クライミングに有利な身長はあるか ~①ボルダリング・男子編~
よくクライミング初心者の方などから次のようなことを聞かれたりします。
“ボルダリングって身長が高い方が有利ですよね?”
“クライミングに向いている身長ってどのくらいですか?”
他にも結構クライミング歴が長い人からも次のような発言はよく聞かれます。
“良いなぁ身長が高くて”
“クライミングってリーチだよね”
さて、今回の記事では過去の大会データからこれらの疑問について考えてみます。
検証の対象・方法
検証の対象大会と、方法は以下とします。
検証の対象となる大会
・ボルダリングワールドカップ(以下、BWC)の過去7年分
・今回は男子が対象
検証方法
・表彰台に乗っている(3位以内の)選手を全てピックアップ
・選手の身長がどのように分布しているのかを検証する
本当は身長よりも手の長さも考慮した「縦リーチ」や「横リーチ」で調べた方が良いのかもしれませんが、データが無かったので身長とします。
身長データは、IFSCの選手データとかスポーツクライミングカウンシルとかwikipediaとかを参考にして、いくつかの身長データがある選手の場合はは僕が確からしそうだと思うものを採用しました。
過去7年分となっているのは、2年ほど前に以下の記事などで過去5年分のデータを集計していたのでそれに最近2年のデータを加えたからで特に意味はないです。
ボルダリングワールドカップ表彰台選手とその身長
ではさっそく過去7年のBWCで1度でも3位以上になったことのあるクライマーとその身長を見てみましょう。
選手と身長
選手名 | 身長 |
---|---|
Gelmanov Rustam | 167 |
Ennemoser Lukas | 168 |
McColl Sean | 169 |
Bonder Jeremy | 169 |
Narasaki Tomoa | 170 |
SUGIMOTO Rei | 170 |
Hori Tsukuru | 170 |
LEVIER Alban | 170 |
Woods Daniel | 170 |
Watabe Keita | 171 |
Lachat Cédric | 171 |
Ogata Yoshiyuki | 171 |
Ishimatsu Taisei | 173 |
Fischhuber Kilian | 174 |
Fujii Kokoro | 175 |
Schubert Jakob | 175 |
Baumann Jonas | 175 |
Chon Jongwon | 176 |
Sharafutdinov Dmitrii | 178 |
Glairon Mondet Guillaume | 178 |
Rubtsov Aleksei | 178 |
Stranik Martin | 178 |
Kaiser Francois | 178 |
Becan Klemen | 179 |
Coleman Nathaniel | 180 |
Kruder Jernej | 180 |
Verhoeven Jorg | 181 |
Ondra Adam | 185 |
Narasaki Meichi | 186 |
Hojer Jan | 188 |
Tauporn Thomas | ??? |
Piccolruaz Michael | ??? |
補足説明
まず、IFSCからそのまま名前データを引っこ抜いているので、英語表記のままなのと、大文字小文字が変なのとかはご容赦ください。
それともしかすると身長が登録データよりも伸びている選手もいるかもしれませんが、そこもちょっと知りようがないのでこのままでいきます。
トーマス・タウポン(Tauporn Thomas)とマイケル・ピコーラス(Piccolruaz Michael)は身長が不明だったので、一旦抜いてここからは検証します。(知っている人いたら教えてください!)
身長分布のグラフ
では上記のデータをグラフ化してみましょう。
横軸が身長で、縦軸がその人数です。
ちなみにこのデータでは何度表彰台に入っても1人分として扱っています。
例えばキリアン(Fischhuber Kilian)は過去7年間で14度表彰台に上がっているからといって14票は入れずに1人としています。
身長データの考察
上のグラフから何が言えるのか考えてみます。
ボルダリングは170cmと178cmが有利!?
まず顕著に目に付くのは170~171cmあたりと175~178cmあたりにピークがある2こぶのグラフになっているということです。
これは単にサンプル数が30人と少ないことから生じているとも言えますが、ボルダリングの課題系統によって有利な身長と不利な身長があるためにこのような結果になっていると見ることもできます。
まず明らかに身長が高い(リーチが長い)選手が有利になる課題は存在します。
身長が低ければ大きく飛ばなければならないところであっても、身長が高い選手は余裕を持って届くことができるので。
一方で、身長が高い選手は体重がどうしても重くなるため自分の体重を支えるという意味では必ずしも有利ではありません。
傾斜が強い壁で自在に動けるとはどちらかというと身長が低い選手の方でしょうし。
またバランシーな課題では身体に厚みが無い小柄の選手の方が有利ですし、狭いところに入り込む課題も背の大きな選手は苦手とするでしょう。
つまり様々な課題タイプが入り乱れる昨今のワールドカップでは、距離系では170cm後半の選手が有利になっていて、一方で体重が軽い方が良い保持系・強傾斜系やバランシー系では170cm前後の選手が有利になっているという見方はできるのではないでしょうか。
ただこれはかなり僕の推論が混じっているので実際には課題タイプとそこで勝った人をきちんと見比べる必要がありますね。
単に国別の身長分布が表れているだけか
もう一つは、単純に国別に平均身長の分布が違い強い国の身長分布が表れているだけ、という見方もできます。
例えばここ2年ほどで急速に力を付けている日本チームですが、日本人の平均身長は172cmほどです。
そして表を見るとわかるのですが、表彰台選手で多くの日本人が169cm~171cmに固まっています。
これは170cm前後の身長が有利に働いたという見方もできますが、平均値がそのままでているだけの可能性もあります。
また他のボルダリングが強い国に平均身長を見ると
フランス:175cm
アメリカ:176cm
ロシア:177cm
ドイツ:178cm
オーストリア:179cm
チェコ:180cm
となっているため、2コブのピークの内の高い方と合致しているのです。
つまり身長がxxだからボルダリングが強い、ではなく、ボルダリングが盛んで強い国があってその平均身長がxxというだけ、という因果関係になっているだけかもしれません、、、。
このあたりはもしかするときちんとした統計手法を使えば導けるのかもしれませんが。
(参考サイト:世界平均身長ランキング)
160cm前半選手はいないし、180cmオーバーもそれほどではない
ただ、結論として言えることはボルダーでは166cm以下で表彰台に入っている選手はまだいないということですね。
あくまで過去7年の話なのでサンプル数の問題かもしれないですが。
このジンクスを破ってくれる選手の登場を期待したいです!
また、180cmオーバーの選手がガンガン勝っているというわけでもないです。
バレーボールやバスケットボールと違って高身長が決定的に有利になるスポーツではないんですね。
終わりに
如何でしたでしょうか。
個人的には、冒頭の様な質問をされた時に回答する材料が増えたので面白い企画でした。
近い内に、ボルダリング・女子をやるのでお楽しみに!
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