Now Climbing ! ヨセミテツアー2019 Day13〜18

Now Climbing ! ヨセミテツアー2019 Day13〜18

いよいよ今ツアーもほぼ折り返し地点。
2人の去年からの目標の1つであったAstroman(アストロマン)が登れ、ただただ幸せです。

しかし、ここからがある意味本番。
しっかり疲れを取りつつ本腰を入れていきます。

<Day1~6>

<Day7~12>

 
 

Day13 (10/30)

翌日のためにレスト。
僕はとにかく何もしない1日と決めた。
シャワーを浴びて、ストレッチして、レストランでコーヒー飲んでゆっくりして、料理を(主にむっちゃんが)作ったり、明日の準備をしたり。

<和風パスタ>

夜21時には就寝。


Day14 (10/31)

再びAstroman(アストロマン 5.11c 11ピッチ)。
前回と同じ戦略で暗いうちに僕が1,2ピッチ目を繋いで登ってしまう作戦にした。
しかし以前より寒かったことに加え、むっちゃんは体調を崩してからここ何日かまともに登っていないため1,2ピッチ目のフォローから苦戦。
フィジカル的にもメンタル的にも本調子ではないようだ。

3ピッチ目のEnduro Corner(エンデューロコーナー 5.11c)を前にして立ち止まるむっちゃん。
心身ともに万全でないと登れないピッチであり無理をしてチャレンジをしても仕方ないので、僕は今日も敗退でも構わないと告げた。
ただなんとなくだけれど、
“今日も敗退したらもうアストロマンには来ないんじゃないか”
という気もしていた。
日程的にも気持ち的にも。
そんなことを2人でゆっくり話し合ったところ、むっちゃんは気持ちを切り替えてやはり挑戦する決意をした。

再び入念にムーブ確認とカム戦略を練る。
そしてスタート。
いつもの2ヶ所目の大レスト地点までは順調に高度を上げる。
そこから数手で一番きつい0.75のシンハンドのパート。
しかしいつもよりも冷静にレストできている。
シンハンドをじわじわと上げていきむっちゃんにとって核心となるレイバックでの数歩。
しっかり足も踏めているし体幹がキープされている。
いけるぞという感覚がビレイヤーの僕にも込み上げてくる。
そしてそのまま一気に押し切った!
ようやく、ようやく登れた。
自分に打ち克ったことが素晴らしい。
おめでとう!

<エンデューロコーナー完登後>

予定より時間は押していたが、まだ9:30なので後のピッチを順調にいけばなんとか明るいうちに登り切れると考え
「できる限り全ピッチのレッドポイントを狙う」
「ただし、上まで抜け切ることを前提に進む」
という方針でいくことに。

・4,5ピッチ目(5.9、5.10c) リード:む
途中の怖い1歩で苦戦したけれど慎重に登り切っていた。
このピッチも本当に素晴らしいクラックのピッチ。
僕はフォローで登ったが、去年よりもジャミングが楽に感じた。

・6ピッチ目(5.11b) リード:み
今年もご対面のHarding Slot(ハーディングスロット)。
何回見ても威圧感に押しつぶされそうになる。

<ここからチムニーに入るところが最大の核心>

ただ去年3度のトライの末にこのピッチはレッドポイントしているので、たぶんいけるだろうと思っていた。
スロット入り口までは問題なし。
が、スロットに入り込もうとしたところ去年と同じ両足ステミングムーブができずに足が切れてしまいフォール。
正直ショックというか焦った。
このままではせっかくむっちゃんがエンデューロコーナーを登ったのに、自分のせいでワンプッシュの全ピッチレッドポイントを逃してしまう。
心の中で、”去年登っているのだからここでレッドポイントしなくても良いんじゃないか”という弱い自分が出てくる。
しかしむっちゃんが、”時間はまだあるしもう1回やろう!”と前向きな言葉をかけてくれてなんとか弱い自分を押し殺してカムを回収しながらクライムダウン。
時間はギリギリお昼前だったが、上のピッチが未知であることを考えると次のトライで絶対に決めたいところ。

小休止の後セカンドトライ。
両足を張ることは不確定だと考え自分のシンハンドを信じてフェイスには左足一本だけおき右足はフットジャムで手を伸ばしていく。
左足が滑りそうだし、何より壁が狭まってムーブを起こしづらい。
渾身の力で左手を伸ばし、、、クラックの中の棚を掴んだ!
が、記憶よりも棚の持ちが悪い。
膝をねじ込むことがなかなかできず手がどんどんパンプしていく。
でも絶対に落ちられない。
本当に全身のパワーで両膝をなんとかチムニーにねじ込む。
全身痙攣しかけながらずり上がり棚に足が上がって一安心。
なんとかここでも去年の自分に負けずに済んだ。

