2019年10月~12月に読んで面白かった本

2019年10月~12月に読んで面白かった本

四半期に一度の面白かった本シリーズ。
何気に直接会った方から、”この記事楽しみにしているよー”と言われるので嬉しいです。
今期はヨセミテツアーへ行っていたのですが、レスト日などにむしろたくさん本が読めました。
その結果出会った『死とは何か』『夏物語』は特に素晴らしかったです。
今後も自分の読書史に刻まれ続けるでしょう。

これまでの読書感想記事

 
 


「死」とは何か

著者: Shelly Kagan(シェリー・ケーガン)
ジャンル:死生観、哲学、論理学

今期ベストの1冊。
僕は小さいころから死を恐れ続けてきました。
考え始めてしまうと日常生活に支障をきたすので、大人になってからは自ら進んでは死を考えることを止めてしまいました。
そんな自分にとって死を考える新しいアプローチを与えてくれたのが本書です。

本書は死というあまりに超越的な出来事過ぎて一見理詰めで考えることを放棄してしまうテーマに対して、徹底的に論理で考え詰めていきます。
例えば序盤で「死はなぜ悪いのか」を考えるのですが、それに対して
1. 死は残された人にとって悪い
2. 死ぬという見通しが悪い
3. 死んだら存在しなくなることが悪い
などの説を唱える人はいると思います。

これに対して著者のシェリー先生は具体的な例を交えてそれぞれの不十分さを説いていきます。
1に対して、
a. 友人が宇宙船に乗り遥か彼方へ冒険に行き通信も取れなくなり永遠に別離する
b. 友人が乗った宇宙船が爆発し友人が死亡する
のどちらがより悪いことが起こったと皆さんは感じるでしょうか。
おそらくほぼ全ての人がbだと答えるでしょう。
すると死の本質的な悪さは「別離」にはないわけであり、1の「死は残された人にとって悪い」というのは不十分ではないかと考えられます。

このように突き詰めていき、「剥奪説」つまり「死は生きていれば享受できたかもしれない、人生における良いことを死が剥奪する点が悪い」に著者は行き着きます。(あくまで著者の一説)
しかし剥奪説を支持しても、
・剥奪説が悪いなら、生まれえたのに生まれなかった人間全員を残念がらなければいけないのか
・死んだ後の時間の剥奪が悪いならば、生まれる前の時間を僕らは既に剥奪されているがそれは悪くないのか
など重箱の隅を突くようにさらに次を考えていくスタイル。
僕はこの手の”もう細かいよ!”というくらいのしつこさが大好きですね。
その後も「不死」や「自殺」などまで展開してあらゆる死に関することに触れていくので、死を理詰めで考えたい人にとってはかなりオススメというかお腹いっぱいになる本です。

<例えば自殺についても、「人生が暗転するAの時点で自殺することは理にかなっているか」など考えていきます>

最後に本書で書かれていて僕が救われた文章を引用します。

魂など存在しない。私たちは機械に過ぎない。もちろん、ただのありきたりの機械ではない。私たちは驚くべき機械だ。愛したり、夢を抱いたり、創造したりする能力があり、計画を立ててそれを他者と共有できる機械だ。私たちは人格を持った人間だ。それでも機械にすぎない。
そして機械は壊れてしまえばもうおしまいだ。死は私たちには理解しえない大きな謎ではない。つまるところ死は、電灯やコンピューターが壊れるとか、どの機械もいつかは動かなくなるといったことと比べて、特別に不思議なわけではない。


ちなみに冒頭に貼ったリンクは日本語要約版でこちらだけでも十分楽しめますが、より詳細な形而上学的な講義も全て入った完全版も発売されています。

<完全版>

 
 

反脆弱性

著者: Nassim Nicholas Taleb (ナシーム・ニコラス・タレブ)
ジャンル:思想、投資・金融、数学、社会学

『ブラック・スワン』が良かったので、続けて読んだのが本書。
こちらも僕が今更紹介する必要もないくらいの名著ですね。
『ブラック・スワン』とテーマは似ているけれどもっと一般的応用が利く「反脆弱性」(アンチフラジャイル Anti Fragile)という概念についての本です。

反脆弱性とは、
・ダウンサイドよりもアップサイドの方が多い
・(良い意味での)非対称性を持つ
ような性質を持つものであり、そうすることで
・悪い方向に力が働いたときに反発する(そうでないとしても損失が限定的)
・良い方向に振れた時は無限の利益を生む
ということが可能になります。

