クライミングでグレードのステップは踏んでいくべきか

クライミングでグレードのステップは踏んでいくべきか

ボルダリングでもリードクライミングでも次に取り組む課題のことを考えるとき、
思い切って挑戦するグレードを上げるか、それとも今の限界グレードと同程度の課題をいくつかやってからグレードを上げるか、という悩みを持つ人は多いだろう。
この悩み・疑問に対してクライミング武闘派としての回答をするなら
「やりたい課題をやれ!」
「グレードなんて気にするな!」
である。
これまでも敗者のメンタリティ/勝者のメンタリティなどでも同様のことを言ってきた。

しかしこの手の発言は真理を突いていると見せかけて、反面無責任でもある。
なぜならいくら登りたいからといって、クライミングの基礎もままならない初心者が三段や5.13aそれだけに延々とトライし続けてもおそらく一生登れない可能性が高いからだ。
何よりかく言う自分もグレードのステップを踏むべきところではきちんと踏んできた。

よって今回の記事では、基本的に論じる対象は岩の課題だとして
・グレードのステップは踏むべきなのか
・踏むべきだとしたらどのように踏むべきなのか
・踏まなくても良いケースはあるのか

などを考えていきたい。

 
 


グレードピラミッドという概念

近々改定版が発売されるらしい超名著『フリークライミング』(山と渓谷社)には「グレードピラミッド」という概念が載っており、リードクライミングにおいて以下を提唱している。
・あるグレードにチャレンジするには、以下を終えているべき
 -その1つ下を2本レッドポイント
 -もう1つ下を4本レッドポイント
 -更に1つ以下を8本レッドポイント

<グレードピラミッドの例>

確かに同グレードを2つくらい、その下を4つくらい終えてから次のグレードへ進むというのは何となく納得できる。
ボルダーの場合だと段級グレードであればリードよりもグレードの目が2,3倍は粗いので、同グレードを4~8本程度終えてから次のグレードくらいに進むという感覚が丁度よいだろうか。
ピラミッドが縦長になり過ぎるとスキルやフィジカルが追いついていかない危険もある。
逆にこのピラミッドが横長になり過ぎていて、例えば11dを4本も5本も登っているのに5.12aが登れていないという人は、高グレードにチャレンジしていないか、何か決定的なフィジカルなどに問題がある可能性もある。

またレッドポイントとオンサイトの関係として
・レッドポイントで取りつく課題は、オンサイトグレードの数字1つ上(4グレード上)までを上限とする
という原則も紹介している。
5.11aが最高オンサイトグレードの場合は、5.12a程度まではチャレンジして良いという話だ。
この開きが数字1つ以上ある場合は自分のオンサイト能力の低さを改善すべきとも言えるし、逆に数字1つ以内ならばチャレンジするグレードをもっと上げるか自分のフィジカルの低さを疑うべきという話にもなる。
こちらも経験則からなんとなく納得できる人が多いだろう。

<フリークライミング>

 
 

僕のグレードピラミッド ボルダー編

僕はボルダリングからクライミングを始めたので、岩場のボルダーで自分のグレードピラミッドがどう変遷してきたかを追ってみた。

ところどころ2級や3級で本数を追えていないが、それぞれグレード更新をした瞬間のグレード別完登本数ピラミッド構成である。

例えば初めての1級は「忍者返し」だが、その時はほとんど御岳にしか行かなかったこともあるが2級は「マミ岩右SD」の1本しか登っていなかった。
上記の話だと1級にチャレンジするときは2級が4~8本程度は登っているべきなのだが、僕の場合はピラミッド構成は見ての通りいびつになっていて、たしかに忍者返しは登るのに大苦戦しものすごい通って登った課題だ。
というよりたしか3級が1本も登れていない内から忍者をやっていたのだが、先輩から「さすがにとけたソフトクリームの凹角とかはやっておかないと忍者返しは早い」と言われて、凹角の左右など3級を数本まずは登れるように頑張った記憶がある。

逆に二段の最初の課題は瑞牆の「エレスアクベ」だが、この時は初段を12本既に登っていたし、更にその後同じ日に「倶利伽羅」初段、「カラクリ」初段、「竜王」1級、もまとめて登った。
つまりエレスアクベが易しめの二段であること差し引いても、初段を12本も登る前に何かしらの二段には腰を据えて挑戦して良いレベルにはあったのかもしれない。


