『ジョジョの奇妙な冒険』の世界線、科学モチーフ、哲学テーマの整理と考察

『ジョジョの奇妙な冒険』の世界線、科学モチーフ、哲学テーマの整理と考察

最近は色々な本や漫画に手を出し多読するより、好きな作品を腹落ちするまで精読・熟読し自分なりに理解しようと心掛けています。
直近では、とっても好きな漫画ではあるものの全貌を頭の中で整理把握し切れていなかった『ジョジョの奇妙な冒険』(以下ジョジョ)を再読。
超人気漫画なのでネット上にはかなり深く考察した記事や動画がたくさん出ているのですが、せっかくなので自分の気になるところを整理してみます。
それが誰かが既に考えていたことだとしても、自分の頭で考え自分の言葉で書くことに意味があるのかなと。

 
 


ジョジョの概要とこの記事の目的

ジョジョシリーズは荒木飛呂彦さんの漫画で1987年から現在まで連載が続き、現時点でコミックス通算129巻に至っている超大作。
作品のテーマは一貫して「人間賛歌」であり、人間の勇気・覚悟・挑戦する心の素晴らしさをストーリーやセリフまわしで熱く表現しています。
また随所に散りばめられたホラー映画かのようなサスペンス要素も魅力であり、読者を惹き付けるスパイスとなっています。

物語は1部から5部と、ストーンオーシャンと副題がついた6部までが『ジョジョの奇妙な冒険』であり、その後は『スティールボールラン』(以下SBR)、『ジョジョリオン』と題名が変わっていますが、ここでは便宜的にSBRを7部、ジョジョリオンを8部と書きます。

上述した「人間賛歌」や「サスペンス要素」などジョジョという作品にとって重要なテーマや世界観にも言及したいのですが、この記事では僕自身が気になる以下の点にまずは絞り整理考察します。
・1部~8部までの世界線(≒パラレルワールド。物理用語が転じてSFで使われる言葉)と時系列の整理
・各世界線でのキャラクター、主要道具、の対応
・科学的モチーフの考察

・哲学的テーマの考察

大いにネタバレを含むのと、細部までまだまだ読み込めていないので設定の勘違いや抜け漏れあるかと思います。
また8部のジョジョリオンはまだ完結していないので予想も入っています。

 
 

世界線と時系列の整理

まず全体像を捉えたいので世界線と時系列を整理します。
この記事では、「7部以降の世界」は「1~6部の世界」が1巡(厳密には2巡?)した後であると考えます。

SBR2巻の冒頭の作者コメントで

(SBRの世界は『ジョジョの奇妙な冒険』の)パラレル・ワールドと考えてください

と書かれているのと、過去のロングインタビューでさらに突っ込んで

『ジョジョ』第6部を読んでいた人ならわかると思うけど、世界が一周しちゃって次の新しい世界に入って、そこが舞台になってるんです

と言及しています。
簡単に説明すると、
・6部のラストでプッチ神父がスタンド能力「メイド・イン・ヘヴン」によって時を加速させ宇宙が一巡し、全員が未来を知り覚悟できる世界がほぼ誕生
・しかしエンポリオがプッチ神父を殺害し「メイド・イン・ヘヴン」は未完成に終わり、人類の「運命」が変わった世界に突入した(おそらくこれが7部以降の世界線)
となります。
(全然簡単じゃない)

<メイド・イン・ヘヴン概要>

これらを踏まえて、自分なりに解釈したジョジョの世界線と主要な出来事をまとめたものが以下です。
(wikipediaのジョジョ年表が参考になります)