本書で挙げている具体例として、紀元前の哲学者タレスがオリーブの搾油機を収穫シーズン前からひとつ残らず買い占めていたことを挙げています。
この行動はオリーブが豊作でない年だったとしても搾油機の賃料に損失が限定されるけれど、万が一オリーブの当たり年を引けば青天井の大きな富を得られるという意味で反脆弱的なのです。

<タレスのオリーブ搾油機の反脆弱性>

反脆弱というのは「頑健」とは違います。
システムなどをガッチガチに強く頑健に設計してしまうと、多少の変動や衝撃には強いですが、予期できないレベルのブラック・スワンが起こったときに一気に崩壊してしまいます。
そうではなくて、脆弱でないように設計すべしと著者は主張するのです。

反脆弱性って仕事でも趣味でもかなり応用できる話なのですよね。
例えばExcelで何か集計や計算する際に、
“絶対間違えないように集中して正確に打ち込んで、式も組むぞ”
と頑健さに頼るのはかなり危険です。
そうではなくて、
“多少ラフに打ち込んでいったり計算式が間違っていても、それが判明するようなチェック列を設けたり2重のアプローチで検算するなどしよう”
と反脆弱的に設計する方がトータルでは致命的なミスは絶対なくなります。

クライミングのロープワーク等のバックアップ設計などにも応用が利きそうですね。

著者が例として挙げていた、

90%会計士、10%ロックスター

という生き方が良い、というのが言えて妙です。

 
 

時間は存在しない

著者: Carlo Rovelli (カルロ・ロヴェッリ)
ジャンル: 物理、宇宙

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NHK出版
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『すごい物理学講義』に感銘を受けたので、同著者のこちらの本も手に取ってみました。
時間というものに対する著者の考えや最新の物理学での捉え方を説明し、最終的にタイトルの「時間は存在しない」という主張に繋げていきます。
正直に言うと後半はかなり高度な内容で僕はほぼ理解できていません。
ですが時間というものに対する、アリストテレスからニュートンそしてアインシュタインを経て現在に至るまでの物理学の歴史を振り返るだけでも非常に楽しめると思います。
特に序盤の、「今」「現在」には何の意味もない、あたりの話は考えたことのない人には新鮮かもしれません。

惑星間空間で「この二つの石の高さは同じ高さか」と尋ねたとすると、その正解は、「その問いには意味がない。なぜなら宇宙全体にわたる単一の”同じ高さ”という概念は存在しないから」ということになる。
もしもわたしがみなさんに、二つの出来事が地球とプロキシマ・ケンタウリbで「同じ瞬間」に起きたかどうかを尋ねたら、「その質問には意味がない。なぜなら宇宙全体で定義できる”同じ瞬間”なんて存在しないのだから」と答えるのが正しい。

<時空の概念図>

  
 

言い訳

著者: 塙宣之
ジャンル:お笑い

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集英社
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ナイツの塙さんによる漫才コンクールM-1の分析、およびお笑いそれ自体についての考えを語った本。
M-1の審査員席の塙さんの話を聞いたことがある方なら、彼が独自に相当深くM-1や漫才を見ていることがわかると思います。
そんな彼が忖度無しにM-1ではどんなタイプが勝ってきたのか、現在のM-1での勝ち方、評価されるポイントなどを書いています。
視聴者がもやもやと感じてたことが言語化され読んでいて思わず頷いたり目から鱗の内容も多いです。

M-1以外にも漫才師を個別に分析しているのも楽しいです。
例えばザキヤマことアンタッチャブルの山崎さんを「先天性ボケ」と評し、

ザキヤマさんのすごいところは、だれでもザキヤマさんに対してツッコめるところです。もっと言えば、ツッコまずにはいられない。
(中略)
普段ツッコまない僕でも、ザキヤマさんにツッコみたくなるし、ツッコむと「俺もツッコミできんじゃん」と思わせてくれる

と書いています。
これ非常に納得してしまいました。

あと驚いたのは塙さんは未だにブログに毎日短めのネタを書き続けているということ。
2006年から欠かさず毎日です。
南キャン山ちゃんの『天才はあきらめた』でも感じましたが、お笑い芸人であろうと売れている人は不断の努力を皆続けていますね。

