クライミングに上腕二頭筋は必要か
- 2019.02.26
- 上達方法 科学するクライミング
いよいよ毎日ブログも終わりに近づいてきました。
「科学するクライミング」シリーズも何本か書きましたが、どうしても触れておきたかったのが「クライミングにおいて上腕二頭筋は必要なのか」というテーマ。
僕の知識や経験の範囲内ではこのテーマは正確に記述できないし、答えも出せない話なのですが少なくとも現時点の自分の理解と考えをここに書いておきます。
例のごとく専門外の分野に対して持論を展開しまくっているので、科学的に正しくない箇所等は適宜コメントなどもらえると嬉しいです。
上腕二頭筋とは
上腕二頭筋というのは所謂「力こぶ」のことである。
基本的な作用は
・肘を曲げる
・前腕を外側に回転させる(回外)
である
拮抗筋である逆側に付いている「上腕三頭筋」は肘を伸ばすときに使う筋肉となっている。
また上腕二頭筋は「長頭」と「短頭」に分かれ、上腕には他にも肘を曲げるための「上腕筋」や僕もあまり聞き慣れない筋肉だが「烏口腕筋(うこうわんきん)」というものもある。
<上腕二頭筋 長頭>
<上腕二頭筋 短頭>
<上腕筋 二頭筋より内部にある>
ブログタイトルではわかりやすく「上腕二頭筋」と書いているが、筋肉の詳細な働きを議論したいわけではなく実際にここで考えたいことは「肘を曲げるための上腕の筋肉はクライミングに必要か」ということだ。
なので上腕二頭筋と書いているが、これは上腕の屈筋群全般を指していると思ってもらって良い。
上腕二頭筋が発達するデメリット
なぜこのようなテーマを考えるのかというと、以前クライマー達と飲んでいる席で「上腕二頭筋は発達しすぎるとクライミングにデメリットになるのではないか」という話が出たからである。
その席での議論と僕の考えをまとめると、デメリットとして以下に挙げるいくつかが想定される。
壁に身体を近づけて耐える動作を阻害する
一つ目は「壁に身体を近づけて振られなどに耐える動作を阻害する」可能性があるのではないか、という点だ。
クライミングでよくある動きの一つに例えばホールドにデッドで飛び付いて振られた際に、背中を反らせるようにして身体を壁に近づけて上手く力を逃がして耐えるという動きがある。
この際大切なのは広背筋を優位に働かせることであると認識している。
しかし上腕二頭筋やそれだけでなく前面側の筋肉が優位に働きすぎると身体が丸まろうとする方向に動いてしまい、うまく反らせることができないように感じる。
これに関連してライノのTKGさんが(たぶん)言っていた「人類の戦いの歴史では、前面の筋肉は防御のため、後面の筋肉は攻撃のためであった」という言葉が面白い。
相手からの攻撃がなく、ホールドを掴んでいくいわば攻撃のような動作であるクライミングにおいては前面の筋肉は要らない可能性もある。
ただし例外的にスピードクライミングなど持ちやすいガバで駆け上がるように緩い傾斜を登る場合は、むしろ前面の筋肉主体で動いているように見える。
肩が上がり易くなる
上とかなり近いのだけれど、上腕二頭筋が働いて肘が曲がると肩が上がり易くなるように思う。
クライミングにおいてはガストンなどのムーブを除いて基本的には肩を下げた方が広背筋を使って良い姿勢で登っていけるし、何より脱力と出力がスムーズに切り替えやすい。
上腕二頭筋が発達しすぎることで逆に良いフォームを阻害する可能性もあるのではないかと感じる。
肘を曲げるクセが付きダイアゴナル姿勢を取りづらい
クライミングの基本的なフォームに(側対の)ダイアゴナルという対角線となる手足で身体を支持するフォームがある。
このフォームでは完全に肘を曲げないということはなく場合には依るのだが、肘は基本的には伸ばして動いていくことが求められる。
そのため特に初心者のころは上腕二頭筋に頼り過ぎると正しいフォームが取れなくなる可能性もある。
『Climbing Joy No.15』で小林由佳さんが肘に筒を付けて強制的に肘が曲がらないようにして登るトレーニングを紹介するなど、肘を伸ばすことによるフォーム矯正もあるくらいだ。