<ジョジョの世界線の繋がりと主な出来事>

個人的な不明点をメモ的に挙げておくと、以下となります。
ジョジョマニアの方で何か手がかりを知っていれば教えて欲しいです。

・「一巡後の世界」(図中の緑色)でエンポリオがプッチ神父を殺害した後、世界は再び一巡(つまり少なくともトータルで2巡)して「7部以降の世界」(図中の水色)に到達したと考えているがそれは正しいか。作中の表現では蟻が運命の渦から逃れた描写はあるが、ここから追加でもう一巡したのかは不明
・「一巡後の世界」でプッチ神父が死に、メイド・イン・ヘヴンに狂いが生じてそこからもう一巡せずそのまま「7部以降の世界」となったとも捉えられるが、「一巡後の世界」の2011年以前は「1~6部の世界」と基本的には全く同じはず。これは7部の登場人物が「1~6部の世界」の登場人物と異なることとに矛盾するので、やはり「一巡後の世界」と「7部以降の世界」は異なる世界線だと解釈するのが妥当
・「6部ラストの世界」は「7部以降の世界」と同じ世界なのか。7部の大統領のスタンドD4Cから別世界は複数存在するはずなので、両者が厳密に一緒だという保証はない(強いて言えば上述した荒木先生のインタビューが一緒である根拠)
・もし同じならば9部以降にエンポリオ、アイリン(徐倫に対応)、アナキス(アナスイに対応)、が登場する可能性も少なからずある
・7部の最後に登場したD4Cによって別世界から連れてこられたディオはザ・ワールドを使うことから「1部~6部世界」のあのディオと捉えて良いのか。もしくは、また別の世界のディオだがザ・ワールドは使えたと考えるべきか

 
 

主要な道具やキャラクターの対応

「1~6部の世界」と「7部以降の世界」は上述したように別物ではあるのですが、ある種のやり直し世界、双子世界、なので様々な道具、キャラクター、スタンドが対応しています。

キャラクターやスタンドは、ジョジョを読んでいる人ならご存じの通り
・1部主人公のジョナサンと7部主人公のジョニィ
・「1~6部世界」のツェペリ一族と「7部以降の世界」のツェペリ一族
・ディオとディエゴ
など明らかに名前が対応しているものが複数あります。

また微妙に似通っていたり、オマージュ的に対応するものまで入れると
・8部の豆銑礼は4部のトニオ+鋼田一豊大(料理が上手い&リフト・鉄塔に住む)
・8部の作並カレラは4部の山岸由花子(スタンドがラブラブデラックスとラブデラックスで共に髪の毛を操作する)
・8部のアーバン・ゲリラとドレミファソラティ・ドは5部のチョコラータとセッコ
などなど挙げ切れないくらいたくさん存在します。

これら全てを挙げ切って整理すると大変なので、ここでは物語の根幹をなす「スタンド」と「もう一つの生物」に関する主要な道具系の対応のみ表にまとめます。

『SBR10巻』に詳しく解説が載っていますが、ジョジョでは人間が引き出す精神的なエネルギーをスタンドと呼び、それぞれの世界で古代からこのスタンドという才能を引き出す道具や近づく技術が発明されてきました。
スタンドの由来は宇宙からのウイルスが一因ですが、おそらく関係なく生まれた時から使える人もいます。

またスタンドと並び作品を通して重要な概念となるのが「もう一つの生物」です。
こちらも『ジョジョリオン25巻』に詳細が載っていますが、今地球に存在する炭素ベースの生物に対して「光に対する影」「正と負」「(炭素生物が行き詰った際の)滑り止め」と表現されています。
この「もう一つの生物」は”ヒトと認め合う関係は決して築けない”と書かれているように、ジョジョの敵キャラクターとして登場することが多いです。

<スタンドともう一つの生物の各世界線での対応>


 

科学モチーフの考察

ジョジョではスタンド等に科学的なモチーフが登場します。
例えば5部まででも、
・1~2部の波紋法:光や水の「波の性質」
・3部~5部の以降のラスボスの時間系スタンド(時間を止める、巻き戻す、消し飛ばす):相対性理論
などがあります。

見逃せないのが『ジョジョ12巻』の荒木先生のコメントであり、

JOJOは、「生命賛歌」というか「人間って、すばらしいなあ」ということをテーマにかいています。
主人公にも、機械やテクノロジーにたよらずに、自分の肉体を使って、危機をきりぬけていくというこだわりが、あります。
どうにも自分には、理科系は、人間をかならずしも幸せには、していないなという意見が、あるからです。
学生時代は、数学と物理は、きらいだったし(うらんじゃないけど)