 
 

夏物語

著者: 川上未映子
ジャンル:小説、 出産、性、身体

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文藝春秋
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学生時代にのめり込んだ川上未映子さんの最新作。
『乳と卵』の続編という位置付けで、前半部分は『乳と卵』の書き直しのようになっています。
『夏物語』は僕が生涯読んだ小説の中でベスト5に入るくらい刺さったかもしれません。
久々に読み進めたい手が止まらなかった小説。
川上さん自身の重大テーマである、出産、性、身体、結婚、などを深くリアルに描き切った小説でエネルギーに溢れます。
大きなテーマの1つとして「反出生主義」、つまり 「生まれてこなければよかった」「子どもを生むことは悪」 のような考えがあります。
このようなことをぼんやりとは考えたことはありますが、突き詰めたことはなかったので新鮮というか衝撃を受けました。
終盤の善百合子という人物がものすごく長く語るところが1つのハイライト。

どうしてみんな、子どもを生むことができるんだろうって考えているだけなの。どうしてこんな暴力的なことを、みんな笑顔でつづけることができるんだろうって。生まれてきたいなんて一度も思ったこともない存在を、こんな途方もないことに、自分の想いだけで引きずりこむことができるのか、わたしはそれがわからないだけなんだよ

このあとも数ページにわたって独白かのようなセリフは続きますが、圧倒されてしまいます。
この善の言葉を受けて、最後に主人公の夏子が一体どういう選択をするのかに繋がっていきます。

あと文体が依然と少し変わったのかな。
なんとなく村上春樹さんの影響も見られるような。
それとちょくちょく最近の話題が交ざっているのでとっつきやすくもあります。
Twitterを扱ってたりとか、芸能人の話とか、トランプ大統領がどうだとか。

 
 

グラゼニ

著者: 森高夕次
ジャンル:漫画、野球、お金

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『グラゼニ』は野球に関連する”お金”事情を描いた、長く続いている人気漫画です。
普段なかなか僕らが知れないような、年俸の仕組み、それに対する選手の考え、引退後の職、などを赤裸々にですがある意味爽やかにカラっと描いていて非常に読みやすいです。
僕はスポーツに関する数字とかデータが好きなのでもちろんお金の話も興味があり、楽しめました。

面白いなと思ったのは、二軍選手が一軍の試合に出た際に貰える金額の話。
二軍選手の年俸が500万円だとすると、一軍の最低年俸1,500万円(150日の出場登録)とは1,000万円の差があります。
なのでこの二軍選手が一軍登録されると、1日当たり
1,000万円÷150日=6.6万円
が入ってくるのです!
これは、かなり一軍に行くインセンティブになり得ますね。笑

<対戦打者の年俸を気にする主人公夏之介>

進撃の巨人

著者:諫山創
ジャンル:漫画、SF、サスペンス

私的企画「名作漫画をきちんと読もう」の第1弾で選んだ『進撃の巨人』。
過去になぜか12巻くらいで止めてしまい、5,6年ぶりにきちんと読んだのですが、、、面白すぎる!
まだ未完ですが、漫画史に確実に残る大傑作ですね。
よく昔の自分はこの漫画を途中で読むことを止められたな、、、。

SF、サスペンス、バトル、友情、愛情、グロ、ギャグ、と要素が詰まりに詰まった王道。
テーマも、民族や宗教と個人の自由主義/自由意志、憎しみの連鎖の断ち切り、人間の心に潜む悪魔的な本質の捉え方/向き合い方、など多岐に渡って深いです。
しかもテーマとかストーリーだけでなく、小さなコマの使いかた、ちょっとしたキャラの表情から話の展開の繋げ方、伏線回収などが映画的というかとにかく上手い。
それ故ちょっと難解なので僕は2,3度読んでようやく相関図やキャラの思惑が理解できました。

今年完結予定らしいので絶対に読んでおいて、リアルタイムで最終話の祭りに参加すべきですね。
読んでるけど難しくてついていけていない、、、という人はタキチャンネルというYouTubeが超オススメです。この人すごい。

これまで絶望に次ぐ絶望の展開だったのがここ1,2話でかすかに希望を見せ始めているので、これをどう最後に繋げるか楽しみです。

<124話のこのシーンは憎しみの連鎖が1つ終わった重要シーンですね>

 

こんな感じです!
さー2020年も色々読んでいこー。