些細だけど気になるボルダリングコンペルール (2021年2月時点)

些細だけど気になるボルダリングコンペルール (2021年2月時点)

先日第16回ボルダリングジャパンカップの予選と準決勝のYouTube解説をさせていただきました。
その際にYouTubeのチャットやTwitterでルールに関する質問をいくつか受けて答えたのですがかなり細かい突っ込みもあり、答えられなかったものや答えたけれど後から調べたら実は僕の回答が間違っていたものもありました。
ということでこの記事では、皆が気になっている細かめのルールを再確認していきます。

<第16回BJC予選>

<第16回BJC準決勝>

 
 


前提とソース

まず第一に私はジャッジの研修などは受けていないので、ルールの読み漏れや解釈間違いがある可能性はあります。
そこはご容赦ください。

さらにこの記事で説明するのは大前提としてあくまでIFSC(国際スポーツクライミング連盟)が主催するコンペのルールだということを念頭においてください。
草コンペでは異なるルールが採用されることはありますし、皆さんが普段登っている商業ジムでも独自のルールがあるはずです。
例えばIFSCコンペではスタートの手足は4点指定されていますが、多くのジムではハンドホールドのみが指定されていて足は課題中のどこに置いても良いとなっていますよね。
他にもifscルールでは許されていても、”このジムでは安全性からxxはしてはいけない”などローカルルールはあるはずです。
参考記事:クライミングのルールはIFSCが全てではない

その上でこの記事を書くにあたって参考にしたものは以下です。
IFSC Rules 2020 v1.5.1 [updated 14/07/2020]
Addendum to IFSC Rules v1.2 (to be used during the COVID-19 pandemic) [updated 07/07/2020]
IFSCルール2020(ver1.51)日本語版
・2020年版ルール解説
その1 総則
その2 リード 
その3 ボルダー 
その4 スピード、コンバインド

皆さんも是非原文を読んでみることをオススメしますし、JMSCA(日本山岳・スポーツクライミング協会)が出している日本語ルール解説も(独自解釈っぽい箇所はあるものの)細かいところまで突っ込んでいて非常に参考になります。

それでは早速質問が多かったルールを再確認していきましょう。

 
 

ボルト穴/ナット穴の使用可否

質問で多かったのが
“壁やホールドに空いている穴は使用して良いのでしょうか?”
という質問です。

これに対して解説で以下のように説明しました。
・足では全て使用可能
・手では
 -ビスネジを止める穴(ビス穴)は使用可能
 -ホールドに空いている取り付け穴(「ボルト穴」とここでは呼ぶ)も使用可能
 -壁やハリボテに空いているホールドを取り付けるための穴(「ナット穴」とここでは呼ぶ)は使用不可。つまりアテンプトが終了する

<ボルト穴とナット穴の説明>

しかし最新のルールブックには以下のように記述されています。

以下の定義がルール全体を通じて適用される:

Artificial Aid(人為的補助手段)は,以下のいずれかによって,体勢を安定(Controlling)または前進(Using)することを言う:
a) 人工ホールド取り付けのために「T ナット」類の埋め込まれた穴

8.17 選手のアテンプトは:
A) 以下の場合に失敗と判定される;
4) 選手が何らかの人為的補助手段を使用した,

まとめると、
・「Tナット」類の埋め込まれた穴=「ナット穴」を使うことは人為的補助手段になりアテンプトが失敗になる
ということです。
ここで僕の先述の解説と違い重要なのは、このルールは「手」に限定されていないということ。
つまりルール通りに解釈すれば「足」でナット穴を使った場合もアテンプトの失敗と見なされるということです!
これは僕自身昔のルールを読んだ時点で知識が止まっていました、すみません。