ここから(少しひねくれて)解釈するなら、ラスボスが科学的なスタンドを使ってきたとしても、最後には主人公側の人間の覚悟や挑戦の心が勝つ、という対立構造を初期の頃は立てていたようにも見て取れます。
(主人公側も科学モチーフのスタンドはもちろん使うが、ボス側の方はもはや科学を超越しているレベル設定)

そして6部では更に顕著になり、数学的な分野も含め科学モチーフが一気にバリエーションを増やします。
・重力を操るC-Moon→メイドインヘヴンで時を加速:一般相対性理論
・メイドインヘヴンで時を加速し宇宙が一巡:宇宙論、多世界解釈
・緑色の赤ちゃんに絶対に到達できない:ゼノンの矢、アキレスと亀
・その他多数の数学的アイデア:プッチ神父の素数カウント、徐倫がメビウスの輪で攻撃回避、ジェイルハウスロックを2進法で攻略

しかし7部あたりから荒木先生の科学に対するスタンスが徐々に変化しているように思えます。
『SBR10巻』では(物理学的に正しい解釈ではないが)、
・無から素粒子が生まれる
・素粒子はエネルギーに変身、化ける事ができる
・(こういった現象は)地球上の日常でも満ちあふれる
・以上の事を前置きとして、人間が引き出す精神的なエネルギーの事を便宜上「スタンド」と名付ける
とスタンドの科学的根拠に荒木先生なりに踏み込んだ論を展開し、人間のエネルギーの根源には素粒子が絡んでいるとも取れる主張をしています。

ここは解釈次第では人間的な勇気やエネルギーと科学は必ずしも対立するものではないという立場に変化したとも捉えられ、以降のジョジョはより一層科学的なモチーフを主人公側と敵キャラ側に多用するようになります。

7部
・黄金の回転:自然の中に隠れる黄金比
・D4Cによるパラレルワールド:多世界解釈、対消滅
・タスクACT4のがパラレルワールドを超える:重力波が次元を超える仮説

8部
・岩人間の成分、存在:ケイ素生物、自然淘汰vs創造主
・定助の存在:クローン人間
・ワンダーオブUに近づけない:ゼノンの矢、アキレスと亀
・ソフト&ウェット:超ひも理論?(まだ全貌は不明)

<ソフト&ウェットはどうやら紐らしい。ジョジョリオン25巻より>

更に妄想を進めると、これからの8部や9部以降ではまだ登場していないホットな科学モチーフがスタンド等に使われるのではないかと予想されます。

量子力学
・観測問題(ミクロ世界の物理現象は観測するまでは確率的である。シュレディンガーの猫など)
・不確定性原理(ある物理量同士はどちらか一方しか定まらない)

熱力学
・エントロピー増大減少

宇宙論
・ブラックホール
・ダークマター

生物系
・ゲノム
・ウイルス

なども扱うかもしれませんね。
もちろん複雑な科学モチーフに挑戦しつつも、基本的には人間の覚悟や勇気がそれらを土台にしながら敵を凌駕してくという荒木先生の基本スタンスは変わらないと思いますが。

 
 

哲学テーマの考察

最後に宗教と哲学のテーマもジョジョとは切り離せないので少し触れておきます。
まず荒木先生は東北学院榴ケ岡高等学校というキリスト教系の学校の出身でもあり、作中の至る所に宗教的なモチーフが入っています。
特に6部のプッチ神父にまつわるストーリーと7部の聖人の遺体を集めるレースは顕著ですね。(7部の宗教的な話はこの記事に詳しいです)
宗教的な話は僕自身明るくないので気になる方は調べてもらうとして、この記事では1つの哲学的なテーマについて深堀りします。
いくつか哲学テーマは作中に登場するのですが、シリーズを超えて根深く根底に流れていると感じたのは「決定論と自由意志」です。

決定論を僕の言葉で説明すると「世界や物事の流れは全て未来永劫まで決定されていて、それらを変えることはできない」となります。
物理的に考えるなら「この世界の物は全て一貫した物理法則に従って動く。だとするならば初期条件が与えられたこの世界の未来は既に決定している」と捉えてもよいです。
そしてもし決定論でこの世界が支配されているならば、「我々が自由意志だと考えて行動していることは思い違いなのか。我々が勇気をもって行動すること、覚悟を持って何かに挑戦すること、は全てその過程から結果まで決定済みであり、虚しいことなのか」という疑問が生じます。

