ヨセミテ エルキャピタンのフリールートまとめ (2020/1 時点)
クライミング基礎データまとめ、興味のあるものをどんどんと進めていきます。
今回はヨセミテのエルキャピタンのフリールート!
- 1. フリールートとは
- 2. スタイル等にまつわる情報の諸問題
- 3. エルキャピタンのフリールート一覧
- 4. エルキャピタンのフリールートを個別に簡易解説
- 4.1. Salathe
- 4.2. The Nose
- 4.3. El Nino、Pineapple Express
- 4.4. Freerider
- 4.5. Lurking Fear
- 4.6. Golden Gate
- 4.7. The Shaft (Muir Wall)、Pre Muir
- 4.8. El Corazon
- 4.9. West Buttress
- 4.10. Zodiac
- 4.11. Dihedral wall
- 4.12. Lost in Translation
- 4.13. Magic Mushroom
- 4.14. The Secret Passage
- 4.15. The Prophet
- 4.16. Dawn Wall
- 4.17. Heart Route
- 4.18. The Direct Line
- 4.19. Passage to Freedom
フリールートとは
エルキャピタン (El Capitan)とはアメリカのカリフォルニア州のヨセミテ国立公園にある、高さおよそ1,000mの巨大岩壁です。
そこに数多くの歴史的なクライミングルートがあるのですが、大きく分けると以下の2種類あります。
・エイドルート:人工登攀ルート。前進のためにギアなどの道具の力を使用して登られたルート
・フリールート:前進にクライマーの力のみを使って登られたルート。墜落のためのロープ確保等は許される
通常フリークライミングとは下のフリールートを指し、今回まとめるのもヨセミテエルキャピタンのフリールートです。
ただエルキャピタンの場合多くは元々エイドルートだったものがフリーで登られ、フリー化したというものが多いです。
スタイル等にまつわる情報の諸問題
またエルキャピタン等のビッグウォールにおいて非常に難しいのが、何をもって「完登」と見なすかという問題。
言葉の定義などは杉野さんの 「解説!」ドーンウォール に詳しく載っているのでそちらも見ていただきたいのですが、
・ワンプッシュ(地上に降りず)か否か
・1人で全ピッチフリーか、チームでのフリーか
・全てリードでのレッドポイントか、一部トップロープでのフリーか、etc…
などなど完登の定義は多種多様です。
基本的に今から挙げるリストにはワンプッシュオールフリーを成し遂げたクライマーを載せたつもりですが、チームフリーでの記録も混ざっていますし正確な情報が少ないため把握し切れていないものもあります。
このあたりのスタイル的な議論はおいておいて、ひとまず今回はエルキャピタンのフリールートの全容を抑えられればと思います。
再登情報も調べ切れていないので一部僕の予測で「10名以上?」などと置いています。
ちなみに今回主に参考にしたのは、
・『ROCK CLIMBING YOSEMITE VALLEY 750 Best Free Routes』(いわゆる虹トポ)
・『ROCK AND ICE 252』
・『ROCK & SNOW 075』
・その他ロクスノ、各種ウェブサイト
です。
エルキャピタンのフリールート一覧
では早速表を貼ります!
East Buttress、West Face、Lost in Translationなどは端の方にあるためエルキャピタンのルートに加えないこともありますが、これらを全て入れると総計23本。
トッド・スキナー (Todd Skinner)とポール・ピアナ (Paul Piana)によるサラテ (Salathe)、リン・ヒル (Lynn Hill)によるノーズ (Nose)という礎があり、その後フーバー兄弟 (Alex&Thomas Huber)とトミー・コールドウェル (Tommy Caldwell) によって次々とフリー初登とフリー化が成し遂げられました。
特にトミーはフリー化の数なんと7ルートであり、その中にはクライミングの歴史で最大の偉業とも言えるDawn Wallも含まれています。
<ロクスノ075より拝借。エルキャプ南西壁>
<南東壁>
エルキャピタンのフリールートを個別に簡易解説
ルートを個別に解説しますが、数が多いのでいくつかのルートは関連記事のリンクを貼る程度に留めます。
Salathe
East ButtressとWest Faceを置いておくと、最初にエルキャプでフリー化されたと言えるのがこのサラテです。
南西壁を顕著なクラックを辿り左へトラバースしていき、最後はあまりにも美しいヘッドウォールのクラックを登ります。
ルート名はロストアロースパイヤーの初登者で新たなハーケンを作ったジョン・サラテに由来。
1961年にロイヤル・ロビンズ、トム・フロスト、チャック・プラットによって初登されたルートであり、フリー初登は1988年のトッドとポールによるもの。
その後95年、96年にアレックス、トーマスのフーバー兄弟による再登を経て、97年に今なお伝説として語り継がれる平山ユージさんによるオンサイトトライの挑戦がされます。
平山さんは、テフロンコーナーと核心であるヘッドウォールで2度のフォールをするものの初トライでワンプッシュオールフリーを成し遂げるのです!