2018年のルールまでは確かにアテンプトの失敗として

いかなるものであれホールド取付け用にあけられている穴を手で使用した場合、ただしボルトオンホールドのそうした穴は除外する

と「手」に限っていたのですが、わざわざこの文言が消されているのです。

一方で「人為的補助手段」とされるのはあくまで
・体勢を安定(Controlling)
・前進(Using)
した場合です。
足でナット穴に軽く触れた場合などはアテンプトの失敗とはならないとも解釈できます。

 
 

広告や掲示物の使用可否

上述の質問と似た類ですが、
“クライミングウォールに貼られている広告や課題プレートは使って良いのですか?”
という声も多かったです。

こちらも同様に

Artificial Aid(人為的補助手段)は,以下のいずれかによって,体勢を安定(Controlling)または前進(Using)することを言う:
c) クライミング面に設置固定された広告及びインフォメーション用のプレート類

と明記されているので、広告等を使用した場合は人為的補助手段と見なされアテンプトは失敗になります。

解説でも
“広告は使ってはいけないです”
と説明していたのですが、実は選手の登りをよく見るとちょくちょく足などが広告に触れているのですよね、、、。
今回顕著だったのが女子準決勝の4課題目でゴールマッチの際に右足スメアが下の広告に触れている選手が多かったことです。

<女子準決勝4課題目>

しかし見ている限りはこの広告へのスメアリングによってアテンプト失敗を言い渡されている選手はいませんでした。
こちらも同様に
・体勢を安定(Controlling)
・前進(Using)
には使っていないので人為的補助手段にはならないとジャッジが判断したものと思われます。

 
 

ブラッシングの方法

今大会は感染対策でブラッシャーがいなかったため選手自らがブラッシングをしてホールドを掃除していました。
これに関して
“選手は自由にホールドをブラッシングして良いのか?”
“ジャンプしてホールドを磨くことは良いのか?”

などの質問が寄せられました。

これに関しては、以下のようになっています。
大会側が用意したブラシを使えば選手は自由にクリーニングできる
・(おそらく)ジャンプしてホールドを磨くことは口頭による注意を受けるが即アテンプト加算やイエローカードとはならない

今回は以下のブラッシャーがいないため以下のBはできませんでしたが、選手は平時から自分でクリーニングしても良いし、ブラッシャーに要請しても構いません。

8.14 各ボルダーは,選手がその最初のアテンプトを開始する前にクリーニングされるものとする.選手は随時:
A) ホールドを使用せずにその手が届く範囲であれば,ボルダーのいかなる部分でもクリーニングすることができる
B) ボルダーのいかなる部分でもクリーニングを要請することができる,
そのために使用して良いのは,大会主催者の用意したブラシ及びその他の用具のみである

そしてジャンプしてのホールドクリーニングですが、現在でもルールが変わっていなければ以下の文言より口頭による注意を受けることとなると思います。
参考記事:クライミングのルールの考察6~アテンプトが加算される時・されない時~

Judging Manualより。(2016年と古いのでもしかすると最新があるかも)

3.9 Jumping to clean a hold
Even if jumping to brush a hold is not allowed (see rule 7.7.11) no attempt can be given for doing this. The competitor should get a verbal warning first and only if he/she continues to do so, receive a yellow card. Jumping to get a better sight on a hold is allowed..

意訳すると以下。
「ジャンプしてホールドを磨くことは許可されていないが、それによってアテンプトが加算されることはない
口頭による注意を受け、それでも続ければ選手はイエローカードをもらうことになる。
また、ジャンプしてホールドをよく確認することは許可されている

  
 

シューズとユニフォームの着用義務

たびたび挙がるのが
“裸足で参加して良いのですか?”
“上裸で登って良いのですか?”