この決定論はジョジョのあらゆるところで顔を出します。
・3部のボインゴのトト神は「本に描かれた漫画を通して未来を予知することが出来る」
・4部の吉良吉影のバイツァ・ダストは条件が揃うと時間を戻すことができ「時間が戻る前に起きた出来事は運命として残り、時間が戻った後でも再現される」
・5部の最後のエピソードである眠れる奴隷で、「全ての物事はローリング・ストーンズにより運命として決定されていた」と判明
・6部でプッチ神父が作ろうとしたのは「全員が既に一度人生を体験し、未来に何が起こるかを知っている世界」

この決定論と自由意志の問題に対して短絡的に答えを出そうとするならば、
“運命や宿命なんて俺たちの力でぶっ壊してやろうぜ!”
みたいな安直な少年漫画的結論になるのですが、荒木先生はそんなことはしません。
たしかに4部ではバイツァ・ダストに打ち克ちますが、5部ではローリングストーンの宿命から逃れられませんでしたし、6部でもプッチ神父の理想の世界こそ達成されなかったものの世界は回ってしまいます。
そして荒木先生は悩みに悩んだ末にこのようなコメントを5部の文庫版のあとがきにて書いています。

もし「運命」とか「宿命」とかが、神様だとか、この大宇宙の星々が運行するように、法則だとかですでに決定されているものだとしたら、その人物はいったいどうすればいいのだろうか?
そのテーマがこの第5部「黄金の風」の設定であり、登場する主人公や敵たちです。
(中略)
彼らは「運命」「宿命」に立ち向かい、それを変えていく事なんてできるのだろうか?
そのことをずっと考えながらこの第5部を描きました。
執筆した時期とか状況もあってとても苦しく暗い気分になりました。
どうしよう?
「運命」とか「宿命」とかが、そんなに簡単に人間の努力とか根性とかで変えられたら、そんなの最初から「運命」なんて言わないと思うし、軽々しすぎる
そう思いました。

つまり5部の眠れる奴隷の結末と同じように、人間は人生の中で勇気や覚悟を持ってして運命や宿命に挑むがそれでも変えることができないだろう、とも受けて取れます。
これは決定論をある種受け入れるような立場です。
(僕も読み切れていませんが、宿命論と人生の意味 -「ジョジョの寄妙な冒険」 第五部エピローグの解釈がめちゃくちゃ詳しいです)

ただ5部執筆時からはだいぶ時間が流れているので、荒木先生が現時点で決定論と自由意志のテーマをどう捉えているかはわかりません。
例えば量子力学的なアプローチを取ると、将来のできごとは初等力学のように方程式でバシッと決まるわけではなく、確率的に決定していくという見方もあります。
つまり決定論から必ずしも逃れられないとは言えないのです。
(それでも人間の自由意志が存在することの保証にはならず、広義の決定論とも見れるのだが)
このあたりの科学モチーフを取り入れる可能性も考慮しつつ、荒木先生が今後ジョジョでどのように人間賛歌のテーマを進化させるか楽しみですね。

 
 

参考文献など

まずは読んでない人は↓から全巻読破がマスト。

<ジョジョ1巻~63巻>

<6部ストーンオーシャン>

<7部スティールボールラン>

<8部ジョジョリオン24巻まで>

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集英社
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今度読書ブログで紹介するかもしれませんが、荒木先生が書いた漫画術の本を読むとジョジョがどのような考えで描かれているかよくわかります。

<荒木飛呂彦の漫画術>


昔書いたフィレンツェ行き超特急とクライミングを関連させた記事です。

<クライミングに必要なことはすべてジョジョの「フィレンツェ行き超特急」で学んだ>

10年くらい前に書いた寄生獣の感想も結局は人間賛歌がテーマでした。
普遍的ですね。

<寄生獣の感想と考察>