ヨセミテに帰ってきた! 2021年秋ツアー Day2~11

ヨセミテに帰ってきた! 2021年秋ツアー Day2~11

これまでのヨセミテツアーでは、有名ルートや自分にとって難しいルートにばかり目が行きトライしてきました。
ただ今回のツアーは妻のむっちゃんが怪我から復帰してすぐのため易しめのエリアや課題に取り付くことが多くなりそうですし、自分自身もハードなルートだけでなくもっとヨセミテの色々な側面を知りたいです。
背伸びし過ぎず自然体でヨセミテと向き合おうかなと思います。

というわけで10/6にサンフランシスコ空港に到着し、買い出しなどを済ませて夜中にヨセミテバレーに到着。

<これまでのツアー記事>

 
 

Day2(10/7):Swan Slab

翌日は朝からキャンプ4のシステムを把握したり、荷物を整理したり、バレー内を巡ったりなどして、登り始めは既に夕方。
というわけでキャンプ4からアプローチ1~2分とすごく近いけれど実はまだ行ったことのないSwan Slab(スワンスラブ)へ行ってみることに。

Swan Slabは常にクライマーとピクニック家族などでにぎわっている人気エリア。
そんな中に簡単なルートをアプローチシューズでフリーソロしている人などもいるのが、ヨセミテの面白いところ。

<別の日の様子ですが、クライマーより観ている人の方が多い>

むっちゃんはSwan Slab Gully 1P目(5.6)を、僕はPatio Cracks(5.9)を登ってこの日は終了。
どちらも3つ★のルート。

<右の凹角のSwan Slab Gullyを登り終えたところ>

Swan Slabは5.5くらいから5.10台くらいまでの易しめのルートが充実しているので初心者向けのエリアかと思っていましたが、グレードはしっかりヨセミテ水準。
というかむしろ登り辛い方かもしれない。 

 
 

Day3(10/8):雨

この日は雨が降ってしまったため、ヨセミテロッジでランチを食べたり、ガソリンスタンドの状況を把握したり、読書をしたりのんびり。
例年と違って10月上旬から寒く、雨が降ったり風が強かったりする。

 
 

Day4(10/9):El Cap Base

僕は普段日本では朝の6時か7時に起きることが多いが、時差ボケが直らないのかなかなか寝袋から出られず、昼からEl Cap Base(エルキャプベース)というエルキャピタンの下部壁を登りに行った。
まずはあの杉野さんが

ヨセミテ最強の10a。
ここに来たことを試されているようなルート。
レベルを問わずやらねばなるまい。

魅惑のトラッドに書いている、ヨセミテ5.10aの大ボス的存在のSacherer Cracker(サッケラークラッカー、サッチェラークラッカー)。

とは言え、ヨセミテで5.10aで落ちたことは記憶の内ではたぶん無い(フリーライダーの最後の5.9では落ちた。笑)ので、身体をヨセミテに慣らすために丁度良いだろうとアップも無しに早々に取り付く。
出だしのピリッとする5.7のワイドを超え、核心の5.10aのフィンガーへ。
そして思っているよりも悪く面食らい焦る。
プロテクションに手間取り、レイバックからフィンガーに戻ろうとしたら、、、スリップして落ちた。

ヨセミテを感じた。
自然体で向き合った結果ですわ。
いやまぁ自分が不甲斐ないのだが、普通に悪いと感じた。
このフィンガーパートだけでOuter Limits(5.10b)やLunatic Fringe(5.10c)よりも、明らかに難しいはず。

気を取り直し、その後も徐々に広がっていく美しいシンハンド~ハンドクラックを登っていくと、何やら呼吸が整わず、頭もクラクラとしてきてしまう。
ハンドで大レストしても戻らず、貧血で立ち眩みが直らないような状態に。
僕は実はヘモグロビンが多くない体質で、明け方にこうなってしまうことがたまにある。
時差ボケがまだ直らず身体が起きていないのかもしれない。
これ以上登るのは無理と判断して、一度下に降りて安静にすることに。
更にお腹が猛烈に痛くなり、お腹も下してしまう始末。
1時間以上体調が整うまで安静にすることにした。
(前職で徹夜した上に作成資料をボロクソにダメだしされた時にも立てなくなったことがあったが、この Sacherer Crackerのフォールがそれと同等のショックだったのかもしれない。笑)