<フリークライマー養成ギプス>
<参考記事>
<Climbing Joy No.15>
体重が重くなる
とは言え普通に考えれば「上腕二頭筋が仮に発達していても正しい場面でだけ使えば良いのではないか?」という意見もあると思う。これに対しては「もし使う場面が多くなく重要でない筋肉ならばクライミングにおいては付けない方が良い、なぜならクライミングはパワーに対する体重の比率が重要だからだ」と答えられるだろう。
無駄な筋肉は極力省いた方がクライミングには有利なはずだ。
上腕二頭筋が発達するメリット
とは言えクライミングで上腕二頭筋を全く使わないということはないはずだ。
上腕二頭筋が発達していることによってクライミングにどのようなメリットがあるかを考える。
緩い傾斜での引き付けの力
上腕二頭筋が必要かどうかの話をしたときに、僕は真っ先に「ロックして壁に近づくには肘を曲げる必要があるから、上腕二頭筋は必須だ」と考えた。
しかしこれは半分正しくて、半分間違っている。
例えば強傾斜だと、実は広背筋・大円筋などで脇を締めるだけで原理的には自動的に肘も曲がりかなり壁に近づけるはずだ。
本当は模型を作った方が良いのだが、左が壁にぶら下がった状態で、右が脇のみを締めた状態である。
肘関節は固定しなくても、脇を極限まで締めれば重心が手の下に来ることで自然と肘が曲がりロックはできる(おそらく)。
しかしこれは緩い傾斜では成り立たないはずだ。
例えば垂壁でどんなに脇を締めても、最後はある程度上腕二頭筋によって肘を曲げなければ完全には壁に入り込めないだろう。
なので特に緩い傾斜で壁に貼りつくような動きには上腕二頭筋は必要なように思える。
アンダー・抱え込みに強くなる
理想的にはアンダーの動作であっても脇さえきちんと締めれば壁に近づくことは可能だろう。
しかし実際には理想的な筋肉の使い方は難しいと思われるので、上腕二頭筋によってアンダーの最後の一引きなどで肘をグイッと曲げる力はおそらく役に立つだろう。
大きなハリボテなどを抱え込む際にも、主には大胸筋を使うだろうが肘を曲げる力も必要であるため上腕二頭筋に頼るところも大きいはずだ。
トップレベルのクライマーは上腕二頭筋を付けているのか
では一流クライマー達は上腕二頭筋を発達させているのだろうか。
実際にコンペなどでトップクライマーを目にしたことがある人も多いと思うが、その体型はいくつかのタイプにわかれる。
基本的にどの選手も前腕と広背筋・大円筋が発達しているのは共通だが、特にボルダリングでは上腕二頭筋を含む前面の筋肉が隆々な体型の選手もいれば、本当に前腕と背中の上部しか筋肉が付いていなくてまるでエヴァンゲリオンのような体型の選手もいる。
これはクライミングの課題が多様になっていることも影響しているはずで、その課題に応じて付けるべき筋肉というものが異なるのだろう。
参考までに、本ブログでも何度も何度も紹介している、過去ロクスノで連載していた安間佐千さんの「我が道を行く」では筋力トレーニングとして「背筋」「上腕二頭筋」「上腕三頭筋」「大胸筋」を鍛えていた。
なのでリードコンペのトップクライマーであっても上腕二頭筋を付ける必要性を感じていたというのは大いに参考になる。
<我が道を行く第一回のロクスノ47>
まとめ
結局まとまったようで、結論は難しい。
まず言えることはボルダリングとリードクライミングであれば、指の力と脇を締める背中の筋肉は最優先で付けるべきだろう。
そして肩の筋肉や上腕三頭筋もガストンやプッシュなどで必要な筋肉だ。
上腕二頭筋を含む前面の筋肉は、あると役に立つこともあるがクライミング全体を通じてそこの部位を発達させることがプラスになるかどうかは正直なところ僕にはわからない。
中途半端だけれどこんな感じ。
さて残すところ毎日ブログもあと3回!
ではまた明日。
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