クライミングのリードで、最終競技者や後攻は不利なのか?
- 2020.05.29
- データ&ルール リードクライミングルール 過去の大会データ
以前にボルダリングジャパンカップ決勝の競技順と優勝者の関係や、リードの後攻不利仮説についてブログを書きました。
<世界選手権2018女子決勝で考える、リード種目の競技順の影響>
上の記事で述べたことは、
・BJCでは準決勝1位通過(決勝で最終競技者)の選手は第2回から第12回まで1度も優勝できなかった。
(第1回は準決勝なし。第13回に初めて藤井快選手が準決勝1位で決勝も優勝)
・世界選手権2018のリードでジェシカ→ヤンヤの競技順だったことがプレッシャーとなり、ヤンヤは負けたのではないか
です。
ただ、あくまでBJCの少ないサンプル数での話ですし、リードで同様のことを調べたわけではありません。
ということで今回の記事では、リードでの決勝競技順と成績の関係などをきちんと調べてみました。
方法・前提
まず前提ルールとして以下があります。
・リードW杯の決勝には原則8人進出(同着がいた場合9人以上になる)
・決勝の競技順は、準決勝順位が下位の選手から
-つまり準決勝トップ通過選手が決勝の最終競技者
-準決勝で高度が同じ場合は予選成績のカウントバックで順位が決まる。それも同じなら、決勝は世界ランキングが低い選手が先に競技をする
調査の対象は過去5年間(2015年~2019年)のリードワールドカップの決勝リザルトです。
この期間に35大会開催、つまり男女合わせると70回競技が行われました。
ただし、以下の2大会(3回分)は調査の性質上除外したため、対象は67回分となりました
・2018第6戦 呉江大会 男女:悪天候で決勝キャンセル
・2017第7戦 廈門大会 女子:悪天候で準決勝がなし
リードW杯決勝では、何番手が優勝しやすいのか?
まずは単純に、リードにおいて最終競技者は優勝しづらい傾向があるのか?を見てみましょう。
以下が、67回分の競技において何番手が優勝したかの割合を出したグラフです。
<競技順別の優勝率>
予想に反して、最終競技者がほぼ50%の割合で(67回中33回)優勝していました!
最終競技者は準決勝トップ通過なので、最も実力がある選手です。
なので一番勝率が高いのは当然の結果ではあるのですが、感覚的にはもう少しリザルトがひっくり返っているイメージでした。
1番手から最後の選手まで綺麗に勝率が上がっているのも面白いですね。
波乱が起きることはあれど、67回を調べた限りでは競技順が後ろであるほど勝率は高い、ということが浮き彫りになりました。
また上のグラフからもわかるように、過去5年間で決勝の競技順が1番手で優勝したのは唯1人だけなのですが、それはなんと2019年第3戦ブリアンソン大会を制した西田秀聖選手です!
持っているなー。
同成績選手での先攻後攻の有利不利
繰り返しますが、基本的には決勝では実力者の競技順が後になるので上の結果はある意味当たり前なわけです。
正しく先攻後攻の有利不利を調べたい場合は、同じ実力同士の選手で比べる必要があります。
もちろん全く同じ実力の選手はいないので厳密には比較できないのですが、予選と準決勝の順位が全く同じだった2人ならばその日のコンディションは概ね近いと考えて良いでしょう。
先述したように完全に同成績の場合は世界ランキングの低い方が先に、高い方が後に競技をします。
準決勝まで同順位が2名
準決勝まで同順位者が2名出たケースは、過去5年間で20回発生しています。
その2人の決勝での対戦成績は、
先攻の方が順位が上:10回
後攻の方が順位が上:10回
となり見事に全く同じです!
なのでサンプルが20だけですが、先攻後攻の有利不利はほぼないと考えて良さそうです。
(ただし一応ランキング上位者が後攻になっているはずなので、先攻が善戦しているとも捉えられる)
準決勝まで同順位が3名
参考までに準決勝まで同順位に3名が並んだケースも9回あったのでそちらにも触れておきます。
その3人の決勝での対戦成績は、
最初に競技した選手が一番順位が上:2回
真ん中で競技した選手が一番順位が上:2回
最後に競技した選手が一番順位が上:5回
となっていました。
ただこちらは9回しかサンプルがないので、これをもって何かを言い切ることはできないですね。
(計算していませんが統計的にも有意ではないでしょう)
決勝競技順と最終順位の集計
もっと細かいことまで知りたい人のために、リードW杯での決勝競技順と最終順位の回数を集計した表を貼っておきます。
<決勝の何番手が何位になっているか、回数をカウント>
見方としては、
横(緑):決勝で何番手で競技したか
縦(橙):決勝で何位になったか
を表していて、中身の数字が合計回数ですね。
一番上の横行が、ブログ冒頭に貼った「何番手がどれくらいの割合で優勝しているか」のグラフに相当するということです。
やはり傾向として「競技順が前の選手は決勝の順位も低く、後の選手は高い」というのは見えるかと思います。
少し面白いのは、決勝最下位(8位9位)の行でしょうか。
決勝で1番手で登場して決勝最下位になる割合は16%(11回/67回)なのですが、2番手だと33%(22回/67回)にまで上がっています。
サンプル数からこれが有意な差かは計算していないのですが、経験則としては1番手よりも2番手の方が最下位に沈んだケースが2倍もあるということです。
でもトップバッターは失うものもないしリラックスできるというのは、あるような気もしますね。
いかがでしたでしょうか。
少し予想に反する結果でしたが、知らなかった傾向がわかって個人的にはとても面白かったです。
ちょっと5年分だと少なかったのかな?
この分析は選手別に見たりしてもう少し深堀できる気がするので、もしかしたら続編があるかも。
あとボルダーW杯でもやりたいですね。
<この分析の続編の選手別編>
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