5.14c (8c+)以上のトラッドルートまとめ(2020/1 時点)

5.14c (8c+)以上のトラッドルートまとめ(2020/1 時点)

5.15c以上のルートまとめV16以上のボルダーまとめ、に続きクライミング基礎データまとめの今回は5.14c以上のトラッドルート

トラッドとは厳密には「グラウンドアップで開拓されたルート」を指しますが、広く「(トップダウン開拓であろうと)オールナチュプロのルート」を指すこともあります。
ボルトが打たれているようなスポートルートではなくて、クラックやポケットなどにカムやナッツを決めながら登るルート、とざっくり理解してもまぁ一旦はOKです。
詳しく知りたい方は以下の記事を読んでみてください。

<フリークライミングのジャンル分け>

 
今回は5.14c以上のトラッドルートを挙げてみました。
ソースは主に以下を参考にしました。
・Gripped:Top 16 Hardest Trad Climbs in the World
・99Boulders:The Hardest Trad Climbs in the World
・各種ニュースサイト

 
 


5.14cとは?

5.14cとはルートの難しさを表していて、5.の後に付く数字が大きいほど、その後のアルファベットが大きいほど(a~dの4段階)、高難度となります。
スポートルートの世界最難が5.15dであるのに対して、トラッドルートはそれよりも数グレード下の5.14cでも世界最難クラスです。
その理由は僕の考えですが、以下などでしょうかね。
・スポートは「登ること」と「クリップ」だけをすれば良いが、トラッドはそこに「プロテクション(カムやナッツ)のセット」という動作が必要となる
・純粋なトラッドルートは本数が少なく、スポートルートに比べて高難度にチャレンジする環境や機会が多くない
・(上の理由もあって)トラッドルートを登るクライマー人口が少ない
・スポートルートはアダムオンドラという天才によってグレードが大きく引き上げられた

 
 

5.14c以上のトラッドルート一覧

では一覧です。
グレードが定まっていないものもありますが5.14c以上のトラッドルートは以下の8本。

Magic LineやRhapsodyは5.14bや5.14b/cという声もありますが、5.14cとしていることが主流に思えたので上記の表に含めました。
逆にウェールズのWalk of Lifeは初登時E12/7aでデシマルグレードに換算すると5.14c以上となりますが、現在はダウングレードしE9/6cと5.13台(?)で定着しているので外しました。
(UKグレードは下で解説します)
またスコーミッシュのCobra Crackも5.14cとグレーディングされていたこともありましたが、現在は5.14bか5.14b/cとされていることが多いです。

また5.14c以上のトラッドルートを登ったは16名いますが、2本以上を登っているのはヤコポ ラルケル (Jacopo Larcher)のみ。
更に女性クライマーのベス ロッデン(Beth Rodden)とヘイゼル フィンドレイ (Hazel Findlay)の2名が入っているのも興味深いですね。

 
 

5.14c以上トラッドルートを個別に簡易解説

簡単にルートを個別解説していきます。

 

Magic Line

今から20年以上前の1996年にロン カウク (Ron Kauk)によって登られたヨセミテのシンクラック。
ロンはミッドナイトライトニングやセパレートリアリティを初登するなどヨセミテを中心に活躍したレジェンドクライマーです。
初登時はプロテクションを予めセットしたピンクポイント(PP)というスタイルで登られましたが、2018年にロンの息子であるロニー カウク (Lonnie Kauk)によってレッドポイント(RP)されました。
物語がありますよねぇ。
ロンはPPだったこともあり5.14bとしていましたが、ロニーは5.14cを提唱。
去年ヘイゼルによって第3登

<Magic Line>

https://www.instagram.com/p/B6FZrNPp6Vt/

 

Rhapsody

2006年にデイブ マクロード (Dave MacLeod)によって初登されたイギリス最難のトラッドルートであり、UKグレードでE11/7aが付けられています。
UKグレードは読み方が少し難しいです。
・E11というのは形容詞グレードと呼ばれ、ムーブの難易度や危険度を加味した総合的な難しさを表します
・7aというのはテクニカルグレードと呼ばれ主に核心ムーブの難しさを表します

UKグレードについて詳しく知りたい方は、以下を参照してみてください。
『Rock & Snow 077』:英国のクライミング
・目指せ低脂肪:ブリティッシュ・トラッド・クライミングのグレードを理解する

またUKグレードからデシマルグレードへの換算表はあるのですが、幅が広く決まり切っていないようにも思えます。
Rhapsodyは5.14b~5.14cあたりに表記されることが多いようです。