 

僕のグレードピラミッド スポート・トラッド編

一方で僕はボルダリングの力が既にそこそこある状態で岩場のスポートやトラッドを始めたので、それらのグレードピラミッドはいびつだ。
スポートの場合、初めての5.12aである「ノースマウンテン」が登れたときには5.11台は全部で3本しか登っていなかった。
初の5.13aを何と見るかが難しいのだが、最新のトポ通り「任侠道」を5.13a扱いすると、5.12dも5.12cも登っていない状態でこれも登った。

トラッドこそ「クレイジージャム」5.10dくらいまでは、カムのセットやジャミング技術が低く不安だったこともあり慎重にグレードを上げていったが、そこから「イムジン河」5.11c/d、「スーパーイムジン」5.12bとグレードピラミッドはほとんど無視して一気にグレードを上げた。
まぁイムジン河などはフェイスっぽいし、スーパーイムジンはボルトもあるからトラッドとスポートの境目が難しいけれど。

 
 

グレードのステップを踏まなくても良いケース

つまりこの経験則から何が言えるのかというと、グレードのステップは踏まなくても良いケースがある、ということだ。
僕の例のように、あるジャンルのクライミング経験値がある状態で他ジャンルを始める時などはその典型だろう。
スポートを始める時も、既にボルダリングをしていることである程度のフィジカルやムーブの引き出しがあれば、あとは持久力とか戦略を身に付け、安全面に気を配れば、必ずしもピラミッド通りにステップを踏んでいく必要はない。
以前ボルダーとスポートの対応表のようなものを書いたが、ボルダーで二段とかが登れていればスポートで5.13台を登る力は基本的には付いているはずだ。
逆もまたしかりでスポートで5.13台後半を登っている人は、既にムーブ単体で初段~二段クラスを体験している可能性が高いので、そういったクライマーがボルダーを始めるなら高グレードをいきなりやっても全く構わないだろう。

ジャンルをボルダーとリードで語ったが、インドアと岩でも同様のことが言えるだろう。
インドアジムでボルダー初段くらいまで登ってしまうクライマーは、岩のホールド感やマントルへの慣れとか、クラッシュパッドへの落ち方などに気を付ければ、グレードを下から積み上げなくとも三段くらいはきっと登ってしまうだろう。



もう一つグレードのステップを必ずしも踏まなくても良いかもしれないと思ったのは、リードでベーシックで多くの要素が入っているロングルートに取り組んでいるケースだ。
わかりやすく話をインドアにして考えてみる。
ジムのボルダーの場合手数が8手前後な課題が多いため、1課題に詰め込める要素は必然的に少なくなる。
つまりある程度の課題本数をこなさないと、フィジカルもテクニックも次のグレードに達するレベルまで向上させることは難しい。
なので初段を1本登った人が、1級も2本、2級も2本、3級も2本、しかこれまで登っていないということは稀だろう。

一方で、リードの場合はロングルートなら30手などにも及び1ルートにたくさんの要素が入っているため、そこから学び吸収できる人にとっては少ないルート経験数でも大きく上達できるとも考えられる。
またそのルートに繰り返しチャレンジすることで、リードに必要な持久力は鍛えられる。
実際にインドアに限れば5.12dを1本登った人が、例えばそれまで5.12cを1本、5.12bを2本、5.12aを2本しか登っていないなどということもありえるのではないかと思う。
もちろんこれは広さの関係でジムにリードルートを多くは設定できないという制約も影響しているのかもしれないが 。
よってリードの場合であっても、適切に自分が成長できるベーシックなロングルートを選択すれば、そこから多くを学びとれる人ならピラミッドのステップは多少早足で登っていっても良いのかもしれない。


こんな感じです。
まぁ実際はグレードだけでなく、課題タイプごとにどれくらいこなしたかとか、お買い得を攻める人なのかとかそいういうのにも影響されるのでピラミッドで語るのはかなり乱暴かもしれませんが。
でも参考になる考え方だと思ったので紹介してみました。
ではまた明日!