(補足すると、テフロンコーナーはフォール後にバリエーションであるBoulder Problemをオンサイトしているので、ヘッドウォールまではオンサイトを継続していたとするのが一般的な見方)
その後21年の時を経て、現代の最強クライマーアダム・オンドラもサラテのオンサイトにチャレンジしますが、同じくヘッドウォールで2度フォールしてしまい、このピッチは完登できていないと思われます。
おそらく日本人のサラテフリーは平山さんのみで、核心のヘッドウォールピッチの完登も僕が知る限りは増本亮さんしかいないです。
女性のフリー初登はステフ・デイビス (Steph Davis)。
The Nose
1957年にウォーレン・ハーディングらに初登され、その後1993年に女性のリンによってフリーで登られたエルキャプを象徴するルート。
その名の通りエルキャピタンのど真ん中に突き出る「鼻」のよう。
しかもリンは翌年にノーズをワンデイオールフリーで再登しています。
リンは完全に男女の枠を超えてクライミングの歴史に名を刻んだクライマーです。
第2登は98年のスコット・バーグですが、Great Roofのピッチをトップロープで登ったため、第2登と見なされないこともあります。
その後2005年のトミー&ベス(ベスはチェンジングコーナーをフォローでしか登っていないという話もありますが、ちょっと調べ切れていないです)、2014年のヨルグ (Jorg Verhoeven)による再登があり、2018年に倉上慶太さんによるロープソロによるワンプッシュオールフリーがなされています。
ちなみに倉上さんは既に前年にワンプッシュではないですが全ピッチフリーを佐藤裕介さんと共にそれぞれ成し遂げています。
その後、コナー・ハーソン(15歳での完登)、セバスチャン・ベルト (Sebastien Berthe、5.12以上のピッチを全てリード)、ヤコポ&バーバラ (Jacopo Larcher、Babsi Zangerl)によって再登されています。
El Nino、Pineapple Express
エルニーニョ (El Nino)は1998年にフーバー兄弟によってフリー化された南東壁のルート。
11ピッチ目を終えた後にA0のエイドセクションがあります。
エルニーニョも2003年に平山ユージさんがオンサイトチャレンジしたことで有名であり、こちらも2回のフォールでワンプッシュでオールフリーしています。
2018年に上記のA0セクションの直上に5.13bのラインを見出し、完全にフリー化されたのがパイナップル エクスプレス (Pineapple Express)です。
初登はコブラクラックの初登でも有名なソニー・トロッター (Sonnie Trotter)。
その後アレックス・オノルド (Alex Honnold)、ブラッド・ゴブライト(Brad Gobright)が再登しています。
Freerider
サラテのヘッドウォールを左へ回避するルートがフリーライダー (Freerider)であり、1998年にアレックス・フーバーによって初登。
East Buttress、West Faceなどの端のルートを除くと、エルキャピタンの中で最高グレードが5.12d or 5.13aと最も易しく、再登者も多く出しています。
フリーライダーの記録で特筆すべきものは何と言っても2017年のアレックス・オノルドによるフリーソロ。(ロープ等の一切の確保無しでの登攀)
エルキャピタンのルートがフリーソロをされた世界初にして現在唯一の記録となっています。
2014年にはPete Whittaker (ピート・ウィタカー)が全ピッチフラッシュ。
ただ厳密にはピートは、テフロンコーナーとボルダープロブレムの分岐でボルダープロブレムを選びフォールし、その後テフロンコーナーをフラッシュしています。
平山さんもフリーライダーのオリジナルピッチは全てフラッシュ。
女性の初の完登者はこちらもサラテ同様に2004年のステフであり、その後も10名ほど女性が完登をしていると思われ、日本人女性も増本さやかさんが2019年にワンプッシュでのリードオールフリーで完登しています。
Lurking Fear
南西壁の左端にありエイドでは良く登られているルートですが、フリーの初登は2000年のトミー&ベス。
平山さんもチャレンジしていますが、オールフリーには成功していないと思われます。
フリー再登者がいるのかは不明。
Golden Gate
サラテからスタートし、エルキャプスパイヤー後に右へトラバースし最後はエルコラソン (El Corazon)の方へ抜けるルート。
2000年にアレックス・フーバーとMax Reichelによって初登。(フーバー兄弟初登と書かれていることもありますが、おそらくMax Reichelとだと思います)
昨シーズン僕がフリーライダーをやっている時は、このゴールデンゲートにチャレンジしているパーティーが多く、フリーライダーの次のステップと位置付けられている印象です。
第2登はこちらもなんと平山さん!3度フォールしただけでのワンプッシュオールフリー。
ユージさんは記憶にも記録にも圧倒的に残る不世出のクライマーですねぇ。
女性初登はヘイゼル・フィンドレイ (Hazel Findlay)。
日本人では他に長門敬明と山本大貴さんのチームがワンプッシュオールフリーをしています。
The Shaft (Muir Wall)、Pre Muir
ミュアーウォール (Muir Wall)はサラテの左のショートルートMoby Dickあたりから入り、マンモステラスを経て直上気味に登るエイドルート。
それをバリエーションで2001年にトミーとNick Sagarがフリー化したのがシャフト (The Shaft)です。
再登は判明している限り、Tobias Wolf、 Thomas Hering、Marc-Andre Leclerc、ブラッドの4名。
2007年にロブ・ミラー (Rob Miller)と ジャスティン・スジョン (Justin Sjong)が初登し、シャフトの分岐で左に戻り、美しい凹角ステミングを登るのがプレミュアー (Pre Muir)です。
第2登はなんと女性であるヘイゼルのパーティー!