・7ピッチ目(5.11b?10c?) リード:み
長いピッチだった。
しかもハーディングで頑張り過ぎて手がつり始めている。
難しいレイバックがあるらしいが5.11bほどは無かったので、途中で5.10cのスロットバリエーションがあるのだけれどそっちへ抜けていたかもしれない。
夢中でよくわからなかったが。
とにかくオンサイト。

・8ピッチ目(5.11a) リード:み
スタート時点で14:30で実質残り3ピッチ。
1ピッチ1時間以上はかかると考えるともうやり直しはできない。
またまたものすごい長く、そして一番ヤバかったピッチ。
5.11aのマントルはボルダラーなら問題なし。
続くChanging Cornerはコーナーを真っ直ぐいくと5.11d、スラブ面に迂回すると5.11aとなる。
どうしても落ちたくなかったのでスラブ側に出ると決めたが、カンテの向こう側が見えずどうやって出たら良いかが全くわからずまず苦戦。
上手いこと足を張ってスラブ側に立つも途中からホールドがかなり悪い&プロテクションも取れずに焦る。
なんとかもう一度途中でクラックに戻る足順を見つけ出し突破。
ナッツを持っていき忘れたのとスモールカムを下部で使い切っていたため上部のシンクラックもプロテクションが取れず怖かったが、落ちないように相当慎重に登りながらギリギリオンサイトで一安心。

<8ピッチ目の取り付きから>

・9ピッチ目(5.10a) リード:む
5.10aなので楽勝なピッチかと思いきや、姿は見えなかったがむっちゃんはいつも以上に随分ゆっくりと登っていく。
しかしじっくりとオンサイト。
フォローで登ってみたが後半のルーフクラックのコーナー乗越しがずっと3番広め~4番サイズでものすごい悪かった。
荷物を背負っていたのもあるかもしれないが、5.10cでも良いように感じるピッチ。
とにかくむっちゃんはよく落ちないで登ってくれた。

<9ピッチ目取り付きから>

・10ピッチ目(5.10d R) リード:み
実質ラストだが、R(墜落した場合重大な怪我に至る可能性がある)が付いている油断ならないピッチ。
この時点で18時でヘッデンが必要になってくる時間。
明るい内にと焦ってスモールカムも持たずに9ピッチ目から繋げる形ですぐに突っ込もうと思ったが、後続パーティーが「ビレイヤーはクライマーが見えるところまで上がった方が良い」「スモールカムは必須」とアドバイスをくれたので落ち着いて体勢を整えてから暗くなる覚悟でクライミング開始。
出だしからいきなり悪く、ムーブ強度的にはここが核心だと判断し集中力を高める。
絶対に落ちない手順と足順を落ち着いて選んでいく。
ここを超えると難易度的には下がるがより一層プアプロかつランナウトになり落ちられない。
暗かったので怖すぎた。
しかし冷静にここも処理してなんとかオンサイト!
上のテラスに立ち上がってアストロマンが登れたんだという実感を噛みしめる。

・11ピッチ目(5.3) リード:む
ウィニングランで頂上まで。

頂上でむっちゃんと喜びを分かち合った。
お互い涙が出た。
しかもワンプッシュでのチームレッドポイントという今できる中での最高のスタイル。
クライミングをやっていてこんなに嬉しい日はなかったかもしれない。

そして苦労した思い出補正もあるとは思うが、アストロマンは今まで経験した中でも最高級に素晴らしいマルチピッチであった。
延々と続くクラック。
フィンガーからワイドまであらゆるサイズが登場し、傾斜も色々。
途中ハーディングスロットという試しの門があり、その先からはフェイス要素も求められ最後の最後のRピッチでカタルシスを迎える。
こんなに奇跡的な内容と構成のマルチに出会えたことも感謝。

<頂上にて>

下山は後続パーティーを待って着いていかせてもらった。
暗い中自分たちだけだったら迷ったかもしれない。
キャンプ4に戻ったのは22時半過ぎ。
本当に充実し、一生思い出に残る1日。

  

Day15 (11/1)

全身筋肉痛なのでもちろんレスト。
ブランチをバレー内のレストランで食べた上に、夜はマリポサの町へ降りて中華料理を食べた。
スーパーで食料も買い出しして心身ともにリフレッシュ。
充電された。

 

Day16 (11/2)

11/6くらいからはEl Capメインになることを考えるともう2,3日しかショートルートはできない。
更にグレイシャーポイントへの道は11月半ばには閉鎖される可能性もある。
ということでHeaven(5.12d)。
この日は天気も良くて暑いくらいだけど気持ち良かった。

<ハーフドームをバックにアプローチ>

肝心の登りの方はと言うと、これまでの2回はじっくりトライできていなかったが今回はきちんとリードトライ。
ワイドハンド手前の核心でフォールしたが、そのあと一応自分なりのムーブは組み立てられた。
カムを回収してもう1便出したけれど、同じ箇所のフィンガーに耐えられずまたもフォール。
ただ自分の力で登り切れるルートだという確信は得た。
アストロマンの疲れもまだあるだろうし今日は深追いしないでおいて、明後日のトライにかける。