<体調不良のあまり頭が長くなった人>

栄養を取ったり、他のクライマーと話すなどしていたら気分がすぐれてきたので気合を入れてカム回収便を出し、最後にリード便もやって無事RP。
フィンガーに始まり、最後は6番ワイドの広さまでずーっとクラックが続く45mの素晴らしすぎるルート。
ヨセミテの全てが詰まっているといっても過言ではない、噂に違わぬ名クラシックであった。
それ故にオンサイトを逃したのが残念過ぎる。

<写真中央左上に向かいフィンガーからワイドまで続く>



その後はむっちゃんがPine Line(5.7)を登ってこの日も終わり。
 
 

Day5(10/10):Swan Slab

前回むっちゃんが1P目を登ったSwan Slab Gully は通すと3Pのマルチなので、この日はバリエーションのPenelope’s Problem(5.7)から入り、2P目と3P目も登ることに。
僕はフォローに徹したが、終了点からの眺めも素晴らしく、更に下りも簡単なのでこのマルチは初めてヨセミテで選ぶ1本に相応しいと感じた。

<Swan Slab Gullyの終了点から>

僕は顕著なコーナークラックのLena’s Lieback(5.9)を登った後、目が惹かれたAid Routeに挑戦。
名前からわかるように元々エイドで登られていたがフリーでも登れるルートで、1P目(5.11b)と2P目(5.10b)を繋げると60m近くの壮大なスケールになる。
エイドクライミングの名残りでピトンスカー(ピトンを岩に打ち込んだ後の形状)を使うため現代の感覚からするとチッピングルートを登っているのに近いが、実際にヨセミテのマルチにはこのピトンスカ―がたくさん出てくるので必須のクライミング技術ではある。
それに過去のクライミング文化を知るためにも、こういったルートを登るのもそれもまた大切なことだろう。

核心は明らかに下部の短いボルトパートだとわかるので、そこを慎重に行きつ戻りつつ突破。
そして1P目の終了点を抜け、そのまま2P目に入ろうとしたがここでATCを持ってきていない失態に気づく。
このままだと60mスケールは降りられないので、やむを得ず1P目でセルフを確保しロープを垂らしATCを受け取り再びクライミング開始。

後半の5.10bパートもフリーブラストに頻出するようなピトンスカ―の連続。
途中プロテクションを決めるのが難しいところで、ただでさえランナウトしているのに足元下のカムが1つ外れ相当に怖かった。
足も限界だし、メンタルにもきているし、久々のピトンスカ―に身体が順応し切っていないし、際どいクライミングだったが何とかオンサイト。
こちらも5.11bパート以上に5.10bパートの厳しさを味わい、ヨセミテを多分に感じ充実した。
ハッキリ言って僕にとってはヨセミテの5.10a~11cくらいは全部同じくらい難しい。

<Aid Route>

 
 

Day6(10/11):レスト&下見

エルキャプを登った友人と会ったり、The Rostrum(ロストラム)のアプローチを偵察したり。
Degnan’s Deliでのんびりしたり。

 
 

Day7(10/12): Glacier Point

この日は早起きしてRostrumを僕が登るはずだったが、夜中から朝にかけてテントが飛ばされるんじゃないかと思える強風だったため見送ることに。
今年のヨセミテは天気がかなり荒れている。
落ち着いた昼から、昨日知り合ったクライマーに超オススメされたGlacier Pointの下部のThe Grakc Center(5.6,3P)をむっちゃんがリードし、僕もフォローで登ることに。

先行パーティーが2組いる人気ルートで、確かに白い壁に綺麗に走るクラックが素晴らしかった。
スラブっぽいフットジャムを練習するのにももってこいのマルチ。

<リードする妻>

<フォローする僕>


Day8(10/13):The Rostrum

満を持していよいよThe RostrumのThe North Face(5.11c, 8P)に僕がオールリードでチャレンジすることに。
思えばマルチピッチを全て一人でリードし切る経験はそれほど積んでこなかったし、自分の等身大の難易度のマルチをオンサイトできたことは記憶の内にあまりない。(まぁ杉野さんの魅惑のトラッド等を読んではいるので真のオンサイトではないが)
その意味で、取り付く前に結構緊張はしていた。

