世界選手権2018女子決勝で考える、リード種目の競技順の影響

世界選手権2018女子決勝で考える、リード種目の競技順の影響

IFSCクライミング世界選手権2018の真っ只中です!

昨日のリード種目の女子決勝で勝負の分かれ目として少し気になることがあったので簡単に記事にします。


世界選手権2018の女子リード種目の展開

まず初めに昨日の決勝がどのような展開だったかを書いておきます。

女子のリード種目は下馬評通り、完全無欠のクライミングマシーンであるスロベニアのヤンヤ・ガンブレット(Janja Garnbret)と、今期大ブレークのオーストリアのジェシカ・ピルツ(Jessica Pilz)の2トップの争いとなりました。

この2名は予選首位通過、そして準決勝も両者ともに完登してトップタイ。

ちなみにヤンヤは予選の2ルートも完登しています。(ジェシカはヤンヤとは違うグループだったので予選は完登していないけれど首位)

そして決勝は先に出てきたジェシカがまず完登!

トリのヤンヤも実力を如何なく発揮し完登しますが(つまりヤンヤは4ルート全て完登!!)、準決勝のカウントバックが同着のためタイム勝負となり、決勝のタイムが速かったジェシカの優勝となったのです。

でこのブログで書きたいことは、僕はこの名勝負に競技順が実は影響したのではないかと考えているということです。

<世界選手権2018 女子リード 動画>

リードのルールの説明

僕がこれから解説することがよくわかるように、まず簡単にリードの順位付けと競技順のルールを説明しておきます。

(参考:IFSCルール2018

順位付け

今回の世界選手権は予選で2グループに分かれ、それぞれのグループが2ルートにトライします。

そしてその2ルートの順位の掛け算結果が小さい選手が各グループ13名ずつ、合計26名が準決勝に進みます。

準決勝は全ての選手が同一ルートにトライします。

今回は予選が2グループに分かれているため同高度が出てもカウントバックは行われず同着となります。

決勝には高度の高い上位8名が進みます。(今回は同着があったため10名)

決勝も全ての選手が同一ルートにトライします。

同高度なら準決勝の順位のカウントバックを行い、カウントバックしても差が無い場合、表彰台に関わらないならば同着。

表彰台に関わる順位ならばタイムが速い選手の勝ちで、もしタイムまで同じならば同着となります。

今回の決勝はヤンヤもジェシカも完登で同着首位であり、カウントバックした準決勝も両者完登で同着だったのでタイムの速いジェシカが優勝ということになりました。

競技順

予選の競技順は2グループに分かれる場合、グループの振り分けは世界ランキングに基づきますが、グループ内での競技順はランダムです。

2ルート目は半数のところで前後を入れ替えてフェアになるようにします。

準決勝と決勝はボルダーと同じく前ラウンドの順位が低い選手から始まります。

おそらくこれは最後に強い選手が出てきた方が盛り上がるからそうなっていると思われます。

そして前ラウンドの順位が同じ場合は世界ランキングが低い選手から始めることになります。

現時点の世界ランキングはヤンヤが1位、ジェシカが2位のため、準決勝も決勝もジェシカ→ヤンヤの順で競技が行われました。

勝負に競技順は影響したか

ここで大胆な仮説というか、ちょっと考えすぎていて斜めから見てしまっているかもしれないのですが、僕は決勝の競技順がジェシカ→ヤンヤの順だったことが実は勝負に少し影響したのではないかと思っています。

具体的に言うと先攻だったジェシカの方がメンタル的に楽に競技できてヤンヤはジェシカの完登の後に登ったことでプレッシャーを感じ遅いタイムになったのでは、と考えています。

まずこの仮説の前提として以前『Rock&Snow 080』の「僕らは考える石ころである」にも書きましたが、僕は「クライミングは先行有利」と考えています。

<参考ブログ>

『Rock & Snow 080』の宣伝&みどころ

そう考える理由は以下です。

  1. メンタルに大きく左右されるスポーツは先行有利の傾向がある(例えばサッカーのPKは圧倒的先攻有利
  2. 実際に例えばBJCでは準決勝1位通過、つまり決勝でトリの選手、は第2回から第12回まで1度も優勝できなかった。(第1回は準決勝なし。第13回に初めて藤井快選手が準決勝1位で決勝も優勝)

まぁこの「先行有利」というのは全くリードでは検証していないのですが、今年の日本選手権女子決勝でも森選手が先に完登して、その後に出てきた野口選手がゴール落ちした姿など”後攻にプレッシャーがかかったのでは?”と印象に残るシーンはあります。

<参考ブログ>

一流クライマーの感覚の鋭さ、言語化能力の高さ

もちろん後攻の場合は会場の盛り上がりから前の選手のパフォーマンスを知れますし、最近ではリザルトを見れる場合もあるので、戦略を立てられる分有利だという側面もあります。

(ちなみにボルダーではリザルトは最近見れるようになったと思いますが、リードではどうなっているのでしょうか)

ただもしメンタルを考慮した結果、先行有利・後攻不利という傾向が本当にあるならば現在の「世界ランキング上位者が後」というルールは見直す必要があるかもしれません。

最終局面でのヤンヤの慎重さ

で実際に今回の世界選手権の決勝では確実に競技前にヤンヤはジェシカが完登したこと、そして自分が完登した場合はタイム勝負になることをわかっているわけです。

なので当然素早く登ることが求められますが、それはあくまで完登してこその話なので、完登が目前になった場合はどうしてもミスできないプレッシャーから慎重さがでるはずです。

事実、最終局面で後3,4手というところまでは持ち前の大胆さでヤンヤの方が速く到達しているのです。

右手でボテのカチを取った時点で

ジェシカ:残り2:01

ヤンヤ:残り2:13(写真では2:11だがこの2秒前には取っている)

<ジェシカ 最終局面>

<ヤンヤ 最終局面>

そして”これはヤンヤがタイムで勝ったのでは”と誰もが思ったのですが、ここからヤンヤは突っ込まずに何度も持ち替えをさぐったり慎重にレストを入れて時間をかけてしまうのです。

そして最終的にはトップ時点で

ジェシカ:残り1:33

ヤンヤ:残り1:22

となり、ジェシカにタイムで負けてしまいます。

<ジェシカ トップ>

<ヤンヤ トップ>

ちょっとこれは考えすぎかもしれませんが、もし競技順が逆だったら大胆不敵でのびのびとしたヤンヤが最後の最後まで見れて勝負が違っていた可能性も。。。なきにしもあらず?

まぁあくまで憶測の域を全く出ませんがね。

こういう考えも面白いよね、というくらいに捉えてください。

さて残りの世界選手権も楽しみましょうか!