ボルダリングWCの難易度は変わったか
自分が気になったことを調べる、コンペ分析シリーズ。
今回はシンプルに
・ボルダリングワールドカップ(BWC)決勝課題の難しさは変化しているか
・BWCで優勝するには何完登程度必要か、登らないといけない課題は何か
等を見ていきます。
優勝者の分析は後編に回し、この記事はまずは完登率等を中心とした基本的なデータを見ていきます。
方法・前提
分析の対象は以下
・過去5年のBWCの決勝(計32大会)
・サンプル数を確保するため男女合わせて分析(計64試合)
男女分けると別の傾向もあるかもしれませんが、5大会しかないシーズン等もあるため今回は一緒に分析します。
予選と準決勝も分析したかったのですが、ifcsのリザルトページで課題ごとの完登率を見る方法がわかりませんでした。(僕のリサーチ不足かも)
よってifscのYoutubeを観返して課題ごとの完登数などを調べるという手間が生じたため、分析対象を決勝のみとしました。
目検のためカウントミスなどあったらすみません、、、。
また、BWCの前提ルールとして以下があります
・BWCの決勝には原則6人進出(同着がいた場合7人以上になる)
・決勝課題数は4つ
ボルダリングWC決勝は近年易化傾向
まずはシンプルに過去5年の決勝完登率の推移を見てみましょう。
<シーズンごとの決勝課題完登率>
完登率は「登れた人数」÷「決勝人数」
で定義し、それを全ての課題で平均しています。
つまり50%ならば決勝で平均すればどの課題も3人登っているということです。
2018年までは完登率は50%以下、つまり平均すると選手の内半分が登れないという状況が続いていましたが、直近の2019年で57%に上がっています。
これは直感とも合致しますね。
観戦者がクライマーならば完登数が少ないコンペも楽しめますが、クライミングのことをそれほど知らない人からすると、”完登者が出てこそ観戦が楽しい”というのはあると思います。
東京オリンピックに向けてクライミング観戦者の裾野が広がったために、運営やセッター側も登れる課題を増やそうという配慮はやはりあるのではないでしょうか。
ただし注意が必要なのは、「完登率が高い」=「課題のグレードが易しい」というわけではないです。(その意味でサブ見出しの”易化”はミスリーディングですかね)
近年コンペクライマーの能力は格段に上がってきているはず。
なので課題自体は昔よりも難しく登りづらくなっているけれども、それをクライマー側の能力が凌駕した結果完登率が上がっていると捉えることもできると思います。
“捨て課題”は無くなっている
この難易度傾向をもう少し違う観点から見てみましょう。
次のグラフはシーズンごとに、1試合あたり「誰も登れなかった課題」がいくつあったかを表すものです。
<0完課題の数の推移>
ひと昔前のコンペでは決勝で選手が誰も登れないような難易度設定の課題がちらほらあったように思います。
セッターも選手の能力の限界を引き出したいので、ギリギリ登れるかどうかの難易度設定の課題を出したけれど結果として0完登に終わってしまったということですね。
そういった誰一人として登れない課題すなわち「0完課題」が1試合あたりどれくらいあったかの推移が上のグラフです。
2016年には年間通して0完課題がBWCの決勝で9本もありました。
1試合あたり0.64本なので、平均すれば1大会で男女のどちらかで少なくとも1.28本つまり1本以上は0完課題が登場したということですね。
その0完課題が直近の2019年では0本になっています。
つまり2019年シーズンではBWCの決勝で出された48本(6大会×4本×男女)の課題は全て誰かに完登されたということです。
誰かが必ず登れる設定となっているので、クライマーにとっては所謂「捨て課題」は無いということですね。
これを知っていると課題に臨む気概が多少は変わるかもしれません。
こちらも同様に観る側への配慮として、0完登課題をなるべく出さないように運営やセッターが配慮しているのはあると思います。
ただし選手個々の能力変化も見逃せない要素でして、Twitterにも書きましたが2019年シーズンを全戦優勝したヤンヤ・ガンブレットが強すぎたという効果もあったかもしれません。
彼女は24課題中23課題をなんと完登しているのです!
ボルダリングW杯決勝の完登結果を見返して発見したけど、2019年のヤンヤはシーズン通して決勝は1本以外全完登していたのか。(ヤンヤ全戦優勝の年)
— 植田 幹也/ミキペディア (@mic_u) July 14, 2020
6大会×4課題だから、24課題中23完登!
ちなみにそれは写真の課題で初戦マイリンゲンの第1課題。
つまりそこから決勝で23連続完登したことになる。 pic.twitter.com/H8sEG1Vh2P
第1課題が易しく、最終課題が完登率低め
最後に課題ごとの完登率の傾向を調べました。
各色が第何課題かを表しています。
緑:第1課題
赤:第2課題
灰:第3課題
紫:第4課題
<課題順ごとの完登率推移>
傾向としては緑色の第1課題がどのシーズンでも完登率は高めの傾向にあります。
5シーズン平均しても唯一完登率が53%と半分越えです。
ここから第1課題は易しめに設定されているということが見えるかと思います。
第1課題は所謂「ウェルカム課題」が多いというのは、データからも言えたのです。
やはり決勝の1本目は選手に弾みを付けてもらいたいですし、観ている方としてもいきなり誰も登れないとなると盛り上がりに多少欠けるので、その配慮がされているのでしょう。
(ただしセッターによっては、”第1課題はウェルカムである”という固定概念を逆手に取り非常に厳しい課題を用意することもある)
また少し意外でしたが紫色の最終第4課題の完登率はどのシーズンでも低く、合計でも40%と最低です。
これは単に難易度設定が難しいというのもあるかもしれませんが、
・選手の疲労
・優勝の目が無い選手は最終課題でメンタル的にパフォーマンスを出しづらい
・第3課題までに優勝を決めた選手は最終課題登れなくても構わないのでパフォーマンスを出しづらい
などの理由もあると思います。
面白いのは第2課題の難易度で、2017年シーズンでは最難気味に設定(完登率37%)されていたのが、直近の2019年シーズンでは最もウェルカムな設定となっています(完登率68%)。
まとめ&後編
とてもシンプルな分析でしたが以上から
・ボルダリングワールドカップ決勝は近年完登率が上がり、誰も登れない課題は出題されない傾向
・第1課題が易しい。逆に、最終課題は完登率が低い傾向
ということがわかりました。
これで基礎データが共有できたので後編では優勝者の傾向などを分析していきたいと思います。
お楽しみに。
-
前の記事
2020年4月~6月に読んで面白かった本 2020.07.12
-
次の記事
ボルダリングWCの優勝者の完登傾向を知る 2020.07.18