前日に下見していたポイントのから少し下ったところに顕著なラペルポイントを発見し、そこから80mロープの2回懸垂ぴったりで取り付きへ。
見上げると本当に神々しい壁だ。

<The Rostrum>


朝8時登攀開始。

・1P目:(5.9)
ここは唯一の5.10未満でアップ的な位置づけのピッチなのだが、実はかなり落ちそうだった。
と言うのも身体が温まっていないのもあるが、おそらく通常のライン取りよりクラックを上に辿り過ぎてしまったようで、左のクラックへ移るのに相当手間取ってしまったからだ。
無理矢理ねじ伏せて、最後は楽しい5.7のチムニーを抜けて2P目へ。

・2p目:(5.11a)
このピッチは3つのバリエーションが取れて、オリジナルは左へクライムダウンした後にフィンガークラックを辿る5.11aだが、明らかに登り易そうなのはプロテクションは取りづらいけれど顕著なフレークの5.10bのルート(もしトポを見なければ、ほとんどの人が直上するこの5.10bを選ぶだろう)。
Sacherer Crackerのフィンガーで落ちたことが脳裏にあり一瞬5.11aでなく5.10bを行ってしまおうかと思ったが、この5.11aにビビっているようでは核心の5.11cをやる資格は無いと自分に言い聞かせる。
実際に行ってみると難しいのは数手だけであり、落ち着いて登れて一安心。自信も取り戻した。

・3P目:(5.10b)
魅惑のトラッドには「全ピッチ中、最も素直で登りやすいかも」と書かれていたので安心して取り付いたが、小ルーフを抜けるところが悪く相当時間を使ってしまった。
まだヨセミテでの足置きを信じ切れていない。
でもどれだけ時間を使っても落ちないことが正義だ。
しかしこのピッチも見事過ぎるクラック。

<3P目途中クラック。2P目は終了点ボルトが無く、間違えて3P目に少し入ったところでピッチを切った>

・4P目:核心ピッチ(5.11c)
Rostrumを象徴するフィンガーピッチ。
ヨセミテにしては短いが、スパッとしたフェイスに壁に刀で切ったようなクラックが走る。
5.11cにしては易しいと言われているが、真っ向フィンガージャム勝負をするしかないのが明らかであり、得意系ではない。
大テラスから始まる上に、テラスに横から入ってこのピッチから始めることも可能である(実際に1パーティーここから入ってきた)。

クラックを少し進みプロテクションを2つ取って、テラスへ戻り一呼吸着く。
確実にジャムを決めていけば自分がオンサイトで登れる範疇のグレードだと信じ、トライ開始。
思ったよりジャムの効きが良く、もう1つプロテクションを取ることに成功し精神的にはだいぶ安心する。
あとはもう途中のハンドポイントまで突っ込めば良いのだが、少しバランスが悪くなったところで戻りたくなってしまう悪いクセが出る。
2手ほど下がるが戻ったら逆に落ちると察知して、「行くしかない!」と口に出して自分を鼓舞した。
気温が低いことにも助けられフィンガージャムはしっかり効いてくれて、なんとかハンドジャムに手を捻じ込むところまで到達。
そこからはそれほど悪くないが、慎重に時間をかけてオンサイト。
久々の本気フィンガージャムに指は血まみれになったが、弱い自分に打ち克つことができた感無量のトライであった。

<できたー!>



・5P目:(5.10d)
見た目以上に悪かった。
ここもこれでもかと国宝級のクラックが続くピッチ。
最後の核心コーナーは怒涛のレイバックで抜けたが落ちたら相当にやばかった。

・6P目:(5.10a)
隠れ核心ピッチと呼ばれるオフィズスの5.10aピッチ。
取り付いてみるとまず出だしのトラバースがわけわかめで苦戦する。
そこから核心に行くまでも4番サイズだか5番サイズだかはっきりしないようなオフィズスで(そりゃ岩からしたらカムサイズなんて知ったこちゃないのだが)、自身の正攻法が通用しない難しいパート。
ボルト後の核心も膝が入るか入らないかで、フィストが利かない一番嫌なサイズ。
下に2パーティーいたので少し申し訳なさもあったが、このピッチが最大の山場と考えてなんとか落ちない良いポジションを時間をかけて探り登り切った。

