性よりクライマー数が多いことに加えて、クライミング能力も一般的には高いので各ジム5名は通算で男性の13クライマーを輩出したとする。
僕のメインジムもボルダージムだが、この数値はおおよそずれていない気がする。
リードジムならばリードをメインでやっている客層が多いので、ボルダージムの3倍、つまり女性なら3名、男性なら15名は13クライマーがいると置く。
Pump2やベースキャンプ入間などを想像すると明らかにこれよりツワモノが多いが、この2ジムは全国的にも相当に大きいジムであるし、インドアリードではバシバシ高難度を登るユースクライマーも岩では5.13aを登ったことのない人も多いので全国でならせばそれほど外していないように思える。
ジムにほぼ行ったことのない勢
全ての13クライマーを全てのジムに結び付けるとは言ったものの、現実的にクライミングジムにほとんど行ったことのないクライマーは存在する。
昔はジムがほとんどない時代もあったし、現在でもアルパインメインでインドアでは登らないが5.13aを外で登るというクライマーはいる。
このようなクライマーがどの程度いるかはわからないが、各都道府県に通算で10人くらいはいると考えよう。
身近な山梨や長野を想像すると、過去から足し合わせたらもう少しいるような気もするが、まぁここは大勢に影響はないので雑に置く。
算出
上記からジム数ベースで13クライマーの数を推定すると
・ホームがボルダージム
=ボルダージム数500軒×1ジムあたり6人
=3,000人
・ホームがリードジム
=リードジム数50軒×1ジムあたり18人
=900人
・ジムにほぼ行かない
=47都道府県×10人
=470人
となり、足し合わせると13クライマーは約4,370人と推定された。
完登数ベースの推定
推定方法の2パターン目。
当たり前だが、全ての13クライマーは何らかの5.13a以上のルートを初めて登った経験を持つ。
これを利用して
「1年あたりの13クライマー誕生数」×「5.13aが国内にできてからの年数」
という式を立てることができる。
詳しくは以下の図のように分解できる。
<完登数ベースの推定ロジック>
1年で5.13aクライマーは何人誕生しているか
では現在年間で何人のクライマーが13クライマーと成りえているのだろうか。
まず感覚だが、初の5.13aというのはある程度ルートというかエリアが決まっているように思える。
関東周辺なら主だったルートを挙げると
・太刀岡山:カリスマ
・二子山:振り返るな、任侠道(どちらも5.12dと書かれることもあるが)
・御前岩:アスリーツボディ(5.12d/5.13aだが気にしない)
・小川山:エクセレントパワー
・瑞牆:トップガン
などなど。
関東甲信越は他にも初5.13aになりそうなルートを擁するエリアがあるが、全国的にはそれぞれの地域に平均的にはメジャーなのは3エリアくらいではないか。
すると、日本全国を8地域に分けると、各地域に3エリア、通算24くらい初5.13aを輩出するエリアがあると置くことができる。
ではそれぞれのメジャーエリアでどのくらいの頻度で13クライマーは誕生しているのか。
まず初めての5.13なので良いシーズンであろうから、1年の内4ヶ月くらいしか達成できる時期は無い。
そして感覚的には例えば二子山で初5.13aのクライマーは毎週は生まれていないように思える。
せいぜい1ヶ月に2人程度ではないだろうか。(二子山はグレードが辛いからもっと少ないかもしれないが、まぁ平均的にはこんなものでは)
すると各エリアで4ヶ月×2人=8人の13クライマーが毎年誕生することになる。
よって現在では全国では
・年間13クライマー誕生数
=初5.13達成可能な24エリア×そのエリアで毎年8人達成
=192人
となる。
毎年分を足し合わせる
ここで大切なのは年間192名は現在の感覚であり、ルート数もクライマー数も少なかった昔は大きく異なったであろうということだ。
日本初の5.13aは大岩純一さんによって登られた小川山のエクセレントパワーであり、それは1986年の10月に登られた。
そこからおよそ33年が経過しているがこの間に、年間の13クライマー誕生数はどのように変遷してきたのであろうか。
おそらく1986年と1987年にはできたばかりのエクセレントパワーを登ったクライマーがそこそこいたはずなので最初に数名生まれている。
(ここも家に帰って『岩と雪』を調べたらわかるが、大きく影響しないので踏み入らない)
そして最近になってクライマー数は爆発的に増えているので、増加率も上がっている可能性も高い。
しかしここは思い切って、年間の13クライマー数は線形に増加してきた(直線的に増加した)と仮定させてもらう。
よって単純に現在の年間13クライマー誕生数に33年間をかけるのではなく、以下の三角形の面積を求めることが推定値としては近しい。
(厳密には1986年で0人ではなく1人以上、2019年はまだ半分しか経過していないことの考慮が必要だが簡略化する)
<13クライマー達成人数仮説>
算出
よって上のグラフから
・13クライマー数
=現在の年間13クライマー誕生人数192人×33年間×三角形の面積にするため1/2
=3,168
となり、 13クライマーは約3,168人と推定された。
結論&検証
上の2つのアプローチから、13クライマーの数は
約3,000人~4,500人程度
と見積もることができた。
どうだろうか、感覚的に多いか少ないか。
簡単に検証してみよう。
まず僕の4年前の「クライミング競技人口推定」のブログでは週1以上クライミングをしている人数を2.2万人と推定した。
ここからジム数も2倍近く増えているので、クライミングを日常的に嗜む人(≒いわゆる、クライマー)の数はざっくり4.5万人くらいにはなっていると考えられる。
<当時物議を醸した競技人口推定ブログ>
本記事で算出した13クライマーの数は現在クライミングをやっていない人数も含むので、上の4.5万人と比べるのは本来間違っている。
だが、超簡易的に理解するなら上記のような真剣なクライマーの内6%~10%程度が13クライマーだということになる。
他の競技等と比較すると、webから拾った数値なので信憑性や前提は見ていないが、
・甲子園出場:0.5%
・マラソンのサブスリー:3%
・twitterフォロワー2,000人以上:6.0%
・TOEIC800点以上:12.9%
こんな感じらしい。
13クライマーになるには、サブスリーよりは簡単で、TOEIC800点よりは難しい。
どうだろうか、大きくは感覚としては外していない、、、か?
補足
たぶん数値でなくロジックも厳密にはツッコミどころはあると思います。
例えば、外国在住だけれど初めて日本で5.13aを初登した人は「ジム数ベース」ではカウントできないけど、「完登数ベース」ではカウントしていたりとか。
まぁそこはご容赦ください。
他にも推定方法がいろいろあるかもしれませんね。
みんなもやってみると頭の体操に最適だと思います。
もし時間があれば、ボルダーでもやってみましょうかね。
5.13aクライマーに対応するのはボルダーなら二段かな?
ひとまずこんな感じで終わります。
ではでは。
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