El Corazon
サラテをマンモステラスまで上がりそこから左上していくのが、エルコラソンです。
2001年にフーバー兄弟が初登。
印象的な天井トラバースで有名なルートで、こちらも昨年見ていた限りではゴールデンゲートに並んでチャレンジしているパーティーが多かった印象です。
第2登はトミー&ベス。
日本人では増本亮さんがワンプッシュオールフリーを達成していて、そのレポートは『Rock & Snow 079』に書かれています。
West Buttress
南西壁のラーキングフィアの右にあり、トミー&ベスによって2003年にフリー化されたルート。
再登者などの情報は不明。
Zodiac
南東壁の右端に近い場所にありエイドではよく登られているルートですが、2003年にこちらもフーバー兄弟によって少し異なるラインでフリー化されました。
2か月後にトミーが再登、2017年にヤコポ・ラルケル (Jacopo Larcher)とバーバラ・ツァンガール (Babsi Zangerl)によって第3,4登。
Dihedral wall
サラテのラインの更に左にトミーによって2004年にフリー化されたルート。
核心の5.14aのみならず、2つの5.13d、3つの5.13c、3つの5.13b、5.12台のオフィズスと非常にハードな内容。(ヨルグ談)
再登者はおそらく2016年のヨルグのみであり、『Rock & Snow 075』にその記録は載っている。
Lost in Translation
2006年にニコラ・ファブレス (Nico Favresse)とIvo Ninovによって、南東壁の右端に開かれたルート。
Magic Mushroom
ミュアーウォールと同じスタートで、マンモステラスからはミュアーウォールとエルコラソンの間を行くルート。
2008年5月にトミーとジャスティンによってフリー化されたルートであり、5.14aを含む12ピッチの5.13以上のセクションを含む内容でダイヒードラルウォールと並んでドーンウォール (Dawn Wall)に次ぐ難しさでしょう。
このルートをなんとトミーは同2008年の6月にワンデイでリードオールフリーを成し遂げています!
再登はこちらも最強男女ペアのヤコポ&バーバラのみ。
The Secret Passage
南東壁のEast Buttressの左にニコラとSean Villanuevaによって築かれたルート。
2015年にピートとダン・マクマナス(Dan McManus) によって再登。
The Prophet
2010年にレオ・ホールディング (Leo Houlding)とJason Picklesによってフリー化された、The Secret Passageの左からスタートし交差するように登るルート。
ソニーによって第3登。
ウィル・スタンホープ (Will Stanhope)によって第4登。
Prophetとは預言者の意味。
Dawn Wall
2015年にトミーとケビン・ジョージスン (Kevin Jorgeson)によって登られたクライミング史に永遠に刻まれるであろう金字塔。
5.14dのみならず、その他6本の5.14台、12本の5.13台を含む紛れもないエルキャプ最難ルートです。
トミーが8年間の歳月をかけ生涯を捧げたルートであり、詳しくは映画ドーンウォールを観るか、『The Push』を読んでください。
そして驚くべきは2016年のアダムによる8日間でのワンプッシュオールフリーでの再登!
アダムは本当に全方面でクライミングの神であることを証明しました。
Heart Route
ヨセミテ最強の5.10aと呼ばれるSacherer Crackerから始まり、ハートレッジでサラテと合流、Hollow flakeの2ピッチ後から右へ進み、最後はゴールデンゲートに合流するルート。
2015年にメイソン・アールがフリー化し、パートナーのブラッドは6ピッチ目のV10のボルダーセクションのみ解決できなかったとのこと。
2016年にセバスチャンが再登。
The Direct Line
2017年にロブとRoby Rudolfがフリー化した、ノーズの取り付きから直上しスタートし、PreMuirへと抜けるルート。
Passage to Freedom
2019年にトミーとアレックスがフリー化した新ルート。
ノーズの右側のNew Dawnというラインをフリー化したようで、レオが20年前に見出していたようです。
まとめ終わりました。
最後はだいぶ駆け足になったのと、再登情報などは足りないものも多そうですね。
でも今回も自分のためになりました。
では次回もお楽しみに!
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