・7P目:(5.11b)
このピッチもいくつかルートが選べるが、オリジナルの5.11bを選択。
(というかバリエーションがワイドっぽい5.10dなのだが、前のピッチが5.10aなことを考えると絶対やばいでしょ)
典型的なハンドとシンハンドのクラックで名張の大人気ショートピッチを登っているかのよう。
本当に綺麗。
クラックが得意な人はグレード以上に登りやすいだろうが、僕はこの前にロープと荷物を上げているときから前腕と二頭筋が攣りまくっていてかなりギリギリだった(水&栄養不足だったのか、食べて飲んだら回復した)。
7P目終了点に着くとそこからSeparate Reality,Tales of Power, Crimson Cringe, Fish Crackなどこれまで登ってきたヨセミテのルート達がくっきり見え、まだトップアウトしていないのになんだか感傷的な気分になってしまった。

<7P目。ずーっとクラック>


・8P目:(5.10a)
Rostrumの最後はトポ上では右の5.10aオフィズスに行くが、左のRostrum Roof(5.12b)を抜けるのがオリジナルウェイとされている。
僕もスタート時は「余裕があったら最後はRostrum Roofフィニッシュするか!」と意気込んでいたが、4P目で指が血まみれなのと、正直今の残った体力ではオンサイトどころかレッドポイントも厳しいと判断し5.10aを選択。
まぁ簡単に言えばビビったわけだが、とにかく1つのマルチをオンサイトし切ることが今の僕には意味があると感じた。
ただこの5.10aにも大苦戦。
ワイドへの入り方が難しかった。
一旦入れば5.9程度のオフィズスであり、落ち着いて処理してなんとかトップアウト。

頂上ではハイラインで遊んでいる方がいて、僕を見るなり「Welcome!」と声を掛けてくれた。
嬉しいオンサイト。

<頂上にて>


 
 

Day9(10/14):レスト

結構身体がばきばき。
ひたすらレスト。
 
 

Day10(10/15):Half Dome

むっちゃんのこのツアーの目標の一つでもあるSnake Dike(スネークダイク。5.7 R, 8ピッチ)へ。
Half Domeの頂上へ行けるヨセミテの超人気かつ王道マルチだ。

スネークダイクは一般的には、
・アプローチに2.5時間~4.5時間
・8ピッチ登攀&300m程度スラブ歩き
・下山2~4時間?(13kmくらいの下山)
とされているが、僕らは山歩きも得意ではないので余裕を持って朝の3:30頃に出発。
案の定迷ったり道草をしたりして、結局アプローチに6時間かかり1パーティに抜かされるなどして、登攀開始は10時。
しかし平日にも関わらず後ろから結局5パーティーくらい来たので、早めに出て良かった。

Snake Dikeはグレードこそ最大で5.7であるものの、1ピッチ目のスラブは難しいし、3ピッチ目以降は簡単だが途中平気で20mくらい恐ろしいランナウトをする。
そして恐竜の背中のように延々と続く唯一無二の形状のダイクを、素晴らしい景色の中で登ることができるルートだ。

<岩の龍の背に乗って>


全ピッチむっちゃんがリードで登り切り、16:30くらいに頂上に到着。
頂上の開けた展望から、エルキャプやワシントンコラムなどこれまで登ってきた壁からヨセミテの奥の奥の方まで見渡せ、その眺望とパワーに圧倒された。
あまりに巨大でとてつもないものと、対峙しているだなんて全く言えないくらいちっぽけな僕ら。
自分たちはまだ何もこの世界のことを知らないし、これからもその0.00001%も知ることはできないだろう。

<どこまでも森と山が続く>


途中で仲良くなったハイキング8人組に道を教えてもらったり、しゃべったりしながら下山。
駐車場に21時過ぎに到着し、クタクタになったが非常に充実した一日となった。
何より怪我続きだったむっちゃんが全てリードし、アプローチと下山も怪我無く乗り越えたことが自分のこと以上に嬉しかった。

 
 

Day11(10/16):オークハストでレスト

昨日の疲れがお互いにすごいので、早い段階でヨセミテから一度抜けてオークハストへリフレッシュしにいくことに。
ランドリー行き、レストランでパスタを食べ、買い出しをして気分転換となった一日。

 
 
例年に比べてゆっくりペースでしか登っていないが、これまでにないヨセミテの楽しみ方ができている。

<次の記事>