 
 

Day17 (11/3)

朝起きると背中を中心に結構な筋肉痛。
アストロマンの疲れが3日後にきたのか、昨日のヘヴンで思っている以上に力を使ったのか、はたまた昨日の夕方にやった久々の懸垂やロックトレーニングが今の自分には高い負荷だったのか。
いずれにせよ今日ものんびりレスト。
雲一つない青空と森に囲まれてストレッチして気持ち良かった。
なんだかお腹も空いていてばくばく色々食べてしまったけれど回復回復。

<むつきシェフによる今シーズンの最高傑作。チーズ on ハンバーグ>


Day18 (11/4)

再びHeaven。
一度触り始めるとむきになってそればかりやってしまうな。
この日ははぎさんも一緒に行くことに。

2トライ目で自分にとって核心だと思っていた左フィンガーからの右フィンガーが取れていけるかと思ったが、フォール。
日中は結構暑くてテーピングが剥がれてくる。
さらに落ちた時に指をざっくりやってしまった、、、。
傾斜でフィンガーを保持できていないからずれる、よって落ちる、よって指がやられる。
まだこの傾斜での真っ向フィンガージャムが会得できていないのだろう。

涼しくなった3トライ目。
振り絞ったトライで同高度までいったが、やはりだめ。
ただこの時に1手得できるムーブを見つけ、さらに上部の動きも改善されてだいぶ完登が現実的に自分の中では見えてきた。

指のこともあるし明後日はマルチの前日だが、そこで1便出しに来るか迷いどころ。
ただ不思議と去年のような焦りはなく、登れても登れなくてもこの課題と向き合えていることが楽しい。

<Heaven. Photo by はぎさん@hagi_satoru

 
 

序盤で波に乗る

クライミングをやっていて、波に乗るというのはある。
序盤で調子が良いとその日が1日中ずっと高いパフォーマンスを発揮できる。
ボルダーでもコンペで1課題目が登れるとその後もサクサクいけるし、岩でも成果が出まくるsend day的なものはある。
今回もハーディングスロットの2トライ目で完全にスイッチが入って、上部も全てオンサイト出来たし逆にハーディングスロットを登らなかったら、上でもきっとダメだっただろう。
序盤や中盤でその課題やピッチを登るか登らないかは、後々大きな違いとなってくる。

 
 

チームの素晴らしさ

クライミングはどこまで行っても個人での戦いだ。
自分の登攀に他人は直接的に物理的には影響を与えない。
しかしメンタル面では他人の影響を大きく受けるし、だからこそ単にクライマーとビレイヤーという関係以上にチームで登ることに意味がある。
むっちゃんがエンデューロコーナーを登ったからこそ、僕もそのあと気合が入ったし、ハーディングスロットで落ちた時に一言かけられなければ弱い自分が出ていただろう。
逆に僕もきっとむっちゃんがエンデューロを登る上で支えになったはずだ。
チームで登るということは素晴らしい。

  
 

他パーティーとのコミュニケーション

マルチピッチをやっていると他パーティーとバッティングすることがある。
どうしてもどちらが先に行くかみたいな雰囲気になって険悪になりがちだが、当たり前だけれど円滑にコミュニケーションをとるに越したことはない。
今回も実はエンデューロで追いつかれかけたのだけれど後続クライマーと会話して、彼が北海道に来たことがあるみたいな切り口から仲良くなった。
そして彼らも僕らがレッドポイントがかかっていることをわかってくれたから多少遅くても許容してくれた面もあったと思う。(彼らは途中エイドアップ)
Rのピッチもアドバイスをくれたし、頂上でもお菓子を分け与えてくれたりして、下山道まで教えてもらった。
さらに翌日レストランで再会して写真を一緒に撮ったり、むっちゃんはインスタで繋がって仲良くなったりしていた。
他のクライマーとコミュニケーションをとることは人間的に当たり前のことかもしれないが、(言葉が悪いが)打算的に考えてもそうするべきだと思う。

 
 

マルチでの時間短縮のための改善点

アストロマンが登れたとは言えあと2~3時間は短縮するべきなので、どれくらい短くなるか個人的メモ。

・ロープさばき:30分
ロープを常に丁寧にさばく。特に2本以上あるときは要注意。整理を後回しにしない。キンクを常にほどいておく。

・ハーディングスロットの1トライロス:45分
落ちない。強くなる。

・フォローミス:30分
ハーディングスロットでフォローが落ちて壁に戻れなくなり一度ロワーダウンした。傾斜壁では落ちてはいけないところはセルフと取るなりする。ビレーヤーももっとロープを引くべきだった。

・全体的なスピード改善:45分
簡単なピッチは素早く。迷う必要がないところはすぐに決断する。


<Day19~25>

<Day26~32>

<Day33~41>