クライミングのルールの考察8~ボルダリングWCで優勝者が2人以上出る場合~

クライミングのルールの考察8~ボルダリングWCで優勝者が2人以上出る場合~

※追記※

この記事のルールは2017年までのIFSCルールに基づいてかかれています。

2018年はタイブレイク・ボルダーが無くなるなど大幅なルール変更があるため、詳しくは以下の記事をご覧ください。

クライミングのルールの考察9~ボルダー競技で同成績の場合のIFSCルール2018変更点~

※追記終わり※

久々のルールの考察シリーズ。(過去のシリーズはここらへんに載っています)

といっても今回はIFSCルールの考察というよりは、自分の頭の整理も兼ねた確認といった感じの記事ですね。


第2戦モスクワでの決勝同成績

先日の2018年ボルダリングワールドカップ(以下BWC)第2戦モスクワの決勝にて、ヤンヤ・ガンブレット選手と野中生萌選手の決勝成績が同じとなりました。

BWCの成績は以下の順で決まるわけですが、つまり今回は決勝の4課題を終えた時点で①~④が全く同一となったということです。

①完登数

②ゾーン(コースの途中の到達点)の数

③完登のアテンプト数(何回トライを要したか)

④ゾーンのアテンプト数

(両選手はそれぞれ4課題の合計値が「4トップ7アテンプト 4ゾーン5アテンプト」。余談ですが、偶然4課題それぞれも成績が全く同一でした)

しかし準決勝の成績がヤンヤ選手の方が上であったため、準決勝の成績に遡りヤンヤ選手が優勝となり、野中選手は惜しくも連続優勝を逃してしまいました。(いわゆるカウントバック)

ではもしこのモスクワ戦において準決勝の成績も両選手で同一だった場合はどうなったのでしょうか?

同時優勝などとなるのでしょうか?

そのあたりを整理するためにIFSCルールを読み解いてみましょう。

1位以外が同順位の場合

まず準備のため、1位以外の順位において同着が生じた場合をみてみます。

IFSCルールの7.10.3にこのように記述があります。

順位計算の結果、同着の選手があった場合、それらの選手の先立つラウンドの順位をもって順位をわける(以下、「カウントバック」)。

同着の選手は、その先立つラウンドの順位の昇順にしたがって順位付けされる。

選手が 2 つのスターティング・グループにわかれて競技をおこなった予選の成績にはカウントバックはおこなわない。

つまりこれを図にすると以下の様になります。

成績に差が付けばそこでおしまい。

成績が同じなら↓に従って下に進む感じですね。

1位以外の場合は前ラウンドの成績をカウントバックしていきます。

ただし、予選参加者が多い場合は予選は2グループに分かれそれぞれのグループで異なる課題で競技をおこなうため、不公平が生じないように予選の成績まではカウントバックしません。

(こちらも余談ですが、予選のグループは以下のように決まります

・参加者が40名未満のとき:予選は1グループ

・参加者が40名以上、60名未満のとき:予選は1グループ or 2グループ(テクニカル・デリゲイトとチーフ・ルートセッターによる協議で決まる)

・参加者が60名以上のとき:予選は2グループ)

最近のBWCでは多くの場合予選は2グループでおこなわれているので、準決勝で敗退した選手は準決勝の成績が同一だった場合は同着となりますし、決勝進出選手でも決勝と準決勝の2ラウンドの成績が同一ならば最終的な順位も同着となるのです。

これは過去に何度かおこっています。

しかしこれはあくまで1位以外の場合であり、おそらく優勝者はなるべく複数人出さない方が良いという考えから決勝で1位が同順位の場合はここにもう1ステップはいります

1位が同順位の場合

再びIFSCルールに戻ると、7.7.18にこのような記載があります。(少しわかりやすく変えています)

カウントバックをおこなった結果、決勝後に 1 位に同着の選手があった場合は、同着の選手は「タイブレイク・ボルダー」をおこなう。

i. 競技順は決勝と同じとする。

ii. 各選手の成績は 6.4.2 から 6.4.5 そして 6.10.1 の規定(植田注:リード競技の規定)に従って判定される。

iii. 競技後、なお 2 名以上の選手が同着であれば、その選手は決着がつくまでさらに 6 回まで同じ手順に従ってアテンプトをおこなう。

iv. 6 回のアテンプトの後、なお同着であれば、その選手は同順位とする。

こちらも図にすると以下になります。

つまりカウントバックでも決まらない場合は、追加で更に1本勝負をおこないそれで順位を決めるというのです。

このタイブレイク・ボルダーのルールは基本的にはリード競技と同一の考え方でおこなわれるので、

・高度勝負(どこまで到達したか)

・プラスの判定もある(例えば同じ4手でも、4手からもう1手出すアクションが認められると4+となる)

そして、登り終えて同高度の場合は差が付くまで6回のアテンプトをおこないます

ただし、1本勝負のため全員完登した場合は6回を待たずに同着となります。

まぁいわゆるスーパーファイナルですね。(以前はスーパーファイナルという名前でした)

ただ疑問としてはこのタイブレイク・ボルダーの課題をどのように用意するかという記述はルールブックには見当たらないということです。

大会ごとの裁量にまかされているのでしょうか。

タイブレイク・ボルダーの例

ではかつてタイブレイクボルダーまでもつれ込んだ例はあるのでしょうか。

私が知る限り(というか、同僚のつっかーに教えてもらいました。さすがクライミングマニア)、2009年のHall戦の女子でタイブレークボルダーがおこなわれています。

野口啓代選手とアンナ・シュテール選手が準決勝同着、そして決勝は両者全課題を1撃して完全に同着!

結果タイブレイク・ボルダーがおこなわれるのですが、、、なんと両者これも1撃!!

つまり成績に差が付かず、この大会は両者優勝となったのです。

しかもおそらくですが、Youtube動画を見る限りこのタイブレイク・ボルダーでは男子決勝の課題を使用しています。(若干変更した可能性ありですが)

<タイブレイク・ボルダーの野口選手>

<男子が決勝で同じ課題を登っている>

まさに啓代、アンナの2強時代を象徴するエピソードですね。

他にもタイブレイク・ボルダーが過去にあったBWCがあったら是非教えてくださいー。

リードの場合

リード競技の場合も書いておきますと、

リードの場合もカウントバックするところまではボルダーと全く同じです。

ただし、

・1~3位以外なら、カウントバックした成績が同じならば同順位

・1~3位にかかる場合は、カウントバックした成績が同じならば決勝のタイムが短い選手の成績が上。タイムが同じならば同順位

となります。

タイムが全く同じだったことってあるのでしょうかね。

では、こんな感じで。

次のBWCは5/5,6の重慶戦!