という質問。

これには明確な答えが出ていて、裸足と上裸はどちらも認められていません
違反するとイエローカードをもらう可能性があります。

衣類と用具
3.14 選手の使用する全ての専用用具は,IFSC が別途指定した場合を除き,該当する適用規格に準拠したものでなければならない.選手は:
A) そのアテンプト中,クライミング・シューズを履き,必要がある場合シット・ハーネスを着装するものとする

3.17 その所属する加盟競技団体を代表する選手は,登る際にその選手団のユニフォームを着用しなければならない.
A) ユニフォームに上衣は必須である

ちなみにイエローカードを同一大会で2枚受けると失格、同一年に3枚受けると次のコンペに出られなくなったりします。

 
 

使用/持ち込みが許されている道具

その他いくつかの道具に関して使用して良いかなど質問があったのでわかる限り答えます。

チョーク

チョークは市販のものは全て使用可能です。
なので松脂入りチョークは大丈夫ですが、松脂単体での使用は認められていません。
超細かく考えると個人の独自商品とか市販のラインが難しいですけどね、、、。

チョークバッグ及び市販の粉末もしくは液状のクライミング・チョークを使用することができる.それ以外の補助剤(例:レジン/ロジン=松脂)を使用してはならない

 

ニーバーパッド

膝に付けてニーバーなどのムーブをサポートするニーバーパッドは使用可能です。

以下を使用することができる:
2) 市販のスポーツ用サポーター〈athletic compression supports〉(上肢/下肢用)および/またはクライミング用ニーパッド

 

ジャミンググローブ

クラックにジャミングをする際などに手の甲をサポートするジャミンググローブに関しては使用可否の文言が見つかりませんでした
ただテーピングの使用は認められているのでジャミングの際に手の甲を保護することはできます。

B) 以下を使用することができる:
3) 傷害の予防もしくは処置にために必要とされるテーピングテープ類〈athletic support tape〉

 

タオル

これまであまり疑問に感じていなかったのですが、
“(主にシューズを拭くための)タオルに関して大きさの規定はありますか?”
という質問がありました。
そこでルールブックを読んでみたところ、、、タオルの持ち込みに関する文言が(少なくとも僕には)発見できず。
しかしCOVID-19 パンデミック下での補足ルールの中に

athletes will have their personal
 mask (to be used when necessary).
 gel dispenser
 hang board (if needed)
 towel (brandless): minimum 150 x 70 cm

という文言を発見しました。
つまり選手はブランドの入っていない150cm×70cm以下のタオルを持ち込み可能ということです。
(minimumとなっていますがmaximumの間違いな気がします)

ただしこのルールがコロナ禍のコンペだけのものなのか、平時に戻っても適用されるのかは不明です。
昔からタオルは多くの選手が持ち込んでいたので認められていると思いますが。

 

その他ダメだと明記されているもの

その他に持ち込みや使用が禁止されている代表的なものは、
・競技エリアでの電子通信機器の所持や使用
・クライミング中のオーディオ機器の使用
・(原則)動物の競技エリアへの持ち込み

などでしょうかね。

3.11 いかなる選手もチーム・オフィシャルも競技エリア内にある間は,いかなる電子通信機器も,ジューリ・プレジデントの許可なく所持または使用することは認められない

3.14 選手は選手はクライミング中にオーディオ機器を着装または携帯してはならない

3.13 動物は競技エリアに入ることができない.この規則の例外は,ジューリ・プレジデントの許可を必要とする

 
 

持ち込み可能な道具/用具の判断への疑問

個人的な疑問があるので書いておきます。
ルールブックで逐一、これは持ち込み可能、これはダメ、というのを記載するのは現実的ではありません。
その場合、言及がない道具/用具への判断はどのようになされているのか気になります。(もしかしたらルールに書いてあるのかもしれません)
例えば過去に日傘を持ち込んだ選手もいましたし、手を乾かすポータブル扇風機を使用している選手もいたように思います。
これらの線引きは現実的運用としてどうなっているのでしょうかね。

<日傘でオブザベするショウナ姉さん>

 
 

最後に

以上となります。
自分でも久しぶりに最新ルールを確認して勉強になりました。
過去に書いた「ボルダリングルール」カテゴリーの記事も今読むと現在のルールに準拠していないものが多いですね、、、。
時間があるときに加筆修正しなければ。

それではまた。