<ヤコポのRhapsody >

Meltdown

Magic LineがPPで5.14bであり、RhapsodyもUKグレードだったので、実質的に世界初の5.14cルートと言えるのはこのMeltdownかもしれません。
2008年にベス ロッデンが40日間のトライの末に初登した、ヨセミテのカスケードフォールの上にあるフィンガークラック。
当時ヨセミテでトミー コードウェルと共に活躍していたベスですが、彼女にとっても最大の成果と言えるトラッドルートだと思います。
その後10年以上に渡り再登は出ていませんでしたが、2018年にボルダラーとしても超一流のカルロ トラベルシ (Carlo Traversi)によって第2登がされました。

ベスのMeltdownの動画が以下から見れますが、素早くカムをセットするためにギアラックに付けずテープでハーネスに貼り付けているのが印象的。

<ベスのMeltdown>

  

Pura Pura

2014年にワイドボーイズのトム ランドール (Tom Randall)によって初登されたイタリオルコのトラッドルート。
伝説のルートであるGreenspitにボルダー課題Green Shadowから繋げるラインであり、トムはGreen Shadowを登った後にカムを受け取るというスタイルを取っています。
Puraはイタリア語やスペイン語で「純粋」(英語のpure?)という意味でしょうか。
再登者はなし。

<トムのPura Puraのトレイラー>

 

Blackbeard’s Tears

Jumbo Love (5.15b)を登るなどスポートやボルダーでも名高いイーサン プリングル (Ethan Pringle)によって2016年に初登された、カリフォルニアのプロモントリーのトラッドルート。
マウンテンプロジェクトによるとマルチの3ピッチ目なのでしょうか。
元々はエイドルートであったのをイーサンがフリー化した形で、核心はV11相当なようです。
課題の意味は「黒ひげの涙」。
再登者はなし。

<Blackbeard’s Tears>

https://www.instagram.com/p/BKo3p-KgKN9/

 

Into the Sun

2017年にベルント ツァンガール (Bernd Zangerl)によって初登されたスイスのムルクというエリアのルート。
動画を観るとわかりますが、ロープを結んでいるものの前半はクラッシュパッドを使用してボルダースタイルで登り途中のガバでヒールフックをかけながらロープを垂らしてカムを引き上げます。
その後カムを使用しながらトラッドスタイルで登るという、Pura Puraにも近しいスタイルです。
当時ベルントは38歳。
このルートも再登者なし。

<Into the Sun>

Recovery Drink

2013年にニコラ ファブレス (Nicolas Favresse)によって初登されたノルウェーのフィンガーサイズのクラックルート。
明確なグレーディングはされないこともありますが、ニコラはこれまで登ったトラッドで最難とコメントしていることから5.14c以上であるとされているようです。
ニコラは一部カムを残したPPでの初登でしたが、2018年にダニエル ユング (Daniel Jung)によって完全なRPが成されました。
ダニエルもクラックルートを登った経験の少なさからグレードに関して明言することは控えています。
第3登はワイドボーイズのピート ウィタカー (Pete Whittaker)でありこちらは誰もが認めるクラックのスペシャリスト。
ピートは2015年に3度トライし跳ね返され、その後も核心のシークエンスなどを試行錯誤しながらも2019年に登っています。

<ピートのRecovery Drink>

https://www.instagram.com/p/B1MLJhllX_0/

 

Tribe

ヤコポが初登したイタリア カダレゼのトラッドルート。
6年間に渡るトライの末に完登しました。
ヤコポは明確なグレーディングをしていませんが、”これまでに登ったどのルートよりハード”とコメントし、彼が スポートルートLa Rambla (5.15a)や上述のRhapsodyを登っていることから5.14dよりハードではないかとも言われています。
動画を観るとわかるのですが、流れをよくするために2本のロープで登っています。
このルートをトライするにあたって関わってくれた大勢のクライミングコミュニティに感謝を込めてTribe(部族、大勢、家族)と名付けたようです。

<Tribe>

 
 

その他、ワイドクラック最難、国内トラッド最難など

補足的にいくつか触れておきます。
トラッドルートの中でもワイドハンドジャムを超えるような広いサイズをワイドクラックと呼びますが、世界最難のワイドクラックはアメリカ ユタ州にあるCentury Crack (5.14b)です。
初登は2011年にもちろんワイドボーイズの2人(トム&ピート)によって成されています。
第3登はダニー パーカー(Danny Parker)。

<Century Crack>


日本国内最難トラッドルートは、おそらくですが佐藤裕介さんによって初登された情熱の薔薇 (5.14b R)でしょうかね。
佐藤さんの壮絶なトライ記録がブログに書かれているので興味のある方は是非。
途中四段程度のボルダームーブが入るそうです。


さて次は何を調べようかな。
このシリーズ自分が一番楽しいぞ。